次の村で一杯やろう
あれから囮は数時間後には消えたらしく、それ以降追ってが迫る気配もないとの事で、完全に撒くことが出来た。
追っ手を無事に撒くことが出来たので、のんびりと街道を徒歩で進み続けること二日。
ようやく人の住んでいそうな村が現れた。
ああ、疲れた。
やっと屋根の下で寝ることが出来る。
さすがに二十歳の頃に戻ったといっても二日間も歩き続けるのはキツイ。
あの町を離れ、ひたすら街道沿いに歩き、時折魔物が襲って来るもののハクアとクロエが一蹴してくれていた。
男として情けなくも感じるが、人間相手の喧嘩とはわけが違う。
適材適所。慣れてる人間に任せるのが一番だ。
俺たちは村で宿をとり、一休みすることにした。
◇
「アンタら、他所の人間か?」
「ああそうだが……宿屋に泊りに来る人間なんて余所者くらいしかいないだろ?」
「まあ、そうなんだけどな……悪いことは言わねえから早めにこの村を出な」
村に唯一ある宿屋の亭主が可笑しなことを言い出した。
客商売をするうえで、早く出て行けというのは頂けない。
料金に見合ったサービスを提供し、より長く滞在してもらい金を落としてもらう。それが宿屋としてあるべき姿だ。
とはいえ、俺の元経営者としての感はこう言っている。「この店主は善意でそう言っている」――と。
こういう時の俺の感は当たるんだよな……聞いてみるか。
「なんでだ?」
「……大きな声では言えんが。今、この村の若いのと年寄り連中が対立しているんだよ。アンタらは余所者とは言え俺の宿の客だ、嫌な目にあって俺の宿の評価が落ちるのは嫌なんでね」
「なるほど……すまない。貴方のことを勘違いしていたようだ。助言に従って早めにこの村を出るよ」
「おっと、随分と聞きわけが良いな」
「善意の警告かそうでないかくらいはわかるんでね」
俺はそう言うと鍵を手に自分たちの部屋へ向かおうとした。
「主様。アレ。どうします?」
ハクアの指差す方を見ると、窓の外に若い男たちがこちらを見ているのがわかった。
……いや、知らん知らん。俺は関わる気はない。
「無視無視。俺は関わる気はない。お前らも変に絡んだりするなよ?」
「主様がそうおっしゃるのなら、私からは何も致しませんよ」
「アイツらなんか焦ってる感じするね。あっ、僕はねーなんかねー、ハイなボールが飲みたいよね。主様?」
「…………バレない様に情報を集められるか?」
「あーっとそれだと報酬が倍になる気がするねー! 濃い目のハイなボールでもいいよ!」
俺は《無限嗜好品供給》を発動し、ハイボールを二缶クロエに渡した。
「おほ~^q^ それじゃまずは部屋に行こうか。その方が怪しまれないし」
「そうですね。まずは部屋で一休みしましょうか」
そう言って二人は二階に向かった。
何というか……まあいいや。
俺は二人の後を追い、二階の部屋へ向かった。
◇
「さてクロエ。この後はどう動くつもりだ?」
とりあえず今後のクロエの動きを知るために問いただす。
下手な行動をされては困るんだよな。
宿屋の店主は若いのと年寄りが対立していると言っていた。
さすがに具体的な内容を余所者に離す気はないようなので、何で対立しているのかはわからない。
まあ、その情報をクロエが探ってくれると言っているんだ。信用……してみるか。
「取り敢えず適当なの捕まえて頭の中覗こうかな?」
「ちょっとまて」
……コイツは今なんて言った? 頭の中を覗く? どうやって? ……きっと魔法で何とかするんだろうな。
「大丈夫ですよ主様~、故意にやらないと後遺症は残さないから。ちょいちょいっと頭の中見たら無傷で解放するよ~」
「それをすることによって、俺たちに敵対されたりしないよな?」
「しないしない。僕がやったって記憶も残らないんだし。それじゃあ早速行ってくるね! 最後のガラスをぶち破れ~♪」
そう言ってクロエは窓を突き破って外へ飛び出していった。
「………………ああああああああああ! なんなんだアイツは!!!!!!」
「……ハァ。窓は私が直しておきますので、主様は少し休んでいてください」
部屋に静寂が訪れる。
シンと静まり返る部屋で、ハクアが魔法で木製の窓を直し始めるのを見て俺は言った。
「ハクア。お前何時もあれのお守りをしてたのか?」
「まぁ……お守り、というと語弊がありますが。概ねそうですね」
窓を直し終わったハクアは訂正するように付け加えた。
「窓をぶち破るのは余計でしたが、誤解しないでくださいね。あんな感じですが本当に誰にも気づかれずに、この村のいざこざの情報を手に入れて帰ってきますよ。あの子は」
「そうであることを願うよ……ハア。もういいや俺は一杯飲むが、ハクアはどうする? たしか前の町では見張りするから飲んでなかったよな。お前も飲むか?」
「いえ、私は下戸なので遠慮しておきます。それよりも新しいタバコを下さい」
「そうか。まあ飲めないんじゃ仕方ないな。ほれ」
「ありがとうございます」
俺は《無限嗜好品供給》を発動し、適当な缶チューハイとタバコを出した。
改めて思うがこの《無限嗜好品供給》というのはコストもなくタバコと酒と調味料を出すことが出来るのは強いな。
今の所、出せる量の制限はあるが、それでも破格な性能だ。
缶チューハイを飲みながら、改めてこの能力のことを考えた。
この《無限嗜好品供給》で同時に出せるタバコは二つまで。
酒の大きさは一升瓶が限界で、500mlの缶なら三本まで同時に出せた。
ああ、そうか。酒に関してはもしかしたら、本数とかではなく中身の量かもしれない。要検証だな。
そこであることに気がついた。
そういえば連続で出すことは可能なのか――と。
今までタバコは全て吸い終わってから新しいのを出していた。酒に関しても同じだ。
俺は《無限嗜好品供給》を発動し、タバコを二箱出す。
すぐにもう一度発動し、タバコを出す。
…………出た。やばい。このスキルやばいぞ。
ノーコストで文字通り無限に出すことができる。
いや、待て。とりあえず何個出せるか試してからだ。
意外と二回目以降はすぐに出せない可能性もある。
…………
…………連続で何個も出せた。
や、やばい。本格的にこのスキルやばいぞ……絶対に人に知られてはいけない。
そういえば気軽に人前で使ってた気がする……よし、後で鞄を買って次からはその中で発動するようにしよう。
むしろこの段階で気づけて良かったと思おう。
俺は缶チューハイを一気に飲み干し、タバコに火をつけた。
空き缶から無限にアルミとスチールが取れるってヤバない?




