17話 別行動
「····は?」
そんな言葉をこぼしたのは内心キレ散らかしていた鬼一だった。
淡々と仮面の人物は続ける。
「今後、あなた方は勇者としての地位は剥奪され、この帝国に於いて別の人物と言う事にさせていただきます」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。それはいくらなんでもひどすぎないか?」
坂岡が声を慌てた様子で立ち上がる。
それもそうだ、死人扱いされ、ましてや勇者と言う地位も、帝国という後ろ盾を失うことは想像していなかったことなのだから。
「あなた方は魔王の幹部に殺されたと言う扱いになっております」
「それは何故か。詳しくお聞かせくださいませんか?」
鬼一が怒りを通り越して冷静になり疑問をぶつける。
一呼吸於いて仮面の人物が話し始める。
「今後の他の勇者様たちの行動、名声に支障を出さないため、というのが表向きの発表となっております」
仮面の人物が襟元をいじり、また話し始める。
「私からも言い難いのですが、何故このような事になったかと言いますと、魔王の耳に三人の勇者様が生還した事を知らせない為であります。公式の場で帰還した事がバレてしまえば、再び襲撃に来るやもしれないと言う皇帝のご決断によるものです」
鬼一がふぅとため息をつく。
(なるほど、そういう事か。もし生還していることがバレれば魔王軍の幹部、マグヌスマルクトが再び攻撃を加えてくることを恐れてそう判断したのか)
「苦渋の決断でした。我々としても心苦しいのですが·····。勇者様方にはご理解していただきたく···」
仮面の人物が深々と頭を下げる。
四人の間に半分諦めのような空気が漂う。
今生還したことを認めてしまえば、相手側にもこちら側にもマグヌスマルクトの魔の手がかかってくるのは明白だ。
理解できる理由な分、納得してしまう。
「······わかりました」
重々しい沈黙の後、鬼一が口を開く。
「では、我々は今後どのように動けばよろしいでしょうか、聞かせてください」
「はい、皆様には今後冒険者として働いていただきたく····」
「冒険者、かぁ····」
「はい。皆様方の実力ならば、十分にご活躍できるかと」
「俺たちの勇者としての使命はどうなるんですか?」
伊野が心配そうに聞く。
「はい、そのことですが。冒険者として魔王の手先を倒すのも手かと皇帝も考えられておいでです。冒険者八割、勇者二割と行った形で考えていただきたい」
そこから少々情報交換をしあう四人と仮面の人物。
冒険者となるための手続きは全て国側がしてくれるとのこと。また手切れ金のような形ではあるが、ミュンダース金貨十枚を出された。
しかし、帝国直属の証しであるペンダントは仮面の人物に全て回収された。今後は使えなくなってしまった。
そして、この話は今後話してはならないと禁じられ。
その後、仮面の者は最期にゴーゴリ司教の手下であると伝えて帰っていった。
「悪いことばかりじゃないのが収穫だね」
「まずは肉食おうぜ肉!腹が減ったよ···」
坂岡が悲鳴を上げる腹をさすりながらそう言う。
「腹が減っては戦は出来ぬってか、まずは腹ごしらえと洒落込もうか」
部屋を退出し、ギルドにある酒場で注文をする。ギルドには酒場が併設されており、多くの冒険者がここで飲み食いをするらしい。
「はい、おまちどうさま」
「いよっ、待ってました!」
歓声を上げる坂岡。
暫くして運び込まれた肉料理に舌鼓を打ち、今後について相談する鬼一たち。
「今後は冒険者として生活していくかんじになるんだな」
「冒険者かぁ、一応は何でも屋みたいな感じなんだよね」
「基本的にはそうなるな。ロニパは戦闘以外のことについてやって欲しい」
「わかりました。それと併用して記録も取らせていただきます」
食事の最中、鬼一に坂岡が質問を投げかける。
「どうしてミネルヴァの話は出さなかったんだ?」
「あの場所で話に出しても話題を逸らされると思ったからさ。少なくとも俺たちが怪しんでいることを話し始めたら、帝国からの支援金は無しになっていたかも知れないんだぜ?」
「まぁたしかにこれは困るが、今後帝国側から何か動きはあると思うか?」
「今のところはわからんよ。しかし警戒するに越したことは無いな。ロニパの件は不問にはなったしで、今のところ問題はないと思うが」
彼らは今後について確認し、その後宿を取ることとなった。
ギルドの周辺には宿泊施設等が集中しており、銀の蹄鉄亭、黄金の羊毛亭と言った名称の物が多い。
数多くの宿泊所から、彼らは白い尻尾亭と呼ばれる場所を選んだ。
一室四人泊という部屋があり、彼らの需要と合致したからである。
「おや、新顔の冒険者かい?」
白い尻尾亭の女主人、リザが四人に話しかける。
リザは初老のおばあちゃんと言った所で、彼女の身体には人間には無い、獣の耳や尻尾と言った物が備わっている。
彼女は亜人属獣人種とは呼ばれる種族だ。
現在帝国内では人口の内、三割を占めている。
「どうも、そんな感じです。よろしくお願いいたします」
「まぁ色々とあるだろうけど、頑張るんだよ」
激励の言葉を受けた後、彼らは案内された部屋に入室した。
部屋には二段ベッドが左右に置かれ、中央には小さなテーブルとイスがある。
外へと開く蝶番の窓がテーブルに日光を落としていた。
「いやぁ。帝国の宿舎の時の方がまだ広い部屋だったな」
「贅沢言うなよ、坂岡。大金があるからと言って無限じゃないんだぜ?」
「まぁまぁわかってるとも。というわけで一番上のベッド確保!」
「おいおいおいおい、話の途中でベッドの方に切り替えるなよ」
二段ベッドの振り分けは、入って右のベッドの上には坂岡が、下には伊野が。
左側には上にロニパが、下には鬼一が寝ることとなった。
「日もまだある。日没までに俺と伊野で俺たちの冒険者タグを取ってくる。それまで坂岡は待機で良いな?」
「ああ、俺は一眠りしておくよ」
眠そうに目をこすりながら坂岡が応える。
「それじゃあ、行くか」
「うん、鬼一君」
「マスターの御心のままに」
再びギルドに入って受付に冒険者タグを取りに来たと伝えると、受付嬢が名簿と共に冒険者タグを持ってきてくれた。
「こんにちはよくお越しくださいました。受付嬢をしておりますリィンと申します」
リィンと名乗った人物はペコリとお辞儀をした。
見れば、受付嬢の制服に身を包み、顔には温和そうな笑顔を絶やさない模範的な受付嬢である。
その結い上げたポニーテールが特徴的だ。
「皆様のお話は帝国直属の者からお聞きしております。まずは冒険者タグのご説明をさせていただきますね」
リィンの話によると、冒険者タグとは各冒険者のランク付けであり、それに比例して受けられる依頼の危険度も増していくとのことだった。
鉄→青銅→銅→銀→金と段階ごとに分けられており、段階が進むほどに上位に上がれる人間は少なく、金程の者は滅多にお目にかかれない。
また、ランクを上げるには依頼をこなした数と信用度も大切になってくるという。
依頼にもそれぞれランクが記されており、冒険者はそれと同等かそれ以下のものしか受けられないようになっている。
「先ずは鉄級からの出発となります。皆様、頑張って下さいね!」
「りょーかいです」
鬼一に鉄製のペンダントが持たされる、四角柱のそれにはそれぞれの名前が既に魔術で名前が記されていた。ごまかし防止の為のものらしい。
そして、最期にリィンから忠告があった。
「鉄級の依頼には達成できないとペナルティが発生するタイプの物もございますので、そこはご注意下さいね。達成できないと信用度にも関わるものでございますので」
(ペナルティ、ねぇ。でもそういう奴は基本的にギルドも気を付けていると言ってたし、もし仮に張り出されていたとしても、こちらが気をつけていれば問題はないんだろうな)
その後、鬼一たちが泊まる宿泊所に着く頃には日がくれていた。
「──と言うわけなんだ」
坂岡にも受付嬢の話を全て話した。
「なるほどなぁ、と言うことは明日にでもすぐ依頼を受けに行く予定か?」
寝転がりながら話を聞く坂岡に鬼一が返す。
「あぁ、そうなるな」
「どんなものがあるか、今から楽しみだな」
夕食を終えた後、鬼一はロニパと共にギルドの酒場で話し合っていた。
「そう言えば、ロニパってホムンクルスだったよな。錬金術と関係があると言っていたがどんな関係があるんだ?」
「一言で言ってしまえば、神の真似事でしょうか」
「と言うと?」
ぐいと水をあおり、鬼一が更に質問する。
「はい。私は第三世代と呼ばれるホムンクルスで、培養した人間の器にホムンクルスの核を入れる事で完成するのが特徴なんです」
「それが神の真似事、人造人間というわけか」
「そうです。錬金術師の根本的な目標は人々の生活を手助けし、システムを作り上げ、最終的には神に至ることでした」
「神になるとはスケールのデカい話だな」
「神と一口に言っても、全知全能を目指すと言う意味ではありません。全ての苦しみから解き放たれた、そんな存在を目指していました」
この世界において、神とはレイバルン教の主神の事である。
ロニパの言っている神とは長い歳月の中で消えてしまった、若しくは書き換えられた神のことだろう。
「ロニパがいた頃の宗教とは何だったんだ?」
「今のレイバルン教のような神ではありませんでした。機械やシステムを人々は信じていたように思えます」
機械やシステムを信じる、元の世界におけるSFの人工知能のようなものを信仰していた、と鬼一は推測する。
「今やそれはとうに過去の事です。今の時代の人々が何を信じ、崇めているのかは、私は興味はありません。ただ」
「ただ、なんだ?」
「忘れ去られるとは、少し淋しいですね」
かつて奉仕してきた人間が、自分たちの存在を忘れる。
それは人間が世代交代をする生き物であることや、忘れる生き物である以上仕方の無いこと、とロニパは付け加えた。
自分たちが今は人々に必要とはされていない事も。
「まぁそうは言うが、今やお前をそのシステムと信じる人々もいない。これからは自由に生きられてラッキーなんじゃないか?」
「ラッキー、幸運ですか。以前の私たち、ホムンクルスにとっては奉仕する事が幸せでした。そのルールから逸脱して初めて感じ取れる幸運も、あるということですかね」
「俺はロニパじゃないから、完全にお前の立場になって考えられるわけじゃない。でも生きている以上、幸せを求めても良いんじゃないか?」
それはともかく今日は早く寝よう、と鬼一が言う。
「そう、ですね」
ロニパの言葉は、賑やかな酒場の雰囲気に溶け込んで消えていった
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