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パジェロと魔物、山中の戦い

 朝、七時。

 村を出て一路、薬草の山へ。


 運転は光治郎でナビは麓まで行ったことがあるサティである。


「そういやあ、出発前に何かゴソゴソやってたみたいだが」

「ええ、ウォッシャー液を補充をしましたにゃ」

「ピートに教わったのか」

「はい。ちゃんと三倍希釈しましたにゃ。井戸水は泥が混じるといけないので、ちょっといい水使っちゃいました」


 そこまで気を使う必要もないんだがな。

 まあ、いいや。やる気があるならそれに越したことはない。


 途中までは順調。

 問題は、後部座席のピートとアレクが身を乗り出して来るので鬱陶しい、ってことぐらいである。


「この分なら、案外楽に済みそうだな」

「ええ、本来危険なところじゃないですにゃ。麓まで小さな馬車でピクニック気分でしたし」



 ところが、山の姿が見えてきたあたりから様子が一変する。


 倒木が行く手を難み、あたりには得体の知れない霧が立ち込めている。

 フォグランプを点灯、車高をさらに3cm上げる。


 グギャオォォゥ


 いきなり魔物の咆哮が。

 照らされたのはポイズンベア――


「マズイ! 避けるにゃ」

「大丈夫。任せとけ」


 パレッタから話は聞いている。

 ここは先手必勝。特注ボタンをON。


 ドォォォン

 グゴゴゴ


 ライトに仕込まれた魔法陣から、火の玉(ファイヤーボール)が炸裂。

 一撃で体長2mの魔物を打ち倒した。


「すごいですにゃ。パレッタ様の魔法陣」

「ああ。だが、山に入る前にこんな奴が出てくるとは……ん? なんだ」


 トントンと肩を叩かれ、振り向くとピートがダッシュボードの隅を指差している。

 そこにあるのは、ルーフライトのスイッチである。


「今からこれ使うのかよ」


 ピートはともかく、アレクまでがうなづいている。

 どうする。うーむ。


「私もイヤな予感がしますにゃ」


 サティとアレク、二人の獣人が言うのなら何かあるのか?

 これは単なるライトじゃなく、もう一つの武器を待機状態にするものなのだ。


 強力なのはわかるがバッテリー食いだから、多用したくはないんだがな。



 躊躇いながらもスイッチをON。


 だが、予感は的中する。

 山道に入ると次々に魔獣が立ちはだかり、火の玉(ファイヤーボール)だけでは応戦しきれなかったのだ。

 虎の子の電撃(ライトニング)を連用し、何とか切り抜けたのだが。



 山の中腹のひらけたところまで到着。


「これは……想定外だ」

「酷いですね」


 本当ならここで一休みして、昼休憩を取るつもりだったのだ。

 そこにあるはずの緑の草原は、薄汚れた湿地帯に。


「こいつはダメかも知れねえ。入り込んだらスタックしち……ああん? なんだありゃ」



 ホゥホウホォォオ


 沼の中に沈み込まず、水面から10cmのところで浮いているそれは、まるで半魚人だ。

 薄笑いを浮かべた口が耳まで裂けている。

 

「ま、魔族です。逃げましょう」

「クックックっ、ニンゲン、コロス」

「うるせぇ、これでも食らえ」


 ドォォォン


 火球は直撃したはずだった。

 だが、煙幕が晴れると、そこには何もなかったように気味の悪い叫びをあげる半魚人。


「仕方ねぇ。次は電撃を……うわっ」

「後退して下さい。あの鱗を喰らってはダメです」


 凄絶な半魚人の反撃が始まる。

 光治郎が電撃を放つより一瞬早く、身体中を覆う鱗を逆立てると、一斉に飛ばしてきたのだ。

 


 ガンガンガン

 バキッ


 鱗がパジェロの車体を叩く。

 車体は悲鳴を上げるが耐えきれていた。


 だが、何かが砕けたような音が!


「どこだ。やられたのは」

「シュノーケルです。スッパリ切られました」

「くっそ、ほれ、電撃ダァ……効かねぇ」


 ルーフライトから雷撃が炸裂したが、ジュゥゥゥと音を立てるばかり。

 沼の表面にプラズマが広がっただけで、半魚人は健在である。



「まずいな。もう打つ手がない」

「いえ、まだです」


 光治郎はギアをバックに入れて、逃げ出そうとするが、それを止めたのはサティだ。


「何かあるのか」

「これです」


 ポチッと間抜けな音を立てて、スイッチが入る。


「そんなもんが……バカな。どうなってんだ」

「教会の聖水です。ウォッシャー液の希釈に使いました」


 目の前で苦しみ、のたうち回る魔族。


「ウゴゴぉぉぉ、コロス。ウゴッ、コロス、ニンゲ……ン……」

「ダメだ。ウォッシャータンクはそんなにデカくねぇ」

「大丈夫です。付属のサブボトルは3リットルあります」


 身体中から白煙をあげる魔族の動きが自然に小さくなり。

 最後はふわっと消え失せてしまう。ただ、残滓が山の頂上に立ち上ったように見えたのが気になるが。



「あんなもの仕込んでたとは知らなかったぞ。だいたいウォッシャー液を前に飛ばすなんてどうやったんだ」

「それは、俺が。すいません。勝手なことして」


 ピートが済まなそうに手をあげる。


「いや、助かった。あれがなかったらどうなってたかわからない。だがこれ以上は……」

「ええ、無理ですにゃ。帰りましょう。私の薬のことでこれ以上、危険な目に遭わせることはできません」

「俺もそう思います」


 頂上まではあと少しのはずなのだが、霊木が見えない。

 あの魔族を倒してもまだこの霧が晴れないということは、何かあるということなのだろう。


 だが、諦める空気が漂う中、アレクだけが異を唱える。


「いや、行かなきゃダメだ。皆が行かぬのなら俺だけでも残るからな」

「アレク、やめて。お願いしますにゃ」

「違うんだ、サティ。あの霊木はパレッタ様の魂の半分。あれを失えば、あの方はあと数年で死に絶えるだろう」

「「「えっ!」」」


 ブルン


 光治郎はキーを回す。

 ギアはロー。強力なトルクはパジェロを山の頂に向かわせるためのもの。

 

「行きますにゃ」

「大丈夫かなあ」

「心配するな。大したもんじゃないが、まだ手はある」


 霧の中、車は頂上を目指す。

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