表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/26

コレ、もらっとく


「……」


 待っている時間が長く感じた。実際、来るのにそこまで時間は要しなかったというのに。

 やってきたのは、白装束の聖なる集団だ。ブリーヴィオ家の方々、聖なる一族。彼らは恭しくリアムさんを連れていった――。


「……俺には」


 見送った後の玄関、俺はそこで立ち尽くしていた。今の俺に何ができる。ただ、無事を祈るしかできないだろ?

 浄化の力に定評がある彼らだ。今は、そう今は。彼らに任せておけば――。


「――大変なことになっちゃたね」

「……アダム」


 そう、彼も一行の中にいた。まだこの場に残っていたこと……今の今まで気がつかなかった。


「――お前……そう、お前に。ボク、言いたいことがあって。時間ないから、短めにだけど」


 いつもの『派手髪』呼ばわりはない。アダムはいたって真剣な表情だ。


「リアムは今、大変危険な状態だよ。原因は間違いなく――お前の呪いによるもの」


 アダムは確信を持っていた――『ようやく確証をもてた』とまで。


「リアムは『禁術』に手を出していた。呪いを和らげるものなんかじゃない――自身の身に取り込むものだ」

「あ……」

「お前の『魔神』由来の呪い……それを和らげる力なんて。そんなの『聖なる一族』にはないよ。なかったから……!」

「……」


 そうだ。邪な力ともいえるもの。それを打ち滅ぼす力はあっても、といえた。元は宿敵……敵対していたから。


 それを取り込んでいたとなると……なんてことだ。


「リアムさん……」


 そうだな、リアムさん。アンタはウソは言ってなかった。

 副作用なんてない。それどころじゃない。俺の呪いそのものが……アンタを蝕んでいた。


 俺は……深く考えてなんてなかった。ただ、呪いが……幻覚症状が治まった。そのことばかりを喜んでいて……!


「くそっ……」


 アンタの身に何が起こっていたのか、それを想像もせず……! 


「なにやってんだよ……リアム! そんなのに手を出すから……!」


 アダムだってそうだった。冷静で在ろうとしても、参っているようだった。


「……ふう。そうだ、だからボクは――」


 ――『治療』を行う必要がある、と。


 そのアダムの言葉は、やけに重々しく響いた。

 どうしてだ。リアムさんを救う行為のはず。それは俺も望んでいることで――。


「性交渉によってだ――ボクはリアムに抱かれる」

「……」


 俺は言葉を失った。


「まずは力を注ぎ込むことによって、意識を強制的に引き戻す。だから、行為自体はできる」

「……」

「何度も、何度も繰り返す。力を注いでいく。交わって、治療を繰り返していく。生命力を与えていく。滅多にやらないやり方だ」

「……」


 アダムが説明している。言っていることはわかる。だけど、俺の脳が、心が。理解を拒んでいた。


 なあ、なんなんだ。

 どういうことなんだ。


 ……なんでだよ。


「……ま、これ以上の説明はいらないか。大がかりになるから、今、神殿で準備を進めている。といっても、ボクもそろそろ行かないとね」


 アダムは途中で説明を切り上げた。俺の顔を見て『顔色わる……』とも呟いていた。


「……ボクだって、どうしようって思ってるよ。だって、リアムの心を無視する行為だ……お前のことだってあるし」


 アダムの大きな瞳が揺れていた。


「……だとしても、だよ」


 それでも、彼は決意を瞳に宿していた。


「リアムの命の瀬戸際だ。真摯に取り組む……助けてくるから」

「……」


 ……そうだ。アダムにかかっているんだ。

 昔好きだった相手と交わる。だからって、浮かれてなんていない。そうだよ、そんなアダムになら……あの人を託しても……。


 リアムさんが……助かるのなら――。


「……なあ、呪いはどうなるんだ?」

「もう、なに? 説明余分にしちゃったし、もう行くけど?」


 アダムはうざったさを隠しもしない。それでも話させてくれ。


「あの人が取り込んだ呪い。それ自体はどうなるんだよ」

「それは……それは」


 アダムは嫌々そうな顔から一転、気まずそうに目をそらしていた。どうしたんだ……?


「……呪いは、消えないよ。取り込んだ呪いは……ボクとするだけじゃ」

「……?」


 含みのある言い方だった。アダムは何事もなかったかのように、元のしかめ面に戻っていた。


「……はあ。相当時間かかるだろうね。ほんと、なにやってるんだか……ただでさえ、魔神の力自体、毒だっていうのに」


 ――『ボクらにとって』と。アダムたち一族はそうなんだ。


「長い間……」


 深く根づいてしまった呪いが……彼を苦しめ続ける。長く。長く、何度も交わらせるほど。


 リアムさんが他の誰かと繋がること。嫉妬でおかしくなりそうで……だけど、それが唯一助かる手段でもあって。


 でも、苦しみに終わりはないのか。

 俺の、俺の呪いのせいで。


「……まあ、幻覚や幻聴も伴うだろうね。というか、今までもあったかも……」

「……そう、か」


 俺の厄介な呪いを取り込んでいたなら、起こってもおかしくないよな。起こっていたかもしれなかったんだ……。


 いくらアダムとの行為で回復したとしても。

 彼は長く、長く苦しむことになる。


 この呪いのせいで。

 消えやしない、呪いのせいで。


「なあ、アダム。俺が原因なんだろ。俺の呪いのせい、なんだろ? 本当に無くす方法がないのか……!?」


 気がおかしくなりそうだ。俺の呪いが彼を苛む。当事者の俺が、何もせずに待っているしかできない。

 俺にとっても――最愛の人。その人が苦しんでいるのに、ただ待っているだけかよ……!


「……」


 アダムの答えは……沈黙、か。


 ……そうだ。何をやってるんだ、俺は。こんな時に何を聞いているんだ。全てを終えた後でもいいだろ。今はリアムさんの容態、最優先だろうが……!


 たとえ、彼がアダムを抱くことになろうと。俺以外の誰かと交わろうと――。


「……悪い。早く現地入りしないと、だよな。あの人のこと、頼む――」

「『コレ』もね、飲ませるようにって仰せつかっていたの」

「……?」


 アダムがチラつかせているのは、小型の瓶? 液体が入っている……?


「――『呪詛返し』の効力を持つもの……わかるよね?」

「……そうか」


 俺はわかってしまっていた。生命力はアダムによって取り戻される。彼を巣くっていた呪いは。


 ――しっかり、俺にお返しされると。


「……今すぐには使わない。まずは、リアムの体力を回復させてから。そうだよ、今すぐってわけじゃ……」


 俺を伺いながらも、アダムは呟いていた。どこか躊躇ってもいるようだった。


「アダム……」


 俺のこと、気にしてくれてるんだな……昔の生活に戻るからって。

 あのSAN値が削られる――狂った世界に戻されるから、と。


「……ありがとな、アダム」

「え、なに――」


 俺の言葉に困惑している間に。


「コレ、もらっとく。神殿、だったよな?」


 ――瓶をかっさらうことにした。


「ちょ、ちょっと!?」 


 叫ぶアダムを置いて邸の扉を開いた。


「なにやってんの!? 本当にお前ってやつは……!」


 悪い、勝手なことをして――。


「……あーあ。もういいよ、わかったよ。ユーマ・ショコラーデ――お前に賭けてみるよ」

「……アダム?」

「ほんとさぁ、あーあって感じ! ……ボク、つけ入る隙がないじゃないか――」


 後ろから聞こえたアダムの声。これはきっと、幻聴なんじゃない。




 森林道を駆け行く中で考えていた。本来なら、わざわざ俺に話すことじゃなかった。黙っていれば、それはそれで終わる話だったんだ。


「……なのに、話してくれたんだよな」


 本当にありがとな、アダム。行ってくる。



 俺は邸を飛び出して、駆け出していく。

 彼を目指して、まっしぐらに。


 邸から馬を飛ばし、港で小型船をチャーターする。

 早く、早く――!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ