第1話 ゲーム開始
名前を記入した瞬間だった。
胸の奥を、見えない手で掴まれたような感覚が走る。心臓、か?思わず胸を押さえる。だが、痛みはない。それどころか、妙に気分が良かった。血が巡る感覚が、はっきりと分かる。
「それでは次です。あちらの世界で用いるお名前を命名してください。ふざけた名前は、推奨しません」
名前、か。俺は即答しなかった。名前は、役割と姿に引きずられる。ならば先に決めるべきは――。
「……種族と見た目を先に決めたい。名前はその後でいい?」
「承知しました。こちらが、貴方様の適性種族です」
光のパネルに、無数の文字が浮かぶ。人間、エルフ、ドワーフ、ゾンビ、スケルトン……。どれも、違う。時間感覚が曖昧になるほど悩み続け、ようやく一つに辿り着いた。
「…幼体吸血鬼」
口にした瞬間、胸の奥が脈打った。
「了解しました。では、肉体を構築します」
再び現れたパネルには、数え切れない肉体パーツ。俺は無言で選び続けた。
結果、二つの姿が完成する。一つは、長身で引き締まった男。黒髪の長髪と鋭い眼差しを持つ、理想通りの姿。
もう一つは、小柄な少女。幼さと大人の境界を曖昧にした、銀髪の吸血鬼。共通点は一つだけ。笑えば、犬歯が覗く事だ。ルーンは一瞬だけ沈黙し、無表情で微笑んだ。
「これくらいで良いです。それで、名前は、アルカード・ヴァレンタインにします」
「それは、男ですか?それとも女ですか?」
何と、女にもつけていいのか…だとすると…
「最初の方は男で、それで、女の方はカーミラ・V・スカーレッドにします」
「了解しました。それでは、最後にスキルをお決め下さい。最初に取得できるスキルの数は10個です」
そうして出されたパネルには今の自分のステータスが書かれていた。
名前 アルカード・ヴァレンタイン/カーミラ・V・スカーレッド
種族 幼体吸血鬼Lv1/10
職業 無職
状態 幼体・健康
命力 100/100
気力 100/100
魔力 100/100
【種族スキル】
変容.瘴気感知Lv1.吸血Lv1
【特性スキル】
核依存.殺人衝動.吸血衝動.鏡像欠損.信仰制限.真名脆弱
【汎用スキル】
暗視Lv1.
【戦闘スキル】
体術Lv1
【生体スキル】
牙Lv1.再生Lv1.感染Lv1.
【強化スキル】
怪力Lv1.俊足Lv1.魅力Lv1
【耐性スキル】
火脆弱Lv10.光脆弱Lv10.十字脆弱Lv10.陽光脆弱Lv10.聖銀脆弱Lv10.流水脆弱Lv10.聖脆弱Lv10.刺突脆弱Lv10.聖物脆弱Lv10.神聖脆弱Lv10
SP 0
最初から再生と体術があるなら…
「〈鑑定〉〈魔力感知〉〈気力感知〉〈格闘〉〈爪〉〈回避〉〈気配感知〉〈加工〉〈採取〉〈死霊魔術〉の10種で」
「了解しました。並びにこれで、アバターの作成が終了しました。それでは種族適性区域に転移させます。」
種族適性区域?それって…
最後にルーンさんが言った言葉を反芻する前に、目の前を眩しい輝きが目を奪った。
眩い光が俺を包み込んだと思ったら、俺は墓地に転移していた。その場所は何処か薄気味悪く。何か煙?の様な物が溢れ出ていた。俺は即座に気配感知を起動する。
「敵影は無しか。取り合えず魔力感知と気力感知を使ってみるか。」
魔力感知と気力感知、そのどちらもが胸の奥と手先に、二種類の流れがある。それに触れようとしても、すり抜ける感触は、まるで煙を掴むようだった。
「それじゃあある程度スキルの確認も出来たし、いっちょ戦ってみますか。」
さっきまでは範囲内には居なかったが、どうやら寄ってきたようだ。そこからの行動は早く、俺は敵が居るであろう方角に向かって、音を立てないよう急いで歩いた。
《新しく汎用系スキル〈消音Lv1〉を習得しました》
消音のスキルを習得したお陰なのか、敵に気づかれずに向かうことが出来た。
俺は背後から近寄って、思いっきりパンチを繰り出した。それでも敵には効果が無いのか、何も無いかの様に振り向いた。そこに居たのは、足を引きずっており、全身が腐り内臓がはみ出ているアンデット、通称ゾンビがそこに立ちすくんでいた。
「攻撃が効かないとかそんなのアリ?」
腕を振り下ろすと言う単純な攻撃は、回避のスキルが有るから、容易く回避できたが、攻撃が効かなかった事の方が問題だ。殴った感触が可笑しい。何か腐肉を叩いて居る様だ。
そうこういう間もなくゾンビが倒れてきて、必然的に俺はゾンビに押し倒される形になった。
「クソッどうすれば…ここから逃げる手段は…あぁそうだあれがあった〈変容〉」
その言葉と共に俺の体は煙を出しながら、これまでの成人男性の体とは全く違う幼い少女の体になった。私へと変わったことで、押し倒された状態から脱出して、背後に回り背中を羽交い絞めにする。
これは賭けだ。土壇場での吸血。何が起こるか分からん。だが、やるしかない。首筋に噛みついて、全力で吸血のスキルを発動する。
途中で足掻かれたり、手を引っ掻かれたりしたが、そんなの些細な事を気にしてられる程、私は強くなかった。首筋に牙を立て、血が流れ込む。力が漲る。だが、まだ完全には制御できない。それでも、私はひたすらに吸う。
「はぁ~…ようやっと倒せたぁ~」
ドクン…そんな音と共に俺は地面に手を付いた。なにが起こった?何もダメージは受けていない筈だ。いや…私の内部で起きている事象か。
「クソッ、これが吸血衝動かハッハッ…ッハ~大分落ち着いたな」
《新しく戦闘系スキル〈拘束Lv1〉を習得しました》
《スキル〈吸血Lv1〉が〈吸血Lv2〉に上昇しました》
《カーミラ・V・スカーレッドの種族レベルが1上昇しました》




