耳朶に愛を込めて
「ピアス取れちゃったの?」
「う、うん。付けるのが難しくて…」
「付けてあげるからこっちにおいで」
「……じゃあ、よろしくお願いします」
シルバーのハイビスカスのピアスを受け取り、その冷たさを手のひらで感じた。けれどたちまち手のひらの熱で分からなくなる。
すぐにキスができてしまうくらいに距離が近い。気恥ずかしくなって、何となく口で息をするのを止めた。グレープフルーツの甘い匂いがする。爽子の香水の匂いだ。去年の夏休みにデートしたとき、少し背伸びしてプレゼントしたものだった。パチン、乾いた音が二人の間で鳴る。
「はい、できたよ」
「ん、ありがと」爽子は言った。「……どうしたの?」
「…官能的な気持ちになりました」
「はは、なにそれ」
爽子は恥ずかしそうに笑っていた。コーヒーをちびちび飲みながら、ハイビスカスのピアスにふれている。
「…うん。いいよ」
何もかもを吸い込むような真っ黒い爽子の瞳には、僕しか映っていないようだった。綺麗なその瞳に、したたかなその瞳に、好きだなぁと僕は惚れ惚れする。僕は爽子の耳たぶに口づけした。耳たぶの肉感やハイビスカスのピアスの冷たさが、何だか切なかった。
Hinge様からタイトルをお借りしました。
ありがとうございます。