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9/12

旦那様との同居生活、始まる



「ん……」


 カーテンの隙間から朝の光が差し込む。朝か、よく寝た。


「あれ……」


 起きたらリアム様の姿はなかった。体を起こして辺りを見渡しても、やっぱりいない。仕事が早いのか、それもそうだよな。


「支度するか」


 快調だ。今の俺なら目のクマもないことだろう。たまには学園も真面目に行くか。さあ、準備だ。


「お」


 寝室は一つでも、奥に二つの部屋があった。個人の部屋もあるようだった。表札もあるしな。俺は左の方か、開けることにした。


「……まじか」


 俺の部屋が再現されていた……見事なまでに。これには口がポカンとしてしまう。


「……ん?」


 それだけじゃなかった。さらに別室があった。つか、断りなく入ったけどいいのか? いっか。俺は扉を開いた。


「こ、これは」


 扉を開けたら――美容サロンだった。いや、がちで。

 たくさんの染色剤や、広々とした作業机。調合に使う器具も一級品だ。あれ、リクライングシートでシャンプーが出来るようになってる? 美容室だろ、まじで。


 リアム様。あの人は俺の髪色、染色のことを褒めてくれていた。認めてまでくれていた。それだけでも充分嬉しいのに。


「用意してるとか、思わないだろ……」


 俺の部屋まんまだったのもそうだ。姉上あたりが教えたんだろうけど。ここまですることもないだろに……。




 実家のようにはいかない。とりあえず制服を着ることにした。それから軽い身支度も。よし、おっけ。


「……あ。どうも、おはようございます」


 部屋を出ると、メイドが待っていた。


「おはようございます、ユーマ様。旦那様の出発のお時間でございます」

「……早いっすね」


 もうなのか。忙しそうだしな。俺は彼女の案内で玄関に向かうことにした。




 大玄関に着くと、既に使用人たちが勢ぞろいだった。主を送り出すんだ。その中心にいるのがリアム様だ。


 リアム様は朝から隙がなかった。ビシッと決まった髪に、皺ひとつない軍服。いつもみてきた彼だ。昨晩とのギャップがすごいな……。


「おはよう、ユーマ……うむ」

「おはよっす……なんだよ?」


 リアム様はほんの少しだけど、顔をしかめだした。このダルそうな態度がが気に入らなかったとか?


「――二つまでだ」

「ちょっ」


 いつものように『失礼』と、それから俺の服のボタンを留めだした。いや、確かにそう言っていたけど。


「目ざといな」


 早速直してくるとは。俺が納得いかない気持ちでいると。


「他ならぬ君のことだからな」

「……」


 朝から爆弾を落とされた。まあ……この人にとって深い意味はないんだ。あくまで、家同士のメリット。そう、メリットがあるから。


「……いや」


 ……と、考え込んでいる場合じゃない。多忙な彼に言いたいことがあったんだった。


「色々、ありがとうな。用意してくれたりもだし、それに……」


 ここでは言いづらいけど――俺の呪いを和らげてくれたことも。


「自分が望むままにしたまでだ。だが、言葉にしてくれるのも悪くないな」

「くっ……」


 ほんのたまに見せる微笑。俺には充分過ぎるほどの破壊力だ……。


「では、行ってくる。気を引き締めて、学業に励むように」


 すっと、いつもの無表情に戻った。騎士、貴族としてのリアム・ブリーヴィオに――。


「あ……」


 俺は圧されてしまったのか。それでも『いってらっしゃい』を言おうにも――彼はすでに家を出た後だった。




 大広間に通され、俺は一人で朝食をとっていた。メイドの人たちは控えてはいるけど、一人でもぐもぐと。


 食卓に料理が並べられると、説明はされた。朝採れたての野菜、とか。なんとか牛とか。焼きたてパンも食欲をそそる匂いだった。


 俺の咀嚼する音だけがする。気まずいな。別に喋るのが好きとかじゃないけど、この沈黙も気まずいというか。


「……その、いつもリアム様って早いんですね」


 これからお世話になるんだし、話をしてみよう。


「はい。旦那様はいつも早目に出かけられます」

「毎朝、規律正しくいらっしゃいます」


 彼女たちはハキハキと答えてくれた。そっか。


「規律正しく、想像つくっす」


 きっと朝からしっかりしてるんだろうな。この邸の人たちのことも気にかけたりして。


「……ふふ、気になってるんだぁ」

「……?」


 メイドの一人が呟いた……それもニヤつきながら。俺が何事かと警戒していると。


「ねえねえ、ユーマ様! いくらでもお教えしますからねっ」

「そうそう、ユーマ様! あの方のモーニングルーティンから、好みの食べ物までっ!」


 メイドたちは急にはしゃぎだした。つか、モーニングルーティン……普通にありそー……。


「それなら、教えてもらってもいいすか?」 


 普通に有り難かった。俺までニヤついてしまいそうだ。


「「きゃあ……尊い……教えますともっ!」」


 ……尊い? よくわからないけど、俺は教わることにした。


 彼女たちはたくさん教えてくれた。興味深過ぎて、食べる手も止まってしまうほどに。


「――なんです、騒々しいですよ?」

 とはいえ、ベテランメイドの介入によって中断された。騒ぎをききつけてきたようだった。ピタッと静まったのは彼女たち。訓練されているのか、すぐにだった。


「……ふう。そこまで騒ぎ立てることもないでしょう。あなた方、静かにね?」

「「「はい」」」


 良い返事だった。『それでは失礼させていただきます』と、ベテランの人は呆れつつも、退室した。お目こぼししてもらったようだ。



 彼女たちは引き続き教えてくれた。さっきより声のトーンを落としつつだった。


「ふふ、皆様そうなんです。もっと仲を深めていただきたいんですよ」

「私達、お力添えしたいんです」


 彼女たちは笑顔でそういってくれた。そっか……。


「ありがとうございます――」


 この邸の人たちに歓迎されている。今になって俺は実感したんだ――。


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