普及と車種
いい結婚式だった。
サプライズで用意してくれたブライダルカー仕様のDB6は二人とも喜んでくれたし。
「うまくいって良かったな」
「ああ、サティちゃん泣いてましたね」
「ピートもな」
久しぶりに会った友達に祝福されたら、涙腺崩壊。
この付近の村には繋がりがあることを光治郎はしみじみと感じていた。
「あのう……」
「さて、今日は休みにするか」
まあ、何もこんな日に仕事しなくても、ね。
「王都から知らせが……」
「これからはブライダル事業もいいかもな」
「コージロー! 仕事して下さい!!」
うわっ、アレクが切れた。
すでに浩史はリフトの方で仕事しているフリしてるし……裏切り者めが。
ばさっ、と置かれた手紙を見る。
陛下からかぁ。今は見たくないなぁ。
"ラクタルの町を中心に農家の収穫が好調であると聞く。なかでもアルトト村の発展が際立っているとの報告を受けた。
これは誠に喜ばしい。しかし、一部の村のみが栄え、他が取り残されることは王国の安寧を損なう。
すでに不公平であるという陳情も届いておる。
自動車の恩恵を広く、偏りなく行き渡らせるよう望む"
光治郎が来た時、この村は存続の危機にあった。
周辺の村より町から距離があり、途中には難所も。
それが、トラックで作物を町に届けるようになって一変したのだ。
何せ神様が難所を吹っ飛ばしちゃったし、馬車じゃないから悪天候も関係なし。
今や周辺の村よりかなり有利な状況。
そろそろ不満が出てくる頃だとは思っていたのだ。
「どうするんですか」
「んー、普及はしたいんだけどよ。アレクさぁ、周りの村で自動車買えんのか?」
「それは……」
「浩史はどう思うよ」
「安い車はありますが、メンテが大変ですからねぇ。台数も必要なんでしょう?」
そうだった。
こっちも大変だが、車を用意する神様のことも考えなくちゃいけない。
「わかったわ。ちょっと考えてみる」
光治郎は町で話を聞いてみることにした。
あいにく昨日から雨ではあるが、パジェロならなんてことはない。
ラクタルに着くと、早速町役場へ。
「すいません。町長のえーと……」
「ドミンゴですね。今、会談中なのですが、そのままどうぞ」
「いいんですか」
「はい」
仕事の邪魔しては悪い。
ちょっと緊張しつつ入室。
町長と一緒のにいたのは……
なんだ。いつもの顔見知り。
消防署長にして水魔法使いのエミリアである。
「おお、コージロー。あの結婚式は良かったな」
「あんな車の使い方があるなんて知りませんでしたよ」
「あ、ああ、どうも」
また、こっからか。
でも、これはいい切り口になるかも知れない。
「確かに自動車にはいろんな使い方ができます。実はそれで相談に来たんです」
光治郎の聞きたいことは、生の声である。
ピートに預けたトラックの優位性をどう思っているのか。
他の村が欲しがっているとか、羨んでいるとか。自分のところならこう使うとか。
「はい。そういう声は確かにあります。例えば今日のような雨でもトラックなら何の障害にもなりません」
「やはり大量輸送ですか」
「まあ、それもあるんですが。村によっては出荷量は少ないけれど高価で売れる。ただし時間が命という品もありまして」
そうか。量より即時性、ってのも大事か。
「ああ、あとこの前火消しに行った村なんかだと、水浸しで困ったということもあったな。トラックだと屋根がなくて困ることもあるだろう」
「それに、小さな村ではあんな大きなトラックも必要ないですしな。いずれにしても金のない村が多く高い車はちょっと」
どうやら、いい意見が聞けたようだ。
「ありがとうございます。近隣の村の方々にも近々話をしようと思います」
「ああ、急がんでいいと思うぞ。お宅の村長が、あちこち顔つなぎをしてますからな。そうそう不満がそちらに向くこともありますまい」
あの村長。相変わらずバイタリティの塊だな。
しかし、これは好都合。
光治郎の頭には普及のための車種選定がもう固まりつつあった。




