今日が終わっていく――
俺が好きそうだと、美容グッズの店に訪れていた。美容品特有の香りに誘われ、俺もふらふらと誘いこまれそうになる。ここはヘアケア用品の宝庫だ……!
「……だけどさ」
このパラダイスより、気になるのはリアム様だ。入口の近くで立ったままの彼のこと。俺は引き返すことにした。
「アンタさ、あんま調子良くないだろ? 今日はもう、帰った方がよくないか……?」
リアム様、顔色も良くないんだ……。
「心配は有り難いが、気にすることはない。問題ない」
「無理すんなって。疲れ、溜まってるだろうしさ」
俺、浮かれてたんだ。多忙なこの人の休日、体を休めてほしかった。今なら来たばかりだ。あとはせめて、休養にあててくれれば――。
「……入口のソファで休ませてもらう。それで充分休まる」
「じゃ、休むか。俺も歩き疲れたからそうする」
「買い物はいいのか?」
「まだ切らしてから」
「……そうか」
近くにあったソファは二人掛けのと、一人用のもの。
リアム様は二人掛けのソファに座っていた。俺もその隣に……というには、かなり密着するもので抵抗があった。俺は一人用の方に座ることにした。
「……」
リアム様はチラリとこっちを見た。けど、それだけ。彼はぼーっと天井を見上げていた。そうだな、俺もそうするか。リアム様を見守りつつも――。
時計は正午を告げた。昼飯の時間か。リアム様、微動だにしないんだよな。さっきから見ていてもそうだった。呼吸音はするし、目も開いているけど――。
「……おはよう、ユーマ」
「……! おはよう、リアム様……おはよう?」
声がしたから安心したものの、おはようって……。
「よく寝させてもらった。おかげで体調も戻ったようだ」
「それは良かった……って、ウソだろ」
リアム様は仮眠をとっていたようだった。確かに動きはしなかったけど、目はしっかりと開いていたというか。目、開けて寝てたんかい。
「……まあ、そうだな。さっきよりは顔色いいよな」
「そうだろう?」
「おっ、得意げだな?」
「ああ、そうだ」
今の表情、リアム様のどや顔みたいなものか。まあ、良かったよ。この人が元気なら、それが一番なんだ。
「さて、昼食の時間か。今から食事処は押さえられる。何か食べたい料理はあるか?」
「それはすげー……けど」
顔パスか何かなのか。つか、本調子じゃないだろうから。
「あとはさ、ゆっくりしてようぜ? 家でも休日は満喫できるだろ?」
「気遣いは有り難いが、断る。本日の予定は君との外出で埋まっている」
「いやいや。俺相手ならさ、尚更じゃね? 別にどうでもいいんじゃん?」
「どうでもよくない。どれほど外出を楽しみにしてきたことか……!」
鬼気迫るようだった。体調どころか、気迫も復活したようだ。外出、そんなにしたかったのか……。
「帰る気、ないんだな?」
「ああ、ないとも。送迎するのは私だ。君には最後まで付き合ってもらおう」
「おー、言ってくれんじゃん? ……そこらの船調達して帰るとすっか」
「……言ってみただけだ」
リアム様は肩を落としていた。ダメージ受けたのか……?
「俺も言ってみただけだって。俺さ、体調をないがしろにしたくないんだ。アンタの様子見させてもらうからな」
ソファ越しの俺たち、コッチは身を乗り出していた。
「すまないな、ユーマ……」
「別に気にすんな?」
俺は短めに返し、次の話題に進めた。
「昼飯もだし、ここからの予定もそうだ。まったりいくとするかー」
コッチからエスコートしてみることにした。
癒しの絶景スポット――海浜公園。水が張り巡らされたそこは、水飛沫も上がっていた。涼を感じるにはもってこいの場所だ。
「おお……」
俺は初見さんだった。エスコートとは言った……言ってみただけだ。俺だって初めて訪れたんだ。
屋台が並んでいる。種類もめっちゃある。どれから、どれを買えばいいんだろ――。
「……懐かしいな。よく帰りに寄っていたものだ」
「へ、へえ……?」
リアム様は懐かしがっていた。よく、ともきた。俺よりよっぽどご存じだった。
「……」
思えば、だった。男装の姉上をはじめ、友人たちに囲まれていたんだ。豪勢な婚約祝いをもらえるような同僚だっている。俺よりよっぽどコミュ力強者じゃねぇか。
……五歳差、なんだよな。未だに学生な俺と社会人のアンタ。どう足掻いたって、アンタと一緒の学生にはなれない。
「……どんなの、食べてたんだよ」
「ユーマ?」
「悪かったな、どうせ初めてだよ。だから、オススメ教えろよ」
「……」
なんで黙ったんだ? 引いた? ……なんか、目を伏せてもいるし? 『初めて来たのが、私となのか……』ってなんなん?
同じ学生にはなれない。なら、追体験したかったんだけどな。
「……いや、何でもない。そうだな、君にも味わってもらおうか」
「頼むわ」
良かった。
俺たちは並んで歩く。なんてぎこちない距離なんだろうな。大人とガキ、傍から見ればそうだ。学生同士、友人同士には見えない二人だ。
「――ユーマ、裏メニューだ。ぜひとも推奨する」
「いいね、裏メニュー」
「だろう?」
「……ははっ」
リアム様はどこか楽しそうだった。学生時代、振り返ってるのかな。
俺もさ、楽しいよ。アンタが楽しそうなら、より。自然と笑顔になるんだ。
「……ユーマ」
そんな俺の顔を見て、真顔になるのはリアム様だ。そうだな、いつもの温度差。温度差だ……はぁ。
「……俺、オレンジジュース買ってくるわ。アンタの分も買ってくるけど?」
空気を変えたかった。俺は近くの売店に寄ることにした。
「こっちは試さないのか?」
リアム様が提示してきたのは……『謎味ジュース』なるもの。中身は完全ランダムなんだとか。学生のアンタは果敢に挑んだろうなぁ……。
「おう、受けて立とうじゃん?」
「よし。二杯注文してくる」
今もだった。
東屋が空いていて良かった。俺たちは親密にくっつくこともない。かといって、向かい合わせということもなく。俺の方が若干斜めに座ってしまっているから。
風変りのメシを食べる。時折会話を挟むぐらい。
水飛沫、心地いいな。真夏日、空だって快晴だ。
俺、楽しいんだ。心からそう思っている。
日が沈んでいく。
もう終わるんだな――。
リアム様の船に乗って、邸に帰っていく。夕焼け色の海は穏やかだった。
「……」
今、リアム様は運転している。観察するかのように眺めているのは俺だ。地べたに座りながらだった。
リアム様は隣に座るように執拗に勧めていたけど、それは無理。あんな近距離で座ってたまるものか。心臓がもたない。
大丈夫そう……だよな。こうして見る限り、普段の彼だ。疲れ、だったんだよな……?
「――さて」
「?」
リアム様が運転席を立った。しかも、こっちに向かってきては、跪いてきた。
「自動運転に切り替えた――デッキに出ないか?」
「……いいけど」
突然の誘いだった。まあ、いくけど――。




