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リミナス・フロンティア  作者: タコマル
第一部第二章
37/49

第三十五話

焦げた風が、静まり返った王都を通り抜けていた。

つい先ほどまで轟いていた魔力の爆音は止み、代わりに耳に届くのは、崩れた瓦礫の軋む音と、負傷者たちのかすかなうめき声だけだった。


紫の結界が夜空を覆い、裂け目のような雲間から光が滲む。

地獄の夜が、ようやく息を吐いた。


ラグノワは瓦礫に腰を下ろし、片手の通信機を操作した。

仮面の奥の瞳が淡く光を放つ。


「……こちらラグノワ。戦線、いったん収束。全員、対策本部まで来い。」


冷静な声が、各地に散っていた仲間たちへ伝わっていった。



******



対策本部跡。崩壊した城壁の一角。

仮設の照明がゆらめき、瓦礫の上でリリィが両手を広げる。

結界の膜が静かに解け、淡い緑光が辺りを包み込んだ。


「これで……結界は解除しました。皆さん、今のうちに治療を。」


癒光が流れ、焼けた皮膚をなぞり、裂けた衣を照らす。

医療班が負傷者を運び、リリィは一人ひとりに光を分け与えた。

焦げた空気に、花の香りのような治癒魔力が漂う。


その脇で、レオンがゆっくりと目を開けた。

まだ視界が霞み、息も荒い。


「……ミリア……僕、意識を失って……。執行者は、どうなりました!?」


慌てて身を起こすと、隣で包帯を巻いていたミリアが肩をすくめた。

「アンタが追い払ったのよ。忘れたの?」

「ぼ、僕が……!? そんな、まさか……!」


驚愕に固まるレオンの背後から――

「あーーーーっ!! いってぇぇぇぇぇぇ!!」

ジークの叫び声が響いた。


瓦礫の上でうつ伏せに寝かされた彼の背中には、キアラが仁王立ち。

手には分厚い湿布を数枚。

「ほらっ、じっとしてて!」

「お前もっと優しくしろ!! 皮が持ってかれる!!」

「師匠のせいでこっちが迷惑かかったんだ! 覚悟しろ!!」

「仕方ねぇだろ! 俺も何がなんだか――いでででで!!」

「パチン!」

乾いた音とともに、湿布がみっちり張られた。

医療班の一人が「いい音だ」と小声で呟き、周囲からくすくす笑いが漏れる。


イレーネが歩み寄り、レオンの肩に手を置いた。

「レオン君、無事ですか? 体に異常は?」

「僕は大丈夫です! イレーネさん、あなたこそ……その傷が……!」


彼女の白い鎧の下、肩口が赤く染まっていた。

「心配いりません。氷で止血しています。動く分には問題ありません。」

彼女は微笑みながら、近くの負傷兵に冷気を注いだ。


「俺も腰いてぇな……あとで貼ってもらわねーと。」

カインが苦笑しながら腰を押さえる。

「それとレオン、最高だったぜ。お前がいなかったら全滅だった。サンキューな。」

「え、あ、はい! いえ……僕なんか……!」

レオンが慌てて手を振ると、カインはニヤッと笑い、肩を軽く叩いた。


そのとき、アイリが端末を叩きながら勢いよく立ち上がった。

「やっと解析終わりました! ラグノワさん!」

「でかした。状況は?」

「かなり複雑な古代言語の魔術式でしたけど、解除できそうです! あ、外部通信だけ先に繋げておきました!」

「優秀だ。……アイリ、リガルドに来ないか? 非常に惜しい人材だ。」

「え~! スカウトですか? どうしよっかな~!」

「おいおい、ボスに浮気か!って怒られんぞ~!」

ジークが痛みに顔をしかめながらも、口だけは元気だった。


「ちょ、ラグノワさんその件はまた今度で! 今は集中っす!」

「ふむ。報酬は多くしてもらうよう伝えておこう。」

「やった~! これで解決屋の利益アップっす!」

アイリはぴょんと跳ねて喜び、リリィが呆れたように笑った。



ラグノワは通信を切り替え、本部に連絡を入れる。

「こちらラグノワ。敵組織および障害は排除。ルナリエは負傷者の手当中だ。現在ドーム状の魔術結界が張られており、侵入不能。三十分で解除可能と判断する。」

『了解。医療連盟を派遣する。ご苦労だった、ラグノワ。現場の収束を頼む。』

「了解。」

短い通信を終えると、仮面の内側で小さく息を吐いた。


広間の入り口から、明るい声がした。

「くっそー、マジ疲れた……!」


エリスが現れ、肩をカゲロウに預けながら歩いてくる。

服は焦げ、金の髪は煤で汚れていたが、瞳だけは生気に満ちていた。

「無事だったか。」ラグノワが言う。

「無事なわけあるか! マジで死ぬかと思った!」

「同感だ。」カゲロウが短く答える。

「カゲロウと偶然合流できてよかったぜ。アタシ方向音痴だから迷ってた。」

「俺もまともに歩けなかった。助かった。」


二人は苦笑し、拳を軽く合わせた。


その直後――重い足音が響く。


「……!」


鎧の金属音。

負傷した兵が思わず道を開けた。

現れたのは、血に染まった白銀の騎士、ルキウス・レクシオンだった。


「ルキウス様!」リリィが駆け寄る。

ラグノワが目を細めた。

「貴殿ほどの実力でも、ゼルロゼは倒せなかったか。」

「……あれは、私の力では敵わん。騎士団の精鋭クラスでも……危うい。」

「特命騎士様で精鋭じゃないんだー。」ミリアが呟く。

「私は中堅にすぎん。」ルキウスは淡々と答える。

血を滴らせながらも、彼の立ち姿は崩れない。

英雄の威厳が、なお残っていた。


「あとはトウマのみか。」ラグノワが呟いた。


全員が一斉に入口を振り向く。

足音が近づき、影が伸び――。


「お疲れさん。死ぬかと思ったぜ。」


現れたトウマは、全裸だった。


「な、なんで裸ァ!?」

「見えた!? 見えた!?」

「きゃあああああ!!」


女性陣が一斉に悲鳴を上げ、リリィが慌てて布を投げる。

トウマは頭をかきながら苦笑した。


「いやー、アークの攻撃で服が全部燃えちまってな。」


「服ぐらい着ろ!」

「はいはい、今着るって。」


彼は虚空保管庫から衣類を取り出し、いつもの黒いロングコートに袖を通す。

それだけで場の空気が、いつもの“リーダーの温度”に戻っていった。


「そんなことより、あのドーム結界、どうなってる?」

「アイリが解析中だ。あと三十分で解除できる。」

「さっすがー! うちの秘書は優秀だろ~!」

「も、もう……照れるじゃないっすか……って、服着てください!!」

「あ、そうだった。」


場の空気が少しだけ柔らかくなり、皆の顔にわずかな笑みが戻る。


トウマは全員を見渡し、手を叩いた。

「よし。全員そろったな。……各自、報告を。」


カゲロウ:「執行者と遭遇。厄介な実力者だった。逃げられた。」

エリス:「アタシも女の執行者と遭遇。逃げられた。」

ヴォルド:「俺も巨人の執行者と遭遇。逃げられた。」

ラグノワ:「こちらもネクロマンサーの執行者と遭遇。逃げられた。」

ルキウス:「私はゼルロゼとかいう女と遭遇。逃げられた。」


「……お前ら全員逃げられてんのかよ!」

一拍置いて、トウマが手を挙げた。

「俺もだ。アークを追い詰めたが、逃げられた。以上。」


全員:「お前もじゃねぇか!!」


爆笑が起き、重苦しい空気が一気に軽くなる。

その笑いの中に、確かに“生還した者たち”の息があった。


トウマは笑いを収め、ラグノワに視線を向ける。

「ラグノワ、お前の隊は大丈夫だったのか?」

「見ての通りだ。イレーネ、キアラ、ジークが戦闘不能。カインは負傷、アイリが解析、リリィが結界維持、ミリアが負傷者の手当。……危なかった。」


「退けたのはお前か?」

「いや。私は何もしていない。退けたのは――レオン、一人だ。」


静寂が落ちる。


「……レオンが?」

「嘘だろ……?」

「お前いつからそんな強くなったんだ!」

「若いもんはすげぇな!」


レオンは狼狽し、両手を振る。


「い、いや、僕は……そんな、覚えてなくて……!」


ラグノワが続ける。

「セリオスとかいう、私の知らない神が憑依して戦った。」


その名を聞いた瞬間、トウマの表情が固まった。

彼は無言で歩み寄り、レオンの目を覗き込む。


「……お前、そんなところにいたのか。」


レオンの片目が淡い金光に染まり、静かな声が漏れた。

「――久しいな、トウマ。」

「……セリオン。」


レオンの口が勝手に動く。

その声はまるで別の存在が喋っているようだった。

「なぜこの子の身体に、私の魂が呼び寄せられたのかは分からん。だが、しばらくこの子の体に世話になる。」


トウマは苦笑した。

「まさか、お前の子孫がうちの新人とはな。」

「そういう縁も悪くないだろう。……お前にも世話になるかもしれん。」

光がゆっくりと消え、レオンは息を吐いた。

「っ……今の、僕……?」

「気にすんな。体の異常は?」

「特には……でも体が軽いです!」

「ならいい。」


一同が見守る中、トウマは空を見上げた。

紫の結界が、まだ夜空に揺れている。


「なんとか生き残ったな。疲れたぜ。うまいもん食わないとな!」


その声に、誰もが小さく笑った。


夜風が吹き抜け、焦げた街をやさしく撫でた。

静寂の中に、わずかな希望が灯っていた。



******



紫の天蓋を走っていた呪脈が、糸をほどくようにほどけていく。

アイリの端末に浮かぶ古代式の構文列が順に消え、最後の一文が柔らかい鐘の音のように弾けた。


「――解除、完了っす!」


夜を閉じ込めていたドーム状結界が、薄いガラスを拭ったみたいに透明になり、やがて空気へ溶けた。風が帰る。冷えた夜気が瓦礫の街路をなで、遠くで誰かが歓声を上げた。


ほどなくして高速回廊の彼方から、白い列が現れた。

リガルド本部の要請に応じた医療連盟の隊列だ。浮遊担架、魔力輸液の灯、香草の匂い。

さらに後に続くのは商都や近隣諸国からの支援部隊――浄水の術者、土木ギルド、祈祷会、炊き出しの鍋。

ルナリエ王国は、崩壊の縁から一歩ずつ“人の営み”の温度を取り戻し始めた。


気づけば、夜の端が白んでいた。

焦げ跡の街に、やわい朝靄が落ちる。破れた城の影から、朱色の陽が静かに顔を出した。


臨時代表・執政官ローデル・ハースは、血と煤に汚れた礼服の裾を整えると、崩れた謁見の間を臨時の式場に変えた。

前に進み出るのは、ラグノワを先頭にしたリガルド組、解決屋の面々、そして白銀の列――ルキウス率いる法国の騎士団。


ローデルは深く頭を垂れる。


「皆さまのおかげで、我が王国は危機を免れました……。心より、感謝申し上げます。」


ルキウスが一歩進み、剣の柄に手を添え、短く頷く。

「礼には及ばない。それより――聖女の行方、王族の安否は未だ不明。引き続き調査が必要だ。」


ラグノワが仮面の奥から静かに応じる。

「調査はリガルドに任せてほしい。術式の痕跡は我々が追える。」


「了解した。私は法国に戻り、現状を王都へ伝える。」

ルキウスは踵を返し、隊列へ視線を投げた。「撤収する。負傷者は後送、残置の浄化班はそのまま残れ。」


白銀の列が動き出す。

その背へ、トウマの声が飛んだ。

「ルキウス!」


銀兜が振り返る。朝日が額の紋章に反射した。

「これから、また色々世話になるかもな。上の連中にも伝えといてくれ。」


「承知しました。伝えておきます。……それと、解決屋は多大な貢献をしました。まずは休息を取ってください。」

短く言い残すと、ルキウスは騎士団を率いて回廊へ消えていった。

その背筋は最後まで真っ直ぐで、城門の影の中へ銀の線を引いた。


瓦礫の階段に腰掛けながら、トウマがみんなへ向き直る。

「ルキウスの言う通り、俺らも一度拠点に戻って休もう。……と言いたいところだが。」


ラグノワが肩をすくめる。

「帰宅の件なんだが、今は高速回廊が今回の件で異常に混み合っていてな。お前たちの拠点行きの便は押さえられなかった。こちらでも手配ができん。」


「えー!! そんな~……」

アイリの肩がだらーんと落ちる。


「そこでだ。」ラグノワは手元の端末を弾く。

「近場で宿を……と言いたいが、見ての通りルナリエはこのありさま。別路の高速回廊を使って“商都ヴァレンティア”へ向かう。そこで短期休息を取る。――滞在地は“エルセリア・ベイ”だ。」


「えっ、エルセリア・ベイって――あのリゾート地じゃないっすか!」

アイリの目が一気に星になる。


「リガルド本部にも確認を取る。可能なら経費で落とす。」


「ひゅ~、太っ腹~!」

トウマが口笛を鳴らす。


「勘違いするな。遊びではない。帰還までの仮宿だ。――くれぐれも、遊びではないと肝に銘じろ。」


「やっと酒が飲める場所に行けるのか……」

ジークがしみじみと空を見上げる。


「おいカイン! リゾートだってよ! リゾート!」

エリスがカインの肩をバンバン叩く。


「……人が多いとこ、あんま得意じゃねぇんだが。」

でも口元は少し緩んでいる。


「エルセリア・ベイ、一度行ってみたかったんだー!」

ミリアは跳ねるように両手を上げた。


「どんなところなんですか?」

レオンが素朴に首を傾げる。


イレーネが淡く説明する。

「商都ヴァレンティアの南湾にある巨大リゾート複合地です。海風が温かく、年中観光客で賑わいます。魔導水路の噴泉、劇場、温泉街、宿泊塔……主要施設はすべて完備。私も行ったことがありませんが、旅雑誌で何度も特集されています。」


「あそこ高いし、予約全然取れないんだもん。」

キアラが頬を膨らませる。


「昔、ボスとリリィと行ったことがある。」

ヴォルドが懐かしげに鼻を鳴らす。


「懐かしいね~!」

リリィが目を細める。


「行ったことあるんすか!?」

アイリが身を乗り出す。


「リゾート化する前にな。あの頃はただの港の飲み屋街だった。……今は当時じゃ想像もつかん規模だと聞く。」


場に柔らかな笑いが満ちる中、ラグノワは姿勢を正し、ローデルへ向き直る。

「ローデル殿。報告書その他の資料は、リガルド宛てに送っていただけると助かる。」

「わかりました。至急取りまとめ、後ほど送らせていただきます。」


ローデルは一礼し、少し言い淀むと続けた。

「報酬については今すぐお支払いできるものが乏しいのですが、その代わりに――“エルセリア・ベイ”で皆さまを“VIP待遇”でお迎えするよう手配いたします。専用カードの発行を依頼済みです。こちら、私の名刺をお持ちください。証明にもなりますので。」


差し出された名刺は、煤に汚れた指先でも大切に扱いたくなる厚みと光沢があった。

王章の型押し、ルナリエの古い水紋が浮いている。


トウマが片眉を上げる。

「ルナリエって、ヴァレンティアでそんな扱い受けてたか?」


「我が国は古くからエルセリア・ベイへ投資を続けてきました。インフラ、港湾、文化施設。彼らは恩を忘れません。向かわれるのであれば――どうか、この特別待遇をお受け取りください。」


「そこまでの厚意は……申し訳ない。」

ラグノワが断ろうとすると――


「えーーー!? せっかくもらえるのに!!」

キアラが背後から腕を組んで引っ張る。


「そうだそうだー!」

「経費節約の大チャンスっす!」

アイリとミリアも左右からラグノワのマントを掴んで引っ張る。


「こ、こら! 遊びに行くわけではないと――」


わちゃわちゃともみ合う間に、イレーネが一歩前へ出て、すっと名刺を受け取っていた。

手つきは医師のそれ、丁寧で迅速。


「ラグノワさん。無事、お預かりしました。」

微笑みながら戻ってくる。


「イレーネ、君まで……」

ラグノワは肩を落とし、仮面の奥で小さくため息をつく。


「取りあえず、行こうぜ。腹、減ったし。」

エリスがお腹を押さえて訴える。


「そうだな。」

トウマが口角を上げる。「――行くとしよう。」


瓦礫を踏み、ひび割れた大路を進む。

そのたび、道の両脇から人々が立ち上がった。包帯の子ども、煤だらけの母親、腕を吊った老兵。

誰もが手を振り、頭を下げ、泣き笑いで「ありがとう」を繰り返す。


「解決屋さんだ!」

「リガルドの人たちも……!」

「助かった、ほんとに……助かった……!」


カインはぶっきらぼうに手を上げ、ヴォルドは照れくさそうに頷き、リリィは涙を拭きながら笑顔を返す。

ジークはいつの間にか湿布を一枚剥がして子どもに張り付けられ、「冷たっ!」と飛び跳ねて笑いが起きる。


朝の光が高くなる。

城の影が短くなって、瓦礫の間に小鳥が降りた。


彼らは背中で感謝を受け止めながら、次の街へ――

商都ヴァレンティア、エルセリア・ベイへ向かう高速回廊へと足を進めていった。


復興の始まりの匂いと、旅立ちの匂いが、同じ風の中に混ざっていた。



******



――ルナリエから遠く離れた、どこか。

薄暗くも上品なアンティーク調の部屋。

重厚なソファに、アークは背を沈めていた。


割れた仮面の隙間から覗く頬は血のように青白く、

包帯の上から滲む瘴気が、燭台の炎を歪める。


扉が音もなく開く。

靴音が絨毯を滑り、鈴のような声が響いた。


「アークちゃん。随分とやられたね~。」


ゼルロゼが笑いながら入ってくる。

いつもの黒翼は畳まれ、代わりに薄紫のドレスが揺れていた。

手にしたティーカップの香りが、鉄と薬草の匂いに混じる。


「……さすがに今回の連中は危なかった。

 執行者も全員、かなりやられたようだな。」


「うん、そうなんだよね~。

 あの子たちには少し期待してたんだけど、まぁまぁって感じ~。」


アークは片目を伏せたまま、低く笑った。

「解決屋とリガルドの戦力は想定以上だった。」


ゼルロゼはソファの背に寄りかかり、紅茶を一口すする。

「そういえばさ~」と、何でもないように呟いた。


「君のところの“あの子”、商都ヴァレンティアのエルセリア・ベイに向かってたけど……大丈夫なの?」

「……誰のことだ。」

「藍色の髪で、ボブにパーマのかかった可愛い子。

 君の組織が育ててた子でしょ~?」


アークは一瞬だけ目を細める。

「……あぁ、リオナか。放っておけ。目的は私も知らん。」

「そうそう、“リオナ・リース”ちゃん! あの子どうなの?」

「……執行者並みに危険だ。あまり問題を起こしてほしくはないが。」


ゼルロゼが唇を吊り上げる。

「ふふ~ん。でも何か起きそうな気がする♡

 エルセリア・ベイで何が待ってるのか、楽しみじゃない?」


「……鍵の件はどうなった。」


「まだ少しかかりそう~。でもね、形は見えてきたっぽい。焦らなくてもいいでしょ?」


「……そうか。ならいい。私は少し休む。」


アークは疲れたように目を閉じる。

その瞼の奥で、赤い光が一瞬だけ瞬いた。


「はいはい~。おやすみ、アークちゃん。」

ゼルロゼはくるりと踵を返し、部屋を出ていく。

香水の残り香とともに、重厚な扉が音もなく閉じた。


******


安らぎを求めて向かうのは、陽光と潮風のエルセリア・ベイ

そこは、癒しの楽園――

まだ誰も知らなかった。

とある“出会い”が、新たな物語の幕開けになることを。

皆様、ご愛読ありあがとうございました。

これにて第二章が終わりとします。


今後の展開にご期待ください。

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