弱り事とパジェロ大改造
神様が用意してくれたパジェロはオイル漏れとサビがひどい。
シャシーがしっかりしていて、駆動系や足回りに問題がないのが救いである。
だが、肝心のパーツが見つからない。
まさかパジェロで一番特色あるパーツが入手不可とは。
「あれがないとはなぁ」
アニマルバー。
カンガルーがぶつかってくるのを防いだりするあれだ。
オーストラリアで走っている写真を見たことがある人も多いだろう。
神様も駆けずり回って探したらしいが、新古品も中古パーツも入手できなかったらしい。
考えてみると昔、日本では違法パーツ扱いされていて、付けたくても自重する人が多かった。実際にはサードパーティ製も含めて法律問題をクリアしている製品ばかりだったのだが。
まあ、魔物相手にどれくらい通用するかは不明だが、ないのは不安だ。
神様に文句を言っても仕方がないし、いざとなったら鋼管パイプで自作すればいい。
「あとで考えるか。とにかく始めよう」
光治郎はひとまず考えるのをやめた。
当日、車がなければ何もできないのだ。
時間がない。レストア開始である。
サビを取り、電動で車高を調節可能に。
シュノーケルもつけた。
これで半分ぐらい水没してもエンジンに空気が取り込める。
「これで一段落か。万全からはほど遠いがな」
出来栄えは悪くないのに光治郎の顔色は冴えない。
それというのも、パレッタがパジェロには乗れないと言い出したのだ。
「どういうことだ」
「実はエルフは鉄に近づくことができないのです。昨日見た時はこの塗装された状態ならいけると思ったんですが」
そういえば、聞いたことがある。
光治郎とて学生の頃、一通りの物語は読んでいる。
当然、”エルフは鉄が苦手”、というのも。
だが、それはあくまでケルト神話の設定である。
現実の異世界でも同じ問題が持ち上がるとは思わなかった。
彼女がいないと対魔物戦において不安しかない。
「どうすんだよ。魔物には対抗できねぇし。道案内がなきゃ辿り着けねーぞ」
「魔物に対応はできます。少し、装備に手を入れさせて下さい」
「別にいいけどよ。道案内はどうするんだよ」
「それは……」
沈黙。
流石に知らない山道に用意もなく挑むのは無謀である。
念のためカーナビをONにしてみるが当然の如く”場所が特定できません” とでる。
当たり前である。
衛星もなければ異世界の地図データもないのだ。
だが――
「ただ、道案内は……」
「私が行きます!」
口ごもるパレッタの後ろにいたのはサティだ。
心なしかいつもより猫耳と尻尾がピンと立っている。
「やる気があるのはいいが、本当に場所がわかんのか?」
「はい。麓まではパレッタに連れて行ってもらったことがあります」
「山道は?」
「それは大丈夫です。一本道ですから迷うことはありません」
うーん。
この嬢ちゃんが来るってことになるとピートも当然ついてくるだろう。
舞い上がっちまってうるさくて仕方ない、ってなことにならなきゃいいが。
あとは、日程を決めるのみというところで――
「その薬草の採取、俺も連れてってくれ」
「アレク! なんでお前が」
「パレッタの代わりなら俺が務める。なんなら魔物から逃げる時、囮にしてもらっても構わん」
なぜ、こいつが?
光治郎には意図がわからなかった。パレッタは参加しない。サティと親しいわけでもない。
第一、この前まで敵対していた相手である。
肝心な時に予想外の行動をとることも考えられる。
「ダメだ。信用ならん」
「お願いしますにゃ!」
にゃ?
「あー、バレちゃった。アレクは私と同郷なんですにゃ。いつもは人間とうまくやれるために上手くしゃべってるんですにゃ」
なんとサティとアレクは同郷の猫耳獣人だったのだ。
「耳はどうなってんだよ」
「そ、それはパレッタ様の魔法で……」
「お願いしますにゃ。アレクのことは私が責任持ちます」
しかも、かなり意固地だ。
この男、テコでも動きそうにないってタイプに見える。
(仕方ないか)
この男はこの男なりに真剣なのだ。
他に方法はなさそうだし、ここにきて計画中止も無理。
光治郎とて母親を思って泣くサティの姿など見たくはない。
結局、山に向かうのは光治郎、ピート、サティ、アレク……か。
問題は時間がないこと。
パレッタがパジェロに魔法陣を施すとなると、いくつかレストア工程が増えてしまう。
「よし、それじゃあアレク。この車のレストアをお前も手伝え。その働き次第で連れて行くか決める」
「わかった。感謝するにゃ」
男のニャはいらねーんだよ。
それからはトントン拍子で準備が進み、お手製アニマルバーもアレクの協力でなんとか仕上がった。
「随分、凶悪な車になりましたね」
「ああ、俺がいた世界じゃ完全に違法だけどな」
相手はカンガルーどころじゃない。
戦車用のコンポジットアーマーにセラミック塗装。
魔力のこもった薬剤を塗料に混ぜての全塗装。これで毒対策は十分。
パレッタが車全体に魔法陣を書き込み。交換用LED収納スペースには魔石を。
LEDのルーフライトバーは、室内のハンドル横にある小箱の魔石と反応してライトニングの魔法を放つことができる。
「凄い車になりましたね。エルフとは大違いです」
「そりゃ、目的が違うしな。それにしても派手になったなあ」
「どこもかしこも魔法陣だらけですからね」
「自分で作っといてなんだが、アニマルバーがゴツすぎる」
鉄に近づくのが苦手のパレッタが、顔をしかめながら魔法陣を車体に施している姿は痛々しかった。
その分、成果はあったと思う。それでもこれで安全と言えるかどうかはわからない。
「やるだけのことはやった。上手くいくかどうかは相手次第ってことだ」
「大丈夫ですよ。こんな凄いもの魔物だって逃げ出します」
「そうあってくれれば助かるんだけどな。いよいよ、明日だ。全員、今日はぐっすり休んでくれよ」
「「「「おー」」」」
明日は山に薬草取り。
そこだけ聞くとまるでピクニックだが、実際は怪獣大戦争である。




