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――急変


「……ああ、命の恩人でもあるんだ」

「……命のって」


 俺が思い出したのは――リアムさんが流行り病に侵された時のこと。凶悪なまでの伝染力だった。かかれば最期とも言われていた……誰も看病に名乗り出ることもないから。


 ただ、死を待つだけの病だったと……だけど。


「君が……君だけが、私を看病をしてくれていた。小さな手で、必死に……私を生かそうと……改めて、ありがとう」

「それは……そうだろ」


 どれだけ危険だろうと、助けたくもなる。だって、アンタは俺にとって――。


「大切な人、なんだからさ……昔からそうだ。何が何でも助けたくなるだろ」


 思いが零れて、止まない。意地とか照れとか、そんなものは無いんだ。


「そうか……」


 俺の言葉を受けて微笑むアンタ。俺も少しだけ笑った。


「……そうだよ」


 ああ、思いは募るばかりだ……一方で、心が沈んでいく。

 伝染を怖れもせずに看病した。それも好きな相手の為にだ。それだけなら綺麗な話なんだ……ごめん、リアムさん。


「……アンタがそう思ってくれたのは嬉しい。嬉しいからこそ、言わせて」


 俺はひと呼吸すると、話を続けた。


「アンタを救いたかったのは本当だ。でも俺さ……『どうなってもいい』って。そうとも思っていたんだ。呪いに耐えられなくなっていたから」


 自暴自棄だったんだ。呪いに苦しめられ、絶望してばかりだった日々。そんな俺なんて消えてしまえばって。俺を代償にリアムさんが助かればとも思っていた。

 本当にどうなってもよかったんだ。最低だな。アンタを騙していたようなものだった。


「本当にごめん、リアムさん――」

「そうだと思っていた」

「!?」


 俺は勢いよく彼の方を向いた。彼は――慈しむような目をしていた。


「それだけ呪いに苦しめられていた、そうだろう? 私は病に伏しながらも考えていた。君は……どれほど諦めてきたのだろうと――『生』すらも」

「あ……」


 ――生まれ持った呪いのせいで。彼はそう言っている。


「……諦めないでくれ、ユーマ。私もそうだ。此度のこと、乗り越えてみせるから」

「リアムさん……」


 そんなに弱弱しいのに、喋るのも精一杯なのに――俺に触れる手だって。


「……うん。俺だってそうだよ――好きな人がそう言うんだから」


 俺はそれに手を添え、笑ってみせた。リアムさんは目を丸くするも、すぐに細めた。


「ああ、両想いだな」

「あー、うん……ハッキリ言うのな」

「こういうことは口にしておくものだ」


 リアムさん、臆面なく言ってきた。『両想い』という響きの強さ……まともに目をみられなくなってしまった。


「――ああ、そうか。温室のあれは聞き間違えじゃなかったのか……」

「は? ……温室?」

「思い出せないのなら、教えよう。君が口にしていたことだ。私と結ばれるのが、願ったり叶ったりだと」

「……それ」


 いやいや待って。確かに言っていたけど、アレ、同居前の話で……。


「聞こえてたのかよ……」

「確証は持てなかった。ところどころ、断片的であったから」

「いや、聞こえてんだろ。アンタが地獄耳なんだろ……!」


 ほぼほぼ全文ときたか……! 項垂れていた俺に、リアムさんは笑いかけてきた。


「――ユーマ。私たちは思いが通いあっている。両想いだ。楽しいことだって、まだまだこれからなんだ。だから、私は克服してみせる」

「……リアムさん」


 強さが込められた眼差しだった。


 俺たちには何もなかったわけじゃない――気持ち、思いがあったんだ。


「長話になったろ。アンタは横になってな? 食いもん持ってくるから――すぐ戻ってくるから」


 俺は彼を横にさせると、銀髪の髪を撫でた。数回繰り返した。


「いいだろ、アンタだってやってんだから」

「ああ、もちろんだ……心地よいものだな……」


 リアムさんの瞼が閉じられていく。それからすぐに眠りに落ちていっていた。


「無理してるんだよな……」


 ――両想い、だってさ。今でも信じられねぇ。相手にされてないと思っていたし、宿敵ともいえる血の関係だ。想像つかなかったよ。


「なあ、リアムさん。昔とは違うんだ。アンタと一緒にいられるようになって、贅沢になったんだ。俺さ、アンタといたいよ」


 アンタと共に在ること。

 それを諦めたくないんだ。





 夜が深まった時――急変した。


「……っ!」


 俺は近くの椅子でうたた寝していたが、胸騒ぎと共に目を覚ました。


「……」


 部屋は静寂に包まれていた。不気味なまでに、だ。


「……リアムさん?」


 ベッドの上で寝ている彼――声がしない。


 寝息、すらも。


「!」


 今のリアムさんの姿を見て――絶句した。

 顔から体に至るまで巡らせているのは、黒い紋。触手のようなグロテスクなものだ。


 どうして、突然。


 いや、異常事態なんだ。

 俺の鼓動が速くなる。尋常じゃない汗だ。呼吸が荒くなるばかりだ。

 落ち着け、落ち着けって……!


「くっ……」


 俺に癒しの力なんてない。無力どころか……害のある自分。


「……自分を責めるのは後回しだ」


 足がもつれて、転びそうになる。体に力が入らない。こんな時だってのに……!


 助けを呼びに行くんだ、助けを――。



 待機していたメイドと連携をとり、執事長のところまで話がいく。

 彼らは見事なものだった。すぐに本家と連絡をとり、先方もすぐに来ると。




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