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ドワーフの黄金馬車 vs ロールス

 どうにか間に合った。

 今日はお披露目。どちらが陛下に相応しいかを品評してもらうのである。


 だが、様子が変だ。

 ぐるりと囲む観衆。正面にはガルドレイン陛下。

 だが、立ち並ぶ騎士の一団はなんなんだ。


 まるで闘牛でも行うコロシアムである。

 しかも観客席には札束を持って走り回っている者までいる。


「ありゃ、なんだ」

「賭けてんだよ。どっちにいくら張ってんのか知らんがな」

「シー、始まるみたいだよ」


 魔法を使った拡声装置から、司会役の男が口上を述べる。


「王に献上する車を競うため、2台の車が献上された。しかし、真に王に相応しい車はただ一つ。

 これから、それを決めるため、このコロシアムでその実力を競う」


 湧き上がる歓声。


 どうやらこの王都の民衆にとっては娯楽なのだろう。

 見せ物扱いされるこっちにとっては、ちょっと不本意ではあるが。


「右手に見えるは、ドワーフ族謹製『ウィング・オブ・インペリアル・セレニティ(帝国の静寂の翼)』、金色に輝く華麗な馬車。

 対する左手には、ミツミネコージロー謹製『ロールスロイス シルバークラウドIII』、深い紫に輝く未知なる鉄の神殿。

 これからその対決が行われます」

「対決だと!? 嵌められたか」


 単なる品評会ではないらしい。


 ドワーフが作った馬車は絢爛豪華な装飾が施されている。

 なるほど王に献上する品といったところか。


「品評会だったとしても負ける気はねーと言うことか」

「そうだね。でもこんな場所に誘導してきたくらいだ」


 どんな仕掛けがしてあるかわからないと言うことか。


「それにしても、まさか魔馬を使ってくるとは」

「やはり、普通の馬じゃないのか。威圧感が半端じゃない」


 スピードも馬の比ではないだろう。

 光治郎は気が気でなくなってきた。



 自分で担当したエンジンや足回りには自信がある。

 アレクとピートが頑張ってくれたおかげで、ブラックアメジストの塗装は見事の一言。


 ところが、内装やこの異世界に適合するための諸々についてはエミリアとパレッタに任せきりだったのだ。


「大丈夫だ。逆にやりすぎないように注意しなくてはな」

「そうですね」


 なんだよなんだよ。

 妙に自信があるじゃねーか。



 ファンファーレがなり、二台の車が前に出てくる。

 コロシアムのグラウンドを一周する臨時のコースが用意されていた。


「それでは走行テストを開始する。なお、このテストにおいて双方、一度ずつ修理のためのタイムを利用可能だ」

「両者用意」


 こちらの運転席にはピートがいる。助手席にはアレクだ。

 あー、全然似合ってねー。なんでロールスに繋ぎで乗ってんだよ。



 スタート。


 ロールスがわずかにリード。

 だが、馬車も遅れずに着いてきている?


「大丈夫なのか」

「ああ、引いてるのが馬車である以上はな」


 三周するうちに、その差が広がっていく。

 馬車はカーブをうまく回れない。


 馬が強くてもあれでは勝負になるはずはない。



 案の定、タイヤの一つが悲鳴をあげ、馬車がストップ。


「おっと、馬車が止まりました。ドワーフたちが修理をするようです」


 ドワーフ達が駆け寄り、修理は二分で完了。

 すでにロールスは一周以上の差をつけている。


 そんな中、何かがロールスに向かって放たれた。



 だが、当たる直前に四散する。

 陛下が大臣を問い詰めた。


「あれは何だ。最初は速度を競うはずだったのではないか」

「いえ、馬車はスピードも必要ですが、陛下のお召しになる車となれば安全性も重要です」


 いけしゃあしゃあと答えるバンゲルド。

 その間にもレースは終了し、ロールスの勝利。


「そんな勝負が必要なら、事前に光治郎に伝えるべきだろう」

「盗賊は襲う時、予告などしてくれませんよ。それに良いではないですか。陛下のご贔屓であるコージローの車が勝ったのですから」

「…………」


 どうやら運営は大臣の息がかかっている者たちのようだ。



「勝った。勝ちましたよ」

「おー、よくやった。だが、すっかり埃を被っちまったな」

「大丈夫です。塗装はやられてません。バフがけにはなれましたし」


 喜ぶピートとアレクを労う光治郎。

 随分、頼もしくなったもんだと思う。


 さあ、終わりだ。

 帰ってそれからどうしようか、と思ったところで会場に響き渡る声。


「では、第二の勝負。馬車と自動車の一騎打ちです」

「嘘だろ。まだやるつもりなのか」


 どうしてもドワーフには負けられない理由があるようだ。

 気がつくとさっきの修理で元の馬車とは別ものになっている。


「な、なんだあれは。あれは馬車と呼べるのか」

「まるでチャリオットだ」


 馬車の前には大きな鉄板が据えられ、馬の鞍にはクロスボウが装備されている。

 王が乗るための馬車。彼らの理屈では、戦時であればこれぐらい当然とでも言うのであろう。



「はじめ」


 駆け出す馬車。

 だが、ロールスが前に出られない。


 すかさず、ピートが手を挙げる。

 こちらも修理タイムを要求である。


「逃げるのか」

「違げーよ。大体お前らだって、修理しただろ」

「チッ」



 駆け寄る光治郎。


「どうした。何か故障か」

「いえ、どうもこの地面に何か仕掛けられていたみたいです。車の下から突き上げられたような感覚がありました」

「わかった。ジャッキアップしろ」


 重い車体を支えるのは大変である。

 なんとか、車体の下に入り込むだけのスペースを確保。すぐに光治郎が潜っていく。


「なんだこれ。プロペラシャフトに傷がついてやがる。ゆっくり回してくれ……そう……大丈夫だ」

「良かった。それにしても何があったんでしょうね」

「恐らくこいつだろ」


 そこにあるのは、鏃だった。


「これは……地面にも仕掛けていたのですか、しかもこれは魔法で打ち出されものですよ。よく無事でしたね」

「ああ、『ロールスのプロペラシャフトは折れない』。昔からな。これを陛下の元に持ってってもらえるか」


 係員に渡そうとするとそれをパレッタが止める。


「私が行こう」

「い、いえ。それは私の役目なので」

「これでもか」

「し、失礼しました」


 懐から出した物を見て、引き下がっていく。

 そのまま陛下の元へ。

 誰も止めようとしない。


「なあ、ピート。パレッタって何者なんだ?」

「さあ、俺にもわかりません」



 結局特に修理は必要なし。

 止まったのは、驚いたピートがエンジンを念の為切っただけだった。



「それでは再開する」


 馬車からは次々に矢が放たれる。

 アレクたちは一瞬顔を背けるが、フロントガラスに当たったそれは虚しく下に落ちていく。


「ロールスってのはな。昔から要人を乗せるために作られてんだ。防弾ガラスを舐めんなよ」

「そうなんですか」

「ああ、特注仕様だけどな。今回、遅れたのもそいつ込みの車がなかなか見つからなかったんだ。ところで、反撃手段はないのか」

「ありますよ。パジェロで見たでしょう」


 そう言ってパレッタはピートに合図を送る。

 

「あれをぶっ放すのか。やりすぎないようにな」

「大丈夫ですよ」



 ドォォォォン


 巨大な雷光が当たりを照らし尽くす。

 だが、相手の馬車は無事。


 流石に怯んではいるが、ロールスからも煙が立ち上っている。


「思ったよりもでかい電力消費ですね」

「パレッタの魔法陣じゃなかったのか?」

「さっきの床下からの一撃で、出力が落ちてるんです。その分バッテリーから持ってかれてるみたいで……なんとか、次で決めないと」

「大丈夫なんだな? 行くぞ!」


 ようやく正気に戻った魔馬を駆り、馬車が突っ込んでくる。


「こいつが最後だ」


 ライトのスイッチをもう一段押し込む。


 バリバリバリバリ

 ドーーーン


 ヘッドライトが割れ、エンジンが不調を訴える。


「大丈夫じゃねーじゃねーか」

「でも、勝ちましたよ。ほら」


 確かにロールスは満身創痍。

 だが、相手の馬車は横倒し、魔馬たちはピクリとも動かない。


「しゅ、終了。しょ、勝者は『ロールスロイス シルバークラウドIII』」


 ………………………


「「「「「「わぁぁぁぁぁあ」」」」」


 度肝を抜かれた大観衆から、一瞬の静寂の後、歓声が湧き上がる。


 圧勝だった。

 少なくとも観衆にはそう見えただろう。


 だが、実際は違う。

 あの地面からの鏃が威力頼みの一発勝負だから助かったものの、もし数量頼みでホース類を貫かれていたら……


 それを考えると、紙一重。光治郎はヒヤヒヤものだった。


 何にしても流石にこれで終わりだろう。

 観衆の声に手を振って答えながら、あとは帰って祝勝会をするだけだと思ったのだが。



 突然、陛下が手を挙げる。

 コロシアムは静まり返った。全ての観衆が注目している。


「待て。勝負がフェアな条件で行われなかったことは明白である。今回の運営に携わったものは徹底的に調査し、厳正な処罰を与える。良いな」


 陛下の言葉に黙ってうなづく全ての人々。


「この後は、私が勝利した車で場内を一周する」


 観衆が一斉に拍手。

 運転手として光治郎が指名された。


「頼むぞ」

「わかりました」

「褒美を考えておけ」

「わ、わかりました」


 陛下が手を振り、それに多くの民衆が答えている。

 光治郎はゆっくりとハンドルを切りながら「何にすっかなあ」と独りごちていた。


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