ヤンキー君のスクールライフ
俺が通うベンヤミン学園――男子校だ。そこの船着き場に到着して早速、俺は注目されていた。ジロジロ見られ、ヒソヒソ話をされている。中身はまあ。
「――相手、あいつとかマジかよ。清きあの方と……あのヤンキーが?」
「嘘でしょ!? というか、もっと相応しい方が……よりにもよって、あのサボり魔と?」
学園でも当然、広まっていた。それもそうか。どこからも聞こえてくる。
――あの方の相手が何故、ユーマ・ショコラーデなのかって。
さすがに先方の狙いとか、そこまでは知られてないようだけど。こっちも言いふらすこともないしな。
おっと、人だかりが出来てきた。人に囲まれるんの、得意じゃないんだけど。メンタルやられるし――。
「――ユーマくーん!」
遠くからやってくるのは、もじゃもじゃ頭に瓶底眼鏡の男。やたらと背が高いからか、頭が一つ飛び出ていた。尻尾でも振るかのように、こっちにまっしぐらだ。
「おはようございます、ユーマ君!」
「よう、フィクトル」
興奮気味に挨拶をしてきたのが、俺の希少な友人のフィクトルだ。心配かけたくないと思うくらいには、大事な奴だ。
「ユーマ君、今日は調子が良さそうですね。なら、良かった。色々、買ってきました!」
「買ってきたのかぁ……」
出るわ出るわ、購買部で買ったパンがたくさん……となると。
「ヒソヒソ、パシリ……」
「ヒソヒソ、カツアゲ……」
パシリを命じたヤンキーと、被害者の生徒。周囲の目はそうなっていた。なるよな。金、あとで払ってんだけどな。
「ほら、『デカ盛りデコ盛りショコラ』! こちら、激戦でしたぞー! それと、『ジェラートパン』とか、あとはですな――」
こいつは『俺にも美味しいものを』って、どこまでも善意なんだよな。金も中々受け取らないしな、渡すけど。ちなみに興奮すると口調が変わる。慣れた。
「……ったく」
『ありがとな』の小声と共に、俺は手を伸ばした。
「ゆ、ゆ、ユーマ君……!?」
元々のくせ毛頭が、購買部での奮闘もあってか絡まりまくっていた。とりあえず、手ぐしでこいつの髪を整えた。コームとかブラシで梳かすのはさらに後の段階だ。
「……」
何か固まってるけど?
「……トゥンク」
「?」
何か言い出したけど、よくわかんね。まあ、いいか。
「ヒソヒソ、パンが気に入らなくて頭掴んでる……」
「ヒソヒソ、メンチきって脅してる……」
やっぱ、周囲にはそうとしか見えてないんだろうな。
「ち、ちがいます……! ユーマ君はとてもよくしてくれて――」
俺の友人は庇おうとしている。そういうの苦手だろうに……いいのにな。
「――行くぞ、フィクトル。遅刻する」
俺はコイツの腕を引っ張って、群れの中を突っ込んでいく。
「「ひっ……」」
おお、道が出来た。ゴタゴタ言う割には、直接絡んでこないようだった。
「で、ですが、ユーマ君……」
「ずっと相手にしている方がダルくね?」
フィクトルは納得いってないようだけど、俺はいいんだよ。離れるに限る。
まあ、こうやってアレコレ言われる、今に始まったことじゃない。相手にすることもない。いつものように、ダルそうにスルーしてればいい――。
終礼が終わった。やっと……やっとだ。噂話はずっと止まないまま。わざわざ教室まで見物にもきていた連中。ようやくの放課後、あとは帰るだけだ……!
「――ユーマ君。髪色、今回も良き感じですね。海のサンゴを彷彿させる、さながらマーメイドプリンスですねぇ……!」
同じ教室、隣の席のフィクトルが話しかけてきた。マーメイドプリンス……。
「髪色褒めてくれたんなら、ありがとな」
「はい、良く染まってます……神業です! ……ええ、本当に。それから、それから――」
「ありがとな……って、フィクトル?」
「ええと、それから……」
フィクトルは何かを言いたそうにしていた。なのに、それを言おうとしない。別の話題にしようとしている。今に至るまで、こんな感じだった。
「……ああ」
そっか……切り出しづらいのか。この世界では同性婚も普通に認められてるけど、いきなり婚約とか、驚きもするよな。
俺から話したいとも思っていた。フィクトルは大事なダチだ。
「家同士が決めたことだけどさ、互いにメリットがあるんだ。卒業したら籍を入れることになっている。今更の報告になったな」
「……ユーマ君」
俺は気にしないでほしかった。下手くそな笑顔をしてみたけど、フィクトルの声は沈んだままだった。色々と複雑なんかな……。
「……いえ、ユーマ君が幸せなら。顔色も良いですから」
「まあな?」
フィクトルは形の良い唇で笑んだ。そうだな、ずっと調子が良いままだな……?
「……では、改めまして。ご婚約、おめでとうございます」
「ありがとう」
きっと瓶底眼鏡の下でも笑ってくれている。俺も笑顔で応えた――。
下校時間だ。そのまま帰ることになった。暮れなずむ廊下、各々の活動に勤しむ生徒たち。帰宅部の俺たちには縁がないものだ――。
「……あ、ユーマ君」
フィクトルが声を潜めた。それから『引き返しませんか……?』とも提案してきた。
「……アイツか」
前方からやってくる生徒を目にしたからだ――『奴』だ。
「――今度の週末に試合があるんだ! 見に来てくれないかな? 君の応援があれば、勝てると思うんだ!」
「いやいや、僕達のお茶会に付き合ってもらうんだよ! ねえ、君が喜びそうなお茶菓子も取り寄せたからさ? ね?」
そこを歩くだけで、人が集ってくる。囲まれる。中心にいるのは――誰からも愛される『ヒロイン』のような奴だった。
つぶらな瞳に、赤く色づいた唇。ボブカットの銀色の髪、華奢で小柄な体格。俺は初見、女子だと思っていた。
「ふふ、みんな? お誘いありがとうね? ボク、嬉しいな?」
男子校の花ともいえる容貌、ふわりと笑う可憐さ――それがアダムという男だ。
ヒロインポジである彼――ゲームの主人公だ。この愛されオーラと屈託のなさで、攻略対象共を救っていくという。
「……」
……銀色の髪。あの人と同じ、この国では珍しい色。アダムはそうだ。リアム様の従兄弟にあたる――聖なる一族の一人だ。どこまでも主人公なんだ。
アダムは誰からも愛される奴……けどな、こっちとしては――。
「……あー、ユーマ様だぁ。えへへ、こんにちはっ」
「……どうも」
向こうから気づいてきた。しかも、一気に距離を詰めてきた。さらには、アダムの取り巻き連中にも囲まれてしまった。
「あのね、婚約おめでとうございます? ――『リアム』相手でビックリしちゃった」
「……」
俺の頬はひくついた。こっちだけに聞こえる声で言ってきた。リアムと、呼び捨てで。奴は『きゃっ』と照れているけど、わざとらしい。
「……ねえ、ユーマ様? もっと詳しく聞きたいなぁ? ここだと話しにくいでしょぉ?」
上目遣いでお願い……というか、強制か。
「――行ってくるわ、フィクトル。先、帰っててくんない?」
「そんな、ユーマ君……」
フィクトルは心配そうにしていた。俺だって帰りたい。だるい。特にコイツの相手は。
けどな。
「話、つけてくる」
アダムはリアム様を慕っていた――昔からだ。すげえ仲が良かった。見せつけられてもきた。
……リアム様のこと、好きだった可能性だってある。
かったるいなりにも、話をしたかった。




