14話 夜明け前
九九階のフィールドは湖の水場のような場所となっており、雑魚モンスターは坂岡と伊野に任せ、鬼一はボスに向かっていた。
体に魔術紋と呼ばれる、魔物の中でも魔術を扱えるモノがある個体がいる。
一つの魔術を複数操れるような個体がおり、その魔術は簡単ではあるが脅威となって襲いかかってくる。
水場に埋めていた体を起き上がらせて、迫ってくる一戸建て家屋位の大きさはありそうなサイズのカニ。
魔術紋蟹、デラインキャンサーだ。
魔術紋が体表に浮き上がり、その鼓動に合わせるかのように光る。
「いやぁデカいカニだな。大阪のカニ道楽の看板を思い出すぜ」
武者震いをしながら鬼一が不敵に笑う。
そうしているとデラインキャンサーの魔術紋が、ぽうと光ると、光弾を生成し、鬼一目がけて発射される。
鬼一は慌てて走りながら躱す。
「ま、魔術弾を放ってくるタイプのやつか!」
魔術弾、とは魔力をそのままエネルギーのつぶてとして放ってくる魔法である。
人間の魔術師も使う、ごく単純な技であるが。
デラインキャンサーは雨あられと魔術弾を放ってくる。
鬼一は襲ってくる光弾を躱しながら、デラインキャンサーへ近づいて行く。
ある程度の射程を要する魔術弾から身を守るために近距離戦の持ち込むつもりだ。
それを見抜いてか、より一層に鬼一に向けて魔術弾を集中して放ってくる。
「ぐあっ!」
魔術弾の渦が、鬼一の体を捉える。
彼の体を貫通し、動きが鈍ったところをすかさず叩き込んでくる。
細かな光弾の後が蜂の巣のように体中に開く。
空いた穴から少量の血液が落ち、地面に赤黒い後を描く。
血はバシュムの血を投与されたせいか変色し、地面を僅かに溶かし、煙を上げている。
大量の血液が噴き出し動きが鈍ってなお、鬼一の進行は止まらない。
ジリジリと耐えるようにして、デラインキャンサーの下へとたどり着いた。
それに気づかぬ怪物では無い、即座にその巨大な一対のハサミを鬼一目がけて突いて来た。
鬼一が軽々とその爪を神の右腕で受け止める。
拮抗状態が続くが、押す力が増しているハサミを今度は止めるのではなく、後方へと受け流した。
こうして鬼一はデラインキャンサーのハサミの間合いのその置くへと走り出した。
「おぉぉぉおぉぉぉ!」
蟹の腹の部分に掴み走り抜け、力任せにそのまま引きちぎる。
痛みに脚をバタつかせてデラインキャンサーが悶え苦しみながらも、その突起状の目玉は無感情に鬼一に視線を向けていた。
追い打ちの一撃を加えようとする彼に、デラインキャンサーは思いもよらぬ行動に出る。
ひょいと飛び上がったのだ。
これに少々面を食らった鬼一だったが、次に来るその体重を乗せたハサミの叩きつけに右腕を体の前に出し、備える。
物凄いで重い物が叩きつけられる音が辺りに響き渡る。
鬼一の足は右腕でその衝撃を受け止めた結果、泥の中に膝までハマってしまった。
「クソっこれじゃあ」
デラインキャンサーが再び後方へ跳ねる。
魔術紋が星が瞬くように光ると魔術弾を流星のように鬼一目がけて叩き込んできた。
左足を泥の中から引き抜いた鬼一だったが、間に合わない。
神の右腕で大方は受け流したが、体の大部分に攻撃を食らってしまった。
また体に複数の穴が空き、即座に修復されていく。
デラインキャンサーの動きが大きさに反して素早いのと魔力と体力温存の為、厄災の指は使えない。
全ての足を泥から引き抜き、再度近接戦へと持ち込もうと走り出す。
今度は魔術弾を全てくぐり抜け、一気にデラインキャンサーに体当たりをかます。
が、それを見越してか怪物も体当たりを食らわせてきた。
「そっちから来てくれるとは嬉しいなぁ!はぁぁぁぁぁ!!」
鬼一の体をデラインキャンサーが跳ね返す。
だが、彼の体はそのまま上へと飛び上がったのだ。
そのまま体の全ての体重を神の右腕へ、貫手のまま、怪物の眉間へとそれを打ち込む。
バリバリバリっと音を立て、神の右腕がデラインキャンサーの脳まで至った。
金属同士が擦り合わされるようなこの世のものとは思えない断末魔と共にデラインキャンサーが沈む。
「·····ようやく、勝てた····か」
ゼェゼェと息をつき、その場に座り込む鬼一。
「こっちも雑魚は全てやれたぜ」
坂岡の声がタイミングを同じくして、鬼一にかけられた。
坂岡も伊野も化物の体液が戦闘中にかかったのか、体をベタベタになってしまっていた。
「そっちも終わったか、こっちも終わったぜ」
今日の戦いは、これで終わりだ。
水場の、比較的陸地にある苔むした平たい円の岩が音を立てて、下層、百階への進路を導いているようだ。
音のした方向を見て下層への階段が開けた事を知る鬼一たち。
「さて一旦、拠点へ戻ってから百階は攻略しようか」
そう鬼一が言った瞬間、金縛りにあったかの様にその場から動けなくなる。
ついで彼らの周囲を囲むように魔法陣が浮き上がる。
「な、なんじゃこりゃ!!」
「嫌な予感が、する」
魔法陣は輝き出すと鬼一たちの姿が光に消え、魔法陣も跡形もなく消えてしまった。
「この感じは─」
「ああ、間違いねぇ。転移魔術だ」
鬼一が眉にしわを寄せて言う、皆転移魔術にはあまり良い思い出がないのだ。
地図を取り出し、現在の階層を調べる伊野。
「·······こんなのってあり?」
そこに映し出されてた階層は百。
裏ダンジョン最下層であることを示していた。
「ちくしょう!トラップの魔術があるだなんて」
悔しがる鬼一。
百階のフィールドはこれまた湿地のような場所となっていた。辺りは薄暗く、霧がかっているようだ。
「まだ準備が整っていないのに。連続で戦えってことか?きついぜ」
「まだ上の階層に戻れるかもしれない。階段へ急ごう!」
伊野がそう叫ぶ。
地獄に垂らされた一筋の蜘蛛の糸にすがりつくかのように、三人はこぞって百階から九九階へと続く石の階段へと走る。
しかし、それを嘲笑うかのように石の階段は上の階へと上がっていってしまった。
天井に消えてゆく階段を見送る一行。
「どうなっているんだ。今までのパターンとは違うじゃないか!?」
「百階のボスを倒せば。また下りてくるんじゃないか、何の保証もないけど」
混乱する三人。
しかし、次第に覚悟を決めたかのように、周囲の気配を察知し、周囲を警戒しだした。
「俺はまだ戦える、魔力残量は少し気がかりだがな。秘技は使えて二回だ」
「僕はまだまだ魔術は使えそう。でも直接は難しいかな」
坂岡、伊野の両名がすぐさま戦闘態勢に入る。
「俺も秘技は後一回ってとこだ。体力的にはまだまだ行けそうだ」
耳を済ますと薄暗い湿地で何かが這いずる音が聞こえる、まるで蛇が這うような、そんな不気味な音が響いている。
「何も見えないが、蛇のようなやつがいるぞ!」
「もしかしてそいつが雑魚か?複数聞こえるか?」
「いいや、一匹だけだ。一匹だけこっちに近づいてくる!」
その音は次第に大きくなり、こちらへ向かってきているのが嫌になるほど分かった。
鬼一たちが組んだ陣形の前に不気味な影がぼうと浮き上がった。少し大きいビルくらい程の大きさはあるだろうか。
今までにないとてつもない大きさの何かが来る。
鬼一の首筋に脂汗が一筋垂れた。
(ここが正念場だ。坂岡に伊野、お前たちを死なせはしない。生きてこの裏ダンジョンを出て、生きてまた太陽を浴びて、うまい食べ物を腹いっぱい食うんだ!)
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