第三十五話
焦げた風が、静まり返った王都を通り抜けていた。
つい先ほどまで轟いていた魔力の爆音は止み、代わりに耳に届くのは、崩れた瓦礫の軋む音と、負傷者たちのかすかなうめき声だけだった。
紫の結界が夜空を覆い、裂け目のような雲間から光が滲む。
地獄の夜が、ようやく息を吐いた。
ラグノワは瓦礫に腰を下ろし、片手の通信機を操作した。
仮面の奥の瞳が淡く光を放つ。
「……こちらラグノワ。戦線、いったん収束。全員、対策本部まで来い。」
冷静な声が、各地に散っていた仲間たちへ伝わっていった。
******
対策本部跡。崩壊した城壁の一角。
仮設の照明がゆらめき、瓦礫の上でリリィが両手を広げる。
結界の膜が静かに解け、淡い緑光が辺りを包み込んだ。
「これで……結界は解除しました。皆さん、今のうちに治療を。」
癒光が流れ、焼けた皮膚をなぞり、裂けた衣を照らす。
医療班が負傷者を運び、リリィは一人ひとりに光を分け与えた。
焦げた空気に、花の香りのような治癒魔力が漂う。
その脇で、レオンがゆっくりと目を開けた。
まだ視界が霞み、息も荒い。
「……ミリア……僕、意識を失って……。執行者は、どうなりました!?」
慌てて身を起こすと、隣で包帯を巻いていたミリアが肩をすくめた。
「アンタが追い払ったのよ。忘れたの?」
「ぼ、僕が……!? そんな、まさか……!」
驚愕に固まるレオンの背後から――
「あーーーーっ!! いってぇぇぇぇぇぇ!!」
ジークの叫び声が響いた。
瓦礫の上でうつ伏せに寝かされた彼の背中には、キアラが仁王立ち。
手には分厚い湿布を数枚。
「ほらっ、じっとしてて!」
「お前もっと優しくしろ!! 皮が持ってかれる!!」
「師匠のせいでこっちが迷惑かかったんだ! 覚悟しろ!!」
「仕方ねぇだろ! 俺も何がなんだか――いでででで!!」
「パチン!」
乾いた音とともに、湿布がみっちり張られた。
医療班の一人が「いい音だ」と小声で呟き、周囲からくすくす笑いが漏れる。
イレーネが歩み寄り、レオンの肩に手を置いた。
「レオン君、無事ですか? 体に異常は?」
「僕は大丈夫です! イレーネさん、あなたこそ……その傷が……!」
彼女の白い鎧の下、肩口が赤く染まっていた。
「心配いりません。氷で止血しています。動く分には問題ありません。」
彼女は微笑みながら、近くの負傷兵に冷気を注いだ。
「俺も腰いてぇな……あとで貼ってもらわねーと。」
カインが苦笑しながら腰を押さえる。
「それとレオン、最高だったぜ。お前がいなかったら全滅だった。サンキューな。」
「え、あ、はい! いえ……僕なんか……!」
レオンが慌てて手を振ると、カインはニヤッと笑い、肩を軽く叩いた。
そのとき、アイリが端末を叩きながら勢いよく立ち上がった。
「やっと解析終わりました! ラグノワさん!」
「でかした。状況は?」
「かなり複雑な古代言語の魔術式でしたけど、解除できそうです! あ、外部通信だけ先に繋げておきました!」
「優秀だ。……アイリ、リガルドに来ないか? 非常に惜しい人材だ。」
「え~! スカウトですか? どうしよっかな~!」
「おいおい、ボスに浮気か!って怒られんぞ~!」
ジークが痛みに顔をしかめながらも、口だけは元気だった。
「ちょ、ラグノワさんその件はまた今度で! 今は集中っす!」
「ふむ。報酬は多くしてもらうよう伝えておこう。」
「やった~! これで解決屋の利益アップっす!」
アイリはぴょんと跳ねて喜び、リリィが呆れたように笑った。
ラグノワは通信を切り替え、本部に連絡を入れる。
「こちらラグノワ。敵組織および障害は排除。ルナリエは負傷者の手当中だ。現在ドーム状の魔術結界が張られており、侵入不能。三十分で解除可能と判断する。」
『了解。医療連盟を派遣する。ご苦労だった、ラグノワ。現場の収束を頼む。』
「了解。」
短い通信を終えると、仮面の内側で小さく息を吐いた。
広間の入り口から、明るい声がした。
「くっそー、マジ疲れた……!」
エリスが現れ、肩をカゲロウに預けながら歩いてくる。
服は焦げ、金の髪は煤で汚れていたが、瞳だけは生気に満ちていた。
「無事だったか。」ラグノワが言う。
「無事なわけあるか! マジで死ぬかと思った!」
「同感だ。」カゲロウが短く答える。
「カゲロウと偶然合流できてよかったぜ。アタシ方向音痴だから迷ってた。」
「俺もまともに歩けなかった。助かった。」
二人は苦笑し、拳を軽く合わせた。
その直後――重い足音が響く。
「……!」
鎧の金属音。
負傷した兵が思わず道を開けた。
現れたのは、血に染まった白銀の騎士、ルキウス・レクシオンだった。
「ルキウス様!」リリィが駆け寄る。
ラグノワが目を細めた。
「貴殿ほどの実力でも、ゼルロゼは倒せなかったか。」
「……あれは、私の力では敵わん。騎士団の精鋭クラスでも……危うい。」
「特命騎士様で精鋭じゃないんだー。」ミリアが呟く。
「私は中堅にすぎん。」ルキウスは淡々と答える。
血を滴らせながらも、彼の立ち姿は崩れない。
英雄の威厳が、なお残っていた。
「あとはトウマのみか。」ラグノワが呟いた。
全員が一斉に入口を振り向く。
足音が近づき、影が伸び――。
「お疲れさん。死ぬかと思ったぜ。」
現れたトウマは、全裸だった。
「な、なんで裸ァ!?」
「見えた!? 見えた!?」
「きゃあああああ!!」
女性陣が一斉に悲鳴を上げ、リリィが慌てて布を投げる。
トウマは頭をかきながら苦笑した。
「いやー、アークの攻撃で服が全部燃えちまってな。」
「服ぐらい着ろ!」
「はいはい、今着るって。」
彼は虚空保管庫から衣類を取り出し、いつもの黒いロングコートに袖を通す。
それだけで場の空気が、いつもの“リーダーの温度”に戻っていった。
「そんなことより、あのドーム結界、どうなってる?」
「アイリが解析中だ。あと三十分で解除できる。」
「さっすがー! うちの秘書は優秀だろ~!」
「も、もう……照れるじゃないっすか……って、服着てください!!」
「あ、そうだった。」
場の空気が少しだけ柔らかくなり、皆の顔にわずかな笑みが戻る。
トウマは全員を見渡し、手を叩いた。
「よし。全員そろったな。……各自、報告を。」
カゲロウ:「執行者と遭遇。厄介な実力者だった。逃げられた。」
エリス:「アタシも女の執行者と遭遇。逃げられた。」
ヴォルド:「俺も巨人の執行者と遭遇。逃げられた。」
ラグノワ:「こちらもネクロマンサーの執行者と遭遇。逃げられた。」
ルキウス:「私はゼルロゼとかいう女と遭遇。逃げられた。」
「……お前ら全員逃げられてんのかよ!」
一拍置いて、トウマが手を挙げた。
「俺もだ。アークを追い詰めたが、逃げられた。以上。」
全員:「お前もじゃねぇか!!」
爆笑が起き、重苦しい空気が一気に軽くなる。
その笑いの中に、確かに“生還した者たち”の息があった。
トウマは笑いを収め、ラグノワに視線を向ける。
「ラグノワ、お前の隊は大丈夫だったのか?」
「見ての通りだ。イレーネ、キアラ、ジークが戦闘不能。カインは負傷、アイリが解析、リリィが結界維持、ミリアが負傷者の手当。……危なかった。」
「退けたのはお前か?」
「いや。私は何もしていない。退けたのは――レオン、一人だ。」
静寂が落ちる。
「……レオンが?」
「嘘だろ……?」
「お前いつからそんな強くなったんだ!」
「若いもんはすげぇな!」
レオンは狼狽し、両手を振る。
「い、いや、僕は……そんな、覚えてなくて……!」
ラグノワが続ける。
「セリオスとかいう、私の知らない神が憑依して戦った。」
その名を聞いた瞬間、トウマの表情が固まった。
彼は無言で歩み寄り、レオンの目を覗き込む。
「……お前、そんなところにいたのか。」
レオンの片目が淡い金光に染まり、静かな声が漏れた。
「――久しいな、トウマ。」
「……セリオン。」
レオンの口が勝手に動く。
その声はまるで別の存在が喋っているようだった。
「なぜこの子の身体に、私の魂が呼び寄せられたのかは分からん。だが、しばらくこの子の体に世話になる。」
トウマは苦笑した。
「まさか、お前の子孫がうちの新人とはな。」
「そういう縁も悪くないだろう。……お前にも世話になるかもしれん。」
光がゆっくりと消え、レオンは息を吐いた。
「っ……今の、僕……?」
「気にすんな。体の異常は?」
「特には……でも体が軽いです!」
「ならいい。」
一同が見守る中、トウマは空を見上げた。
紫の結界が、まだ夜空に揺れている。
「なんとか生き残ったな。疲れたぜ。うまいもん食わないとな!」
その声に、誰もが小さく笑った。
夜風が吹き抜け、焦げた街をやさしく撫でた。
静寂の中に、わずかな希望が灯っていた。
******
紫の天蓋を走っていた呪脈が、糸をほどくようにほどけていく。
アイリの端末に浮かぶ古代式の構文列が順に消え、最後の一文が柔らかい鐘の音のように弾けた。
「――解除、完了っす!」
夜を閉じ込めていたドーム状結界が、薄いガラスを拭ったみたいに透明になり、やがて空気へ溶けた。風が帰る。冷えた夜気が瓦礫の街路をなで、遠くで誰かが歓声を上げた。
ほどなくして高速回廊の彼方から、白い列が現れた。
リガルド本部の要請に応じた医療連盟の隊列だ。浮遊担架、魔力輸液の灯、香草の匂い。
さらに後に続くのは商都や近隣諸国からの支援部隊――浄水の術者、土木ギルド、祈祷会、炊き出しの鍋。
ルナリエ王国は、崩壊の縁から一歩ずつ“人の営み”の温度を取り戻し始めた。
気づけば、夜の端が白んでいた。
焦げ跡の街に、やわい朝靄が落ちる。破れた城の影から、朱色の陽が静かに顔を出した。
臨時代表・執政官ローデル・ハースは、血と煤に汚れた礼服の裾を整えると、崩れた謁見の間を臨時の式場に変えた。
前に進み出るのは、ラグノワを先頭にしたリガルド組、解決屋の面々、そして白銀の列――ルキウス率いる法国の騎士団。
ローデルは深く頭を垂れる。
「皆さまのおかげで、我が王国は危機を免れました……。心より、感謝申し上げます。」
ルキウスが一歩進み、剣の柄に手を添え、短く頷く。
「礼には及ばない。それより――聖女の行方、王族の安否は未だ不明。引き続き調査が必要だ。」
ラグノワが仮面の奥から静かに応じる。
「調査はリガルドに任せてほしい。術式の痕跡は我々が追える。」
「了解した。私は法国に戻り、現状を王都へ伝える。」
ルキウスは踵を返し、隊列へ視線を投げた。「撤収する。負傷者は後送、残置の浄化班はそのまま残れ。」
白銀の列が動き出す。
その背へ、トウマの声が飛んだ。
「ルキウス!」
銀兜が振り返る。朝日が額の紋章に反射した。
「これから、また色々世話になるかもな。上の連中にも伝えといてくれ。」
「承知しました。伝えておきます。……それと、解決屋は多大な貢献をしました。まずは休息を取ってください。」
短く言い残すと、ルキウスは騎士団を率いて回廊へ消えていった。
その背筋は最後まで真っ直ぐで、城門の影の中へ銀の線を引いた。
瓦礫の階段に腰掛けながら、トウマがみんなへ向き直る。
「ルキウスの言う通り、俺らも一度拠点に戻って休もう。……と言いたいところだが。」
ラグノワが肩をすくめる。
「帰宅の件なんだが、今は高速回廊が今回の件で異常に混み合っていてな。お前たちの拠点行きの便は押さえられなかった。こちらでも手配ができん。」
「えー!! そんな~……」
アイリの肩がだらーんと落ちる。
「そこでだ。」ラグノワは手元の端末を弾く。
「近場で宿を……と言いたいが、見ての通りルナリエはこのありさま。別路の高速回廊を使って“商都ヴァレンティア”へ向かう。そこで短期休息を取る。――滞在地は“エルセリア・ベイ”だ。」
「えっ、エルセリア・ベイって――あのリゾート地じゃないっすか!」
アイリの目が一気に星になる。
「リガルド本部にも確認を取る。可能なら経費で落とす。」
「ひゅ~、太っ腹~!」
トウマが口笛を鳴らす。
「勘違いするな。遊びではない。帰還までの仮宿だ。――くれぐれも、遊びではないと肝に銘じろ。」
「やっと酒が飲める場所に行けるのか……」
ジークがしみじみと空を見上げる。
「おいカイン! リゾートだってよ! リゾート!」
エリスがカインの肩をバンバン叩く。
「……人が多いとこ、あんま得意じゃねぇんだが。」
でも口元は少し緩んでいる。
「エルセリア・ベイ、一度行ってみたかったんだー!」
ミリアは跳ねるように両手を上げた。
「どんなところなんですか?」
レオンが素朴に首を傾げる。
イレーネが淡く説明する。
「商都ヴァレンティアの南湾にある巨大リゾート複合地です。海風が温かく、年中観光客で賑わいます。魔導水路の噴泉、劇場、温泉街、宿泊塔……主要施設はすべて完備。私も行ったことがありませんが、旅雑誌で何度も特集されています。」
「あそこ高いし、予約全然取れないんだもん。」
キアラが頬を膨らませる。
「昔、ボスとリリィと行ったことがある。」
ヴォルドが懐かしげに鼻を鳴らす。
「懐かしいね~!」
リリィが目を細める。
「行ったことあるんすか!?」
アイリが身を乗り出す。
「リゾート化する前にな。あの頃はただの港の飲み屋街だった。……今は当時じゃ想像もつかん規模だと聞く。」
場に柔らかな笑いが満ちる中、ラグノワは姿勢を正し、ローデルへ向き直る。
「ローデル殿。報告書その他の資料は、リガルド宛てに送っていただけると助かる。」
「わかりました。至急取りまとめ、後ほど送らせていただきます。」
ローデルは一礼し、少し言い淀むと続けた。
「報酬については今すぐお支払いできるものが乏しいのですが、その代わりに――“エルセリア・ベイ”で皆さまを“VIP待遇”でお迎えするよう手配いたします。専用カードの発行を依頼済みです。こちら、私の名刺をお持ちください。証明にもなりますので。」
差し出された名刺は、煤に汚れた指先でも大切に扱いたくなる厚みと光沢があった。
王章の型押し、ルナリエの古い水紋が浮いている。
トウマが片眉を上げる。
「ルナリエって、ヴァレンティアでそんな扱い受けてたか?」
「我が国は古くからエルセリア・ベイへ投資を続けてきました。インフラ、港湾、文化施設。彼らは恩を忘れません。向かわれるのであれば――どうか、この特別待遇をお受け取りください。」
「そこまでの厚意は……申し訳ない。」
ラグノワが断ろうとすると――
「えーーー!? せっかくもらえるのに!!」
キアラが背後から腕を組んで引っ張る。
「そうだそうだー!」
「経費節約の大チャンスっす!」
アイリとミリアも左右からラグノワのマントを掴んで引っ張る。
「こ、こら! 遊びに行くわけではないと――」
わちゃわちゃともみ合う間に、イレーネが一歩前へ出て、すっと名刺を受け取っていた。
手つきは医師のそれ、丁寧で迅速。
「ラグノワさん。無事、お預かりしました。」
微笑みながら戻ってくる。
「イレーネ、君まで……」
ラグノワは肩を落とし、仮面の奥で小さくため息をつく。
「取りあえず、行こうぜ。腹、減ったし。」
エリスがお腹を押さえて訴える。
「そうだな。」
トウマが口角を上げる。「――行くとしよう。」
瓦礫を踏み、ひび割れた大路を進む。
そのたび、道の両脇から人々が立ち上がった。包帯の子ども、煤だらけの母親、腕を吊った老兵。
誰もが手を振り、頭を下げ、泣き笑いで「ありがとう」を繰り返す。
「解決屋さんだ!」
「リガルドの人たちも……!」
「助かった、ほんとに……助かった……!」
カインはぶっきらぼうに手を上げ、ヴォルドは照れくさそうに頷き、リリィは涙を拭きながら笑顔を返す。
ジークはいつの間にか湿布を一枚剥がして子どもに張り付けられ、「冷たっ!」と飛び跳ねて笑いが起きる。
朝の光が高くなる。
城の影が短くなって、瓦礫の間に小鳥が降りた。
彼らは背中で感謝を受け止めながら、次の街へ――
商都ヴァレンティア、エルセリア・ベイへ向かう高速回廊へと足を進めていった。
復興の始まりの匂いと、旅立ちの匂いが、同じ風の中に混ざっていた。
******
――ルナリエから遠く離れた、どこか。
薄暗くも上品なアンティーク調の部屋。
重厚なソファに、アークは背を沈めていた。
割れた仮面の隙間から覗く頬は血のように青白く、
包帯の上から滲む瘴気が、燭台の炎を歪める。
扉が音もなく開く。
靴音が絨毯を滑り、鈴のような声が響いた。
「アークちゃん。随分とやられたね~。」
ゼルロゼが笑いながら入ってくる。
いつもの黒翼は畳まれ、代わりに薄紫のドレスが揺れていた。
手にしたティーカップの香りが、鉄と薬草の匂いに混じる。
「……さすがに今回の連中は危なかった。
執行者も全員、かなりやられたようだな。」
「うん、そうなんだよね~。
あの子たちには少し期待してたんだけど、まぁまぁって感じ~。」
アークは片目を伏せたまま、低く笑った。
「解決屋とリガルドの戦力は想定以上だった。」
ゼルロゼはソファの背に寄りかかり、紅茶を一口すする。
「そういえばさ~」と、何でもないように呟いた。
「君のところの“あの子”、商都ヴァレンティアのエルセリア・ベイに向かってたけど……大丈夫なの?」
「……誰のことだ。」
「藍色の髪で、ボブにパーマのかかった可愛い子。
君の組織が育ててた子でしょ~?」
アークは一瞬だけ目を細める。
「……あぁ、リオナか。放っておけ。目的は私も知らん。」
「そうそう、“リオナ・リース”ちゃん! あの子どうなの?」
「……執行者並みに危険だ。あまり問題を起こしてほしくはないが。」
ゼルロゼが唇を吊り上げる。
「ふふ~ん。でも何か起きそうな気がする♡
エルセリア・ベイで何が待ってるのか、楽しみじゃない?」
「……鍵の件はどうなった。」
「まだ少しかかりそう~。でもね、形は見えてきたっぽい。焦らなくてもいいでしょ?」
「……そうか。ならいい。私は少し休む。」
アークは疲れたように目を閉じる。
その瞼の奥で、赤い光が一瞬だけ瞬いた。
「はいはい~。おやすみ、アークちゃん。」
ゼルロゼはくるりと踵を返し、部屋を出ていく。
香水の残り香とともに、重厚な扉が音もなく閉じた。
******
安らぎを求めて向かうのは、陽光と潮風の街。
そこは、癒しの楽園――
まだ誰も知らなかった。
とある“出会い”が、新たな物語の幕開けになることを。
皆様、ご愛読ありあがとうございました。
これにて第二章が終わりとします。
今後の展開にご期待ください。




