第十章 ユウナの異変 側近の過去
ゼロは管理地の視察の仕事を終え城に戻った。
そして父上に管理地の報告とともに管理地に行くまでの道のりで襲撃されたことも報告した。
父上は驚いた。
「襲撃者の件はお前の側近たちに任せる。ゼロ、外出するときは気を引き締めろ。また何かあれば報告してくれ。よくやったな。ごくろうだった。」
珍しい。父上が俺をほめてくださった。これまでそうめったにあるものではなかった。
俺と側近たちは王室から退出した。
「では早速、書斎で調査してきます。私が思うにユウナ様にお聞きになられたほうが情報が得られるかと存じますが・・。書斎も少しは役に立つかと思うゆえ、調査してまいります。」
「あぁ。俺もユウナに聞いてみる。書斎で何か情報が得られたら報告してくれ。頼んだぞ。」
リアンの提案を俺は受け入れた。
「御意。」
承諾の意を含んで言葉とともに一礼するリアン。そして書斎に向かっていった。
「では、私のほうは聞き込みをしましょう。主に、異国を放浪する商人や民族にも聞いてみようと思います。何か知っているかと思いますゆえ・・。外出許可をくださいませんか?」
「あぁ。外出を許可する。何か情報を得ることができたら報告してくれ。」
「御意。」
俺はリアーネルに外出許可を出した。
二人とも実行力がある。こういうところは素直に尊敬できる。
リアーネルが行った後、俺は早速ユウナの部屋に向かった。
ユウナの部屋のドアをノックする。ノックしても返事がない。不思議に思って部屋のドアを開けた。
すると、
「!?」
声にならないほどの衝撃がそこにはあった。ユウナは床に倒れていたのだ!!
俺は、はっと我に帰ってユウナを抱き起こす。
「おい!ユウナ!ユウナ!しっかりしろ!」
声を荒げて叫ぶ。
「んっ」
うめいてうっすらと目を開けるユウナ。俺は安堵の息を漏らした。
「おい、大丈夫か?何でこんなところで倒れてたんだ?」
「・・・。」
俺が聞いても反応がない。ぼんやりしていて顔色が悪い。
俺は今聞くのを諦めた。ユウナがこんな状態だと安心して聞くことなんて到底無理だ。
「ユウナ、ユウナ。」
ユウナの体をゆすった。
「・・ゼ・・ロ・・?」
今気づいたような声を出した。さっきは心ここにあらずッて感じの状態だったし無理もない。
「あぁ。そうだ。・・それより大丈夫か?」
「・・うん。・・へいき。」
俺は平気じゃないと思った。まだユウナの体から脱力感が抜けないし何より顔色がとことん悪い。
「大丈夫じゃないだろ。何があった?」
「・・あれからまた見たの・・ゼロの未来が・・それをを知らせようと立ち上がったら・・・。」
「そうか・・もう無理するなよ。そうそう、襲撃者来たぞ。十字架のペンダントのおかげで助かったが。チェーンが切れて所々にひびが入ってしまったが・・すまなかったな。」
そういってペンダントをユウナに差し出した。
ユウナはいまだ俺から体を離そうとせず、手だけを動かしてペンダントを受け取った。
「よかった・・う”っ」
呟きながらユウナはうめいた。顔色がさぁーと青くなり頭を抱える。
「おいっ!だいじょうぶか!?・・・!!?」
叫んだが最後は声にならなかった。ユウナの左目が突然渦を巻いているように見え瞳の色が変化した!
幻覚だ!みまちがえだ!何度もそう思った。だが瞳は元の状態には全く元に戻らない。
ユウナが突然、左目を手で覆い
「・・ロ・・イ・・?」
と呟いた。
「え?」
俺もその言葉に驚いた。ユウナははっと気づいたように
「ゼロ!!ロイが!ロイが!!」
俺に向かって叫んだ。こんなに取り乱しているユウナをはじめてみる。
・・ロイ?・・何か関係があるのか??
ユウナはいきなり俺の胸に頭をぶつけた。
「!!?」
いきなりユウナの体がずしっと重くなる。
「ユウナ?」
ユウナを呼びかけても返事がない。少し体を離した。見るとユウナは気を失っていた。
瞳の異変は治まったのかよく分からなかったがユウナの言葉から何か見たことが分かった。
ゼロはユウナを抱きかかえ、ユウナをベットまで運んで寝かせた。
・・聞くのは後からでもできる。・・・
ゼロもユウナも気づかなかったがロイはドアからユウナが自分の名を言っているところを見ていた。
そしてロイはゼロにばれないようその場から離れた。
ゼロはユウナの部屋から出た。そしてリアーネルを見つけた。
「ユウナ様から情報は得れませんでしたか?」
「情報を得れる状態ではなかった。後で聞くさ。」
「そうですか・・ユウナ様はどこか謎めいているところがあります。初対面のときの印象はそうでした。」
リアーネルは窓から外を見上げて言った。
「俺もそう思う。嘘をついているわけではないが何か隠してる、そんな感じだな。」
「えぇ。商人や民族に聞いてきました。翼は能力者や具現魔法の得意な者でしか使えないと。黒い衣はどこでも売っているとも聞きました。」
「そうか、ごくろう。さっきの話だがな、俺な、昔のリアーネルやリアンにもユウナと同じような印象を持ってたぞ。まぁ、昔の話だがな。」
昔、出会ってまだ日が浅い頃、俺が小さかったのもあるが、あまり俺とリアーネルたちとは言葉を交わさなかった。年頃は同じくらいだったのにな。
まだ幼いリアーネルたちを俺の側近にしたのは父上だった。父上とも何か大事な用がないときは話さなかった。だから反対などしなかった。
俺は城の中で最も好きだったのは庭だった。花や木が色とりどりの美しい庭だった。
なぜ庭が好きだったのかはよくは覚えていなかったが、唯一覚えていることは俺もリアーネルたちも、庭にいるときだけが笑える時間だったと言うことだけ。俺がどこかへ行けば黙ってすかさずついてくる リアーネルたちが喜ぶのを見てうれしかったのだろうと今は思う。
でも、俺自身も自然が好きだったと思う。
こんな主人と従者の関係を一気に変えたのはあることがおきたからだった。
それはある年の春の日に庭を散歩している頃のことだった。その日も俺が勝手に動き回り、勝手についてくるリアーネルたち。なんら変わらぬ散歩が日課の毎日。
いつもなら庭を一周し終わってここで散歩が終わるはずだった。
俺はそのとき見つけたのだった。日陰でしなびている一輪の花を。
俺はその花に近寄った。
『?』
リアーネルたちは俺のしようとしたことが分からなかった。
俺はその花を根っこから丁寧に引き抜いた。
『!?』
一体何を!?という風な目でリアーネルたちは見つめてきた。俺はその花を丁寧に日向の花壇へ移し埋めたのだった。このとき
「ゼロ様、何でその花を日向へ移したのですか?」
と自己紹介以外ではじめてリアーネルは疑問を口にした。俺はそのとき
「いけないか?」
と聞き返した。
「い、いいえ。それはいいことだと思います。」
とリアーネルが言った。
「なら、いいな。これできれいな花が咲くな。」
俺は笑った。次はリアンが
「いいことだけど、どうしてそんなことをするんですか?手を汚してまで。」
と、問いかけた。
「花がかわいそうだろ。日陰じゃあ、枯れてしまうからな。俺は魔法の加減ができないから傷つけるとかわいそうだし、それに俺はこの庭にあるもの全てが好きなんだ。」
「・・・・」
二人が黙り込むのを見て不安になり、
「変か?やっぱりみんな変だと思うよな。俺の考えを理解してくれない人が多い。」
リアーネルたちに問いかけながら自分に変だと言い聞かせていた。するといきなり
『変じゃありません!!』
と大きく二人が声をはもらせて叫んだ。
「え!?」
俺は二人の言っていることに驚いた。
「自然を大切にするのも自然を好きだと言うことも変じゃありません!!」
「そうです。むしろいいことです!私たちも自然が好きで大切に思うんです!!」
前者がリアーネル。後者がリアン。
二人が必死で俺に変じゃないと力説して叫ぶことに本当にたじろいだ。
「そうか。そうだよな。じゃもう一週、しようか~。」
俺は笑いながら言った。
『はい!』
二人は声をはもらせて言う。
これが俺とリアーネルたちとの関係が変わった瞬間だった。
リアーネルは、
「そうだったかもしれませんね~」
という。俺は
「かもじゃない。そうだったんだよ。」
と笑って、訂正する。
今ではもう思い出の一つだが、俺とリアーネルたちとの関係が変わってからもう一つ大きな事態が起きることを関係が変わった頃の俺は知らずにいた。知っていたら怖いだがな。




