表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: suzuko
4/4

死体

リビングに入ると、部屋は冷房でもつけているように冷えていた。思わず身震いするほどだ。

部屋は6畳程の広さで、デスクの上にパソコンが置いてある。

天井まで高さのある本棚には、ところ狭しとアニメのフィギュアが透明のケースに入れて飾ってあった。

部屋の隅には大小のダンボール箱がたたまれて積み上げられている。

これを見る限り、ここの住人はネットでフィギュアを売る仕事でもしていたようだった。


ドアを入ってすぐの床に、ベージュ色に黒い模様の毛布が掛けられて置いてあった。まるで人が横たわっているように見える。

透は激しい違和感を覚えた。

 こんなところに、何を置いているんだ。

はるかを見ると、ただ、毛布を見下ろし黙って立っていた。部屋にさっきの男の気配がないのも奇妙だった。

毛布から、黒い靴下のようなものが覗いていた。それが人間のつま先のようにも見える。

ベージュの毛布が少しめくれている部分があり、そこから妙な物が見える。


目を凝らすと人間の腕のようだ。

透の声が震えた。

「何だ? 」

よく見ると、毛布に広がる模様だと思っていた黒い染みは、模様ではなかった。

黒い染みが何を意味するのか。

それほど考えなくても、答えは出る。

突然、胃液がこみ上げ、透は慌てて手で口を押さえた。


「首締められそうになったんです」

小刻みに震えるはるかの口から、細い声が漏れた。

「なんとか、逃げようとしたんだけど、追いかけてきて。それで、怖くて、キッチンにあった包丁で」

「刺したのか? 」

「気がついたら、床に倒れてたんです。全然動かないから、怖くなって毛布を掛けました」

「とにかく、救急車を呼んだほうがいい」

透がそう言うと、はるかが激しく叫んだ。

「だめよ。もう死んでます」

本当に死んでるのかは、素人判断ではわからない。

透は、はるかをなだめるように冷静に言った、

「意識が無いだけかも知れない。早く病院に行けば助かる可能性もある」

「死んでます。冷たいし、脈が無いですから」


透は恐る恐る毛布の脇から除いている腕に触った。ひんやりと冷たい。

手首を取り、脈があるか確かめる。脈は無かった。確かに死んでいるようだった。

「とにかく、救急車を」

「やめて。わたしが殺したってことがわかったら、逮捕される」

「襲われたんだから、正当防衛だろ」

「お願いです、警察には言わないで! 」

はるかが透の腕を掴み、懇願した。

「しかし、このままではどうしようもない」 

「警察に行けば、たとえ正当防衛でも、もう仕事が出来ない」

はるかの目から涙がこぼれた。

「そ…そう言われても俺にはどうすることもできない」

「助けてください」

「正当防衛の証言ならできる。ベランダで君が男に首を締められていたと、警察で証言するから」

透は泣きじゃくるはるかを自首させようと必死になった。


 どこから出してきたのか、はるかは手にカッターを持ち、それを首筋にあてた。

「警察に言うのなら、死にます」

「やめろ」透は低い声で言った。

「警察に言わないって、協力してくれるって約束してくれたらやめますから」

透はしばらく黙ってはるかを見た。はるかの首筋に次第にナイフが食い込む。思いつめたその顔は本気で死を覚悟しているように見えた。

「わかった。わかったから、ナイフを置いて」

はるかは、ナイフを首から少し離した。

冷静に事情を聞く必要があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ