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  作者: suzuko
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パパラッチ

 道路は二車線ある。

幅はわりと広く、車通りはたまにしか無い。

路肩に何台か、車が駐車してあった。人は乗っていない。

夜の9時。

日曜日のせいか、住宅街は静まり返っていた。歩道に人影は無い。


目当てのマンションは、住宅街の中にある。さほど大きくなく、5階建てくらいの簡素なマンションだ。

永森透は、車からマンションの玄関がはっきりと見えることを確認すると、路肩に車を駐め、サイドブレーキを引いた。

 ここなら近所の住人に不審がられずに済みそうだ。

張り込む場所にはいつも気を使う。

近所の住人に、不審な車が駐まっている、と通報されたりすれば厄介だ。

いつもは車は使用しない。移動はもっぱら電車かバイクだ。


しかし、今日は特別だった。

契約する雑誌社に入った情報が、ガセネタである可能性が高そうだったのだ。そういう時の勘は結構あたる。

長いこと張り込んで肩透かしをくらうのは、仕事とはいえ、しんどい話だった。

ガセネタかもしれないという勘もあって、今日はのんびりと車で張り込むと決めていた。


車の中はエンジンを切っても、適度な温度で快適だ。

11月の気候は、東京では暑くもなく、たいして寒くもない。

夜になるとさすがに冷えるが、それを除けば最も過ごしやすい季節に思える。


透は運転席でカラダをひねり、後部座席に置いてあったカメラバッグを引き寄せた。愛用のカメラはキャノンのデジタル一眼レフだ。ISO感度が良く、比較的光量が少ない場所でも被写体を捉えることができる。


このカメラと付属のレンズやなんやかやで、軽く100万は超える。コンパクトデジカメでも、今は十分性能がいいが、カメラにはこだわりがあった。

いいカメラを持つことは、透にとって最後のプライドだった。


 5年くらい前だったか。自分のカメラを売って取材費を捻出し、バクダッドに行った同僚の男がいた。

田所という名前だった。

「自費で取材に行っても、借金がかさむだけだ。やめておけよ」

イラク行きを決めた田所に、居酒屋で安いチューハイを飲みながら、透はそう忠告した。

田所は笑って、「俺もジャーナリストのハシクレだからさ」と答えた。


その時田所が言った、「ジャーナリスト」という言葉が透の心に重く沈んだ。

あれからもう5年立つ。

透はいつの間にか、40歳になっていた。


大学時代の友人達は結婚して家庭を持っていた。普通に就職した友人は会社で役職についている。

しかし、結婚して家庭を持つことなど、今の自分には考えられなかった。

そんな金も勇気も資格も無いことを、透は自覚していた。

カメラを売り、戦地に行った田所の「ジャーナリストの端くれ」という言葉は、今でも透の心の中でくすぶり続けている。

それでも、生活をするためには、どんな仕事でもする必要があるのだと自分に言い聞かせていた。

仕方ない。生きているだけで金のかかる世の中だと。


 今朝、透が契約している雑誌社に、女性アイドルの熱愛情報がFAXで流れた。

アイドルグループ「アプリコット」のメンバーである西嶋はるかが、男のマンションで密会するといったものだ。

情報によると、男は一般人だった。FAXには、ご丁寧に男のマンションの住所と部屋番号まで書かれている。


この情報が、他の雑誌社にも流れていたなら、相手の男が自分でリークしたということも考えられる。だが、他の雑誌社に動きが無いところを見ると、ただのいたずらである可能性が高い、と透は踏んでいた。

アイドルグループのファンには、時折おかしな連中がいて、この手のいたずらに編集部はしばしば振り回されるのだ。


 女性アイドルグループの「アプリコット」は、芸能界で有名なプロデューサーが手掛け、ここ3年くらい前から人気が出てきたグループだ。

グループのメンバーは総勢で50人近くいる。

新曲を出すたびに、ファンによる人気投票が行われ、上位10人に選ばれれば、テレビで歌うことができる。


西嶋はるかは、「アプリコット」の中でも常に上位5位内に入り、単独でCMに出演するほどの人気タレントだ。

透は、西嶋はるかを遠くから何度も撮影していた。

人気アイドルのプライベートを撮影すれば、週刊誌はこぞってその写真に大枚をはたくからだ。

23歳という年のわりには、はるかの整った顔立ちは大人っぽく感じられた。一見、男が近寄り難い雰囲気を持っている。

その為か、今までにスキャンダルらしいスキャンダルは無かった。


今回も、恐らくただのガセネタに違いない。

透はカメラのレンズを除き込み、マンションの入口に焦点を合わせた。

「これでよし」

 あとはのんびりと待つとするか。

カメラを助手席に置くと、狭い運転席で両腕を思い切り伸ばした。


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