俺だって贈りたい
リアム様の船に乗って、都へ。白亜の都市の市場は大層賑わっていた。
最初の場所として訪れたのが、大型デパートメントだった。この国一番の商業施設。リーズナブルなものから、高級店まで。何でもござれだった。
「おお……」
人混みを避けていた俺は、初めて訪れた場所だった。でっけー……圧倒されるわ。
「それにしても……」
視線がまとわりつく。居心地はよくない。
それもそうなんだ。俺たちは注目されている。美丈夫にして精鋭軍人、貴族と。ふんだんな盛り合わせのリアム様。隣にいるのは、不釣り合いの俺。
「……あれって、『あのヤンキー』じゃない?」
「うわ、マジかよ。こうして並んでいるの見てるとさ――『ない』よな」
……最悪だ。学園の奴らに出くわした。こんな楽しい休日に。俺は一気に冷えた。
アイツらの嘲りはやまない。やめてくれ、隣にリアム様がいるのに。この人に恥をかかせないでくれ。俺の友人にも嫌な思いをさせているのに――。
「……抑えろ」
感情を抑えるんだ。平常心を保つんだ。さっさとこの場から離れれば、そうすれば。
俺の感情を暴走させるな。幻覚や幻聴じゃ済まない。『暴走』を引き起こしかねない――。
「――失礼。『私の婚約者』に何か用だろうか」
「……!」
肩を抱かれた。強く力を込められていた。ちょっと痛いくらいだ。
リアム様は堂々としていた。何も恥じることはないと。そう、俺に伝えてくれるかのように……俺は。
「話なら私が伺う――うむ、何故黙っている?」
「あ……いや……」
現役軍人が圧倒していた。彼は決して睨んでいるわけでもない。凄んでいるわけでもないのに。
「し、失礼しました……!」
彼らは逃げるように退散していった。取り巻いていた人たちとも距離が出来た。
リアム様も俺の肩から手を離した。寂しい、こっそりそう思ってしまった。いや、謝りたい。
「……その、悪かったな」
「何故、君が謝るんだ――君は何も悪くない」
「あ……」
「……耐えてくれたんだな。こちらを思って」
そうだ。アンタは昔からそうだった。呪いに苛んでいた俺をさ、気にかけてくれていた――見守ってもくれていた。
冷たいようで、優しい人。そういう人だったから。
憧れていた。惹かれていたんだ。
「――ユーマ。君の隣にいるのは私だ。私だけ気にすればいい」
「お、おう……」
ストレートな物言いと共に、だった。視線を遮るかのように――庇うかのように。リアム様は立ってくれていた。様になり過ぎているというか……。
「……だな。アイツらを気にするよりかは、だよな」
「ああ、そうだ」
可愛くない言い方になってしまったが、リアム様は微かに笑ってくれた。
「ユーマ。まずは服屋なのだろう?」
「あ」
リアム様の言葉にハッとした。そうだ、そうだった。俺がそう言ったんだけど。
「いや、服はさ。アンタがくれたので充分だから。ありがとな」
「そうか? ……あれで足りるのか?」
表情は変わらずとも、少ししょぼくれているようだった。わかりやすくなったな。
「まあ、追々買い足せばよいな。服に限らずとも、小物や装飾品でも」
「いやいや……そっちも充分だって」
衣裳部屋には服だけじゃなかった。小物や装飾品、靴だってそうだ。棚にきっちりと収められていたんだ。俺は見落とさなかった。
「本当にさ、たくさんのものをくれてんだよ」
物に限らずって、そういう意味も込めたんだけど。
「君がそうだとしても、贈り足りないんだ」
「アンタさ……」
結構引き下がらないな。もっと有意義なことに金遣えばいいのに。
「つか、贈りたいのはコッチもだっつの。アンタだけずるい」
「……え」
「……あ」
リアム様の驚き顔により、俺は自分の発言に気づく。俺は今、何を言ったんだ……何を!
「まあ……あれだ。奢られっぱなしってのも、好きじゃないってだけだ」
「……ああ、そうだろうな」
「ああ、そういうことだよ」
……そういうことじゃないって、赤面している俺を見たらバレバレだ。リアム様は口元を押さえていた。笑いでも堪えているのか? ……それとも違うような?
「それで、だ。アンタに贈るとなると……んー、ピアスとか?」
俺はリアム様の耳たぶに目を凝らした。ピアスの穴でもあればとか、思ったけど……開いてなかったかぁ。だよなぁ。
「うむ。私も開けるか」
「いやいや、そんなサラッと」
「軍部でも開けている者はいる。規律においても問題ない」
『もっとも華美でなければ』とか『着用時は限定される』とか、色々説明してきた。長くなりそうだ。下手したら、これで一日が終わってしまいそうだ。それはダルさの極み……!
「……イヤリングだ。カフスでもマグネットピアスでも、この際いい」
「うむ。君からの贈り物なら」
話はまとまったようだ。資金面も高級品でなければなんとかなる。とある小遣い稼ぎをしてきた甲斐もあった。
学生向けな若々しさだと、渋めなこの人には厳しい。かといって、高級ブランドなんて俺には手が届かない。そんな要望を叶えてくれる店があった。さすが世界進出している商会だわぁ。
「私は開けても構わないのだが」
「いや、いいって。やめてください」
俺が見繕っている最中もだった。ずっと言っていた。引き下がらないよな、リアム様って……。
「開ける器具とやら、売っているのだろうか。なければ、針で開けられるものか?」
「いやいや待て待て」
ついには実行にも移そうとしていた……!
「アンタ、意地になっているだけだろ。ひとまず一晩待とう、な? すっかり気が変わってるかもだろ?」
「だが」
「それでも開けたかったら、止めない。あと、ガチ針はやめろ」
ピアス用ニードルあるけど……リアム様が指しているのはガチの針のようだ。だって『それなら私も所為している』って言ってたし。
「針はいけないのか……」
「やめてくれよ……」
異世界ならではの技術もあるのかもだけど、それならプロに頼ってほしい。俺は専用器具と睨めっこしているリアム様を置いて、贈り物探しに赴くことにした。
「……プレゼント、か」
下手なものは渡せない。俺のジャラジャラとしたやつとか、もっての外だ。
「そっか。ピアスとか、疑似体験してみたいのかもな。そういうことかよ」
学生時代からもキッチリしていたからな、あの人。校則厳しかったって、姉上も愚痴っていたな。
じゃあ、マグネットピアスにしとくか。そこまでは絞れた。あとは出来るだけセンスが良いもの、一番大事なのは似合いそうなもの。この際値段は問わない。
お、このデザインいいな。大人っぽい。あ、でも。コッチの方が似合いそう。そんな感じで俺はフラフラと――。
吟味した分、時間かかってしまっていた。俺はまだ店内にいるであろう、リアム様を捜しに行くことにした。待たせてしまっているよな――。
「あ」
いたいた、専用器具のところにいたまんまだった。どれだけ悩んでるんだよって――。
「……?」
じっと見ている……それとは違うようだった。近づけば近づくほどわかる――彼の目の焦点は合ってないというか。
アンタ、今――どこを見ているんだ?
「……リアム様?」
「……!」
俺の声に、リアム様は思いっきり振り返った。えっと、どうしたんだ? ……なんでそんな、安心しきった顔をしているんだ……?
「……ああ、ユーマか。もう選んでくれたのか」
「アンタ……」
俺に気がつくのが遅れたのもそうだ。気配とかで察知しそうなアンタが。疲れとか溜まってるってことか……。
「私も購入済みだ。出るとするか」
「……だな」
俺同様に店の袋を手にしていた。買ってたんかい……。
「ほらほら、これで我慢しとけ」
俺はさっさと渡すことにした。こういうのは勢いに任せるに限る。
「……ああ、ありがとう」
「……おう」
大きな手でやんわり包み込む小さな袋。そんな大切そうに……こっちは、なんともいえず。
「邸に帰ってからの楽しみだ。落とさないようにせねば」
「おっ、そうだな」
大柄な男がいそいそと懐にしまいこんでいた。なんか微笑ましいな。
「……」
そうだ、買ってたんだ。ずっとその場にいたわけじゃない。動かないわけでもなかった。だけどさ――。




