朝日を眺めながらの一服
パチッと目を覚ます。
少し思考がボヤけるが問題なく起きられた。
目覚まし時計がなくとも、自分が決めた時間に起きることができる。
前の世界で長年培ってきた俺のささやかな特技だ。社長業の悲しい性ともいう。
まだ部屋は薄暗く、仄かに部屋を照らす月明かりが、まだ日が昇っていないことを示していた。
「主様。おはようございます」
「ああ、おはよう」
声をかけてきたのハクアだった。
窓辺に腰掛け、静かにタバコを吹かしているその姿は、月の光と仄かに灯るタバコの火により、まるで完成されたような宗教画のように美しかった。
「――あー、外の様子はどうだ?」
「動きはありませんね。宿から我々が出てくるのを待っている、といった感じでしょうか」
「なるほどね。それで――」
言いかけて俺はやめた。
クロエが酒瓶を抱き締めながらベッドでイビキをかいていたからだ。
不眠不休で見張るとは何だったのか……
ハクアが夜通し起きててくれたからいいか? いや、もしかしたら交代してクロエが寝る番なのかもしれない。
一応確認しとくか。
「一応の確認なんだが、交代で見張ってるんだよな?」
「……いえ。私はずっと起きてますよ」
「そうか……」
俺は無言で《無限嗜好品供給》からタバコを出すとハクアに渡した。
「あら、よろしいのですか? 私は別に疲れてはいませんが」
「いいんだよ。夜通し見張ってくれたんだろ? 労いくらいはするさ、遠慮なく受け取ってくれ」
「――わかりました。では遠慮なく……明日も夜通し見張れば貰えますか?」
「んなわけねえだろ。クロエを起こしてくれ、出発するぞ」
コイツ下手したらタバコのために毎日徹夜しかねんな……その辺は上手くやらないとダメか。
俺は昨夜の宴会の片づけを始めた。
酒瓶にタバコの吸い殻……なんでこんなゴミがでるんだよ。
というかハクアは俺が寝てる間に何本吸ってるんだ? 最低でも一箱分はあるぞ。
片づけを終え、振り返ると――
荷物を持つように、クロエを肩に担いだハクアが立っていた。
「……もしかしてだが」
「起きないので担いで行きます」
「ハァァァァ~、わかった。襲撃を受けたらすぐに俺にクロエを預けてくれよ?」
「その件についてなのですが。考えがあります」
◇
宿屋の一階に行き、ハクアが例の良い案について説明してくれた。
「私の魔法でデコイ――つまり囮を作ります。連中が引っかかっている内に街を出ましょう」
「囮か……確かに良い手だ。じゃあ早速頼む」
するとハクアは無言で手を俺に差し出した。
……
《無限嗜好品供給》でタバコを出し手渡す。
「では、始めますね」
そう言ってハクアはタバコを吸い、煙を吐き出した。
すると煙はみるみるうちに俺たちそっくりに形作り、一目見た程度では見破れないほどの出来栄えだった。
なお一人当たりの消費は五本。
ま、まあ囮に使えるんなら必要経費としても妥当だろう。
安全に町を出る為にハクアが作ってくれたんだ。
労いはしても非難するいわれはない。
「それでは我々が向かう方向とは逆方向に走らせますので」
「ああ頼む」
煙の人形が静かに動き出し、宿屋の扉を開くと同時に走り出した。
その様子を隠れながら見ていると、別の建物の影から数人の人影が飛び出すのが見えた。
どうやら引っかかってくれたようだ。
俺はハクアに目配せをし、静かに宿屋から出た。
◇
街道を小走りで進んでいると、次第に陽が昇り始めた。
町を離れて三十分くらいの所で一旦休息をとることにした。
「――ハァハァ。ここまでくれば大丈夫だよな」
「そうですね。囮もやられた気配は感じないので、上手くいったようですね」
ハクアはそう言いうと、肩に担いでいたクロエを地面に雑に放り投げた。
「ぐぇっ」
石畳の地面に落ちたクロエはカエルが潰された時のような声をだし、すぐに立ち上がった。
「いったー。あれ、ここどこ? 私のベッドは? あれ……お酒がない⁉」
「おはよう、クロ。貴女が提案した作戦通りに行ったからここにいるのよ?」
「……ああ、だから外なんだね。僕が言った通りハーちゃんの囮が役に立ったでしょ。褒めてもいいよ」
「はいはい」
「囮を使う案はクロエが考えたのか?」
「そうだよ~。主様が寝た後に、僕がアイツらの偵察に行ってね。予想通りだけど大した事ない奴らだったから、囮だけで十分って判断したんだ~」
そうだったのか……てっきりハクアの案かと思ったが、クロエの案だったとは……
俺が思っている以上に有能なのか?
チラリとハクアを見るも、本人は興味がなさそうにタバコを吹かしていた。
本当に有能なのだろうか……ハクアに聞いてみるか。
「なあハク――」
「癪ですが、クロは優秀ですよ。特に戦略、戦術、裏工作、交渉といったことに関しては私よりも上です」
「僕。意外と頭がいいんです」
「その発言がすんごい頭悪いけどな」
……そうか、クロエは頭が良いのか。
たしかに前の世界でもそういう部下はいた。
同僚からの評価はカスだったが、売り上げだけは異様に高い。
出世欲もなく、ただ自分の成績が良ければいいという考えだったな。
クロエの場合は酒が飲めるか否かだろうか……ちゃんと仕事をしてくれれば酒を提供することに抵抗は無いんだけどな。
たしかにこの二人を部下にすると頭を抱える。
一人は仕事ができるがサボり魔のヤニカス。
もう一人は仕事ができるが常に酒を飲んでる酒カスだ。
俺は今後、この二人を制御しながら第二の人生を送らなきゃいけないのか……
街道の石畳の上でタバコを吹かし、酒瓶を異空間から取り出している二人の天使を眺めながらそう思った。
実際、寝起きは最初にタバコを手に取る。(経験談




