褒美は大盛りで
三日後、またしても光治郎たちは王宮にいた。
今日はロールスの納車と今回のことで陛下から褒美がいただけることになっている。
いつもならちょっとした中庭のようなところに停めるはずが、今日は裏手の方に誘導されて行き、小綺麗な真新しい建物の前に止めるように言われる。
なんだろうとか、と車を降りずに待っているとその建物から出てきたのはなんと陛下である。
「す、すいません。今、降ります」
「よいよい。ここは車を収める場所として新たに作らせたものだ」
うーん、村一番の村長の家より数十倍立派である。
「た、大変結構な車庫だと思います」
「そうか。それでな、ここに車が必要なものを揃えてくれんか。紹介しよう。こちらが自動車担当の補佐官と使用人三名だ」
「コージロー殿よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「あー、はい。よろしく」
うわあ、そうきたか。
確かに村に帰ると自動車は王宮の人だけでなんとかしなくちゃいけない。
「それでは、後で普段のメンテナンスについてお話しすることにしましょう」
「そうか、では次はお主に渡す褒美についてじゃ」
そのままゾロゾロと移動し、ここ数日で三回目の王宮である。
「コージロー前へ」
「ははー」
いつもの通り、5m前でひざまづく。
それを待っていたかのように陛下は。
「献上された車、とても見事であった。それと、約束とは違う対決まで。こちらはお詫びのしようもない」
「いえ、もったいないお言葉です。それで……えーと」
「あー、言葉を飾らずともよい。ワシは十分満足している。それで褒美についてじゃが、今回、何をとらすか考えてはみたものの、あまりお主に会うものが見つからなんだ。そこで、率直に尋ねたい。欲しいものはあるか」
来た。
一応、考えてきたものはある。不敬に当たるのではないかと悩み、事前に皆に相談したそれを言うことにした。
「二つございます。一つは自動車を広く普及させたいと考えております。そのお許しを。もう一つは金です。金貨1,500枚を所望いたします」
どよめきが広がり、その後に続くのは罵声の嵐だった。
「なんて畏れ多いことを」
「この業突張りが」
「たかが、車一台で」
「鎮まれ!」
陛下の鶴の一声で非難の声はぴたりと止まる。
「自動車の普及については許そう。して、それだけの金貨を得てコージロー。お主は何をせんとする」
「はい。土地を買おうと思います。自動車というのはガソリンなるもので走るのですが、それが身近に補充できなければ運用に耐えません。そこで、街道沿い20kmごとに広場となる土地を購入し、水場とガソリンスタンドを設けます」
「それを自由に使えるようにするのか」
「はい。ガソリンには対価をいただきますが、広場と水場の利用は自由です」
するとそこで大臣の一人が疑問を投げかけた。
陛下はその発言を許す。
「それでは、馬車も使えてしまうのではないですか」
「はい。当然そうなると思っています」
「コージロー、それで良いのか。馬車がいつまでも使われていれば、お主が広めたい自動車の普及が遠のくぞ」
すると光治郎はゆっくり首を振り。
「私は馬車を排除しようとは思っていないんですよ。できればドワーフたちとも仲良くやりたいし、自動車の技術を馬車に使ってもらっても構いません。それに、車は高い。多少安くしても多くの人にとって手が出ない値段でしょうから」
「なるほどな。共存を求めるか。気に入った。その土地、ワシが買ってやろう。もちろん、金貨1,500枚もそのまま付けてやる」
「陛下、流石にそれは頂きすぎです」
「良いのじゃ。それは自動車普及のための資金とするが良い。これにて、終了とする」
謁見は終了した。
「よかったわね」
「いや、緊張したよ。しかし、どうしようこれだけの金」
「好きに使えばいいじゃない。あまり儲かっていないんでしょ」
まあ、そうなんだけどね。
今まで神様が譲歩してくれているので、自動車の対価としては物足りなかったのは事実。
それにしても、こんな風にパレッタと気安く話す日がくるとは……
「何、和んでるんすか。裏庭の車庫どうにかしないと」
「そうだった」
急いで裏庭に戻る。
広さは十分、これだけあれば。
「まずは、どうやって車を入れるかですね」
「ええ、外は洗車もできますし、十分なんですが」
「わかった。それじゃあ、少し離れててくれ」
光治郎は車から用意してきた神棚を建物の一階に据えつけ、金貨10枚をお供えして祈り出した。
“神様、お願いします。ここにガレージと普段王様が困らないだけの環境を”
ゴオオオオン
土煙が舞う。
そして、それが晴れた後に裏庭に現れたのは、ガソリンスタンドのディスペンサーと洗車機。
自動車担当の補佐官は慌てふためき、車の世話をする使用人は呆然としている。
「何が起きたんですか」
「神様にお願いして、この車を運用するのに困らない道具一式を揃えてきたんです」
「な、なるほど……」
あー、わかってないな。
後で使い方を教えてやらんとな。
「コージロー。建物も変わってるぞ」
「あっ、こっちもやってくれたのか」
建物の壁の一部がシャッターになっている。これなら車の出入りは楽になるだろう。
ガラガラと開けると、おー、ツールボックスまで。
神様。やりすぎじゃないですか。
……でも、そうか。これは感謝なのかも知れない。
陛下が取りなしてくれたおかげで自動車の普及に明るい未来が開けたのだから。
「どうだ、使えそうか」
「じ、自信がありません」
そりゃそうだろう。
目の前にいきなり見たこともないものが現れたんだから。
「アレク。一週間ぐらいここに通ってもらってもいいか」
「はい。構いません。洗車とガソリンの補給。基本的な整備ぐらい教えればいいですか」
「よーし、これで今日は終わりだな。帰るとするか……ん。誰だ」
帰り道に一人の小柄なガッチリした男が立っている。
シルエットでわかる。あれはドワーフだ。
「ミツミネコージロー殿とお見受けする」
「ああ、そうだけど」
「同胞の失礼の数々、なんとお詫びをしたらいいかわからない」
「いや、あんたが悪いわけじゃないだろう」
そういうとホッとした顔になり。
「先ほど王から『これからも頑張るように』と言われたのだ。コージローは馬車を潰すつもりではない、ともな」
「当然です。自動車は万能じゃない。お互いに得意なものをやりゃいいんですよ。きっと」
光治郎とドワーフはガッチリと握手した。
お互いに自分の携わってきたものに対しての誇りを持った者同士、打ち解けるのに時間は掛からなかった。
そして話し込むこと一時間。
パレッタが止めなければずっと続いていただろう。
その帰り道。
「ありゃあ、根っからの職人だな」
「ふふっ、それをコージローが言うの?」
それには答えず、頭を掻きながら「帰ったら何食うかなあ」と誤魔化した。




