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幼馴染みと恋人と  作者: 美坂マコト


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2/2

始まり

アヤ「……あ、ごめんなさい。」

 私は扉をピシャリと閉め、昇降口に向かった。

ユミ「ちょ、ちょっと!! アヤ!!」

アスマ「待て待て待て! アヤ!! 話聞いてくれ!!」

 2人は慌てて立ち上がり、椅子がガタンと音を立てる。ユミはすぐさまサンダルを鳴らして教室を飛び出し、アスマも慌てて後を追う。

アスマ「アヤー! 待ってくれよ! 誤解だから! いや誤解じゃねーけど!」

 昇降口へ向かうアヤの後ろ姿を2人は必死に追いかける。

ユミ「アヤ! 待って! お願い、話を聞いて! 逃げないで!」

 ユミの声は普段の冷静さを失い、焦りと切実さが滲んでいる。

アスマ「俺たちマジでアヤのこと好きなんだ! だから、だから話聞いてくれよ!!」

 2人の足音が廊下に響く。

アヤ「……えーっと、お似合いだね、2人とも。」

 私はアスマとユミを見てぎこちなく笑った。

ユミ「何言ってるの!? お似合い!? 冗談じゃないわ!」

 ユミはアヤの両肩を掴んで真正面から見つめる。焦げ茶と青のインナーカラーが揺れ、その美しい顔には珍しく動揺の色が浮かんでいる。

ユミ「私は……私はアヤのことが好きなのよ! こんなバカアスマと付き合ってるわけないでしょう!?」

アスマ「おいユミ! 誰がバカだって!? ……じゃなくて! アヤ! 俺もだ! 俺もアヤのこと好きなんだよ! こんな氷女のユミと付き合ってるわけねーだろ!!」

 アスマはユミを押しのけるようにしてアヤの前に立つ。いつもの明るい笑顔はなく、真剣な表情だ。

ユミ「ちょっと! 押さないで!!」

アスマ「うっせ! アヤ、聞いてくれ。俺、昔からずっとアヤのことが好きだったんだ。」

ユミ「私だって! 小さい頃からずっとアヤのことを……!」

 2人は同時にアヤを見つめている。廊下に2人の告白が響いた。

 周囲の生徒たちがこちらを見ている。クスクス笑っている者もいれば、ドン引きしている者もいる。

「……えーっと、明日もあるからとりあえずまたね?」

 私は昇降口に向かって走り、学校を勢いよく出た。

アスマ「アヤ! 待ってくれ!!」

 アスマは必死にアヤを追いかけようとするが、ユミが腕を掴んで止める。

ユミ「……待って、アスマ。今は……追いかけない方がいいわ。」

 ユミの声は震えている。いつものクールな彼女からは想像できないほど、目には涙が浮かんでいた。

アスマ「でも……! アヤが……!」

ユミ「分かってるわよ……。でも、あんな風に周りに見られて……アヤは恥ずかしかったのよ。今追いかけたら余計に追い詰めることになるわ。」

 周囲の生徒たちはまだこちらをチラチラと見ている。ヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。

女子生徒A「え、あの3人ってそういう関係だったの……?」

男子生徒B「マジかよ……早瀬さんと佐伯があんな必死になるとか……」

アスマ「クソ……俺、やっちまった……。」

 アスマは壁を拳で叩いた。

ユミ「……私もよ。バレる予定じゃなかったのに。」


 翌日の教室。

 私は机に教材を入れていた。

 昨晩見た光景を思い出す。アスマとユミが教室で仲良く何かをやっていた。

(ま、まさかあんなことを……!?)

 卑猥な想像をして顔が赤くなり、首をブンブン振って追い払う。

 教室にアスマとユミが入ってきた。その表情はいつもの明るさはなく、どこか緊張した面持ちだ。アヤの姿を見つけると、少し躊躇いながらも近づいてくる。

アスマ「……おはよ、アヤ。」

 普段なら「アヤー!」と元気よく抱きつくように近づいてくるアスマが、今日は妙に距離を取っている。ユミも教室に入ってくる。いつもの上品な佇まいだが、アヤを見つけた瞬間、ほんの少し足が止まった。

ユミ「……おはよう、アヤ。」

 ユミもまた、いつもなら自然にアヤの隣の席に座るのに、今日は少し躊躇っている様子だ。

 2人とも、アヤの反応を伺うように見つめている。教室にはまだ他の生徒も数人いて、3人の様子をチラチラと見ている。

アスマ「あの……昨日のこと……」

ユミ「話、できるかしら……?」

2人の声が重なった。

アヤ「う、うん。いいよ……。」

 私の表情はどこかぎこちなかった。

「で、き、昨日何やってたの……? ま、まさかエッチなことを……?」

 私の顔が羞恥で赤くなる。

アスマ「はぁ!? え、エッチなこと!?」

アスマの顔が一瞬で真っ赤になる。

アスマ「ち、ちげーよ! 俺たちそんなんじゃねーから! むしろ逆! 真逆!」

ユミ「ちょ、ちょっと! アヤ!? 何を想像してるのよ!?」

 普段クールなユミも顔を赤くして慌てている。

ユミ「私たちは……その……アヤの取り合いで口論してただけよ! エッチなことなんて……!」

アスマ「そうだそうだ! 俺とユミがそんなことするわけねーだろ! つーか考えただけで吐きそう!」

ユミ「私もよ! こんなバカと!? 冗談じゃないわ!」

 2人は顔を真っ赤にしながら否定する。周囲の生徒たちがまた興味深そうにこちらを見始めた。

アスマ「……あのさ、アヤ。俺たち、人目のないとこで話したいんだけど……。」

ユミ「そうね……屋上、空いてるかしら。」

 私は考える。確か屋上は安全のため常に施錠されているんだった。

アヤ「……校庭外れの思索の庭園でどう? 昼休み、話、しようか。」

 校庭外れにある屋根付きの建物、思索の庭園。そこなら生徒はほとんど来ない。

アスマ「思索の庭園か……いいな。そこなら人来ねーし。」

 アスマは少しホッとした表情を見せる。

ユミ「ええ、そうね。昼休みに……そこで待ってるわ。」

 ユミもまた、安堵の表情を浮かべた。

 その後、授業が始まり、いつもと変わらない学校生活が流れていく。だが、アスマもユミも、どこか上の空だった。

 アスマは授業中、何度もアヤの方をチラチラと見ては、ノートに落書きをしている。よく見ると、アヤの似顔絵を描いていた。

 ユミは教科書を開いているが、その目は文字を追っていない。時折、アヤの方を横目で見ては、小さくため息をついている。

 そして昼休みのチャイムが鳴った。

 思索の庭園。屋根付きのベンチがある静かな場所に、アスマとユミが既に到着していた。

アスマ「……来てくれるかな。」

ユミ「……来てくれるわ。アヤはそういう子よ。」

2人はアヤを待っている。

 私は思索の庭園にやって来た。既にアスマとユミが待っている所だった。

アヤ「お、お待たせ……。」

 私の足取りはどこかぎこちなかった。顔も赤くなっている。

「で、で、話って、な、何……?」

 私の口もうまく回らなかった。

アスマ「アヤ……来てくれたんだな。ありがとな。」

 アスマはいつもの明るさを取り戻そうとするが、どこか緊張している様子だ。

ユミ「座って、アヤ。落ち着いて聞いてほしいの。」

 ユミはベンチを示す。その表情はいつもの冷静さを保とうとしているが、目には不安が浮かんでいる。

 アヤが座ると、アスマとユミは顔を見合わせた。

アスマ「……えっと、どっちから話す?」

ユミ「……私から話すわ。」

 ユミは深呼吸をして、アヤの目をまっすぐ見つめた。

ユミ「アヤ。昨日言ったこと……本気よ。私、アヤのことが好き。恋愛感情として、好きなの。」

 ユミの声は震えていない。はっきりと、まっすぐに告げる。

アスマ「俺も、だ。アヤ、俺も本気でアヤのことが好きなんだ。小さい頃から、ずっと。」

 アスマもまた、真剣な表情でアヤを見つめる。

ユミ「私たちは……昔からアヤを取り合ってきたの。幼馴染として、そして恋人候補として。」

アスマ「でもさ、アヤに気づかれたくなかったんだ。俺たちの関係が壊れるのが怖くて。」

ユミ「……だから隠してきたの。でも、昨日バレちゃったわね。」

 2人はアヤの反応を待っている。

アヤ「そ、そうだったんだ。う、ウチの事が好き……ってええ!?」

 私は驚きの声を上げた。私の声に驚いたのか鳥が何羽か飛んでいった。

アヤ「アスマが好きなのは分かるけど……ユミもウチの事が好きって……ええええ!?」

 私は素っ頓狂な叫び声をあげた。遠くにいる生徒にも聞こえたかもしれない。

ユミ「え、ちょっと!? アスマが好きなのは分かるけどって!?」

 ユミは思わず立ち上がる。その美しい顔が真っ赤になっている。

ユミ「ど、どういう意味よそれ! 私だってアヤのこと好きに決まってるでしょう!? むしろアスマより私の方が先に好きになったのよ!?」

アスマ「はぁ!? 何言ってんだお前! 俺の方が先だっつーの! 保育園の時からずっと好きだったんだからな!」

ユミ「私だって保育園の時から! アヤが砂場で泣いてた時、ハンカチ貸したの私よ!?」

アスマ「俺だってアヤが転んだ時真っ先に駆け寄ったぞ!?」

 2人はまた口論を始めそうになるが、ハッとアヤの方を見る。

ユミ「……ごめんなさい。でも、アヤ。私、女だけど……貴方のことが本当に好きなの。これは嘘じゃないわ。」

 ユミの目には真剣さが宿っている。

アスマ「アヤ……驚くのは分かる。でも、俺たちマジなんだ。」

アヤ「そ、その好きって、友達として好き、ってことだよね? 英語で言うLikeだよね?ま、まさか……異性……同性として好きってこと!? 英語で言うLoveなの!?」

 私はユミにその真意を問う。自分でも何を言っているのかよく分からなくなってきた。

ユミ「……Love よ、アヤ。完全に、Love。」

 ユミはアヤの両手を取って、その目をまっすぐに見つめる。焦げ茶と青のインナーカラーが揺れ、その美しい顔には決意が浮かんでいる。

ユミ「私は貴方に恋をしているの。女同士だけど……いいえ、女同士だからこそ、貴方の魅力が分かるのかもしれないわ。貴方の優しさ、かっこよさ、頼りになるところ……全部、全部好きなの。」

 ユミの手が震えている。普段クールな彼女が、こんなにも感情を露わにするのは珍しい。

アスマ「俺もだ、アヤ。Loveだよ、完全に。お前の可愛いとこ、笑顔、声、仕草……全部好きなんだ。一緒にいたい、ずっと側にいたいって思ってる。」

 アスマもまた、アヤに近づいて真剣な表情で見つめる。

ユミ「だから……私と付き合ってちょうだい、アヤ。」

アスマ「俺と付き合おうよ、アヤ。」

 2人の告白が重なった。思索の庭園に、静寂が訪れる。

 私は2人の思いに戸惑う。どうやら真剣なようだ。でも私には好きな人がいる。実はお付き合いもしている。

 私は2人を傷つけないように、首を横に振った。

アヤ「……ごめんなさい。2人の気持ちは嬉しいよ。でも……ウチには好きな人がいるんだ。」

 気がつくと涙がこぼれていた。

アヤ「……だから、応援してくれると嬉しいな。またね……。」

 私は涙を流しながら校舎に戻った。

 ユミの手が力なく下がる。その美しい顔から血の気が引いていく。

ユミ「……そう、なの。」

 ユミの声は震えている。いつもの冷静さは完全に消え失せ、ただ傷ついた一人の少女がそこにいた。

アスマ「……アヤ……。」

 アスマは呆然とアヤの背中を見つめる。その目からは涙が溢れていた。

アスマ「待って……待ってくれよ、アヤ……!」

 アスマは追いかけようとするが、足が動かない。

ユミ「……やめなさい、アスマ。」

 ユミがアスマの腕を掴む。その手も震えていた。

ユミ「アヤは……もう決めたのよ。私たちじゃない誰かを……選んだの。」

 ユミの涙がポタポタと地面に落ちる。

アスマ「……誰だよ。誰なんだよ、アヤの好きな人って……!」

 アスマは拳を握りしめる。

ユミ「……分からないわ。でも……アヤが選んだ人なら……」

 ユミは言葉を続けられなかった。

 思索の庭園に、2人の嗚咽だけが響いていた。


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