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宿屋で飲み放題

 

「――もう、ですか?」

「ああ、出来るだけ早くが良いな。日の出前が好ましい」

「昼間の連中のことですか?」


 俺はタバコの火を消し、窓の外に視線を移した。


「そうだ。ああいう輩はバカが多いからな。俺たちが大金を手に入れたからそれを奪おうと動くだろう」

「昼間、クロエに痛い目にあわされたのにですか?」

「バカってのは俺らの予想を遥かに超えた動きをするもんだぞ? というか気づいてたのか?」

「ええ一応。クロエからも指摘されましたから。昼間の連中が宿の外で見張ってる――と」


 もう外で見張られているのか、思ったよりも動きが速いな。

 ガバガバ酒飲んでるくせに俺が指示するより先に索敵を行ってたのか……アイツ酒を抜きにしたら優秀なのでは?


「あるじさま~アイツら今からボコボコにしてこようか~⁈」

「やめなさい。面倒事が増えるだけだ」

「実際どうなさるおつもりですか? 日の出前にこの町を離れるのなら、今のうちに処理した方が良いかと」

「それだと俺たちが一方的に悪者にされる可能性があるだろ? 俺らは今日来た、言わば〝部外者〟だ。アイツらがどれだけ顔がきくのかもわからない状況で下手なことは出来んよ」


 実際ハクアとクロエが声をかけた時に、周りの人間が誰も動かなかったからな。

 何かしらの権力――もしくはそれに準ずる何かがあるとみて間違いない。シンプルに冒険者としての実力がある可能性もあるが……クロエの大声で気絶したからな。その線は無いか?


「正直な意見を申し上げますと、あの者たちは取るに足らぬ存在ですよ?」

「……わかったよ。正直な俺の意見を言おう」


 俺はハクアと酒瓶をラッパ飲みしているクロエに視線を向けた。


「外の連中のあーだーこーだなんて正直どうでもいい。俺はただ――眠い。お前ら二人なら襲撃が起きても対処できるよな? 可能なら交代で見張りを頼みたい。俺は徹夜明けに逃げるとなったら、まともに動ける自信がないんだ」


 いやー、久しぶりのアルコールはヤバイ。超眠くなる。ただでさえ昼間は動きっぱなしだったんだ、体の疲労も相まって超眠い。


「もちろんです。私たちは天使ですので、長期間の不眠不休など造作もありません。交代などせずとも、二人で目を光らせておきましょう」

「のまのまイェイ!」

「……なんか超不安になったんだけど」

「……ハァ、こんな風になってもいざという時は動ける子ですから」

「そう願うよ」

「のまのまイェイ!!」


 クロエが酒瓶片手にブレイクダンスをし始める。


「……ハクア。やっぱり駄目じゃないか?」

「…………ハァァァァ~。主様。新しいタバコをお願いします」


 目の前で回転する酔っ払いを視界から外すように、ハクアが深いため息をつき新たなタバコを要求してきた。


「まだ残ってるだろ。それを吸い終わってからにしろよ」

「これからこの部屋に結界を張りますので、それ用の〝触媒〟として頂きたく」


 ……結界? ああ、確か昼間に見たあの煙のやつか。

 まあそれなら仕方ない、か? 

 《無限嗜好品供給むげんしこうひんきょうきゅう》から新たなタバコを出し、ハクアに渡す。


「ありがとうございます。では早速――」


 ハクアが火をつけた瞬間、タバコはチリチリと音を立て、一息でフィルター付近まで灰に変わった。


 お、おお……凄いな、漫画とかで見たことあるが実際目にすると凄いと思う反面、健康的に大丈夫なのかと余計な心配をしてしまう。


 ハクアが一ヵ所ごとに一本消費し、部屋の四隅に向け煙を吹きかける。

 さらにハクアは続け様に三本を同時にくわえ、天井、床、壁へと一気に煙を吹き付けた。


 …………すんごい煙い。


 視界が白く染まるほどもわもわする中、充満した煙は次第に空間そのものをコーティングするように固定されていった。


「ゲホッ。結界ってのはどれもこんな感じなのか?」

「いえ? 私のオリジナルですよ。本来なら地面に複雑な魔方陣を描いたり、高価な魔石を配置したりする必要がありますが、私はそれをタバコの煙で代用しているんです」

「なんか、凄い低コストな結界だな……」

「何を言っているんですか、私の魔力を含ませた煙ですよ? そこらの魔石とは比べ物にはならないほど強力です」


 そんなに凄いのか?


 試しに壁を叩いてみると、木の壁とは違う手応えを感じた。

 たとえるならば、木の壁なら『ガンッ』という鈍い音のはずだが、今は『キンッ』と硬質な金属を叩いたような感触が手に返ってくる。

 正直、自分でも何を言っているのかわからないが、確かになにかしらの力が働いているのは間違いなかった。


 何度体験しても魔法というのは不思議だ。

 科学的な根拠や物理法則なんてものは一切通用しない。

 向こうの世界で六十年生きてきて、今さら初めての経験に心を躍らせることになるとはな。

 積み上げてきた常識が通用しないというのは、なんだか……ひどく新鮮で、楽しい。


 俺の様子を見て、ハクアは言った。


「主様。結界の強度はご確認いただけましたね?」

「ん? ああ、確かにこれなら安心だな。お前らももう寝るか?」

「いえ、主様は先にお休みください。私は〝あれ〟の面倒を見なければいけないので」


 そう言って指差す先には、先ほどとは打って変わって床に座り静かに飲むクロエの姿があった。


「……もしかして酔い過ぎて気持ち悪いとかか?」

「違いますよ、クロは酔うと気分がランダムで変化するので、今は腰を据えて飲みたい気分なんだと思います」

「そうか……静かなうちに俺は先に寝させてもらうぞ」

「はい。おやすみなさいませ」


 俺は硬いベッドに身を投げた。


 明日は朝から面倒なことが待っている。

 今は少しでも体を休ませよう。


 目を閉じるとすぐに意識が遠のくのを感じた。

 それは久方ぶりのアルコールのせいか、はたまたこの世界に来た疲れのせいか、答えを出すよりも先に俺は眠りに落ちた――

マイアヒー

マイアフー

マイアホ―

マイアハッハー


え、うそ……飲ま猫問題って調べたら2005年位の出来事なの? え? 21年前⁈ 嘘だよね⁈ 作者は若いよ⁈ ほんとだよ⁈

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