ボルボ240トースランダ
王都行きには全員がついてくると言う。
もしかしてこいつら、観光気分じゃねーだろうな。
「ありがてー話だけどよ。その人数を乗せられる車はねーぞ」
「それならもっと大きな車を用意すればいいじゃないですか。二ヶ月あるんでしょ」
「……まあ、そうなんだけどよ。限度はあるからな」
その夜、早速神様に要望書を “お供え” する。
“王都に呼ばれちまった。どうも面倒ごとの匂いがするんだが、町や村の連中が一緒に来てくれるそうだ。ってわけで、今までよりデカい車を一台用意してくれ。ただ、一つ条件があるけどな。バスはダメだ。特殊車両はこりごりなんでな”
そして、4柱リフトにこのでかい車が鎮座していたというわけだ。
ボルボ240トースランダ
ボロい。そして、錆だらけ。
エンジンは……調整だけで済むか。そこだけは救いだな。
「なんだ。この前の消防車より小さいじゃないですか」
「何言ってんだ、アレク。このパネルを仕上げるだけでどんだけ大変か知らねーのかよ」
パネルの交換は二枚、いや三枚必要になる。シャーシも溶接しないと。
これ、二ヶ月あってもギリギリだぞ。
……アレクには塗装前の錆落としで泣いてもらうがな。
車が決まれば人数も自ずと決まるわけだ。
王都に行くのは俺、ピート、パレッタ、サティ、そしてエミリアである。
「俺は行かれないんですか」
「厳正な抽選の結果だからな。アレクはコルベットのエンジンでも降ろして整備してろ」
「いやですよぉ。あんなデカくてウルサイ奴」
ボルボに舐めた口を効いたバツである。
「こんなに広いんですか」
「ピートでもそう思うか」
「はい。いすゞのエルフも物は乗りますが、所詮荷台ですからね」
「これなら私もコージロー殿をサポートできると思いますぞ。資料も大量に用意しておりますからな」
「頼むぞ、消防団隊長」
この中で一番頼りになるのはなんとエミリアである。
初代消防団隊長に就任以来、団員たちを連日しごいているらしいが、あんた魔法使いじゃなかったっけ?
「コージロー殿には今後も新たな消防車をレストアして頂きたい。何でもハシゴ車なるものがあるそうではないか」
「ゲッ」
なぜそんなものを知ってる?
まあ、いいか。消防団の拡張は後だ。
問題はボルボである。
思った以上に状態が悪い。
神様には改修に必要になる部品リストを “お供え” したんだが、入手に苦慮しているそうだ。
“できれば異世界の技術で内製できんか?”
すぐに “無理” と一言書いて送り返す。
仕方ない。村の荷運びで忙しいピートにも来てもらうか。
っと、その前に。
「なあ、町長。俺を呼び出す理由って何だと思う? 貶めようとしている奴はいるかな」
「そうですな。いるとすれば……」
そう言って、町長は視線を町の入り口に向ける。
馬車だ。
「やはりそれか。気になっちゃあ、いたんだがな」
「どういうことです」
「アレク、考えてもみろよ。今では移動となれば何を使ってた。荷物を運ぶのにもだ。それが一気に使えなくなったとしたら、作ってるやつはどうなる?」
「あっ!」
流石に気がついたらしい。
車をこの世界に馴染ませるとすれば、それまでその役割を担っていたものは絶対に大きな影響を受ける。
特に既得権益を奪われるとなれば、な。
「町長、王都で馬車や流通を担当している大臣が誰か教えてくれ。できればどんな人物なのかもな」
「それならバンゲルド大臣だと思います。そして一番問題なのは、彼がドワーフの後ろ盾になっていることですな」
ドワーフ!
やっぱいるのかー。
エルフがいるんだからドワーフもいると思ったんだよ。
工房を持ち、不思議な力で鉄を鍛え上げる異世界の技術者。
その存在はものを運ぶ道具という一点でどうしても競合せざるを得ない。
「どんな手でくると思う」
「馬車の優位性を推してくると思います。車は素晴らしいですが、普及率ではお話になりませんからな」
「となると、それをひっくり返す極め付けの一台が必要、と……。一応、用意しておくか」
王都の近くに整備ができそうな場所がないか町長に尋ね、その物件を押さえてもらった。
あとはこのガレージの神棚をボルボに積んでいけば『三峰モータース王都臨時支店』の出来上がりである。
すでに陛下の気を引くための車種には心当たりがあるのだ。
敵が大臣なら、こっちは陛下を味方につけてやる。
できれば、勝手のわからない土地でレストアはやりたくないが……。
「まずはボルボだ」
こいつで恥を掻けば、その後などないのだ。
光治郎は目の前の車を磨き上げるべく修理に没頭していった。




