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思惑通りの紫煙

 

 商人に調味料を渡してから数日が経ったある日。

 請け負った依頼の達成報告をしに冒険者ギルドへとやって来ていた。


 胡椒を売ってかなりまとまった金が手に入ったとはいえ、金はいくらあっても問題ない。

 それにこの世界を生き抜くためには、俺もある程度の強さを身につける必要がある。

 そんなわけでここ数日は、ハクアとクロエの監視の元魔物の討伐を主に行っていた。


 二人は「主様が戦う必要はないんじゃない?」とか言っていたが、これは男の矜持でもある。

 弱い人間は強い人間にただ食われるだけだ。

 生き残るためには抗わなくてはいけない。

 俺は小さい頃からそう学んできた。


 とはいえ、やはり生き物の命を奪うという行為は忌避感がある。

 ゴブリンとかいう魔物は何度か殺せたが、人に似た姿をしているせいかあまりいい気分ではない。


 いい気分ではないのだが、奴らの討伐依頼は常にある。

 やたらと数がいるので狩っても狩っても一向に減る気配がしない。


 あの大きさの生き物なら育つのに時間がかかると思うんだけどな……俺が思っている以上に成長速度が速いのか?

 異世界というのは不思議なことが沢山だな。


 俺は素材の買取カウンターに、今日の成果を披露する。


「おっ今日も大量だな。アンタらが来てから弱い魔物の討伐依頼が片付いて助かるよ。……ああ別に悪い意味じゃないんだ、気を悪くしないでくれ」

「気にしなくていいさ。まだ駆け出しなんだ。分は弁えてるよ」

「そうかい。他の新人もアンタらみたいに謙虚だといいんだけどな~。買取金はいつも通り明日受け取るでいいか?」

「ああ、よろしく頼む」


 俺は買取カウンターに魔物の死骸を預け、宿屋に戻ろうとした。


「ヤシロさん! ちょっとよろしいですか?」


 俺に声をかけてきたのは、初日から面倒を見てくれていた受付嬢だった。

 彼女はとてもいい受付嬢だ。

 人当たりもよく、周りの冒険者からも評判が高い。

 だからか、駆け出しの冒険者の面倒をよくみるのだそうだ。


「どうかしましたか?」


 そんな彼女に、俺も自然と敬語になってしまう。

 敬うべき相手にはちゃんと接するのが俺の流儀だ。


「実は、以前ヤシロさんたちがお受けした依頼の商人の方から、店に来てほしいと伝言を頂きまして」

「商人? ……あー、はいはい思い出しました。店に行けばいいんですね?」

「はい。出来るだけ早めに来るようにとおっしゃっていました」

「わかりました。伝言ありがとうございます」


 俺は受付嬢に礼を言い、ハクアとクロエを引き連れ商人の店へと向かった。


 ◇


 店の扉を開けると、すぐに商人が飛んできた。


「おおおおおお! お待ちしておりましたヤシロ殿! ささっコチラへどうぞ」


 店に入るなり歓待ムードのようだ。

 この様子を見るに、どうやら俺の思惑は上手くいってと考えるべきだな。


 俺はそのままついていこうとしたが、クロエに腕を掴まれた。


「主様。ちょい待って。ハーちゃん念のため、結界かけて」

「そうね。フ~。これでこの店が爆散しても主様は怪我を負いませんのでご安心を」

「お、おいおい。何物騒なことを…………そういうことなのか?」


 二人が無言で頷く。


 そうか。そうだな……俺としたことが無条件に人を信用してしまっていたようだ。


 俺は頭を数回叩き、意識を切り替える。

 ここから先は気を抜くわけにはいかないようだ。


 俺たちは商人が待つ部屋へと向かった。




 部屋の中には既に人がいた。

 鎧を着込んだ男が四人に、おそらく執事であろう人物が一人。

 俺たちが部屋に入ると、あからさまに四人の男が殺気立ったのを感じた。


 なぜそうだとわかったのかというと、少し前からハクアにその辺の感覚を鍛えてもらっていた。

 強烈な殺意から、軽微な敵意まで自由自在に操れるハクアから感じるそれと、同じものを男たちから感じとれた。


 その空気に当てられて、二人も殺気立つ――なんてことはなく、ハクアは新しいタバコに火をつけ、クロエは新しい缶ビールを開けていた。自由すぎる……


 まあいいさ。この男たちの狙いは俺だろう。

 ならやることは一つだ。


 俺は執事服の男の目の前に腰掛ける。

 ソファーの背もたれに体を預け、足を組む。

 出来る限り「俺はビビっていないぞ」と態度で示す。

 そんな俺の肩に後ろからハクアが手を添え、ソファーの背もたれに軽く座る。

 男たちへと煙を吐き出す仕草は、どこぞの女幹部の様だった。


 クロエは適当な椅子を引っ張り出してきて座っていた。


 ……よし始めるか。


「それで――俺に何の用だ?」


 素性の知れない相手との交渉。

 そんな相手に舐められるわけにはいかない。へりくだる必要もない。

 この世界では舐められたら終わりだと、ハクアとクロエが教えてくれた。


 執事風の男のこめかみが少し動くのがわかった。

 ヤンキー漫画の様にピキッてるな。

 俺も待ってたぜェ!! この〝瞬間(とき)〟をよォ!!


「貴方様が、そちらの商人へ渡した調味料についてお聞きしたく参りました」

「調味料? あ~胡椒のこと? 悪いけどぉ、俺の手持ちはアレで全部だからぁ~、追加でほしいならしばらく待ってくれる~?」


 俺はあえて相手を逆なでする感じで対応した。 

 コイツラが欲している物が何か、確認する為だ。

 胡椒ならばここで素直に話は終わるだろう。だが、コンソメなら少なくとも俺たちの無礼な態度には目を瞑る。そう確信していた。


 だってこの世界の料理クソまずいもの……いや、ホントマジで…………気が滅入りそうになったよ。

 今では店で食わずに全て自炊している始末だ。

 意外なことにハクアの料理スキルはかなり高いので、食事はもっぱらハクアだよりになっている。

 もうあれだ。胃袋を掴まれてしまっている。


「胡椒ではなく……あの黄金に輝く物を頂きたくまいりました」


 黄金とはよくいったものだ。

 たしかに見ようによっては見えなくもない……か? この世界の人間からしたらそう見えるのかもしれないな。


「あ~、あれね。アレは俺も瓶に入ってる分しかなくてね。そんな簡単には譲れ――」

「全て貴方様の言い値で買い取らせていただきたい」

「…………ふーん」


 思ったよりも好評なようだ。

 とはいえ、執事風の男は言い値でいいと言った。それはつまり俺が吹っ掛けてもいいということだ。

 元手がゼロのコンソメが、法外な値段で売れるとなったら笑いが止まらん。

 笑いが止まらないが……少し気になることがある。


 俺は執事風の男に言った。


「事情を話せば考えるよ」


 この男は何かを隠している。

 俺の長年生きてきた勘がそう告げている。

 そうだ、俺の勘が冴える時は決まってロクな事がない。

 そう、ロクな事がないんだ……


 俺は執事風の男が口を開くまで待った。


 時間にしておよそ一、二分。

 男が口を開いた。


「お嬢様の……最後の、最後の晩餐のためにも譲っていただきたい」


 そう答えた。

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