初めての町
−そんなこんなで側近(強制)になって2週間が経つある日、魔王の娘ことフランカと一緒にファストという人間の町に行くことになっていた。
しかし魔族の王の娘が人間の町を滅ぼすわけでもなく遊びに行くとかありえんだろう…。だが、もしかすると魔物は人間と友好関係なのかもしれない。
「ねぇ、ゆー。少し良いかしら?」
ふとフランカに声を掛けられた。
因みに、゛ゆー゛と呼ばれてるのはフランカが「変な名前だから」という理由でそう呼ばれている。
「うん?」
フランカは少し困った顔をしながら言った。
「えぇとね…少しここで調べ物しないといけないから先に行っててもらえる?」
「ここで?…でも周りにあるのは湖と森だろ?何を調べるんだ?」
少しだけ気になったのでそう答えるとフランカは
「あんたには関係無いわ。ほら、この先真っ直ぐ行けばファストに着くからそこで待ってて。」
納得いかん…が、あまりしつこく聞くと炎の呪文を撃ってくるので仕方なく言う事を聞くことにした。
「分かったよ。この先ずっと真っ直ぐだな。」
するとフランカは驚いた顔で
「あら、聞き分け良いのね。いつもなら聞き返すくせに。」
「だって聞き返すと炎撃ってくる−」
「あんたがしつこいからでしょうが!先に行きなさい!」
くそっ。言い終わる前に撃ってきやがった!
「ちょ、どうすりゃ良いんだああああああ!?っつ!」
結局呪文を撃たれてしまった。…熱い。
−フランカの言う通りに真っ直ぐ進むと、町が見えてきた。
そこまで大きくは無いがギルドのような建物や武具屋、宿屋などがありいかにもRPGの様な町並みだ。
ひとまずフランカに言われた通りこのままフランカを待つことにした。
「しっかしまぁ、本当に異世界に来ちまったのか…つか何故パソコンに引き込まれて召喚されんだよ。もうちょっとマシなシチュエーションは無かったのかよ!」
1人になって改めて考えるとパソコンに引き込まれて召喚は何か嫌だ。せめて最近、地球で流行っていたGPSを使った自分で歩いて生き物やアイテムを集め、捕まえた生き物を強化したり進化させたり他のプレイヤーと戦ったりするゲームを夢中にやってたら来ちゃいました的な感じはないのか。
…と、具体的過ぎて気持ち悪いな。それにそこまでかっこよく無いし!しかも俺そこまでハマって無かったし!何故かって?それはだな…外に出歩かないと行けないからサ!なんせ引きこもりだからな!
−自虐はやめよう。哀しくなる…
「あの…少しよろしいでしょうか。」
自虐してテンション下がってしまったところにとても可愛らしい声をした人に声をかけられたこに気がついた。
「お、俺に何か用でしゅか?」
…噛んでしまった。恥ずかしい。
でも急にこんな可愛い人に声をかけられたら誰もがこうなるだろう。
銀髪に限りなく近い白髪。その綺麗な髪がとても…いや、神がかってるほど似合う、女神も嫉妬してしまうほど可愛らしい顔。そして声を聴くとそれだけで幸福な気持ちになる可愛い声。
そんな女神のような彼女は
「しゅ?…うむむ」
とさっき俺が噛んだ言葉に悩んでいた。
「あ、ああああいえいいえすす少しかか噛んだだけですはい。」
またやっちまった!しかもさっきより酷ぇ。
「?…あ、えぇと私はアニェラと申します。突然呼びかけてしまいごめんなさい。あなたに少し聞きたいことがあるのですが良いですか?」
と上目遣いに聞かれたらYesと答えるしか無かった。
というか無い!
「い、いいy…ですよ。」
まだ緊張が解けないがさっきよりはマシだろう。
「ありがとうございます。それであなたに聞きたいことはですね…えと、その…私一緒に冒険に出て頂きませんか?」
…目の前が真っ白になるとはこういうことなのか。こんなに可愛い娘と冒険…だと?最高じゃないか!
「はい是非喜んで!…あ、でも何で俺なの?」
するとアニェラは
「あ、それはですね…これです。」
言うと、アニェラはとても綺麗な結晶が付いた指輪を見せてくれた。
「…これ?」
「はい。この指輪は普通の方とは違う特別な力を持っている人に反応しまして…そうですね、例えば魔王を倒せる素質を持っている。とかでしょうか。」
その言葉に俺は目を見開いた。
「俺にそんな力が?」
「この指輪は代々功績を残してきた人達が持っていたものでその当時も指輪は功績を残してきた人のみに反応していたと記録されているので間違い無いと思います。」
マジか。魔王…フランカのお父さんを俺が倒せる力を持って。
「えぇと、とりあえずギルドカードを見せて頂きませんか?」
…ん?ぎるどかーど。ナニソレオイシイノ?
「ご、ごめん。それってどんなの?」
するとアニェラは驚いた顔をしつつも見せてくれた
「え、これです。」
成る程。知らん
「わ、悪い俺持ってないわ。」
「…」
「…」
数秒の沈黙。それが俺にとってはとても長く感じた。
しかしアニェラが沈黙を破った。
「えぇとおかしいな…この指輪はギルドカードに反応するのですが…本当に、ない?」
上目遣いで言われても無いものは無い。
「う、うん」
そう言うとアニェラは少し顔を赤くしながら
「そ、その人違い?かもしれないです。ごめんなさい。」
と言って去って言った。
「え?あ、いやその…」
その時、とても悲しそうな顔をしていた彼女を俺は呼び止めることができなかった。