旦那様との同居生活、始まる
「ん……」
カーテンの隙間から朝の光が差し込む。朝か、よく寝た。
「あれ……」
起きたらリアム様の姿はなかった。体を起こして辺りを見渡しても、やっぱりいない。仕事が早いのか、それもそうだよな。
「支度するか」
快調だ。今の俺なら目のクマもないことだろう。たまには学園も真面目に行くか。さあ、準備だ。
「お」
寝室は一つでも、奥に二つの部屋があった。個人の部屋もあるようだった。表札もあるしな。俺は左の方か、開けることにした。
「……まじか」
俺の部屋が再現されていた……見事なまでに。これには口がポカンとしてしまう。
「……ん?」
それだけじゃなかった。さらに別室があった。つか、断りなく入ったけどいいのか? いっか。俺は扉を開いた。
「こ、これは」
扉を開けたら――美容サロンだった。いや、がちで。
たくさんの染色剤や、広々とした作業机。調合に使う器具も一級品だ。あれ、リクライングシートでシャンプーが出来るようになってる? 美容室だろ、まじで。
リアム様。あの人は俺の髪色、染色のことを褒めてくれていた。認めてまでくれていた。それだけでも充分嬉しいのに。
「用意してるとか、思わないだろ……」
俺の部屋まんまだったのもそうだ。姉上あたりが教えたんだろうけど。ここまですることもないだろに……。
実家のようにはいかない。とりあえず制服を着ることにした。それから軽い身支度も。よし、おっけ。
「……あ。どうも、おはようございます」
部屋を出ると、メイドが待っていた。
「おはようございます、ユーマ様。旦那様の出発のお時間でございます」
「……早いっすね」
もうなのか。忙しそうだしな。俺は彼女の案内で玄関に向かうことにした。
大玄関に着くと、既に使用人たちが勢ぞろいだった。主を送り出すんだ。その中心にいるのがリアム様だ。
リアム様は朝から隙がなかった。ビシッと決まった髪に、皺ひとつない軍服。いつもみてきた彼だ。昨晩とのギャップがすごいな……。
「おはよう、ユーマ……うむ」
「おはよっす……なんだよ?」
リアム様はほんの少しだけど、顔をしかめだした。このダルそうな態度がが気に入らなかったとか?
「――二つまでだ」
「ちょっ」
いつものように『失礼』と、それから俺の服のボタンを留めだした。いや、確かにそう言っていたけど。
「目ざといな」
早速直してくるとは。俺が納得いかない気持ちでいると。
「他ならぬ君のことだからな」
「……」
朝から爆弾を落とされた。まあ……この人にとって深い意味はないんだ。あくまで、家同士のメリット。そう、メリットがあるから。
「……いや」
……と、考え込んでいる場合じゃない。多忙な彼に言いたいことがあったんだった。
「色々、ありがとうな。用意してくれたりもだし、それに……」
ここでは言いづらいけど――俺の呪いを和らげてくれたことも。
「自分が望むままにしたまでだ。だが、言葉にしてくれるのも悪くないな」
「くっ……」
ほんのたまに見せる微笑。俺には充分過ぎるほどの破壊力だ……。
「では、行ってくる。気を引き締めて、学業に励むように」
すっと、いつもの無表情に戻った。騎士、貴族としてのリアム・ブリーヴィオに――。
「あ……」
俺は圧されてしまったのか。それでも『いってらっしゃい』を言おうにも――彼はすでに家を出た後だった。
大広間に通され、俺は一人で朝食をとっていた。メイドの人たちは控えてはいるけど、一人でもぐもぐと。
食卓に料理が並べられると、説明はされた。朝採れたての野菜、とか。なんとか牛とか。焼きたてパンも食欲をそそる匂いだった。
俺の咀嚼する音だけがする。気まずいな。別に喋るのが好きとかじゃないけど、この沈黙も気まずいというか。
「……その、いつもリアム様って早いんですね」
これからお世話になるんだし、話をしてみよう。
「はい。旦那様はいつも早目に出かけられます」
「毎朝、規律正しくいらっしゃいます」
彼女たちはハキハキと答えてくれた。そっか。
「規律正しく、想像つくっす」
きっと朝からしっかりしてるんだろうな。この邸の人たちのことも気にかけたりして。
「……ふふ、気になってるんだぁ」
「……?」
メイドの一人が呟いた……それもニヤつきながら。俺が何事かと警戒していると。
「ねえねえ、ユーマ様! いくらでもお教えしますからねっ」
「そうそう、ユーマ様! あの方のモーニングルーティンから、好みの食べ物までっ!」
メイドたちは急にはしゃぎだした。つか、モーニングルーティン……普通にありそー……。
「それなら、教えてもらってもいいすか?」
普通に有り難かった。俺までニヤついてしまいそうだ。
「「きゃあ……尊い……教えますともっ!」」
……尊い? よくわからないけど、俺は教わることにした。
彼女たちはたくさん教えてくれた。興味深過ぎて、食べる手も止まってしまうほどに。
「――なんです、騒々しいですよ?」
とはいえ、ベテランメイドの介入によって中断された。騒ぎをききつけてきたようだった。ピタッと静まったのは彼女たち。訓練されているのか、すぐにだった。
「……ふう。そこまで騒ぎ立てることもないでしょう。あなた方、静かにね?」
「「「はい」」」
良い返事だった。『それでは失礼させていただきます』と、ベテランの人は呆れつつも、退室した。お目こぼししてもらったようだ。
彼女たちは引き続き教えてくれた。さっきより声のトーンを落としつつだった。
「ふふ、皆様そうなんです。もっと仲を深めていただきたいんですよ」
「私達、お力添えしたいんです」
彼女たちは笑顔でそういってくれた。そっか……。
「ありがとうございます――」
この邸の人たちに歓迎されている。今になって俺は実感したんだ――。




