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11/15

今年の夏は違う



 日々は過ぎていく。


 リアム様の帰りは大体遅い。先にベッドに入って、俺は寝たフリをして待っていた。


 本当は寝ずに待っていたかった。というか、最初の頃は起きて待っていたんだ。まあ、茶とかも用意したりして。

 そんな俺にリアム様は一言――『早く寝なさい』と。茶は飲んでくれたけど……飲んでくれたけどさ!


 そんなの聞いてられるか、だった俺。日々が経つにつれ、鬼軍曹のような目になっていくのはリアム様。言うことは決まって『早く寝なさい』だけど……威圧感が半端なかった。

 俺は……屈した。こうして狸寝入りを決め込むことにしたわけだ。


「……!」


 扉を開く音がした。帰ってきたんだ……!


 良かった。今日も無事で良かった。今は戦争はないにしろ、騎士という立場。何があるかわかったものじゃない。

 ……俺の魔力で守れたら。厄介な呪いつきだけど、リアム様を守れるのなら――。


「……」


 ――ベッドが深く沈む。かけられた体重、リアム様がベッドに入ってきた……! 毎晩ながら緊張してしまう。


「――おやすみ、ユーマ」


 優しい声と共に、彼は背中を向けて眠り込む。

 こうして背中で触れ合ってはいても。


「……」


 何も起こることなんて、ないのにな。


 『あの夜』だけだったのか。彼に抱きしめながら眠ったのは……。


 背中で伝わるのは彼の体温。意外と高いんだなって、知った。


 俺の中にあるのは、緊張感と高揚感。それも次第に、眠りによって――。






 毎晩遅いリアム様。それを寝たフリで迎えていたのは、この俺。ここ最近は本当にそうだったけど……。


「……」


 なんてことだ。テストの勉強疲れもあってか、ガチ寝していたようだ。

 ……でもって。


「……」


 この状況は、どういったことだ。


「……」


 俺は今――リアム様に抱きしめられた状態だった。

 それだけじゃない、時折……髪まで撫でられていた。くすぐったくなる。


 なんなんだ。これは……幻か? 夢か? 夢オチはまだか? ――俺が困惑していた時だった。


「……起きたのか」


 彼にしては感情のある声……動揺しているようだった。それからすぐに、体が離れていった。それは、彼がベッドの上で座を正したから。


「すまなかった。魔が差した」

「いや、魔が差したって……」


 この人の口から出るとは思わなかった。にしても、すげぇ恐縮されているというか。


「君が寝ているのいいことに……私はなんていうことを……」


 リアム様は頭を抱えて、自責の念に駆られているようだった。


「……リアム様」

「……!」


 俺がそう呼ぶと、彼はびくっとなった。そんな……さ。


「俺たち、婚約してるし? いつも一緒に寝てんだからさ? 気にすることなくね? ……別に俺、嫌とかじゃないし」

「……君は優しいから。だから一層、私は自身の軽率さを恥じたい」

「いや、アンタさ……」


 がちで堅物だな……どうしたものか。

 俺は嬉しかったのに。アンタに触れられること、いつだって望んでいるんだ。


「……呪い、和らげてくれるんだろ? だからさ、抱き合ってようぜ?」


 俺はズルいんだ。呪いにかこつけて、アンタと触れようとしている。


「……そう、だな。呪いがあるから――」


 そんなズルい俺を――リアム様は包み込んでくれた。




 今日は終業式だ。ようやく夏休み、教室内も賑やかだった。旅行や祭りの話、楽しそうなことで……羨ましがってなんてない。


「ああ、ユーマ君……夏休み、来てしまいましたね……」


 俺の隣で項垂れているのは、友人のフィクトルだ。瓶底眼鏡も心なしか、いつもより曇っている気がする……。

 コイツは長期休みに入ると、テンション下がるという。毎回なんだよな……嬉しくないものなのか?


「休み入ってもさ、遊ばね? ほら、うちに来てくれたりさ――」


 毎回、これでテンションが戻るはずだけど――ハッとなったのは俺だった。

 フィクトルは大事なダチだ。リアム様だって友人と遊ぶのくらい、気にしないだろ? ……でも、今はショコラーデ家にいるわけじゃなくて。


「……まあ、しょっちゅうは厳しくても。今度、リアム様にも訊いてみるからさ?」


 そうそう、別にこっちに招待してもいいだろ? もちろん、邸の主に確認をとるにして。


「……はい、楽しみです」

「……?」


 口元を見るに、笑ってはいるんだと思う。だよな?


 そう、夏休みがやってくるんだ。いつもならダルく過ごしていた。

 今年の夏は違う。

 あの人が傍にいてくれるんだ――。




 夏休み初日。朝早々から俺は緊張していた。


 珍しく、リアム様と一緒に朝食をとった。なんでも彼は休養日だという。だから、いつもより起きるの遅かったのか?


 そこで彼から提案されたのは――一日出かけないかって。


 今、俺は自分の部屋にいる。クローゼットで確認するも……まあ、なんというラインナップだ。着心地重視のダル着か。多少はオシャレでも原色の派手なヤツか。なんだ、この二択は。制服入れたら三択……?


「まっずいよな……」


 メイド情報による、リアム様の趣味。絵画や音楽の鑑賞、乗馬。クルージング。多趣味なんだ。


 あと、入浴……入浴ときたか。温泉巡りとか、していた時もあったとか。風呂、長かったしな……風呂か。俺は首を振った。



 っと、そろそろ外出時間だ。あー、もっと時間があったら。実家で兄上から服、借りられたんだけどな。


「ダル着がまずいってのはわかる。じゃ、制服? ……学生デートじゃねぇんだから」


 実質一択だった。なんとか、まともそうな服をチョイスした。明日にでも服を買いに行こう。あと、実家にも借りにいくか。


「お待たせ――」


 気まずそうにしながら、俺が部屋から出ると――すぐにリアム様の姿が目に入った。

 寝室のソファで待っていた彼。髪は上げられているものの、いつもより緩めだった。カジュアルめのスーツでもあった。私服のリアム様もまた……こう、味わい深いというか。


「準備出来たのか。それじゃ、行こうか」

「あー……リアム様?」


 この人にしてはラフめだとしても、隣の俺が……こうだ。


「まじでさ、こういう服しかなくて。先に謝っとくのと、最初服屋に寄ってもらってくんない?」


 明日どころじゃないわ、今すぐにでもだった。もっとも、この人が予定を組んだりしていたら、そこはまあ。


「服か? 君らしくていいんじゃないのか?」

「え?」


 リアム様は真顔で言っていた。お世辞でもなんでもなく、本音で言ってくれているようだ。


「とはいえ、気になるというのなら――こちらだ」

「わっ」


 リアム様に手をひかれ、着いたのは衣装部屋だった。


「すまない、言うの忘れてしまっていた。私のもあるが、こちらの棚は君のものだ」

「……これ、全部!?」


 ずらーっと並べられているのが、俺のサイズの服たちだった。正装着が何着もあったり、趣味全開の派手派手しい服まで。おなじみのダル着まであったり……?


「買った覚えないんだけど……って」


 俺はちらりとリアム様を見た。彼は『うむ』と頷いた。


「私が贈ったものだ」

「あ、ありがとうございます……?」


 しれっと言ってくれるけど、どれだけ値が張ったんだ……? 服に触れる俺の手は震えてしまっていた。


 とはいえ、助かった。ここにある服装ならセーフそうだ。


「あのさ、着替えてもいい? 予定とか押してたら、このままでいくけど」

「心配するまでもない。本日は余裕をもって組んでいる――外で待っているな。着替え終えたら出てきてくれたまえ」


 さっさと部屋の外に出たのは、リアム様だった。


「いいのに……」


 同性だし気になんてしない……俺は気にするけど。それでも平気な振りして着替えようとしたのにな? 

 まあ、着替えよう。俺は服を見繕った。半袖シャツにパンツ、トラッドめ。これならなんとか。


「そうだ、インナーとかも変えておくか」


 これ、冷感素材っぽいな。変えよう。脱ぐか。


「……まじで効果あるのか」


 ヒヤっと効果は抜群、汗も吸収してくれそうだ。なのに、厚手素材。すげぇ、モノがいいんだな。


 インナーもだけど……俺の腹部にある紋様のこともだ。日々日々、色が薄れているんだ――リアム様との接触効果、か?


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