12話 裏ダンジョン攻略
ヴィーテ628によれば、ここの階層は裏ダンジョンと呼ばれる層だと言うことが分かった。
五十階層から秘密の扉を経由してのみたどり着くことができる、未だに攻略されていないダンジョン。
それが裏ダンジョン、バシュムの墳墓。
八七階層と地図が示したのは間違いではなく、裏ダンジョンの八七階層であると説明された。
それとこの裏ダンジョンのクリア条件、それは階層ごとに存在するボスを撃破すること。
ここまでは普通のダンジョンと変わらない。
だがこの裏ダンジョンのモンスターがその分のアルカのダンジョンとは違う点は、雑魚モンスターが召喚されるのではなくその階層に生息しておりいる点。
召喚される雑魚モンスターは数が決まっているが、この裏ダンジョンは未知数の雑魚モンスターと戦わなくてはならず、ボスとの戦闘の際に乱入してくるおそれがあるため先に倒しておく必要があるのだ。
「というわけで戦うが、数の暴力って偉大だったんだな」
伊野の拒絶の聖壁に誘導されて押し寄せる魔獣の群れを前に鬼一が一人ごつ。
それは他の生徒と戦っていた時を思い返しての物だ。
派閥は違えど、それなりに背を預けあっていたのだと言う事を身に染みて理解する鬼一。
その姿は白百合の王冠と革の軽装備である。
装備は人体実験の被験者たちの遺骸から装備を拝借したものだ。
(もう、あのクラスにいたのが遠い日のようだ)
彼が見据えるのは灰色の獣たちの軍勢。
群れは魔狼を中心に構成された群れを成していた。
神の右腕の能力は既に発現しているが、構えたまま群れを見据えている。
魔狼たちは何れも、以前上で戦ったゴブリンなどとは桁違いに強い物たちだ。
生きて次に行くためにはそれら全てを平らげねばならない。
多勢に無勢もいい所だ。
だが、それらの戦力差すらひっくり返すための秘策を備えている。
「秘技、厄災の指!」
神の右腕がその白い輝きが止み、純粋な黒い嵐の色が現れる。青白い光は禍々しいほどに赤くなった。その赤の色は魔除けに非ず、寧ろ魔そのものを現している。
鋼の如き神の右腕の表面が歪にヒビ割れ、その隙間から魔力が噴出する。
魔力は神の右腕を中心に螺旋を描き、怒涛は猛る。
その嵐を纏う腕の五指は砲塔の様に突き出された。
きりりと引き絞られた弓の様にそれは、魔狼達へと標準が合わされる。
魔狼たちは止まらない。
あのニンゲンからは嫌なニオイがする。早く早く、喉笛を噛みちぎらなくては。
我先にと大軍がなだれ込む。
厄災の名を冠した指がその禍々しい力を解き放つ。
決着は一瞬だった。
五十はくだらない数と牡牛程の大きさの魔狼たちは皆、神の右腕から放たれたレーザー、即ち熱線に溶かし尽くされた。
魔狼たちの細胞は瞬時に気化し、塵芥さえ残らない。後には鼻に焼け付くような肉と骨の匂いが立ち込めていた。
それが神の右腕の秘技、「厄災の指」。
秘技とはSランクの能力者のみが会得できる、自身の魔力と体力を使い、繰り出される技である。
その技は普段の各個人の得意な戦い方に左右され、一対一を好む者は一対多の技を覚える事が多い。
訓練の際は個人の戦闘経験を積むために使うのが禁止され、また普段使いはできないため、緊急時にのみ使用される。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ふぅ」
鬼一は秘技を一日に最大二回のみしか使うことが出来ない。
秘技は体力と魔力を大量に使うからだ。
しかしそれを補ってなお威力がある。魔力の濃度によって「厄災の指」の威力が上昇しているのだ。
人に微笑むだけが神ではない。
災厄をもたらし、理不尽に人を死に誘い、奪い、踏みにじる。
その事すら神の側面の一部でしかないが。
魔狼の群れは文字通り蒸発した。
この階層の雑魚モンスターは大方片付いたようだ。
「─さて、お次は君か」
魔狼とは異なり、一際大きな影が一匹。
魔狼たちにしてこの階層のボス、マーナガルムである。
美しい銀色の毛並み、頑健な体つき、その爪は斧よりも切れ味が良い。
金色の双眸が殺意を以て鬼一を睨んでいる。
マーナガルムが駆け出した。
「厄災の指」の状態から元に戻った神の右腕が、蹴り出されたマーナガルムの鉤爪を防ぐ。
ギリリリと厭な音が響く。
その膂力で何とか車の倍はある怪物の巨躯を跳ね返す。
マーナガルムはその力を利用し、神の右腕から跳ね返るように跳躍し、瞬時に付近の岩場をジグザクに飛び移り、目にも留まらぬ速さで鬼一へ一直線に突っ込んだ。
「おおおぉっ!」
彼の首を目がけて狼の顎が打ち込まれた。
間一髪で鬼一の双腕が両側の顎を抑え込む。
「ここで、立ち止まっている、訳には、いかないんだ!」
マーナガルムの顎を跳ね返し鬼一が吠える。
(俺の命の価値は最初っから無い!俺が道を切り開くんだ!)
彼は一直線にマーナガルムへ突撃してゆく。
それに対し怪物は噛みつきで対応してくる。
すんでのところで躱してゆき、そして首を掴んだ。
右腕でヘッドロックをマーナガルムへかけ、鬼一が叫ぶ。
「今だ、坂岡!」
雷光如き速さで坂岡が呼応するかのように、マーナガルムの額の中心へ渾身の突きをお見舞いする。
坂岡もまた能力ヴァナルガンドによりその身体能力はずば抜けている状態。
彼の得物である双腕刃マニソルの刃が頭蓋を突き破り脳にまで到達する。
「離れろ!鬼一!」
ヘッドロックを外して、マーナガルムから距離を取る鬼一。
そこへ坂岡のダメ押しの魔術が炸裂する。
「天命代わりて俺が命ずる。雷電にて眼前の敵を焼き切り給え、ライトニング!」
そこへ坂岡が魔術の雷を流し込んだ。
マニソルの刃を通電し脳髄にまで電流が走る。
「グォォオオォオン!」
感電しマーナガルムが断末魔をあげる。
大木が切り倒されるような音と共に怪物の身体が地に伏す。その躯体はもう動かない。
肩を上下して息をつく鬼一をポンと叩き、労う坂岡。
かくしてマーナガルムは討ち取られ、八七階層は突破された。
その後、神殿を改修した研究室の一部で、鬼一は情報を整理していた。
この研究室で無理やり人体実験につき合わされたホムンクルスの事をである。
ヴィーテ628。
かつてアルカのダンジョンが作られた際に製造されたホムンクルス。
鬼一の紹介の後、彼女は自身の身の上を全て暴露した。
製造の目的はバシュムを研究し、その血の適合者を探す事。先生と呼ばれる研究員と共に何千年と研究に進めていた事。
そして、極めつけには神殿にやってきた冒険者を神殿へ誘導し攫い、人体実験を繰り返していたとのことだった。
その血の適合者が鬼一顕二だったのである。
先生と呼ばれる人物は人体実験の成功、即ちバシュムの血の適合者を見つけた後、部屋へ引きこもっているという、研究結果をまとめているらしい。
まだ鬼一たちの前にはまだ顔を出せないと説明された。
そして、鬼一たちは現在食料の問題に立たされていた。
「今後は一日二食でも五日が限界だな」
坂岡がそう言い放つ。
机に積まれた十個の乾パン、は伊野が所有していたもののみだ。後衛として不測の自体に陥った際の用意として持っていた為、無いよりはマシなのだ。
しかし、今は補給がほぼ完全に途絶えてしまった。
魔物の肉は食えない。
体内の肉には寄生虫がおり、また人間にとって毒となるからだ。
ダンジョン内に取り残された人間が、それでも魔物の肉を食べ中毒死する話も珍しくはない。
そこでこの研究室にある食べ物をかき集めようという算段である。
「研究室には食料は無いのか?」
鬼一がヴィーテ628に説明を求める。
「私は、ホムンクルスは食料をあまり必要とはしません。人間に似せて作られてはいますが、魔力によって動く人間と言った方が良いでしょう。先生はお部屋でお食事をなさっているようですし、先生に後で伺ってみましょう」
「なるほど、その先生はいつ頃お見えになるんだ?」
「先生自らが自発的に出て来ない以上、こちらからはどうにもできません」
さっぱりとヴィーテ628が返す。
「じゃあ、五日間以内にダンジョンを攻略すれば良いってことか」
「いや、それは流石に脳筋すぎない?」
鬼一の提案に伊野が苦言を呈す。
「もうこれしか無いだろ。先生とやらがいつでてくるかわからない今、流石に一日につき乾パン一つは苦しいぜ?」
「それもそうだが、先生がでてくれば何か糸口が見つかるかも知れないぜ?」
坂岡の言葉に先生、と呼ばれる人物の声を鬼一は思い返す。思い出せるのは最期の狂気的な笑い声。果たして、信用できるのだろうか。
「それはまぁそうか。俺と坂岡、伊野は引き続き下へ潜る。時間との戦いだがやってやろうぜ!」
「うん」
「おうよ」
三人は拳をぶつけ合うと覚悟を決めた面持ちで研究室からでていった。
そして時が過ぎること三日後。
現在鬼一たちが攻略している階層は九七階、ボスの髑髏キャタピラーにトドメの一撃を鬼一はお見舞いした。
無数の屍を被ったイモムシの肉塊が地面に沈む。
「初期の予想よりもだいぶうまくやってこれたな」
ボロボロの格好の鬼一が言う。
彼の言葉とは裏腹に革の装備はほぼずたずたになり、辛うじて煤けた後が見られる白百合の王冠があった。
「そうは言っても、お前相当やられてたぞ。お前の身体の再生を見せられる身にもなれよ」
ほとんど被弾の無い坂岡がぼやく。
ここに来るまでに鬼一は、相当数身体にダメージを受けては再生を繰り返していた。
その過程で人体の内側から構成するのを目の当たりにした坂岡や伊野からドン引きされたのだ。
「そんな事言うなよ」
申し訳なさ気にそういう鬼一。
(まぁ。無理はないな。人の中身を見せたまま動いたりしちゃうし。痛みがない訳では無いんだがなぁ。へこむなぁ)
坂岡や伊野を庇い追った傷もある。
(まぁ自分で決めたことだ。俺は坂岡や伊野を守る、それだけは最期まで突き通してやる!)
九八階への階段が開ける。
鬼一顕二の戦いはまだ始まったばかりだ。
「そう言えばだけどさ。やっぱりここまでこれたのは俺たちの能力があってのものだよな」
突然鬼一が話し始める。
「いきなりなんだよ、びっくりするなぁ!」
それに動揺する坂岡が甲高い声を出す。
「いやぁ、ここまで来れたのを振り返ってみて考えたからさ」
「まぁ確かにアルカのダンジョンの上層で俺たちがそれなり戦えたとは言え、ここまで来れるのはやっぱり能力頼みってのは否定できないよな」
「だろ?能力ってかなり異常な力だよな。本当に俺たちが持っていて良い力なのか?」
「でもそれ関しては良いだろ。もう過ぎたことだし、それに持ってなきゃ、俺たちは死んでたんだ。それについてはダンジョンを出てから考えてもいいじゃないか」
ぶっきらぼうに坂岡が言う、その故はダンジョンでの戦闘での疲れでもあるのだろう。
「まぁ、そうだな。クリアしてから考えた方が良さそうだ」
鬼一も疲れからかそこで考えるのを止めた。
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