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神の右腕 リブート  作者: 伽藍堂
13/14

13話 再来

 バシュムの研究室を拠点に次々とダンジョンの階層をクリアしてゆく鬼一たち。 


 ダンジョンの負荷も日をまたぐ事に慣れていき、三日目になる頃にはかなりの階数を過ぎても体に異変は発生しなかった。


 ちなみにダンジョンの負荷は上昇する分には発生はしないのだ。


 ここまで来れたのは秘技などの強大な力を持つが故だけではなく、階層ごとの雑魚モンスターとボスの強さの釣り合いがアンバラスであったり、ボスがそこまで強くなかったことも起因していた。


 九八階の階段を下りるその間に鬼一は八八階から九七階までの事を振り返る。


(最下層のボスとは言え、強さに何故かバラつきがあったな。それに雑魚モンスターも既にほとんど食われてたりして、いったい何なんだ、階層ごとのこの環境の違いは。ダンジョンは下へ行くほど強さが上がっていくんじゃ無かったのかよ。何か、嫌な予感がする)


 九八階の扉までたどり着いた。その扉は今まで見た扉と同じ平凡な石造りの扉だったが、それ越しでも得体の知れない何かがいるのがわかる。


「開けるぞ」 


「いつでも良いぜ」


「うん」


 二人が頷いた。


 重々しい音を立てて扉が開かれる。


「·········」


 扉の前には惨殺されたと思わしき大きな猪のモンスター、ブルススの死骸が転がっていた。


 そして、同じ種類と思われる死骸、雑魚モンスターの死骸が一つ、二つ、三つ······そこら中に血を撒き散らし死骸が四散していた。


「こいつは········」


 鬼一たちには見覚えがあった。


 ここに来るまでに見た、遊びで狩られたような雑魚モンスターの死骸の山。


 幾度と無く出会った惨状、その主がそこにいた。


 透明になる体、鋭い眼光、まだ新しい血の染み付いた前脚を舐める口と、そこから覗く剣山の如く鋭い牙。


 ミラージュファングがゆったりとその場にゆったり寝転んでいた。

「·····会いたかったぜ、俺の腸は美味かったか?」


 鬼一が剣呑に言う。


 乾いた唇を舐め、冷や汗を垂らす面々。

 

 現状を鑑みれば、このまま突っ込むのは得策では無い。


 と、鬼一は即座に判断した。


「·····っ。一度退こう、こっちの分が悪い」

 

「····同感だぜ、殺意で肌がヒリヒリする」


「····同じく、疲れた、早く拠点に戻りたい···········」


 即座に同意した三人は扉を閉め、階段を登ってゆき、現在自分たちの拠点としている研究室へ帰ってきた。


「おーい、帰ったぞー」


 部屋の明かりをボタンでつけ、鬼一たちが帰ってくる。


 白亜の光源が、部屋に立ち尽くす人影に光を投げかけた。


 ヴィーテ628が部屋に立ち尽くしていた。


 その様にギョッとする鬼一たち。


「···んでます」


「え、なんて?」


「死んでいます、先生が」

 

 生気の無い顔で淡々と状況を喋るヴィーテ628の顔が、事の重大さを物語っている。


 鬼一の脳裏に微かに浮かんでいた最悪の予想が当たってしまった。


 ヴィーテ628の目の前の扉が少し開いている。


 鬼一がそのドアに触れると、軽い音と共に内側への道が開かれた。


 本と何かの器材がうず高く積まれた部屋がそこには広がっていた。

 

 その中に埋もれるようにして机がぽつんとあり、そこに突っ伏すようにして完全に白骨化した死体が待ち構えていた。

 

 もう何年もそのままだったかのように埃が降り積もっていた。


「·····もしかしたらとは思ってたんだけどな」


「ヴィーテ628、いつ頃わかったんだよ、死んでること」


「·········ついさっきです」


 鬼一はここで実験体とされていた時の事を思い返す。

 

 彼の耳には実験室で確かに狂喜乱舞する男の声が聞こえていた。


 確かに聞こえていたハズだ。


 しかし、部屋にあるのは骸が一体。


 先生と呼ばれた者の残骸がそこにはあった。


 では、あの時聞こえていた声は何だったのか。


 幻だったのか。


「でも、どう考えても死んでるんだよな。それも今日昨日死んだってわけじゃない感じの」


 遺骸に近づき状況を考える。


 綺麗なまでの白骨死体に骨だけが残っていると言った感じだ。 


 匂いは部屋にある本と埃とその他諸々の様々なニオイが籠っていてよくわからない。

 

「なぜ直ぐに開けなかった?と言うかよく今まで死んだことに気付かなかったな。分かっていたけれども、認めたくなかった、そうじゃないのか?ヴィーテ628」


 あきれ顔で鬼一がそう言う。


「···はい。はい、確かにそうでした。先生が亡くなったと認めたくなかった」


 頭を抱えて、崩れ落ちるヴィーテ628。


「それを数百年も続けていたのは驚きだが。俺達には時間がない、悪いがもう埋葬した方が良いだろう。それがあんたが先生へできる最期の手向けだ」


 こくりと頷くヴィーテ628。


 その日、簡易的な埋葬する事となった。


 そのまま骨を埋め、石碑として手頃な大きさの石を置く。


 ヴィーテ628がその石に記した名前はアルカ=ディフカ。 


 恐らく先生と呼ばれる人物の名前だろう。

 

 その後先生と呼ばれる人物はアルカのダンジョンの創始者であることが分かった。


 しかし、何のためにダンジョンと裏ダンジョンを建設し、バシュムの墳墓と呼ばれるこの場所で研究をしていたのか分からずじまいである。


 それと錬金術の道具が大量に見つかった。

 

 これはヴィーテ628に頼んで処分を考えてもらっている。


「ダンジョンの創始者なら。裏道を知っていただろうに残念だな。それと食料問題も解決していない。本格的に時間との戦いになってくるだろう」

 

 それを聞いた坂岡、伊野の二人は深刻そうな顔をする無理も無い。


 最後に残った頼みの綱だった先生と呼ばれる人物の食料援助の可能性が無くなったのだ。


 そして夕食になった。


「今日もこんだけかぁ」


 坂岡がそんな事をぼやく。


 目の前には二つの乾パンとコップ一杯の水。


 三日とこんな食事をしてきたせいだろうか、いい加減に皆、飽き飽きとしているようだ。


「まぁ、そう言っては仕方ないじゃないか坂岡。さっさと食って寝ようぜ」


 乾パンは食うと、口の中が砂漠になると言われるくらいに乾燥してするので、皆最後に水を飲んだ。


 ぐぅと坂岡の腹が鳴る。


 高校生の食欲旺盛な体がこれでは物足りないと訴えているかのようだ。


 照れくさそうに坂岡は笑うと話を始める。 


「このダンジョンから生きて出れたら、ステーキを食いたいなぁ。魔物の肉は食えないし、思いっきり肉を食いたいぜ」


「僕は野菜と魚をたらふく食べたいな。流石に乾パンばっかりじゃあ飽きるし」


「俺は太陽を浴びながら白米を食べたいかな。皆も食いたいだろ?」


「ああ、そうだな。もう今となっては故郷の味か」


 この国、レイバルン帝国の主食はパンが主食だ。


 日本のように米が主食ではないことが悩みの種の1つではある。


 そんな事を語り合いつつ三人は寝床とする部屋へ向かっていた。


 この研究所にはいくつか部屋があり、そこをそれぞれの寝泊まりの部屋としていた。


 レイバルン帝国のような洋式のふかふかのベッドがないことが悔やまれる。


「それじゃあ、また明日な」


 そう言い三人はそれぞれ自分の部屋へと入っていった。


 部屋に入り一人になった鬼一。


 天井の灯りをつけると白色のライトが部屋を照らした。


 体から装備一式を外し床へ置き、そのまま部屋の隅に移動し横向きに寝転がる、ちょうど背中と壁がくっつく。


(「厄災の指」に使う魔力と体力は一眠りすればなんとかなる。九八階の雑魚モンスターは、俺の腸を食った怪物がほぼ仕留めてしまったようだ。明日はアイツと戦うような気がする、心配しても仕方ない。さっさと寝てしまおう。それと、俺はいくら消耗しても良い。あいつらを守ることで、俺というものが確立できてきている気がする。それだけの薄っぺらい理由だけど、この世界で生きていくにはそう言う理由があってもいいじゃないか)

 


 壁にある部屋の灯りを消し、鬼一は眠りの中へと入っていった。


 


「はてさて、雑魚モンスターを片付けてくれたのはいいとこなんだが」


 九八階の森林のようなフィールドに身を隠しつつ、鬼一は呟く。


 怪物、ミラージュファングはこの階層の雑魚モンスターを全て遊び感覚で、惨殺していたようだ。


 小型トラクター程もある巨体から繰り出される斬撃や噛みつきはマーナガルムの比ではないだろう。


 辺りはしんと静まり返り、殺気のような嫌なプレッシャーがその場を支配していた。


 三人は木立の影に隠れて、ミラージュファングを包囲していた。


 姿を消していない、今がチャンスだ。


 鬼一の「厄災の指」は坂岡の秘技「俊敏なる雷光ライトニングボルトとは違って何発も打てないため、先ずは坂岡が秘技を使う計画となっていた。


「秘技、俊敏なる雷光ライトニングボルト!」


 そんな殺気を破る声、坂岡が開幕の狼煙を上げたのだ。


(始まりやがった!!)


 見れば、坂岡は能力ヴァナルガンドで変身し、電光石火のように拳をミラージュファングに叩き込んでいた。


 金属同士がかち合うような音が辺りに響く。

 双腕刃マニソルが怪物の皮膚ヲ打っている音だ。

 両者一歩も譲らない気迫で相対しているが、僅かに坂岡が押されている


 坂岡の額に汗が垂れる。


(これは、まさか!効いていないのか!あいつだってそこそこやるんだぞ!)

 

 ミラージュファングの体毛は周囲の風景に溶け込ませるだけが取り柄では無い。

 

 その白銀の毛皮は一定以下の攻撃を現象させる効果があるのだ。



 それに気づいた鬼一が木陰からミラージュファングへ突っ込んでいく。


「下がれ坂岡!ここは俺が!」


「ああ、すまんがよろしく頼む!」


 神の右腕を発言させ、坂岡の秘技が終わった瞬間を見計らって、怪物の横っ腹にに強大な右ストレートを喰らわせる。

 ミラージュファングが吠え声を辺りに響かせる。

 と共に鬼一の右手には打撃が骨まで響いた感触が残った。

「これも、喰らえ!」

 左手に握っていた球状の物体が怪物の毛皮を赤く染め上げる。

 姿を消せるミラージュファングの特性に対して、例え消えてもその場所が分かるようにお手製のペイントボールを当てたのだ。

 退避しようと毛皮を無色透明にしようとするが位置がバレてしまう。

 それに気づかないミラージュファングでは無かった。

 そこに一瞬の隙が生まれた。

「これでそこだ!秘技、厄災の指!」

 鬼一が怪物の懐に潜るようにして踏み込んだ、厄災の指が真っ二つに溶断していく。

 溶断面は熱で焼かれ血肉すら焦がされていた。

 その強靭な命は熱線で刈り取られた。


 それが鬼一の体を食い荒らした怪物の末路だった。



 戦いが終わり、三人が一箇所に集まる。 


「いやぁ、坂岡の秘技が通じないとは、恐ろしい奴だったぜ」 


 鬼一が肩を上下させて息をつきながら、坂岡に言う。


「俺もびっくりだぜ。相手が油断してくれていたからよかったが」


 真っ二つにされたとミラージュファングを見やりながら坂岡も息をついている。


 坂岡の魔力はそこそこあるが、秘技を使った為に少なくなってしまった。


「いつも通り、この死骸も燃やすか?」


「いや、少し待ってくれ」


 鬼一がそう言い、毛皮に手をやる。


「もしかしたら、こいつの毛皮は使えるんじゃないかと思ってな」


 溶断面はに沿って取り出したナイフでミラージュファングの毛皮を剥ぐ鬼一。


「どうだ?伊野、少し生臭いが革の鎧よりは頑丈だろう?」


 伊野が毛皮を叩いたりして確かめる。


「確かに何かに使えそうだね。今は使えないけど、後で役立ちそう」


「それじゃあ、この毛皮の運搬は、量に余裕のある俺に任せてくれ」


 こうして鬼一たちは、ミラージュファングの毛皮を手に入れた。


 再び、ダンジョンの下層への円柱の階段が地響きを立てて動き出す。


 こうして彼らは九九回へと向かっていた

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 ブックマークなどいただけると本当に嬉しいです。 


 何卒よろしくお願いいたします。

 

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