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記憶操作は飲む前に


「主様〜」

「――んぁ?」


 誰かに体を揺さぶられ目を覚ます。

 微睡む頭を起こし、周囲を確認するとクロエが俺に馬乗りになっていた。


「起きた?」

「起きたよ、ほら重いからどいてくれ」

「重くないんですけどー」

 

 シッシッと手を振り、頬を膨らませたクロエにどいてもらう。

 身軽になったので部屋の中を見回すと、窓の外が薄暗くなっていた。


 結構寝てたな……


 体を起こし、ベッドから降りようとしたところでハクアが告げた。


「主様。村の者から主様と話がしたいと申し出を受けましたが、どうされますか?」

「どうも何も、ソイツらは何処だ?」

「主様はお眠りになられていたので、帰しました」

「ああそう……うーん。とりあえず飯にしよう」

「承知しました」


 まずは腹を満たすのが先だ。

 腹が減った状態ではロクに頭が働かないからな。

 まあそれに……本気で俺に話があるのなら、帰らずに下で待っているだろう。


 俺たちは一階にある宿の食堂へ向かった。


 ◇


「――うん。悪くない」

「そうか。ならよかったよ。ゆっくり食べててくれ」


 運ばれた料理を一口食べて乾燥を言うと、店主は一つ頷き離れていった。

 

 結論からいえば一階に村人は一人もいなかった。

 いないもんはしょうがないので、食事を先にとることにした。


 料理は店主の手作りで、何かの肉と野菜を炒めた肉野菜炒めに、固いパン。


 柔らかいパンが恋しいが、二十歳の姿となった今の俺の歯は問題なく噛みちぎれる。

 味覚もなんだか変わった気がする。

 いや、薄味に慣れすぎてただけかな?


 そして店主が俺たちの視界から完全に消えたタイミングで、ハクアに目配せをする。

 ハクアが《収納》から醤油の瓶を取り出し、それぞれの肉野菜炒めに回しかけ、パンにはオリーブオイルと黒胡椒を振りかけた。


 よしよし、これでだいぶ味が良くなるな。 

 さすがに店主の目の前で醤油を使うのはまずい。

 この世界で調味料の立ち位置がわからない以上、人前では出さない方がいいだろう。

 昔は胡椒が同じ重さの黄金と取引されたと言われてるくらいだ。


 というかオリーブオイルも出せたのには驚いたな。

 調味料に関しては一通り出せるのが確認はできていたが、まさかオリーブオイルもいけるとは……


 とはいえ、ハンバーガーのような調理済みの物は出すことができない。

 米といった食料品も無理だ。

 あくまでも味や風味を楽しめる調味料しか出せない。


 いつか米は探し出したいところだ。

 類似品でもいい。

 とにかく米が食いたい。



 そんな感じで食事を終えた俺たちは、今後のことを軽く話あった。


「さて、二人はまだこの村にいたいか?」

「いえ別に」

「なにも面白いもの無いしね〜」

「じゃあ明日の朝ここを出るか」

「わかりました」「り」


 二人はそれぞれ了解の意を示した。


 ――その時。


「あの……」


 いつの間にか誰かいた。


 誰だろうか……見覚えは……あるような無いような。


 俺が首を傾げているとハクアが言った。


「昼間のアホどものリーダーですよ」

「……ああ、そうだそうだ。で? 何か用か?」


 リーダー格の男は床に這いつくばり、土下座のようなポーズをとった。


「アンタたちに――」

「あんた?」

「……あなたたちに迷惑をかけたのは重々承知している! 俺はどうなっても構わない! だから、力を貸して欲しいんだ!」


 力ねえ……この期に及んで何をして欲しいんだか。

 そもそも俺らにそんな義理はないわけで……そうだな、話くらいは聞いてやるか。暇だし。


「俺に何をしてほしいんだ?」

「彼女を――アンナを助けてほしいんだ! 頼む!!」


 誰だよアンナって…………ああそうか、例の女のことか。


「それで、アンナってのがどうした?」

「村のどこを探しても見つからないんだ……きっと誰かに攫われたか……昼間のことを気にして自分で神殿まで行ったのかもしれない……夜になると魔物が活発に動き始めるから……俺一人じゃとても……」


 あー、思い出した。

 クロエが言うには、別の男と逃げたんだよな。

 この男はその事を知らないから騒いでるんだな。

 

 すると、ハクアが何かを思い出したように「あっ」と言った。


 …………なんかやったなコイツ。


「ハクア。何か知ってるか?」

「主様が眠った後に連れ戻しに行ったんです。その際、元々生贄になる予定だったので、魔族の死体の傍に置いてきました」


「……へ? え?」


「因みに僕の追跡はまだ機能してるよ〜」


 ……ハァ。

 ここで無視するのも寝覚めが悪い。

 仕方ないが救出に向かうか。


「二人とも行くぞ」

「よろしいのですか?」

「見殺しにするのも後味悪いだろ。仕方なくだ」

「わかりました」


 俺たちが椅子から立ち上がると、男は泣きべそをかきながら感謝の言葉を述べた。


「――ああ、ありがとう! ありがとうございます!!」

「これに懲りたら、これからは村の警備をちゃんとしろよ?」

「はい! 必ず!」



「あ、ごめん反応消えた」



 クロエの一言に食堂の空気が死んだ。



 …………

 


 俺は無言でタバコに火をつけた。

 するとハクアがヌッと掌を上にして差し出す。

 残り半分になったタバコの箱を渡すと、ハクアもタバコを吸い始めた。



 ――フゥー。ほんまコイツら………………いや、コイツらなりに……うん……スゥ……百歩譲って……フゥー…………


「ハクア」

「はい」

「亡骸だけでも回収してこい」

「…………今からですか?」

「行かないなら五日間1mmだ」

「すぐ行きます!」


 ハクアはすごい速度で宿屋を飛び出して行った。


 ◇


 二階の部屋に移動し、5分ほどでハクアは戻ってきた。


「ハァハァハァ……申し訳ありません。腕しか残ってませんでした」


 そう言って血に濡れた腕を差し出してきた。

 いやいやグロいグロいグロいグロいグロい!


「うおっ! そんなもん見せんじゃねえ!」

「証拠ですので」

「てめえ……仕返しか?」

「さあ? なんのことですかね?」


 そう言うと、ハクアは床で呆然と座り込んでいる男に腕を放って渡した。

 男はその腕を両手で抱き寄せ、嗚咽を漏らした。


 …………なんか逆に居た堪れない気分になってきた。

 正直魔物に食われる程のことをしたかと問われると……してはいるか。

 どうしたもんかな。


 クロエが無言で男に近付くと、ガッと男の頭を鷲掴みにすると――


「――っ! ぁっぁっぁっ――」


 男の目がぐるんと白目をむいた。

 直感で理解する。

 ――ヤバいやつだ、と。


「お、おいクロエ……」

「大丈夫大丈夫。女との記憶消してるだけだから――はい終わり」


 男の頭がガクンと項垂れ、すぐにハッとしたように意識を取り戻した。


「……今、何が――うわあ! 何だこれ⁈」


 男は手に抱いていた腕を放り投げ後ずさった。

 すると何故、ここにいるのかわからないといった表情をした。

 

「アンタらは……昼間の……昼間? なんで俺はアンタらをあの場所に? え?」

「昼間の件で主様に謝罪したいと貴方が尋ねてきたのよ。もう用は済んだから早く出て行きなさい」

「そうそう、ハイお疲れ様~」


 男はクロエに首根っこを掴まれ部屋の外へ放り出された。

 

 ……ハァ。こうなってしまった以上、この件はこれで手打ちだな。

 この腕どうすんだよ……部屋も色んな所に血が飛び散ってるし。

 店主になんて言い訳しようか……


 俺が今後のことを考えていると、ハクアが煙を吹き出すと煙に触れた所の汚れが見る見るうちに消えていった。


「そんなこともできるのか」

「はい。血の跡と腕は私の方で処理しておきますので、主様は休んでてください」

「僕はそろそろ一杯やりたいな~。役にたったでしょ?」

「そうですね。私も役に立ちましたね?」

「――ああもう、わかったわかった。ほれ」


 《無限嗜好品供給むげんしこうひんきょうきゅう》を発動し、タバコと酒を二人に支給。

 

 もう飲んで忘れよう。


 そう思い、俺はウィスキーをコップに注ぐと一気に飲み干した。

この世界人間がポンポン死ぬな……

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