8話 交錯する思惑
「これは····人骨か?」
神殿に入口からすぐの所で鬼一はあるものと遭遇していた。
木々の光にぼんやりとそれは映し出された。私も肉が腐り落ち、カンテラを携えた人間の骸骨である。
通常ならばアルカのダンジョンでは遺骨は既に回収されている。
ましてや管理運営されているダンジョンで人が死ぬことは基本的にはないのである。
しかし、骸骨があるという事は鬼一がいる現在地はアルカのダンジョンでは無いという事の証明にもなる。
「カンテラだ、燃料はまだある。使わせてもらおう」
鬼一が手を合わせてからカンテラを骸骨から拝借し、まだ何か残されていないか遺体を探る。
「お、しめた!」
火起こし石が一式出てきたのである。
火起こし石とはこの世界での火打ち石とほぼ同じ物で、異なる点は短い間、石が発火し続ける事にある。
火起こし石を打ち付け、ボワッと火が付く、火をカンテラへ移動してやるとカンテラが光を放つ。
「これで幾分かマシになったな」
辺りの暗がりをカンテラの光で照らしてみる。
光が黒い石造りの神殿の中に反射する。
どうやら外の石よりも研磨されているため、光を反射しているようだ。
その有り様は怪物の食道を想起させるものだった。
「·······おお、こえぇ」
おっかなびっくり直線の一本道を進んでいく。
「ええい、まだ見つからないのか!」
ダイン隊長の怒声が飛ぶ。
鬼一達がどこかへ飛ばされた後、すぐさま演習は中止となった。
現在はアルカのダンジョンの管理室でゴーゴリ司教も随伴の元、鬼一達の捜索活動は大規模に行われている。
アルカのダンジョンは既にその大部分がレイバルン帝国により管理、運営されている為。
鬼一達がなぜ目の前から消えたのかも観測できていたのだ。
鬼一達が消えた理由は至極単純、転送魔術でどこかに飛びされてしまったからである。
しかも魔術からして直ぐ近くに転送される事がわかったのだ。
「だめです!アルカのダンジョン全てを使い魔を介して捜索していますがそれらしい人影すら見つかりません!」
アルカのダンジョンの管理役員の一人、テリーが報告する。
「クソ!あの状況とは言え、部隊内に始めから亀裂が入っていたとは!」
隠れていた地雷に毒づくダイン。
生徒単位での派閥争いは、時としてその状態そのものが日常になりやすかった為、発見が遅れたのだ。
それはともあれ、クラスの雰囲気は少し下がっていた。無理も無い、自身の能力すら通じない相手に相対し、派閥が違うとは言え目の前で生徒がいなくなったせいでもある。これでは殺されたも同然だ。
次は我が身と考えない生徒の方が珍しいと言えよう。
「アルカのダンジョンからも文字通り死体すら消えた。いったいどこにいるのだ鬼一、坂岡、伊野!」
「······魔王討伐隊から欠員が出てしまったのは仕方無いこと。いつ再び魔王軍の幹部が来るかわかりません。やはり早急に訓練を押し進めるべきでしょう」
ゴーゴリ司教がダイン隊長に提言する。
「残った奴らはなんとか俺が立ち直らせてやる。だが、捜索を打ち切るのは判断が早急すぎる」
緊張した面持ちでゴーゴリ司教がダインに耳打ちする。
「··実は既に王族の一部の者が、魔王討伐隊に気づきました。ある者は自分の手駒を使って回収するとも発言していました。····魔王の手先に会う前に今以上に天王司を筆頭とした魔王討伐隊の育成を優先すべきです」
「それではどうする!?見捨てる気か?」
「いえ見捨てる訳ではありません。一部の王族の手に渡るの本望では有りませんがこの際彼らを悪くは扱わないでしょう。こちらも割ける人員は多くありません。この際一部の王族の善意を信じましょう」
「·····致し方····なしか···」
悔しそうに口を曲げるダイン隊長。
数分の逡巡の後、決心するように顔を上げる。
「総員きけい!これより後捜索は中止!然る後に魔王討伐隊の演習を開始する!」
ダイン隊長の一声を受けて、沈黙するダンジョンの管理役員達。
「俺とて辛い、皆、わかってくれ」
ダイン隊長の声が辺りに響く。
そして一人、また一人と部屋から出ていく。
誰一人として明るい顔の者はいない。
どんよりとした雰囲気のまま、部屋から全ての人員がいなくなった。
ただ一人を除いて。
「鬼一、坂岡、伊野。···お前たちの幸運を祈る」
ザイン隊長が黙祷を捧げる。
所変わって、玉座の間。
ダインミュンダース2世が王座立ち上がり、間から出ようとした時、小太りの形をした召使いの一人が駆け寄ってきた。
ダインミュンダース2世がそちらに耳を傾ける。
「演習中に魔王の幹部の一人が討伐隊と接触し、例の1人を含めた3名が行方不明に。それとその回収に貴腐のエイレーン、強奪のダガンが動きました」
召使いが耳打ちをした。
眉をしかめるダインミュンダース2世。
「神の鞭計画にさしたる問題は無い。が、アレが奴らの手に渡るのは少々マズイか」
少し顎に手を当て考える。
「こちらも密偵を放つ。奴らの考えはある程度想像できる。よく見張らせておけ」
小太りの召使いに命じ、ため息をつく。
「せっかく作り出した能力者だ、失うには少々惜しい。しかし、よりにもよって神の右腕が欠けたか、あれは少々使い道があるのだがな。魔王め、こちらの戦力は既に把握済みか」
その独り言を聞くものはいない。
声は風に溶けて消えていった。
一方その頃、坂岡と伊野は魔獣の追討を受けていた。
場所は細かい芝生のような物が繁茂する丘の上。
伊野はカンテラに火を灯し、それに追従するように坂岡も下り坂を疾走する。
二人は能力を発現させて、魔獣に対抗している。
どの魔獣も人より大きく、どこか歪な体の大きさをしている。それらは集団で狩りをする狼のような印象を受ける。
「ハァ、ハァ。いつになったら休めるんだ?と言うか脱出口はどこなんだよ!」
息をつきながら坂岡が言う。
拒絶の聖壁で魔獣の爪から間一髪逃れた伊野が言う。
「時間の感覚も定かじゃない、僕たちもそろそろ限界だよ」
隙を突いて坂岡が追ってくる魔獣の体に斬撃を飛ばす。数体を巻き込み怯ませたが、その場しのぎにしかならなかった。
倒れ込んでも直ぐに立ち上がり追ってくる。
「ゼェ、ゼェ、地図も全然当てにならないよ!上層のダンジョンともここだと使用が違うみたいだし!脱出口も上に登る事もできないみたい!」
「何がどーなってんだ!さっきの地図が出した階層は間違いだったのか!?」
混乱する坂岡、伊野は必死に地図を見るが、何度見返しても自分たちの現在地がわからない。
と、伊野の目端に黒い石柱が映る。
光る木々の間から見え隠れするそれはぽつんと立っていた。
どうやら何かの建物の一部のようだ。
「と、取り敢えずにあの建物に避難しようよ!隠れる位は出来そうだしさ」
「そうなりゃ先にこいつらをまくのが優先だな!煙幕を焚く!」
「その間にあの建物へ行こう」
坂岡が煙幕の呪文を唱え出す。
「天命に代わりて俺が命ずる。煤の帳を広げ、彼奴らの視界を塞ぎ給え」
坂岡の身体からボンと音を立てて黒い煙が立ち広がる。
大規模にその黒い大気は周囲に勢いよく広がった。
それは熱と黒い煤で出来た細かい粒子を主体に構成されていた。
魔獣たちが黒煙の煙幕に突っ込む。
この階層の魔獣たちはいづれも嗅覚や熱感知に長けていた為、見事に黒煙の効果が刺さってしまった。
黒煙の中で悶え苦しみ、のたうち回る魔獣達。
それを尻目に坂岡と伊野は光る森へ入っていった。
「効果テキメンってやつだな」
「うまくいったね。でももうあんまり魔術は使わないようにしたいね」
「ああ、俺は残り使えても3つかな。焦って使いすぎちまったぜ」
「僕も心もとないかな。使えて後2つ。負荷の時に喪使っちゃったから少ないや」
青白く光る木々の中を行く2人。
影に隠れ、先程の黒い建物を目指してゆく。
光る木々の間からその異様な様相が疎らに見え隠れ
する。
「あれは、神殿か?それも黒い石で作られた」
移動しながら確認していた坂岡からそんな言葉が出る。
「地図には載ってないね。やっぱりこの地図がおかしくなったのかな」
伊野が頭を捻る。
「····案外行けば何かわかるかもしれないぜ」
呑気に坂岡がそう言う。
「·····僕たち、どうしてこうなっちゃったんだろうね」
伊野の雰囲気を察したのか坂岡が続ける。
「まぁ、過ぎちまったことは仕方ないさ。よく考えるだけ面倒だぜ」
坂岡の表情も優れない。
クラスの全滅を回避するために都合よく生贄にされた。爪弾きにされていた者としてはこの上なく歯がゆい状況だ。
「あの状況ですんなり差し出される身にも慣れってもんだぜ」
「まぁそれはそう。なんでこうなったんだろう、やっぱりこっちに来るのが間違いだったんじゃないかなぁ」
「そこだけは俺も同意見だわな。やっぱやべー案件だったし、何としてでも元の世界へ返してもらうべきだったんだが」
それに半ば同意したんだよな、と坂岡が続ける。
(どこか、心のどこかで非日常の、それもゲームみたいな世界を望んでいた自分がいたことも否めない。クラスでの居心地の悪さの憂さ晴らしにでもなればと思ったんだけどなぁ)
歩きながらそう思いを愚痴る坂岡。
そんな心の弱みにつけ込まれる形で異世界に飛ばされて能力と言う力を得て魔王を討伐する。そんな役割を背負わされてしまった。
「やっぱこー言うのはゲームの中だけにしてほしいぜ」
「こーいうの?」
「魔王を倒すだの、特別な力だのだよ。確かに現実として現れてほしいけど、それはあくまでも一時的な話だ。正気で考えていたらこんな事にならなかったんだ」
坂岡の口から思わず愚痴が溢れ出る。
考えてもしょうがないと自分で言っておいて何を今更と、坂岡がニヒルに嗤う。
「あいつも馬鹿だよなぁ。自分で様子をみておいていの一番で殺られるとかさ」
あいつ、とは鬼一の事である。
「なんでこーなっちまったかねぇ」
「愚痴っても意味無いことくらいわかってる。けど言わざるを得ないよね」
しょんぼりとする一行に現実に突きつけてくるかのようにその建物は現れた。
黒色の神殿と思われる建物だ。
「近くで見るとかなりデカいよな」
「うん、用心していこう」
神殿は中心に何かが描かれた柱のようなモニュメントを中心に広場が広がり、そこから離れた場所に神殿の入り口は配置されていた。
「これは何が書いてあるんだ?」
松明を灯した坂岡が火を掲げてそのモニュメントに目を凝らす。
モニュメントは天を差すかのように上へ行くほど細長く槍の穂先のようになっており、青紫の楔形文字のような字がその表面にびっしりと書かれている。
「うーん、帝国で使われている文字とも違うみたいだね」
坂岡の隣に並んだ伊野がそう言う。
「今が何時かわからないけど、取り敢えず疲れたからここでキャンプするか」
「そうだね、幸いここの森にまでは魔獣も襲ってこないみたいだし」
手頃な枝を多数見つけ、そこに火が焚かれた。
「こんな事態になるとは思ってなかったから今日のご飯はこれだけだね」
4つの乾パンを差し出す伊野。
「俺の荷物は一緒に飛ばされなかったから、済まないご相伴に預かるぜ」
焚き火を囲み、乾パンを分け合いかじる2人。
「ああ、そう言えば。こんな事があったよな」
誰に勧められるでもなく、坂岡が昔の話を始める。
彼らがまだ個別でいた頃の話である。
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