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リミナス・フロンティア  作者: タコマル
第一部三章
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第四十七話

------美術回廊------


静まり返った美術回廊に、ひやりとした空気が漂う。

ガラスケースに収められた展示物が、三人の緊張を映して揺れた。


カゲロウはわずかに息を吸い込み——影に溶けた。


空気が一瞬だけ“暗くなる”。


次の瞬間、彼はもうヴァレンの背後にいた。


「——終わりだ。」


影の棘が形を成し、槍のようにヴァレンの体を貫こうと迫る。


ヴァレンは驚いたように目を見開き、身をひねった。


ズッ……。


頬をかすめた影の刃が、細く赤い線を刻む。


「ひー……おっそろしいね~……」


頬の血を指で触り、ヴァレンは苦笑した。

声は軽いが、どこか余裕の色が混じる。


カゲロウは影を散らし、すぐにエリスとキアラのもとへ後退した。


「奴の能力がわからん。慎重にいくぞ。」


「おーけー。んじゃ手始めに……ほら、これでも食らえ!」


エリスは片手を突き出し、指を鉄砲の形に。


「——バン!」


灼熱の弾丸が一直線に走り、ヴァレンの頬を掠めて背後の壁を赤く焦がした。


ヴァレンは首を逸らしながら肩をすくめる。


「あっっつ……! いや~強いね君たち。

こんなバケモン染みた子らがターゲットってわかってれば……来なかったなぁ、僕★」


エリスは鼻で笑う。


「……こいつ、案外楽勝じゃね?」


「油断するな。」

カゲロウの声は常に冷静だ。


「奴はまだ“様子見”の戦い方だ。」


キアラが短剣を構えながら問いかける。


「……押し切った方がいいんじゃないかな。」


「さんせー。変な技出される前に潰そ。」

エリスが頭をぽりぽり搔きながら言う。


「……俺に合わせろ。」


カゲロウの影が霧散し、回廊中へ溶け込む。


次の瞬間には、ヴァレンの背へ縦一閃の影が落ちた。


「おっと……!」


跳ねるように避けたヴァレンへ、すぐさまエリスが拳を叩き込む。

炎を纏った拳が連撃となり、硬質な衝撃音が回廊を震わせた。


キアラも踏み込み、二人の死角を狙って高速の斬撃を叩きつける。


正面:エリス

側面:キアラ

背面・死角:カゲロウの影


三人の息はぴたりと合い、隙間のない猛攻がヴァレンを包囲した。


「ちょ、ちょっと待って待って!?

君たち……マジでなに者……!?」


軽口を挟むが、動きには焦りが滲む。

後退し、躱し、受け流し——それでも追いつかれそうになる。


エリスの拳が頬を削り、キアラの刃が肩口を掠め、

影の棘が背中をかすめる。


追い詰められたヴァレンは、ついに観念したように息を吐いた。


「……ん~~~。

これはさすがに、僕でもしんどいなぁ……」


パン。


彼が手を叩いた。


——瞬間。


三人の全身に“あり得ない激痛”が走った。


「——ッッッ!!?」


「な、に……っ……!? 痛っ……!」


エリスもキアラも、膝から崩れ落ちる。

カゲロウでさえ壁に片手をつき、影が揺らいだ。


キアラが震える声で呟く。


「なにも……してなかったのに……なんで……っ」


カゲロウが息を乱しながら睨む。


「何を……しやがった……」


ヴァレンは愉しそうに笑った。


「これどう? 痛いっしょ? ねぇ、痛いよねぇ? 笑」


指先についた血を舐め、続ける。


「君たちがさっき僕に与えた“痛み”……

全部まとめて、お返ししただけだよ?」


にたり。


笑みは薄く、冷たく、底知れない。


「やーーっと“リンク”乗ったわ。

ここまで本気出させてくれてありがとね?」


三人は傷一つないのに、

骨が折れた痛み、焼けた痛み、切られた痛みが同時に襲う。


エリス「くっ……ふざけんな……!」


キアラ「身体……動かない……!」


ヴァレンはくるりと指を回しながら、優雅に告げた。


「さて……ここから、楽しい“本番”だよ?」


******


------庭園------


夜風が渦巻く天空庭園。

花々の揺れが、三人の間に流れる張り詰めた空気を映していた。


ヴォルドとオルグラムは、わずかに身を沈め——同時に踏み込んだ。


ガッ……ッッ!!


拳と拳がぶつかり、空気が爆ぜる。

衝撃で周囲の植木鉢が破裂し、花弁が散った。


「おぉ……やるじゃねぇか。」


ヴォルドの拳に食い込む重み。

オルグラムの顎が僅かに跳ねた。


一撃、二撃、三撃——

互いの拳が閃光のように飛び交い、肉体の衝突音が連続して響く。


オルグラムも僅かに眉を動かし、唸る。


「……強い。」


ヴォルドはニヤリと笑う。


「そっちもな。」


互角。

完全に互角だった。


その一歩後ろで、リリィが手をかざして詠唱する。


「《ハイ・リジェネレイト》っと……はいヴォルドさん回復~。

ついでに筋力バフ、速度バフ、防御バフ、はい盛り合わせ♪」


淡い緑光がヴォルドを包み、彼の筋肉がさらに膨れ上がった。


「助かる。」


オルグラムが素早く状況を読み取り、リリィへ視線を向ける。


「厄介な女だ……先に落とす。」


次の瞬間、地面を蹴ったオルグラムがリリィへ一気に肉薄した。


風が砕ける。


拳がリリィの顔面寸前に迫る——


だが、その拳はそこで止まった。


「……!?」


オルグラムの腕に、木の根が絡みついていた。


リリィが空中で指を滑らせながら微笑む。


「残念、こっちも厄介なんだな~。」


ズドォォン!!


木の根が暴走したようにオルグラムを後方へ引きずり、

地面へ何度も叩きつける。


「……ッ!」


さらに横方向へ“ぶん投げられ”、その先には——


全身を後ろへ引いたヴォルドの拳。


「おらよッ!!」


ゴッッ!!!!


拳がオルグラムの顔面に直撃し、

巨体が庭園の地面を滑りながら弾丸のように吹き飛ぶ。


ガラスのオブジェが砕け、大理石の床に深い溝が刻まれた。


リリィは軽く手を降ろし、息を整える。


「ふぃー……いい感じじゃん、ヴォルドさん♪」


ヴォルドは肩を回しながら不満げに唸る。


「……こんなもんかよ。拍子抜けだな。」


だがリリィは目を細めた。


「いや、まだだよ。あれ……全然本気じゃなかったでしょ。」


吹き飛んだ先の瓦礫の中から、オルグラムがゆっくりと立ち上がる。


皮膚には僅かな出血。

しかし痛みをものともしていない。


「……見事だ。」


ぶれない低い声。


「ここまでの連携……この力……

貴様らなら、十分に“楽しめる”。」


そう言うと、オルグラムの体表に青い光が走り始めた。


筋肉が盛り上がり、骨格が変形していく。


もり……もり……めき……ッ!!


全身が濃紺の毛に包まれ、

獅子と狼を合わせたような恐ろしい獣の形へと移行していく。


ヴォルドが眉をひそめた。


「……こいつ、“獣化”か。」


リリィは青ざめて叫んだ。


「違う!あれ……ただの獣化じゃない!

もしかして——“獣王化”!? えっマジ!?

ヴォルドさん、やっっばいよこれ!!」


ヴォルドは息を吐き、拳を軽く握りしめる。


「だよな。厄介だ……」


獣王化——

本能と魔力を極限まで解放し、

竜種すら屠る力を持つ“選ばれた獣”。


過去には“一国を滅ぼした化け物”までいると伝えられる。


リリィの声が震える。


「獣王化なんて、何百年ぶりだよ……!」


変貌を終えたオルグラムが、大地を踏み鳴らす。


ドン……!!


その威圧だけで空気が押し寄せ、草木が激しく揺れた。


「獣と竜。

どちらが上か——望むところだ。」


ヴォルドはその膨大な魔圧を正面から受け止め、

ギラリと牙を見せて笑った。

「おもしれぇ。

“竜王”の血筋の俺が……“獣王”になんざ負けられるかよ!!」


リリィも興奮気味に声をあげる。

「おー!その気合い、久しぶりに見たよヴォルドさん!」


オルグラムは四つん這いに近い姿勢で体勢を低くし、

蒼いオーラを地面に溢れさせる。


ヴォルドもまた、竜の血を沸騰させるように気迫を燃やす。


——庭園、次の瞬間、

竜 vs 獣 の激突が始まろうとしていた。


******


イレーネとジークは庭園へ急ぐため、通路を駆けていた。

角を曲がった、その瞬間――


ドンッ!!


ジーク「おっっと!!」


カイン「っぶねー……!」


互いに跳ね返るように後ずさる。


ジークはカインの顔を見た瞬間、怒鳴る。


ジーク「走るな!!

お前の速度でぶつかられたら即死なんだよ、こっちは!」


カイン「えぇー……そっちだって走ってたじゃんか。」


ジーク「理屈じゃねぇ!!……で、なんでアイリ、お前は背負われてんだ?」


アイリはカインにおんぶされた状態で、ひらひらと手を振る。


アイリ「えへへ……こっちの方が効率良いっていうか。

カイン君、めっちゃ早いじゃないっすか。」


カインは耳まで赤くしながら呻いた。


カイン「いや、もう降りてくれ……

その、大きいというか……胸が当たって……姿勢がもたねぇ……」


ジーク「そんなの気にすんなよ。童貞かよテメェは。」


カイン「うるせぇ!!」


アイリは笑いながら降り、四人は急ぎ足で情報共有を始める。


イレーネ「まず庭園に向かいましょう。

レオン君とミリアさんが危険です。」


アイリ「マジっすか……。

なんでバカンス中にこんなこと……」


ジークはため息をつく。


ジーク「昔からだよ。

ボスと一緒のバカンスで“休めた試し”がねぇ。」


カイン「取りあえず急ご――」


と言いかけた、その瞬間。


バガァァァァァンッ!!


後方で通路ごと壁が“横に裂ける”ように吹き飛んだ。


四人は驚愕して振り返る。


瓦礫の向こうで、二つの影が激突していた。


黒い甲冑――ゼオハルト。

その攻撃を受け流しながら後退しつつ、


ニヤついているのか怒っているのかわからない表情のトウマが追い詰めていた。


トウマの拳が空気を歪ませるたびに、

通路が抉れ、床が波打つ。


ジーク「クソ! 派手にやりすぎだろボス!!

てか相手ナニモンだ!!?」


「ここにいたら巻き込まれます! 急いで庭園へ――」

イレーネの声を遮るように、

巨大な瓦礫が四人へ飛んできた。


アイリの目の前に迫る。

「——っ!」


だが瓦礫はアイリの鼻先で静止した。


トウマがそこに立っていた。


トウマの手が瓦礫を掴み、地面へ軽く放る。


アイリは腰を抜かし、その場でへたり込む。

「ひゃ……ひゅ……(魂抜け)」


「ア、アイリ....魂が抜けてるじゃねぇか……!」



トウマは眉をひそめつつ四人を見る。

「なんでテメェらここにいんだ。

あぶねーから、さっさとどっか行ってろ。」


「わかってるわ!てかボス、相手は誰なんだよ!」


トウマは一瞬だけゼオハルトの方を見て、淡々と答える。

「ゼオハルト。暗黒騎士。アイツは法国のルキウスと同格かそれ以上かもな。」


カインが青ざめる。

「おいおい……ボス、やれんのかよ!?俺らも――」


「いや、来んな。こいつは俺が殺す。お前らは庭園に行って、残りの奴らを守れ。」


「……わかりました。どうかお気をつけて。」

イレーネは心配をするが指示通りに動くことにした。


ジークは気絶しかけているアイリを抱き上げ、

カインとイレーネと共に庭園へ走り出す。


「ボス……死ぬなよ!」


トウマはゼオハルトへ視線を戻しながら、

片手を軽く振った。


トウマ「死ぬわけねぇだろ」


四人が走り去る中、

再び二人の怪物が激突する轟音が通路を揺らした。



******


------庭園------


レオンは決意したように深呼吸し、ミリアへと向き直った。


「ミ……ミリア……ぼ、僕……す、す――」


――が。


リオナ「レオンく~ん! ミリアちゃん、お待たせ♡」


二人の間に元気よく割り込む声が落ちた。


ミリア「……っ、タイミング……!」


リオナはにこにこしながら二人へ駆け寄る。


リオナ「ミリアちゃん、まさか抜け駆けしてないよね~?♡」


ミリア「は?誰がするか!!」


軽口で返しつつも、妙な嫌な予感が胸に残る。


レオンはその時、ふと気づいた。


——リオナの服の袖に、赤い点がついている。


洞のように見える“血”。


レオン「……リオナさん。そこ、血が……大丈夫ですか?」


リオナは一瞬だけ動きを止めた。


しかしすぐに笑顔を作る。


リオナ「あー、これね? さっき転んだときに、手を擦りむいちゃってさ。拭いたらついちゃったんだよ。」


レオン「大丈夫ですか……?」


リオナ「うんうん、平気平気! すぐ治るし!」


レオンは少し安心しかけたが、

スマホが震え、ジークからの着信が表示される。


レオン「あれ……ジークさんから……? どうしたんだろ。」


通話を繋ぐ。


ジーク『レオン!!無事か!?』


レオン『無事ですが……どうしたんです?』


ジーク『“リオナ”って奴、黒だ!!今すぐ距離取れ!!』


レオン『……え?』


レオンはゆっくりとリオナを見る。


リオナは「ん?」と首を傾げ、いつもと同じ笑顔だ。


ジーク『いいか……そいつの目的はまだ不明だが……

警備員が殺されてた。犯人は“そいつ”だ。

まさか……お前のそばにいるのか?』


レオンの喉がひゅっと鳴る。


レオン(……リオナ、が……?)


ジーク『刺激するな。絶対に、逆上させるなよ……』


プツッ。


通話が切れた。


ミリア「レオン? なんて言われたの?」


リオナ「どしたの? 顔色悪いよ?」


レオンの手が震える。


だが、勇気を振り絞って口を開いた。


レオン「リオナ……

……あなたは、何者ですか?」


リオナ「え……? いきなりどうしたの?」


ミリアは戸惑いながらレオンとリオナを見比べる。


ミリア「どういうことよ、レオン?」


レオン「……リオナは……僕たちの“敵”なんですか?」


リオナの笑顔が、わずかに固まる。


リオナ「は、えっと……ど、どういう……いきなりすぎて……わかんないよ?」


レオン「ジークさんが……

さっき、あなたが人を殺していたと……言ってました。」


リオナ「そ、そんなことしないよ!!」


ミリアが一歩踏み込む。


「さっき、手を擦りむいたって言ってたわよね。見せなさい。」


リオナ「え、え~……今はいいって……」


ミリア「いいから見せろって言ってんの!!」


ミリアが強引にリオナの手首を掴む。


その手は――

無傷。血も傷跡も、一切ない。

むしろ絹のように滑らかで綺麗すぎる。


ミリア「……擦りむいてねぇじゃん。

じゃあ服についたその血は、何?」


リオナの表情から笑顔が滑り落ちた。


リオナ「……はぁぁぁ。

ここでバレちゃうかぁ~……」


レオンとミリアの背筋に冷たいものが走る。


リオナはため息をつき、表情を無邪気から“無”へ変えた。


リオナ「ま、いいか。

——ミリアちゃんは、死んでね。」


ミリアに向かって、リオナの腕が閃く。


その速度は見えなかった。


ミリア「っ……!」


——しかしその手は届かなかった。


伸ばされた腕を止めたのは、

レオンではない。


レオンの身体から立ち昇る黄金の光。


その瞳は金色に染まり、声が別人のように低く響く。


レオン……いや、“セリオン”がリオナの腕を掴んでいた。


セリオン「……やれやれ。

久方ぶりに若造の恋路を、邪魔せず眺めていたというのに。」


リオナの顔から初めて笑みが消える。


リオナ「……誰?

アンタ……誰なの?」


セリオンは淡々と告げる。


セリオン「人は私を――“剣神”と呼ぶ。」


黄金の殺気が天地を裂くように広がる。


セリオン「小娘。我が子孫の失恋……

貴様には、高くつくぞ。」


約二カ月間、投稿やご報告がなく申し訳ありません。

私生活が忙しく書いている時間がありませんでした。

また定期的に載せていきます。


ご愛読の程、ありがとうございます。

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