表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

今日が終わっていく――



 俺が好きそうだと、美容グッズの店に訪れていた。美容品特有の香りに誘われ、俺もふらふらと誘いこまれそうになる。ここはヘアケア用品の宝庫だ……!


「……だけどさ」


 このパラダイスより、気になるのはリアム様だ。入口の近くで立ったままの彼のこと。俺は引き返すことにした。


「アンタさ、あんま調子良くないだろ? 今日はもう、帰った方がよくないか……?」


 リアム様、顔色も良くないんだ……。


「心配は有り難いが、気にすることはない。問題ない」

「無理すんなって。疲れ、溜まってるだろうしさ」


 俺、浮かれてたんだ。多忙なこの人の休日、体を休めてほしかった。今なら来たばかりだ。あとはせめて、休養にあててくれれば――。


「……入口のソファで休ませてもらう。それで充分休まる」

「じゃ、休むか。俺も歩き疲れたからそうする」

「買い物はいいのか?」

「まだ切らしてから」

「……そうか」


 近くにあったソファは二人掛けのと、一人用のもの。

 リアム様は二人掛けのソファに座っていた。俺もその隣に……というには、かなり密着するもので抵抗があった。俺は一人用の方に座ることにした。


「……」


 リアム様はチラリとこっちを見た。けど、それだけ。彼はぼーっと天井を見上げていた。そうだな、俺もそうするか。リアム様を見守りつつも――。




 時計は正午を告げた。昼飯の時間か。リアム様、微動だにしないんだよな。さっきから見ていてもそうだった。呼吸音はするし、目も開いているけど――。


「……おはよう、ユーマ」

「……! おはよう、リアム様……おはよう?」


 声がしたから安心したものの、おはようって……。


「よく寝させてもらった。おかげで体調も戻ったようだ」

「それは良かった……って、ウソだろ」


 リアム様は仮眠をとっていたようだった。確かに動きはしなかったけど、目はしっかりと開いていたというか。目、開けて寝てたんかい。


「……まあ、そうだな。さっきよりは顔色いいよな」

「そうだろう?」

「おっ、得意げだな?」

「ああ、そうだ」


 今の表情、リアム様のどや顔みたいなものか。まあ、良かったよ。この人が元気なら、それが一番なんだ。


「さて、昼食の時間か。今から食事処は押さえられる。何か食べたい料理はあるか?」

「それはすげー……けど」


 顔パスか何かなのか。つか、本調子じゃないだろうから。


「あとはさ、ゆっくりしてようぜ? 家でも休日は満喫できるだろ?」

「気遣いは有り難いが、断る。本日の予定は君との外出で埋まっている」

「いやいや。俺相手ならさ、尚更じゃね? 別にどうでもいいんじゃん?」

「どうでもよくない。どれほど外出を楽しみにしてきたことか……!」


 鬼気迫るようだった。体調どころか、気迫も復活したようだ。外出、そんなにしたかったのか……。


「帰る気、ないんだな?」

「ああ、ないとも。送迎するのは私だ。君には最後まで付き合ってもらおう」

「おー、言ってくれんじゃん? ……そこらの船調達して帰るとすっか」

「……言ってみただけだ」


 リアム様は肩を落としていた。ダメージ受けたのか……?


「俺も言ってみただけだって。俺さ、体調をないがしろにしたくないんだ。アンタの様子見させてもらうからな」


 ソファ越しの俺たち、コッチは身を乗り出していた。


「すまないな、ユーマ……」

「別に気にすんな?」


 俺は短めに返し、次の話題に進めた。


「昼飯もだし、ここからの予定もそうだ。まったりいくとするかー」


 コッチからエスコートしてみることにした。




 癒しの絶景スポット――海浜公園。水が張り巡らされたそこは、水飛沫も上がっていた。涼を感じるにはもってこいの場所だ。


「おお……」


 俺は初見さんだった。エスコートとは言った……言ってみただけだ。俺だって初めて訪れたんだ。

 屋台が並んでいる。種類もめっちゃある。どれから、どれを買えばいいんだろ――。


「……懐かしいな。よく帰りに寄っていたものだ」

「へ、へえ……?」


 リアム様は懐かしがっていた。よく、ともきた。俺よりよっぽどご存じだった。


「……」


 思えば、だった。男装の姉上をはじめ、友人たちに囲まれていたんだ。豪勢な婚約祝いをもらえるような同僚だっている。俺よりよっぽどコミュ力強者じゃねぇか。


 ……五歳差、なんだよな。未だに学生な俺と社会人のアンタ。どう足掻いたって、アンタと一緒の学生にはなれない。


「……どんなの、食べてたんだよ」

「ユーマ?」

「悪かったな、どうせ初めてだよ。だから、オススメ教えろよ」

「……」


 なんで黙ったんだ? 引いた? ……なんか、目を伏せてもいるし? 『初めて来たのが、私となのか……』ってなんなん?


 同じ学生にはなれない。なら、追体験したかったんだけどな。


「……いや、何でもない。そうだな、君にも味わってもらおうか」

「頼むわ」


 良かった。


 俺たちは並んで歩く。なんてぎこちない距離なんだろうな。大人とガキ、傍から見ればそうだ。学生同士、友人同士には見えない二人だ。


「――ユーマ、裏メニューだ。ぜひとも推奨する」

「いいね、裏メニュー」

「だろう?」

「……ははっ」


 リアム様はどこか楽しそうだった。学生時代、振り返ってるのかな。


 俺もさ、楽しいよ。アンタが楽しそうなら、より。自然と笑顔になるんだ。


「……ユーマ」


 そんな俺の顔を見て、真顔になるのはリアム様だ。そうだな、いつもの温度差。温度差だ……はぁ。


「……俺、オレンジジュース買ってくるわ。アンタの分も買ってくるけど?」


 空気を変えたかった。俺は近くの売店に寄ることにした。


「こっちは試さないのか?」


 リアム様が提示してきたのは……『謎味ジュース』なるもの。中身は完全ランダムなんだとか。学生のアンタは果敢に挑んだろうなぁ……。


「おう、受けて立とうじゃん?」

「よし。二杯注文してくる」


 今もだった。




 東屋が空いていて良かった。俺たちは親密にくっつくこともない。かといって、向かい合わせということもなく。俺の方が若干斜めに座ってしまっているから。


 風変りのメシを食べる。時折会話を挟むぐらい。


 水飛沫、心地いいな。真夏日、空だって快晴だ。


 俺、楽しいんだ。心からそう思っている。


 日が沈んでいく。


 もう終わるんだな――。



 

 リアム様の船に乗って、邸に帰っていく。夕焼け色の海は穏やかだった。


「……」


 今、リアム様は運転している。観察するかのように眺めているのは俺だ。地べたに座りながらだった。


 リアム様は隣に座るように執拗に勧めていたけど、それは無理。あんな近距離で座ってたまるものか。心臓がもたない。 


 大丈夫そう……だよな。こうして見る限り、普段の彼だ。疲れ、だったんだよな……?


「――さて」

「?」


 リアム様が運転席を立った。しかも、こっちに向かってきては、跪いてきた。


「自動運転に切り替えた――デッキに出ないか?」

「……いいけど」


 突然の誘いだった。まあ、いくけど――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ