戦闘後の一杯は格別
薬草を十分に採り終えた俺たちは街に帰ることにした。
「ふう。結構採れましたね」
そう言ってタバコに火を着けるハクア。
「おい、サボリ魔」
「私だって必死にやったんですよ⁉ それなのに……酷いです!!」
そう言って泣きまねを始めた。
まあ俺には通じないが。
「悪いが結果が全てだ。俺が5割でクロエが4。お前が1だ。明日のタバコの供給は考えさせてもらう」
「――な、そんな、横暴な!!」
「働かざる者食うべからずだ。俺は元経営者だからな、その辺は厳しいし、覆す気はないぞ」
「ハーちゃんウケるwww」
クロエがゲラゲラ笑いながら缶チューハイを開け、グビグビ飲み始めた。
クロエは頑張っていたからな、おまけでもう一本あげてもいいかもしれない。
《無限嗜好品供給》を発動し、クロエに追加で渡すと。
「え⁉ いいの⁈ やったー!! 主様大好き!!」
「真面目に薬草採取を頑張ったご褒美だ。勘違いするなよ?」
「オッケーです! 今後も僕、頑張っちゃうよ~!」
うんうん。いい反応だ。
俺はハクアに向き直る。
「わかったか? 俺はちゃんと働く物には褒美を与える。だが、そうでない者にはそれなりの物しか与えない。明日渡すタバコはそれなり――つまり1mmのタバコだ。この意味がわかるな?」
「う、ぐぐぐぐ……こ、このあと活躍したらいいんですね?」
「出来るものならな」
「――っ! クロ! こっち来なさい!!」
「えー? なにさー」
ハクアはクロエと何か話し出した。
よしよし、タバコを与えないんじゃなくて、普段吸っている物よりも弱い銘柄を与えるのが効果的か。
クロエにもこの手法が通じるだろうか……働いた後に酒をたらふく飲ませると約束すれば普通に働きそうだよな。
クロエに関してはその方向でいいか。
ハクアとクロエの会話が終わるまで待っていると――
背後から音がした。
「ん?」
音がした方に振り向くと、変な生き物がいた。
小柄で緑色の肌に醜悪な見た目。
俺の記憶にもあるその姿はたしか……なんだっけ? なんだっけか……ゴで始まった気がする。
ゴ……ゴブ。
「主様! 下がってください、ゴブリンです!」
「そうそう! ゴブリンだ!!」
いやー思い出せてよかった。
俺はすぐにハクアたちの近くへ駆け寄った。
いやいやいやいやい! 何だこの生き物! あれが魔物ってやつか? だとしたら倒す必要があるよな。
武器とかないんですけど。
ゴブリンはその場から動かず「ギャギャギャ」と小さく鳴いていた。
「主様。下がっていてください。私が処理します」
そう言ってハクアが前に出る。
その手にはバールのようなものが握られており――というかバールだ。
一般的に流通しているような、先端に釘抜きのついたL字型のバール。
そのバールをハクアが持っている。
「な、なんでバール……?」
「これが一番手に馴染むんですよね。殴りやすいですし」
そう言ってゴブリンへ近づくと、横に振り払うようにバールを振った。
パンッと音とともにゴブリンが消えた。
消え……た? いや違うか? なんか一瞬紫の煙っぽいのが広がったようにも見えた。
「ハクア、ゴブリンはどこ行ったんだ?」
「今殺しましたよ? このバールに、打撃の衝撃を全身に分散する魔法を付与してあるので、当たると粉微塵になるんです」
なるんです、じゃないが。え、てことは今見えた紫の煙っぽいのはゴブリンの血なのか? 欠片も残さず消し飛ぶの?
俺はハクアの力の片鱗を目の当たりにし、少し体が震えた。
この女を暴れさせてはいけない。
怠け者なくらいが丁度いい。
だが俺は、この女の言いなりになるつもりはない。
あの神が言っていた、俺には危害を加えられないようにすると。
ならば俺がきっちり制御しなくてはいけない、そうしなければこの世界の住人たちが敵に回る可能性がある。
俺は言った。
「ハクア。そのバールは人に向かって使うなよ?」
「もちろんそのつもりですよ。殺す必要のある悪人以外は殺す気はないので……もしかして私のことを誰彼構わす殺すような天使だと思ってます?」
「――思ってる」
俺は深く同意した。
ここで変に誤魔化すよりも、俺の心の内を素直に言う方がいいだろう。
「心外ですねぇ。でしたら契約でもしますか? 魔物と悪人以外は殺さぬように、と」
契約か……それはつまり約束事よりも強制力のあるものだ。そしてそれを天使であるハクアが提案したということは、なにか特別な意味があるのだろう。
そうまでして手を出さないと言っているのなら……信じてみるか。
「いや、そこまで言うんならハクアを信じるよ」
「素直ですね。てっきり契約で縛り付けてくるのかと思っていました」
「これから先一緒にやっていくんだ。最初から信頼関係を放棄するのはお互い嫌だろ? だから、約束だけしてくれ」
「あら、うふふふ。良いですね、その考え。私好きですよ? では契約ではなく、〝約束事〟で留めておきますね」
ハクアはこちらに背を向け、タバコに火をつけた。
俺の服の袖をクロエが引っ張ると、小さい声で言った
「主様、ハーちゃんに気に入られたね。やるじゃん」
「なんでわかるんだ?」
「ハーちゃんって、言われたことには従うけど、すぐ怠けるからね。契約で行動を強制しないとまともに働かないんだよね」
「まあ、薬草採取も全然してないからな……」
「そうそう。だから神様もハーちゃんに仕事させる時は何時も契約でガチガチに縛りつけてたんだよね」
「そうでもしないと働かないのかアイツは……」
「アハハハ! でも今回はハーちゃんから契約を提案されたのに断ったでしょ? あれね、凄くいいよ。たぶんハーちゃんなりの〝試し〟だったんだろうね」
あー、なるほど。あの言葉には俺が信頼できる相手かどうか確かめる側面もあるのか。
「それとね、ハーちゃんにとっての〝約束事〟は契約よりも重いから気をつけてね?」
「……なんでだ?」
「ハーちゃんにとって契約は『嫌々やらされる義務』だけど、約束は『自分が守ると決めた誇り』なんだ。強制されて動くんじゃなくて、自分の意志で動く……ハーちゃんの天使としてのプライドってやつかな? たぶんだけどね。だから、ハーちゃんにとっては、契約で縛られるよりずっと重たい誓いなんだ。……ね? 信頼していいでしょ?
」
「……理屈はよくわからんが、そういうものか」
「そういうものなんです」
クロエの言葉に、少しハクアという天使の内面を知れた気がした。
俺がクロエと話していると、正面――つまりハクアが向いている方角から、ガサガサッと大きな音が鳴り響いた。
音はどんどん数をましていき、その正体を次々と現した。
それは――大量のゴブリンの群れ。
軽く数えただかでも二十匹以上はいる。
その光景を見た俺は声を上げた。
「ハクア、クロエ! 逃げるぞ!」
そんな俺の反応とは裏腹に――
ハクアは静かにタバコの火を消した。
ハクアの口調:主人公へは敬語。クロエにはため口。
クロエの口調:主人公、ハクアともため口。
主人公:基本全員にため口。60歳よりも年上か、権力者には敬語。




