6話 介入
ダンジョンの演習は、午前の半ばに入ってきた。攻略した階層は26階層まで到達。
生徒達の疲労もギリギリになって来た。
「かなり、やってきたもんだが。かなりキツイな」
「しんどいのはいつもじゃねぇか。ザイン隊長の訓練、忘れたのかよ」
囁き合う鬼一達。
ここのダンジョンに来る前の訓練について考えていた。
「いろいろやったよな。結構どれも体を使ってたし」
思い出しながら鬼一が語る。
「毎朝筋肉痛が酷かったよ。まだ体に痛みが残ってる感じがするしさ」
肩を回しながらそう言う坂岡。
「今思えばちゃんと準備の段階だったんだなと思うよ」
伊野がそうしめる。
しんどい日々もあったがお陰で、今があることを再確認した。
「午後の訓練は一度地上に上がってからになるな」
「いや、午後の訓練とやらは諦めてもらおう」
言葉を遮るかのように、言葉がダンジョン内に響く。その声色は若い男のもののように感じ取られた。
「なっ、誰だ!」
そこにはいつの間にか一人の人間がいた。
服装はローブにフードを深々と被っており、外見はよく分からなかった。
「貴様、何者だ!」
ザイン隊長がロングソードを引き抜き、得体の知れない人物に向ける。
「それはいただけませんね。ではこうしましょう」
謎の人物が指を鳴らす。
音がダンジョン内に響いたと同時に周囲から色が失われた。いや、時間が止まったというべきか。
「·······」
言葉を発しようとしてもなにも言葉に出来ない。
意識だけが今の時間を観測できている、ということを鬼一は認識した。
「お静かにしていただけて結構です。ご清聴ください、私は魔王直属四柱が一柱、マグヌスマルクトと申します。ようこそ我が王国へ」
魔王直属の四柱、魔王に使える最大の敵の一人と言ったところか。
確か北方で確認された最初の魔王の手先だったような。北方の被害の大半はコイツの一撃だったと聞いている。
鬼一が内心恐怖する。
無理も無い、あっという間に主導権を取られ抵抗の余地すら無い状態に引き込まれたのだから。
「今日私がここまで来たのは他でも有りません」
時間が止まった中で一人動き出すマグヌスマルクト。
「あなた方の計画を狂わせさせていただきに来ましたのです。あなた方の意思でですが」
マグヌスマルクトの指が天王司に向けられる。
「より明確に申しますとあなた方の数を減らさせていただきます」
(じゃあなぜすぐに生徒全員吹き飛ばさねぇ。時間を止められたこっちは無防備も良いところなんだぞ。それにあなた方の意思で、という言葉が引っかかる)
鬼一の考えを読むかのようにマグヌスマルクトが言葉を続ける。
「これはゲームです。あなた方勇者の中から数人生贄を差し出していただければ。即刻私はこの場から消え失せます。ちなみに私のゲームに付き合っていただけない場合、即刻あなた方を排除させていだきます」
(おいおい、嘘だろ!それじゃあまるで·····)
俺たちみたいな嫌われ者は不利じゃないか。
鬼一が焦る。
(意思の疎通も出来ない、頼みの綱の、俺の能力すら時を止められてしまえば動かせない)
マグヌスマルクトが続ける。
「皆様の意思表示はこちらの能力で分かりますので、生贄に捧げたい人物を頭の中で思い浮かべていただければ結構です」
(やられた!俺のクラスメイト共は大半が天王司派閥だ。おまけに読心能力じみたものすらあるという···なんてチートだコンチクショウ!じゃあ俺たちが生贄になるのは確実だ)
鬼一の心が陰る。
(初めから反りが合わなかったから対立していた、だがそれがこんな形で命に関わる形になるなんて!)
「概ね誰を生贄に捧げていただけるかわかりました」
スッと鬼一、伊野、坂岡の3人を数えるように指さす。
「オニイチ、サカオカ、イノ。あなた方が贄に選ばれました。過半数の方があなた方を選ばれていましたよ。戦力も幾分か減らせそうですし」
動けない三人の周囲に魔力の渦が立ち込める。
「あなた方の処分ももっと面白い物にしましょう」
ああこれは、と鬼一は悟った。
三人は魔力の渦に巻き込まれ、姿が消えた。
「まぁどうなるかは運任せというのも良い物です。それでは皆様さようなら」
マグヌスマルクトが宙に消えた。
止まっていた時間がまた動き出す。
「ぐっ、クソ!クソッタレがぁぁ」
ザイン隊長のやり場のない怒りの声がダンジョン内に響き渡った。
目を閉じていた鬼一は耳元を過ぎる風の音に気が付き、目を開ける。
「これは落下しているのか?!」
暗中で落下している事は確からしい。
暗くて何も見えないので、ランタンを探すが見つからない。
「運任せとか言っときながら、落下死狙いかよ!」
落ち続けている、臓腑が浮き上がりそうな感覚を覚えて、冷や汗をかく鬼一。
(どうするどうするどうする、灯りもない落下死は免れない!)
その時、同じく声を上げて落ちる人影を、ぼんやりと見つけた。
「うぎゃあぁぁぁ」
その声の主を、鬼一は知っていた。
「まさか、坂岡と伊野か!」
「そのまさかだぞ!鬼一」
「お互いに、運が無いよね」
その黒い人影が落ち流ら頷く。
「ええい、坂岡カンテラとかはないのか!」
「無いね、この落ちている状況じゃ火も灯せないぜ」
そんな中、ふと鬼一が思い出す。
「この魔術ならば!光れ筋肉!」
鬼一の全身が服が透けるほど光り輝く。
かつて闘技場で筋肉の戦士から学んだ全身が光る魔術だ。
効果はてきめん、落ちながらも辺りが視覚で理解できた。
どうやら巨大な鍾乳洞のようなところを落ちているらしい。
「なんだその魔術!なんかキメェ!」
「文句を言うな!坂岡、お前の能力ヴァナルガンドで鍾乳石を掴んで減速はできるか?」
「やってみよう!」
坂岡の手足が地面から生える大きな鍾乳石につかみかかる。鋼鉄の如き爪が悲鳴を上げて鍾乳石に食い込み、減速していく。
伊野を抱えている分、重さで岩から火花が散るがそれもすぐに収まる。
「鬼一!手を!」
坂岡が手を伸ばすが、鬼一の手は無情にもつかみ損ねてしまう。
「ああ、クソ!こんなところで」
腐った果実が落ちたような音と共に、言葉はそこで途切れた。
鬼一は地面に激突してしまったのだ。
洞窟の地面にじわりと熱を帯びた生き血が広がっていく。
減速した坂岡と伊野は一部始終を見ていた。
友の体が地面に勢いよく叩きつけられるのを。
「うぉぉぉ、鬼一ぃぃぃ····!」
「うっ····そんな·····」
あまりの衝撃に言葉を無くす坂岡と伊野。
無理も無い、ついこの間まで高校生だった彼に、人の死を、友人の死を受け止めるのにはあまりにも時間を要するのである。
潰れた鬼一の頭から飛び出た脳の一部を、しばらく集めては戻すを繰り返した後に自分の行為に気がついた坂岡。
「ッ!?ヒィィ!!」
情けない悲鳴を上げ腰を抜かしたまま、後ろへ這いずる坂岡。
目の前にあるのは命が消えて壊れた肉細工。
自身の目に浮かんだ涙に戸惑い、困惑を口にする。
「嘘だろ!鬼一!お前は死ぬようなタマじゃない!」
答えない肉塊、惑いと疑問が坂岡の頭を占拠する。
伊野が回復魔法を使用するが意味を成さない。
鬼一の命は地面に叩きつけられたと同時に失われていたのだ。
「···うう、くぅ·····」
伊野が涙を目に浮かべ、嗚咽を漏らす。
「ゴアァァァァ!!」
闇の中から誰ともつかない声が聞こえた。
恐らくこの階層に生息する魔物のものだろう。雄叫びからしてそう遠くは無い。
以外にもすぐに判断したのは伊野だった。
「坂岡君!坂岡君!」
「············」
鬼一の死にショックで呆然とする坂岡、彼の頬に鋭い痛みが走る。
伊野が強くビンタをしたのだ。
「伊野、お前」
「··········早く、行かなきゃ!どっか身を隠せる場所へ!」
涙を流しそうに呟く伊野に坂岡が口を開く。
「鬼一の、アイツの体はどうすんだよ!!」
彼の声は怒声も混じっていた。やり場のない怒りが漏れてしまったのだろう。
それにつられてか、伊野も怒りの混じった声で言う。
「ここがダンジョンなのかどうかさえわからない、魔力も何も無駄には出来ない、······だから。だからここへおいていくしか無いよ!」
「お前それでもダチなのかよッ!」
「そうするしか無いんだ!きっと鬼一君だって理解してくれる!」
伊野の唇から血が滲む、彼とてそれが納得できない決断だということを雄弁に物語っていた。
「行こう!坂岡君!!新手が来る前に!!」
「···········クソ、······クソッタレぇぇぇ」
伊野を先頭に鬼一の遺体から離れていく、坂岡は最期まで名残惜しそうに何度か振り向いた後、走り去っていった。
今はただ安全な場所へ、そのことだけが彼らの脚を進ませる口実となっていた。それすらなければ彼らもまた、遺体の仲間入りをしていただろう。
「ハァハァ、ここまで来れば·······」
「·········うんと走ったがここは何処なんだよ」
一時間は走ったであろう。玉のように吹き出す汗を吹きながら、彼らは壊れかけた住居のような場所に来ていた。
ギリギリ実を隠せるかどうか怪しいが魔物は周囲にはいないようだ。
安易には火を焚けないので、伊野が暗視の魔術を使う。
幸いにも後衛だった伊野は自分の荷物を置き去りにせずにすんだのである。
「ここはダンジョンであることは間違いないみたい·······」
自分の荷物から引っ張り出した地図、それは唯の地図ではなかった。
この地図はダンジョンの案内ともなっている魔法の地図で階層も教えてくれる機能があるのだ。
現階層87。
その階層が彼らを恐怖へ突き落とすには十分な数字だった。いくら能力があるとは言え、すぐにザイン隊長と合流することは出来ず、地上への帰還も絶望的である。
「·······どうすんだよ。ここから。どうしろっていうんだよ」
頭を抱える坂岡。
「今はただ、上を目指すしか·········」
坂岡、伊野の声が闇に溶けて、消えていく。
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