4話 邂逅
「危ない危ない、口外ご無用と言ったでは有りませんか」
ゴーゴリ司教がザインの頭に水をかける。
場所は王宮から少し離れた場所、星見の天文台のガゼボだ。
「少し頭が冷えましたか?」
「あ、あぁ、すまない」
「教導者として振る舞っているがどうもやりにくい」
「仕方有りませんよ。帝王直々のご指名ですし」
「明日にはダンジョンに行かせなければならないスケジュールはどうなってんだ!あの子たちは俺たちとは違う!まだ年端もいかない奴らなんだぞ!」
「私に言ってどうにかなる問題では無いことくらいあなたもおわかりでしょうに」
冷めた声で応対するゴーゴリは普段とは打って変わっていた。まるで別人のようである。
「既に奴らに悟られました。できるだけ早く戦う術を得てもらわなければ」
「それも星見の宵様からお達しか?」
「ええ、あのお方からです。星見の宵、全く恐ろしい能力ですね」
「ああ、未来が見えるってやつだろ。正しく人知が及ばない力ってやつだ」
「だからこその能力、でしょうな。我々は破滅を回避しなくては。使える手は全て使ってでも」
そう言い放つゴーゴリの目には固い決意が込められていた。
次の日の午前中、ダンジョンへ行く旨がクラスの全員に知らされた。
「やはり、噂は本当だったんだな」
「まぁ俺等も強くなってきてはいるし、既に調べ尽くされたダンジョンとは聞くぜ」
鬼一達が向かうダンジョン、アルカのダンジョンは既に最下層まで調べ尽くされていた。
それ以来、ダンジョンに潜る予行演習の場所として帝国に管理されている場となっている。
「もう調べ尽くされているなら余裕じゃない?」
「そうだな。だけど油断は禁物だ。ザイン隊長も言っていたろう」
今日、突然闘技場にて呼び集められた。
ダンジョンに入るために集められたのかと思ったが、そうではなかった。
「これより、専用武器を手渡す。名前を呼ばれたものは前へ」
クラスがざわつき始めた。
「専用武器ってなんだ」
「知らねぇ」
ザイン隊長がそれを聞きつけ答える。
「専用武器とはお前らの能力に合わせて調整された武器だ。昨日できたばかりのホカホカだ。無くすんじゃないぞ」
呼ばれた順に手渡されてゆく。
専用武器とは、それぞれの能力に合った特注の武器らしい。なんでも帝国直属のドワーフなどが作ってくれているのだとか。
坂岡には腕部にブレードが取り付けられた、双腕刃ニルソル。
伊野には魔術師の杖のような物、聖笏ステラルクス。
そして、鬼一には白百合の王冠が与えられた。
白百合の王冠とは名前と裏腹に、それは左腕に付ける鎧であった。
「お前たちに与えたそれは絶対手放したりするんじゃねぇぞ」
「訓練の際に渡さなかったのはなぜですか?」
「さっき言ったろ?作るのに時間がかかりすぎたから今日渡す羽目になったんだ」
ザインが全員に専用武器を配り終わったのを見計らい、声を上げる。
「明日の朝にはアルカのダンジョンで演習を行う事となっている。今日の午後には出発だ。全員、準備を済ませておけ」
その日の午後。
鬼一は割り当てられた部屋の中で着々と装備を整えていた。
(これとこれ、全て揃ったな)
簡易医療セットに水筒と携帯食などなど。一人旅でもできそうな量の荷物を支給されたリュックに詰める。
すると揃え終わったのを見計らったのかコツコツと音がする。
「はい?」
返事は無い、ドアを開けて辺りを見回しても誰もいない。
音はまだしている、この前壊され治ったばかりのガラス貼りの窓からのようだ。
カーテンに閉め切られているため、音がする原因に一瞬、嫌な予感が鬼一の頭をよぎる。
(まさか、幽霊じゃないよな)
この世界には一応幽霊系のモンスターは存在していると言う。ゴーストとでも言うべきその存在は絶叫を上げて襲いかかってくるという。
(それならこんな回りくどい方法とるか?)
バサリと一気にカーテンを取り払う鬼一。
窓ガラスにはぼんやりと白い顔が!
(?!)
身構えるが、すぐに正体に気づく。
一羽のフクロウがガラスをくちばしで突いていた音だったのだ。
「びっくりさせるなや。フクロウちゃん」
窓を開けるとフクロウがこちらの顔をうかがうように見てくる。
なんだと思い鬼一が顔を近づける。
「あ、あの····」
フクロウのくちばしから女の声が出てきた。
「なっなんじゃこれ!」
「あ、あ、驚かないでください。この子の口を借りて声を届けているんです」
フクロウがあわあわと飛んで鬼一をなだめる。
なるほど魔術の類で、と鬼一が納得する。
「こんな時間に何の用なんだ」
「すみません、この前の謝罪がしたくて··この寮の噴水の前まで来ていただけませんか?」
そう伝えるとフクロウは主の元へと飛んでいった。なるほど、この前に箒で突撃してきた人物が噴水の所にたたずんでいる。
「なるほど、まぁ待たせてしまっているし行くか」
カンテラを携えて階段を駆け下り、寮の前の噴水へ。
その少女は以前に窓を突き破ってきた時と同じ格好をしていた。肩には喋らさていた使い魔のメンフクロウがとまっている。
フードを脱いだ少女の様相はとても興味を引くものだった。
瞳は薄紫色をしており、金髪のロングヘアー。顔立ちに幼さこそあるもののどこか大人びている。
「やぁ、どうもお待たせ」
「こ、この前は申し訳ありませんでした!いろいろ見てもしまいましたし····」
突然謝罪され、少々戸惑い気味の鬼一。
それもそのはず、鍛錬の日々ですっかりその事を忘れていたのだ。
「大丈夫だよ。そんな気にしてないし」
「っ!本当ですか!?」
食い気味に少女が聞く。
「ああ、本当だ。気にしてない」
またも食い気味に少女が言う。
「そう言えば、お兄さんはなんて名前なんですか?」
「ああ、名前ね。鬼一顕二だ、はじめまして」
「名前が鬼一?姓名が顕二なの?」
ああ、そうだ。間違えてしまった。
「いや、間違えた。姓名が鬼一で、名前が顕二だ」
なるほど、と頷く少女。
「私はティナ=オーベェルス。ここの寮から近くの魔術学院イメスに通っているの」
エヘンと威張る少女、しかしその体躯の小ささから少しおかしさが感じて取れる。
「なるほど、俺は····」
言いかけて口ごもる鬼一。自分が地球の日本という国の出身であることは口外してはならないと言われていたからである。
「どーしたの?」
「いや、何でもないさ。突然だけど、どうしてうちの窓からやってきたの?」
鬼一が話題を逸らす。
「いやー、箒に乗ってたらスピード出しすぎちゃってさ、おかげで大目玉を食らっちゃったよ」
肩をすくめるティナ。
「スピード違反か、以外とお転婆なんだな」
「早いものは早ければいい、それが移動手段ならなおさらね。いっその事、空間転移でもできれば良いのだけどね」
「そう言えば、魔術学院イメスとはどんなところなんだ?」
その質問にティナが飛びつく。
「よくぞ聞いてくれました!魔術学院イメスとは伝統ある魔術学院でして、帝国内最大の蔵書率を誇るんです!」
ばばんと本を取り出し見せつけて来るティナ。本の内容はよく分からないが、どうやら魔術について書かれているようだ。
「なるほどなぁ、じゃあ魔術についての専門家なのか?」
「それは、まだまだこれからですが。そうなる予定です」
そう言い終わるとフクロウが何やらくちばしでティナの肩を叩く。どうやら時間が来てしまったようだ。
「もう遅いし私はもう帰るわね」
「ああ、了解した」
ティナが箒に跨りふとこちらを見る。
「また、会えるかしら」
「ああ、きっとな」
箒で飛んでいくティナを見守った後、鬼一は寮へ戻った。
その後にかなり睡眠時間が少なくなってしまった事に気づくのは別のお話。
早朝、まだ薄明かりが街を包む頃。
鬼一は目を覚ました、起床時間が来たのだ。
寮から出てみれば、生徒の面々が準備をして噴水の前で屯していた。
「おはよーさん、オメーら」
「うっす、おはよー」
「おはよう」
何やらテンションが低い坂岡と伊野。
「ふたりとも朝弱かったっけか?」
「いや、二人で騒いで怒られたんだ」
「誰によ?」
「食堂のミラさんだよ、やらかしちゃったなぁ。今思えばお酒でも入ってたのかなぁ」
パカラパカラと、馬が駆けてくる音がする。
ザイン隊長が馬に乗ってやってきたのだ。
「おう、お前らおはようさん。これからダンジョンまで馬で移動する」
「でも僕ら乗馬の経験ないですよ」
「いや、大丈夫だ。馬のゴーレムに乗って移動してもらう」
後方に控えしは、馬のゴーレム。
ぱっと見では土塊で作られた馬のようだが、以外と頑丈で、疲れを知らない分簡易な移動法として好まれている。頭部のコアが潰れない限り何度でも蘇るのだ。
その数、三十五体、ちょうど生徒と同じくらいの物だった。
ザインの号令を聞き、次々と騎乗する生徒の面々。
「以外と乗りやすいね」
「まぁ帝国御用達の物だし、俺達以外も今後乗るんだろ。坂岡、そっちは尻側だろ逆だ逆」
「間違えたわー。朝早いからね」
あーだ、こーだとしているうちにアルカのダンジョンへと進路を向ける事となった鬼一達。
「演習とはいえ何か不吉な予感がする」
「出た、鬼一の心配性。でも時々当たるんだよな」
不安を胸にいざアルカのダンジョンへ。
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