口を滑らしゃ、火の車?
町の入り口に着いたところに光治郎はモーリスマイナーを止めた。
関心は火事にあるので、こっちに寄ってこないのは助かる。
「消火はできないのか?」
「ええ。水の魔法師が随分頑張ってくれたのですが……」
人の出せる水の量なんてたかが知れている。
魔法なんて万能でも何でもないのだ。
「燃え移る前にあの家を潰す。できるか? パレッタ」
「……できます」
すぐに呪文を唱え始める。
大きな火の球が燃えている家の両脇の家に炸裂する。
ドガァァァン
「何するんですか! あの家はまだ燃えてないのに」
「バカヤロー。このまま放っておいたら並んでいる家は全滅なんだよ。火が消せないなら打ち壊すしかねーんだ。続けてくれ、パレッタ」
「はい!」
彼女の唱えた爆裂魔法により、火の勢いは弱まる。
大変な被害だが、延焼を防ぐことだけはできたようだ。
「こちらへ! 急いで下さい!!」
「えっ!」
光治郎とパレッタは裏手にある一軒の邸宅に引っ張られていく。
あわててアレクとサティが続く。
部屋に入ると全員のお茶が用意されていた。
正面には町役場の人と恐らくその上司。
「コージロー様、パレッタ様。ありがとうございました。私はこの町の町長ドミンゴです」
「いえ、できることをしたまでで。……それでここは?」
「町で借りている部屋の一つです。あまり人に知られたくない話をするときに使うところで」
しんとした室内で、アレクとサティには落ち着かない。
隣にいるパレッタに至っては、まるで捕まった犯人のように神妙にしていた。
恐らく微妙な話になる。
光治郎はすでに何の話なのかわかっていた。
「おかげさまで延焼を最小限に留めることができました。ですが、町の中にはそう思わないものもいるのです」
「わかります。まだ燃えていない家を壊したというんでしょう?」
「はい。ですが、パレッタさんがもしやってくれなければ、さらに十軒以上の家が燃えていたでしょう」
この町長はわかっている。
だが、それで済むならこんな部屋に来ることはないはずだ。
「火事を鎮めた功労者に言うべきことではないのですが……賠償金について相談に乗ってもらえないか、と」
「なぜだ」
「パレッタは町のために魔法を使ったのよ」
アレクとサティが叫ぶように抗議する。
それを抑えたのは光治郎である。
「よせ、二人とも。……町長。それを俺たちが払うのは無理です」
「ああ、わかってはいる。だが、彼らはきっと君たちを探し出すだろう」
なんと理不尽な。
町長が深々と首を垂れる。
「本当なら町をあげて感謝しなければならないのに」
「いや、謝ってもらっても仕方がありません。それじゃあ、どうすればいいですか」
「火を消せればいいんです。それさえ、できれば彼らを黙らせることもできるでしょう」
部屋に沈黙が落ちた。
光治郎はやってられない、と帰り支度を始める。
「それができなきゃ金を払え、ってか? 話にならないな。パレッタの苦労を何だと思ってるんだ。ほとぼりが覚めるまで村からはピートだけに来させることにする。……あーあ、消防車の一台でもありゃ、解決するんだがなぁ」
「えっ、今、なんと?」
全員の視線が光治郎に。
それがとんでもない失言であることには、すぐに気づいたが後の祭りである。
その日の夜。
村に帰った光治郎は机に向かっていた。
こんなに筆が重い要望書をを書くのは初めてである。
“つい口をすべらしちまって、消防車が必要になっちまった。残念ながら特殊車両なんてまるで見当がつかねぇ。何とか俺の扱えそうな一台を見つけて欲しい”
それだけ書いた紙を神棚に”お供え”すると光治郎はパンパンといつも通り柏手を打つ。
己の迂闊さに後悔しつつ「どんな車が来んのかねぇ」と言ってガレージを閉めた。
翌朝、一台の真っ赤な車がリフトに乗っていた。
出勤してきたアレクも口を開けたまま、固まっている。
「でけぇ。流石に大型車は違うわ」
「こ、これが消防車ですか。……って言うか、これリフトまで大きくなってませんか?」
「ああ、さっすが神様。いつもの2柱じゃ持たないってんで、デカバチの4柱リフトにしてくれたんだろうよ」
マギルス・ドイッツ TLF 16
超年代物の2ボックス消防車である。その威容に思わず腰が引ける程だ。
「どうすんだこれ。スペック見ても全然わかんねぇよ」
「えーと、何々? 『水タンクは2400リットル。放水量は一分間に1600リットル』って、これ二分で水なくなりますよ!」
「マジか。消火栓なんて便利なものはねーからな。うーん、パレッタに相談すっか」
「はい!! そうしましょう。是非!」
こいつ消防車うんぬんより、パレッタに会う方が楽しみなんじゃないか?
光治郎はスパナをしまいながら、赤い化け物を見上げ「こいつを何とかしないと借金地獄か。たまんねぇな」と頬を掻いたのだった。




