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ダルくないんだ


 伯爵領から学園へ。リアム様が手配したという船で送られていく。前とは段違いの近さだった。


 学園に到着すると、まあ、今朝も遠巻きに見られていた。アレコレ好き勝手も言われている。


「……なんか、肌艶よくないか?」

「……いつもの怠そうなの、どっかいったの?」


 肌艶。まあ、確かに。寝起きも良かったし、今だってダルくもない。これ、ガチであの人のおかげなのか……?


「――わあ、ユーマ様だぁ。えへへ、朝からお会いできて嬉しいなぁ? どうかな、同居生活は? あっまあま、だったりしてぇ……?」


 朝っぱらから……アダムだった。こうは言ってくれているものの、口元がひくついていた。こいつにしては珍しい、素が隠しきれてない。つか甘々って……。


 彼はリアム様の従兄弟であり、好意だって抱いている。俺だってアダムに嫉妬している。


「ねえ、ユーマ様? じっくり聞かせてほしいなぁ?」


 人前だから、アダムはニコニコ笑顔だ。面倒ごとは避けたい俺だけど、コイツとなると話は別だ。受けて立つことにした。



 

 アダムのテリトリーでもある温室……二人っきりだ。俺はどんな言葉が来るか、緊張していたが。


「……あーあ。リアムってば、昔から頑固だから? ボク、そこのところをよーくわかってるから? ボクと彼の仲だし? ボク、理解者だし?」


 最初は『自分の方が詳しい』と語っていたものの。


「あー……お前との婚姻、本気なんだろうね……ボクじゃこうはいかなかった」


 目に見えてアダムは落ち込んでいた。


「……ボク、とっくの昔に振られてるから」

「……え」


 俺はあまりの意外さに驚いてしまった。コイツを振る存在、いたりするのか?


「なーに、驚いてるんだよ? 派手髪ってばぁ? むかつくんだけど」

「それでムカつかれても」

「……ふん。振られてなければ、とっくのとうに既成事実作ってまーす!」

「!?」


 尖らせた口から出るのは、衝撃発言……! き、既成事実って……!


「ふふん」


 顔が真っ赤になった俺を見たからか。アダムは溜飲が下がってようで、少しは気分が浮上したようだ。


「認めたわけじゃないからね。リアムに害が及ぶようなら、ただちにおかない」

「……」


 俺の呪いが和らいだとしても、危険要素は残ったままだ。アダムが警戒を解かないのも、もっともだった。彼はずっとリアム様を強く想ったままなんだ。


「本当に認めたくない。ボクはずっと認めない……けど」


 アダムは俺をじっと見た。


「……お前はお前でさ、リアムのこと本気なんでしょ?」

「本気だよ。こんな俺だけど、あの人を守りたい」


 アダムからの問いに、俺は本気で答えた。


「……そう」

「……?」


 アダムは切なさそうに目を伏せていた。心配になってきた俺からの視線に気づくと、彼は首を振っていた。


「……ふん、最低限はそう言ってもらわないと。あーあ、面倒ごとってきらーい! 起こってほしくなーい! ほんとさぁ、ボクの手を煩わせないでよね?」


 アダムは笑っていた。いつもの作り笑いでも、愛され笑顔でもない。悪そうなもの……俺はこっちの方が好感をもてた。親しみをもてるかのような、そんな感じ。





「――よお」


 早朝、暑さも少しだけ和らぐ時刻。俺は玄関口で座り込んでは――リアム様が来るのを待っていた。


「……何故、君が」


 顔は変わらなくても、驚いてはいるんだろうな。俺もこの人のこと、わかってきたかも。


 普段着でもダル着の俺とは違い、リアム様は運動に適した恰好だった――早朝のジョギングにだ。よし、教えてくれた通りだ。


「早朝の走り込み。アンタのモーニングルーティン、なんだろ……ふわぁ」


 日によって走る距離は違っても、欠かさないんだろ? 


「俺もまあ……体を鍛えたいっつうか? それで一緒に走り込もうって……ふわぁ」


 ……さっきから、しまらねぇ。欠伸が止まらない。つか、今も眠さでぼーってしているというか。


「……そうだな。君は鍛えた方がいいかもな」

「……お? 挑発か? 言ってくれるじゃん?」

「挑発ではない。君を心配している上でだ。そうだな、共に走ろうか」

「おなしゃす」


 断られることなくて、ホッとした。


「すっかり元気になったんだな」

「まあ、おかげ様で」


 昔の俺なら考えられなかった。寝るのも、起きるのもいちいち大変だったのにな。

 本当にさ、アンタのおかげなんだ――。



 

 やっぱり朝早いと、空気が違うみたいだ。ぬるくはあっても、吹く風が心地いいんだ。小鳥のさえずりとか、あまり気にしたこともなかったのにな。


 ゆったりとしたペースで森林道を走っていく。


「……」 


 俺のペースに合わせてくれてるんだろうか。それにしては、ゆっくりというか。

 ――走行距離もだった。聞いていた話よりも、短いというか。


「俺、もっと走れるけど?」


 息を上げながらも、俺は提案してみた。主に姉上とかに鍛えられた。つか、アンタの足を引っ張りたくないし。


「……」


 リアム様はしばらく無言だった。何かを考えこんでいるかのようで……。


「……いや。私が君との時間を大切にしたいだけだ。滅多にない機会だろうから」

「……お? そりゃ、こんな早起きしないけどさ? 言ってくれるじゃん?」

「何故、眉に皺が寄っているんだ?」

「アンタ……」


 ……まあ、悪い気はしなかった。こうした時間、大切に思ってくれてるんだ。といっても、この人は気を遣ってくれてるんだろうな……だよな? 


「まあ、毎朝だとアレかもな。アンタももっと走りたいだろうし」

「……ああ」


 やけに間があったな? 気にはなるけど……。


「たまになら、いいか?」

「そうだな……君との時間は極力設けたい」

「……おうよ」


 前も言ってくれてたな。俺だってそうなんだ。こうやって、不似合いな早起き、早朝ランニングをするくらいには――。


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