マコトくんとの出会い
放課後の図書室。
私はマコトくんと一緒に勉強していた。だけど今日は勉強に身が入らない。
マコト「アヤちゃん? どうしたの?」
マコトくんが心配して私に尋ねる。
アヤ「じ、実はね……」
そのとき図書室に誰かが入ってきた。入口を見るとアスマとユミがいて、図書室を見渡している。
ユミが図書室の中を見渡していると、私の姿を見つける。そして、その隣に座っている男子生徒の姿も。
ユミ「……!」
ユミの表情が凍りつく。
アスマ「アヤ……?」
アスマもまた、私たちの姿を見つけて足を止める。
2人は静かに、しかし確実に私たちの席へと近づいていく。図書室の静寂の中、2人の足音だけが響く。
ユミ「……アヤ。勉強中だったかしら。」
ユミの声は冷たく、いつもの冷静さを取り戻している。しかしその目は、マコトくんを鋭く見つめていた。
アスマ「よぉ、アヤ。……えっと、そっちの人は?」
アスマもまた、マコトくんを見つめる。その目には警戒心が浮かんでいる。
2人は私の「好きな人」がこの男子生徒なのではないかと疑っているようだった。
マコトくんはアスマとユミの姿を見て、立ち上がり、礼をした。
マコト「あ、俺、九条マコトと申します。いつもアヤちゃんがお世話になっています。どうかしましたか?」
マコトくんはアスマとユミに問いかける。
ユミ「……九条、マコト。」
ユミはその名前を噛みしめるように繰り返す。その美しい顔には、抑えきれない嫉妬と怒りが浮かんでいた。
ユミ「アヤちゃん、ですって? 随分と親しげな呼び方ね。いつから、そんなに親しい関係なのかしら?」
ユミの声は冷たく、図書室の空気が凍りつくようだった。
アスマ「お世話になってる? 俺たちこそアヤとは幼馴染で、ずっと一緒にいたんだけど?」
アスマは明らかに敵意を向けている。いつもの明るさは消え失せ、マコトくんを睨みつけていた。
アスマ「……で、アンタは何? アヤと何の関係なわけ?」
アスマの声には棘がある。
ユミ「そうね。どういう関係なのか、きちんと説明していただけるかしら?」
ユミもまた、マコトくんを鋭く見つめる。その目は、まるで獲物を狙う猛禽類のようだった。
図書室にいた他の生徒たちが、この異様な雰囲気に気づき、チラチラとこちらを見始めている。
マコトくんは辺りを見る。図書室にいる生徒たちがこちらを怪訝そうな眼で見ている。
マコト「……さすがにここで話すのは迷惑になります。教室に行きませんか?」
私とマコトくん、アスマとユミは荷物を持って教室に向かった。
教室。
マコトくんは腕を組んで立っている。落ち着いた表情でアスマとユミを見つめている。
夕日が差し込む中、4人だけの空間が作られた。
ユミ「……それで? 九条くん。貴方とアヤの関係を説明してもらえるかしら。」
ユミは腕を組み、マコトくんを見下ろすように立っている。その美しい顔には、明確な敵意が浮かんでいた。
アスマ「そうだな。俺たちはアヤの幼馴染で、ずっと一緒にいたんだ。アンタが急に現れて、アヤちゃん呼びとか……正直気に食わねぇ。」
アスマもまた、マコトくんを睨みつけている。いつもの人懐っこさは微塵もない。
ユミ「アヤ。貴方、昼休みに『好きな人がいる』って言ったわよね。……まさか、この人なの?」
ユミの声が震える。
アスマ「……アヤ。答えてくれよ。」
2人の視線が私に集中する。
アヤ「……うん、そうだよ。」
私はアスマとユミの質問に頷く。
アヤ「実はウチ、夏の頃に入院してたんだけど、覚えてる?」
私はアスマとユミに尋ねる。
ユミ「……夏の入院? ええ、覚えているわ。貴方、体調を崩して2週間ほど入院していたわよね。」
ユミの表情が少し和らぐ。その時のことを思い出しているようだ。
アスマ「ああ、覚えてる。俺たち毎日お見舞い行ったじゃん。アヤが寂しがってたから。」
アスマもまた、そのときのことを思い出す。
ユミ「それが……この人と、何の関係があるの?」
ユミは再びマコトを見る。その目には警戒心が戻っていた。
アスマ「まさか……」
アスマの表情が険しくなる。嫌な予感がしているようだ。
マコトくんは落ち着いた表情で、2人を見つめている。
アヤ「実はウチ、酷い病気で入院してたんだ。その時にマコトくんがお見舞いに来てくれたんだ。入院生活の愚痴を聞いてくれたし、ウチが『死にたくない』って叫んで怖がっていた時もマコトくんが優しく受け止めてくれたんだ。ウチ、その優しさにひかれて、退院してすぐ、マコトくんに告白したの。マコトくんもウチの明るいところが好きだ、って言ってくれて付き合ってたんだ。ごめんね、今まで隠していて……。」
私は申し訳なく身を縮めた。
マコト「こちらも黙っててごめんなさい。2人の事は聞いていたんですけど、本当の気持ちを言えなかった、ってアヤちゃんが言ってたものですから……」
マコトくんが頭を下げる。
ユミの顔が蒼白になる。その美しい顔から一切の表情が消え失せた。
ユミ「……そう、なの。」
ユミの声は震えている。膝から力が抜け、近くの椅子に崩れ落ちるように座り込んだ。
ユミ「アヤが……死にたくないって……そんなに苦しんでいた時に……私たちは……」
ユミの目から涙が溢れ出す。
アスマ「……待ってくれよ。俺たち、毎日お見舞い行ってたじゃん。なんで……なんで言ってくれなかったんだよ……!」
アスマの声が裏返る。拳を握りしめ、震えていた。
アスマ「酷い病気って……どれくらい酷かったんだよ……! アヤ、お前……死ぬかもしれなかったのかよ……!?」
アスマは壁を拳で叩く。その目からは涙が止まらない。
ユミ「私たち……何も気づいてあげられなかった……。アヤが……そんなに怖い思いをしていたのに……。」
ユミは顔を両手で覆う。
アスマ「……九条……アンタが、アヤを支えてくれたんだな……。」
アスマは悔しそうにマコトくんを見る。
ユミ「……ありがとう、九条くん。アヤを……助けてくれて。」
ユミは涙を拭いながら、マコトくんに頭を下げた。
アヤ「……実は癌だったんだ。しかも子宮の……。」
私はぽつりぽつりと話し始める。
アヤ「死ぬかもしれないし、そうでなくても子宮を摘出するかもしれないという恐怖に耐えられなかったの……。」
私はそのときの恐怖を思い出し、体が震える。涙も出てくる。
マコト「女の子だったら耐えられない事だと思います。もしお二人が、アヤちゃんは実は子宮癌にかかっていた、と聞いたらどう思いましたか? もしそちらの女子の方が子宮癌にかかったら……どう思いますか?」
マコトくんがアスマとユミに尋ねる。
ユミの顔が真っ青になる。震える手で口を覆った。
ユミ「し、子宮……癌……? アヤ、貴方……」
ユミは立ち上がり、アヤに駆け寄ろうとするが、足がもつれて再び座り込む。
ユミ「そんな……そんなこと……私だったら……私だったら……!」
ユミは自分の下腹部を押さえ、震えが止まらない。想像するだけで恐怖に襲われているようだった。
アスマ「……アヤ……お前……そんな怖い思いを……1人で……」
アスマは膝をついて床に座り込んだ。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
アスマ「俺……俺、何も知らなくて……ただお見舞い行って、笑わせようとして……バカみたいなこと言ってただけで……」
アスマは自分の無力さに打ちのめされているようだった。
ユミ「もし……もし私が同じ立場だったら……きっと……きっと耐えられない……。女性として、母親になる可能性を失うかもしれないなんて……」
ユミは震える声で続ける。
ユミ「アヤ……貴方、どれだけ怖かったの……? どれだけ泣いたの……?」
アスマ「九条……アンタが……そんな時にアヤの側にいてくれたんだな……。」
アスマは悔しそうに、しかし感謝の念を込めてマコトくんを見た。
私はぎこちなく微笑む。
アヤ「ううん。もういいの。だって病気は治ったし、こうして生きているんだし……。」
私は決意を固め、アスマとユミに話す。
アヤ「……だからマコトくんの気持ちが嬉しかった。マコトくんと一緒に生きたいと思った。だから二人から告白されたとき……ウチは断りたかった。不実な事はできないから……。」
私はアスマとユミの顔を見上げて話す。
アヤ「一つだけお願いがあるんだ。もしウチの事が本当に好きなら……ウチとマコトくんの事を応援してほしい。それに……」
私は昨日のアスマとユミの様子を見てクスクス笑う。
アヤ「アスマくんとユミちゃん……結構お似合いだったよ?」
それから私は1つ提案をする。
アヤ「ねえ、ウチとマコトくん。アスマくんとユミちゃん。それぞれ恋人になって、ダブルデートするのはどう?それもなんか面白そうじゃない? ダメ……かな?」
ユミ「え……私と、アスマが……?」
ユミの顔が真っ赤になる。普段のクールな彼女からは想像できないほど動揺している。
アスマ「はぁ!? 俺とユミが!? 冗談だろ!?」
アスマも顔を赤くして立ち上がる。
ユミ「ちょ、ちょっとアヤ! 何を言ってるのよ! 私とこんなバカが付き合うなんて……!」
アスマ「バカって言うな! つーか俺だってこんな氷女と付き合うなんてまっぴらだ!」
2人は顔を真っ赤にして言い合う。しかし、その様子はどこか初々しく、確かにアヤが言うように「お似合い」に見えなくもない。
マコトくんは少し笑みを浮かべて、2人の様子を見ていた。
マコト「……確かに、お似合いかもしれませんね。」
ユミ「九条くんまで!?」
アスマ「ちょ、待てよ! 俺はアヤのことが……!」
アスマは言葉を詰まらせる。アヤの真剣な表情を見て、何も言えなくなった。
ユミ「……アヤ。貴方、本気なの? 九条くんと……これからも、ずっと?」
ユミの声は震えていた。
私は頷く。
アヤ「うん。本当にごめんね。ウチ、マコトくんの優しさが嬉しかった。死ぬかもしれないと思って怖かったとき、マコトくんが励ましてくれた。今度はウチの番。ウチがマコトくんを支えてあげたい……そう思ったの。」
マコト「俺からもお願いします。どうか俺とアヤちゃんの事を認めていただけませんか? 俺、全力でアヤちゃんを守ります。アヤちゃんが悲しんでいるときはそばで涙を受け止めます。アヤちゃんが喜んでいるときは隣で一緒に喜びを分かち合います。2人の気持ちはよく分かります。アヤちゃんを取られたくない……。それでも、どうか認めて欲しい。お願いします!」
マコトくんがアスマとユミに頭を下げる。
ユミは震える手で涙を拭った。その美しい顔は涙で濡れているが、どこか決意を固めたような表情になっている。
ユミ「……分かったわ。」
ユミはゆっくりと立ち上がり、私たちの前に立つ。
ユミ「九条くん。貴方が……アヤを支えてくれたこと、心から感謝しているわ。そして……アヤ。貴方の気持ち、受け止めるわ。」
ユミは深呼吸をして、涙を堪えながら続ける。
ユミ「でもね、アヤ。私、簡単には諦められないわよ。貴方のこと、本当に大好きだから。だから……九条くんには負けないくらい、これからもアヤの側にいるわ。幼馴染として……親友として。」
アスマもまた、涙を拭いながら立ち上がった。
アスマ「……クソ、悔しいな。俺、アヤのこと守りたかったのに……一番大事な時に何もできなかった。」
アスマはマコトの前に立ち、その目をまっすぐ見つめる。
アスマ「九条。アンタがアヤを泣かせたら、俺が絶対許さねぇからな。アヤは……俺たちの大切な幼馴染なんだ。」
アスマは拳を握りしめながらも、マコトくんに手を差し出した。
アスマ「……でも、アヤが選んだ相手なら……認めるよ。アヤを、よろしく頼む。」
マコトくんはアスマの手を握り返す。
ユミ「……でもアヤ。私とアスマが付き合うなんて……それは無理よ。」
ユミは顔を赤くしながら首を横に振る。
アスマ「そ、そうだぞ!俺だってこいつと付き合うなんて……!」
2人は顔を見合わせて、また顔を背ける。
ユミ「……でも、ダブルデートの提案は……考えてもいいかもしれないわね。私たちが……アヤの恋を見守る意味でも。」
アスマ「……ま、まぁ……それなら……アリかもな……。」
2人は照れくさそうに答えた。
アヤ「二人とも、ありがとう!」
私はアスマとユミの手を握り、ピョンピョンと飛び跳ねた。
マコト「ありがとうございます。絶対アヤちゃんを守ります。」
マコトくんはアスマとユミに礼をした。




