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普及開始は順風満帆?

「これから『自動車の普及についての意見交換会』を開催します。まずはコージロー殿」

「お越しいただきまして感謝します。昨今、弊社の自動車を求める声が大きくなっていると聞いております。しかし、具体的に私どもにその話が持ち込まれたことはほとんどありません。そこで、今日は忌憚のない意見をお聞かせいただきたく、集まっていただいた次第です」


 しーん、と静まり返る町役場の会議室。


 目の前にいるのは近隣の村の代表者。

 一様に興味はあるが、それを言う気はない、らしい。


 町長のドミンゴがとりなす。


「自由に意見を言うがよい。別に何か言ったからって、村が不利益を被ることはない。コージローはそんな御仁ではないぞ」

「だども、王都で大層名を挙げたお人だと聞いております。おらたちではとてもとても」

「そうだなや。あのおっかねぇ消防署長様を従えていたと聞いておりますので」


 何やってんだエミリア。

 消防車で村民たちを脅しつけてどうする。


「それは恐らく誤解です。後で彼女から話を聞いてみますので。……それで、みなさん、もし買える値段なら欲しいですか?」


 お互いに顔を見合わせる村長たち。

 確かに今までレストアした車を買うのは難しいだろう。


 だが、安価で扱いやすい車はいくらでもある。


「無理に売りつけはしません。買えないが欲しいという人。いますか?」


 すると、やがてそろそろと何人かの手が上がる。


「そりゃあ、あれば助かるけんども……」

「高いって、聞くべ」

「んだんだ」


 それぞれの意見に光治郎はうんうんとうなづきながら、一枚の大きな紙を広げ村長たちの正面に貼り付ける。

 そこには三台の車のイラストが載っている。


 シトロエン 2CV(ドゥ・シ・ボゥ)

 フォルクスワーゲン・タイプ2バン(通称: コンビ)

 スズキ キャリイ



 いずれも安くて丈夫ではあるが、 

  ・その中でもとりわけ安価

  ・雨に濡れないバン

  ・丈夫で細い道でもへっちゃらな軽トラ

 という苦心のラインナップになっている。


「これを安価で提供しようと考えている。値段はこれくらいだ」


 そう言ってさらに追加の紙を貼り出す。

 基本的には新しい馬車二台から三台ぐらいの値段である。しかも、手付けは新しい馬車一台の半分とする。


 あとは、ローンというわけだが、利子は取らず、町で売った農作物の上がりから少しずつ出せば良い。




「だども、これ走らすんのに何がいるだ? 馬の飼い葉さ食うわけじゃなかろ」

「ああ、それはガソリンスタンドから入れて貰えば」


 幸いにして陛下の休憩所設置は順調に進んでいる。


「がそりんすたんど、ってのはなんだぁ? 町長は知っとるんですか」

「お前たちもすでに使っているだろう。陛下の作った休憩所にある……」


 合点が言ったらしく、質問した村長はポンと手を打った。

 周りにも伝わったらしく「ありゃ、そげなもんだったかあ」などと言っている。


「そうですそうです。そこにお供え台がありますから、野菜などを置いてもらえれば」

「そげなことなら大丈夫だな」

「あー、神様にお供えするなら、問題ねぇべ」


 ここが光治郎の一番苦労したところだ。

 そこにガソリンスタンドを設置したわけだが、どうやって料金を徴収するか。


 神様に掛け合って作ったディペンサーの脇の小さな神棚にお供え台。

 柏手を打つとそれがスッ、と消えることになっている。


 これで料金徴収完了である。


「ちなみに、お供えをサボると文字通り天罰が下りますので」

「こぇぇ」

「そげなことしねーだよ」


 こちらも大丈夫そう。

 と、思ったところで、マタギ姿の男が立ち上がる。


「そんただこと言って、壊れたらどうすんだ」

「これっ、ゾンバ」


 どうやら、足の悪い村長を支えるためにきた男のようだが……


「いや、村長。話がうますぎる」

「そー言えばそーだ。忘れとったぞ。馬車も壊れた時が一番金さかかる」

「んだんだ。騙されるところだった」


 いきなり不穏な雰囲気に。

 町長はオロオロと光治郎を見やるが――


「安心して下さい。今回は部品のストックも十分用意しています。さらに一年間の修理はサービス。その後も大きな修理代は請求しません」

「いくらだ」

「最大で新しい馬車一台の半分」

「……わかった。すぐに直してくれんならいいべ」


 ゾンバは納得して着席した。

 だが、光治郎は最後の一言を聞き逃していた。



「ただいま。どうやらわかってくれたようだ。これから忙しくなるぞ」

「コージロー。うまくいったんですね」


 村に帰った光治郎をアレクは笑顔で迎えたが、浩史は口をへの字に曲げている。


「社長、本当にやる気ですか」

「ああ、もちろん」

「大丈夫なんですか」

「……なんだよ。いまさら」


 光治郎はその言葉を鬱陶しいと思いながらも、昨日神様からもらった返事が気になっていた。


 “自動車の普及は喜ばしいことだ。だが、お主、大丈夫か”


 それは奇しくも浩史の言った言葉と同じだった。


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