第九章 管理地の視察
ゼロは側近二人に馬車ではなく徒歩で行くと告げた。
なぜかと理由を聞いてきた。俺は、
「ユウナに馬車で行けば何者かに襲われると言われた。馬車では対応できないから徒歩でいけと。」
ユウナの名を出したことには理由があった。
理由はこの側近たちは他言はしないし何よりユウナのことを嫌ってはいないからだ。
話すと長くなるからまた後ほど。
側近は理由を聞き俺の言葉に従い徒歩で管理地のガルーダに向かうと言った。
俺はユウナに渡された十字架のペンダントを首に下げ周囲の気配を探りながらガルーダに向かった。
ユウナの言っていた崖道の通路。右は林。左は崖。
正直に言うと襲われてもおかしくない道を歩いてるなと思う。林なんて襲撃者が一番隠れやすいところだからな。
管理地の視察というのはいたって簡単な仕事だ。管理地に出向き、問題はなかったか、これまでの経過記録などを聞いてくるだけだからな。
それはともかく俺たちは崖道を警戒して歩かなければならない。気を抜けられない。
周囲に怪しい気配がないと確信したそのとき、日の光を浴びてくっきりと俺たちの影が大きな影に一瞬にして消された。その影はどんどん大きくなっていく。思わず見上げると
「!?」
声にならないほど大きな大きな大木が落ちてくるのが見えた。
誰かが故意に落としたとすぐ理解できた。反応が一瞬遅れて後ろに何メートルか引き下がるだけしかできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーードーーン!!-----ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大きな音を立てて大木が道を塞いだ。その大木の上に黒い衣を纏った背中に白い翼がある奴が数人舞い降りてきた。
「無礼者!!この方をどなたと心得る!」
・・俺がこいつらの気配に気づかなかったなんて・・・・何者だ?・・
側近の一人がが怒りを込めたまなざしで叫んだ。奴等は何も言わず呪文を唱えだす。
俺たちも身構え、防御の呪文を唱えだした。
だが、襲撃者のほうが早かった。俺めがけて一直線に光を凝縮した光線で襲わせる。
・・・間に合わない!!・・ 貫かれる!!
そう思ったまさにそのとき、バーーン!!と音を立て光線ははじかれた。
光線がはじかれるとき何か結界のようなものが一瞬見えた。
「!?」
その場にいる全員が今、起きたことに驚いた。そのとき、
ーーーーーーーーーーーーーーーー------ブチッ-----------------------------------------
俺の首からユウナからもらった十字架のペンダントがすとんと落ちた。
きっとチェーンが切れたのだろう。でもなぜ?
俺は落ちた十字架のペンダントを拾った。所々にひび割れている。
・・・これが俺を・・守ってくれたのか?・・
とにかく俺は襲撃者を見た。まだやるつもりなら今度はペンダントにはもう頼れない。
まだやるかと俺が身構えたとき、突然、襲撃者が姿を消した。
後を追うにも気配も同時に消えたから、追跡不可能。
「ゼロ様!!ご無事ですか!?」
側近の一人が言う。
「あぁ。」
無事で怪我はないと伝えた。側近たちは安堵の息を漏らした。
「ご無事で何よりです。・・しかし彼等は一体何者でしょうか?・・呪文詠唱時間がとても短く・・・あの翼も見たことがない・・」
側近の一人、名は、リアーネル。頭が良く勘が鋭い、優秀な側近だ。
「本当にご無事で何より・・そのペンダントのおかげですかね・・見たところ文様が・・刻まれていて・・・彼等はこの十字架のペンダントを見て姿をを消したと思うのですが・・」
もう一人の側近、名は、リアン。物知りで書物をよく読む。文系だが優秀な側近だ。
この二人は俺にとって特別な存在だ。
「あぁ、このペンダントはユウナからもらったんだ。あいつの予言が的中したな。さて、考えるのは後だ。早くガルーダに向かわないと日が暮れるまで帰れん。そのためには、大木を何とかしないとな。」
考えたいことは山ほどあるがいまはそれどころではない。
『お任せください!!』
二人が声をはもらせて言った。
「先ほど何も助力できなかった分、私たちの名誉と誇りを挽回させるチャンスをください!!」
「こんな大木などゼロ様が手を煩わせる必要などありません!!」
前者がリアーネル。後者がリアン。
そこまで熱心に言わなくとも・・でもそれもいささか悪いものでもないから
「分かった。では、見せてもらおう、リアーネル、リアン。よろしく頼む。久しぶりだな。お前等の実力を見るのは。」
おれは笑った。
『はい!!』
元気良く、そしてうれしそうに笑い声をはもらせて言った。
それぞれ違う呪文を唱えだす。唱え終わったのか、
「はぁ!」
と気迫で炎を出現させる。そして大木を指差し、大木めがけて炎を飛ばすリアーネル。
大木は一瞬にして灰と化した。
「ウィンディフォロー!!」
声と共に小さな風を生み出し、灰をどこかへ飛ばすリアン。
林に炎を移さないように加減しているリアーネル。林に影響が出ないように注意するリアン。
二人が自然を大事にしているのがひしひしと伝わる。
無理もない。なんたって、人の魂と精霊が融合した人型精霊なんだからな。
何で俺がそんなこと知ってるかって?それは次回の楽しみだと言うことにしとくか。
「ごくろう。毎回思うが実にすごいな。さて行くとするか。日が暮れる前には行きたいからな。」
『はい!』
声をはもらせる二人に苦笑し歩き出す俺。
こうして、ゼロと側近は管理地の視察をに行ったのだった。




