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リミナス・フロンティア  作者: タコマル
第一部第一章
17/49

第十五話

朝の湖面は鏡のように静かだった。

薄い靄が漂う中、レオンは桟橋の先で背伸びをしていた。冷たい空気が肺を満たし、体が少しずつ目を覚ましていく。


「……ふぅ。今日も、いい天気だな」

そう呟いた瞬間――背後から腕が回ってきた。


「おっはー! ずいぶん早ぇじゃねぇか!」

「うわっ!? エリスさん!」

レオンの肩を豪快に抱くエリス。陽気に笑うその胸が、盛大に後頭部へ押しつけられていた。


「ま、まぁ~なんか今日は早起きできたな~。健康的だろ?」

「え、ええと……は、はい……!」

レオンは必死に顔を逸らそうとする。が、背後からがっちりホールドされて動けない。柔らかい何かが後頭部を押し潰している。


「エ、エリスさん! そ、その、そろそろ放してくださいっ!」

「あ? 苦しかったか?」

「ち、違います! 胸が、当たってて……!」

「なんだ~? そんなこと気にしてたんだな。さてはお前……童貞だな?」

「~~~っ!!」

顔を真っ赤にして俯くレオン。エリスは吹き出し、「わりぃわりぃ」と笑いながら肩を叩いた。


「からかいすぎたな。ま、朝飯前にいい運動だったろ? 中戻るぞ~」

「は、はい……」


二人が家に戻ると、居間には既にコーヒーの香りが漂っていた。ジークがソファで煙草をくゆらせている。


「おーいジーク、また朝からタバコかよ」

「いいだろ。朝一の一服が至福なんだよ」

そこへ――寝癖を跳ねさせたままのトウマが、寝ぼけ眼でふらりと現れる。


「……ん。なんか騒がしいな」

「トウマさん、珍しいですね。帽子ないの」


レオンが言うと、トウマは目を擦りながら苦笑した。


「ああ、寝るときは取るぜ。……ん、どうした? 素顔がかっこいいって? お世辞はやめろよ」


「誰も言ってねぇよ!」


エリスとジークが同時にツッコむ。

でもレオンだけは、内心では(やっぱり……カッコいいな)と思っていた。


「そういや他の奴らは?」

「たぶん全員寝てる」

「アイリもか?」

その名を出した途端、リリィが奥から顔を出す。


「アイリちゃん、まだ寝てるよ~。布団の中でぐるぐるしてる」

「……よし、久々に起こしに行くか」

トウマが悪い笑みを浮かべる。ジークがコーヒーを置き、顔をしかめた。


「やめとけ。あいつ寝起き悪いぞ。前回、目覚まし壊してたからな」

「大丈夫だろ。俺は目覚ましじゃねーし。」

不穏な宣言とともに、トウマは寝室へ。気になったレオン、エリス、ジークがそっと覗きに行く。


そして――数秒後。


トウマがアイリの隣に寝転び、毛布に潜り込んだ。添い寝。しかも顔の距離、十センチ。

「……ん……だれ……?」


寝ぼけた声。うっすら目を開けたアイリの視界いっぱいに、トウマ。無駄にいい声で一言。

「おはよう」

「ぎゃあああああああああっ!!」


直後、乾いた音が鳴り響いた。

数分後、リビングに戻ったトウマの頬には真っ赤な手形。

「……そりゃ可愛い秘書を起こしに行っただけだってのに」

「アホかこの変態!」

ソファに座ったアイリは寝癖ボサボサ、目は死んでいる。


そこへヴォルドが起きてきて、額を掻きながら言う。

「……なんだ騒がしい。朝っぱらから」

「ボスがアイリの隣で添い寝して殴られた」

エリスがにやけながら言う。


「アホか。セクハラだぞ」

「そういやカインは?」

「まだ寝てる」

「よし」

トウマがすっと立ち上がる。


「……おい待て。まさか――」


数秒後、寝室から絶叫。

「うげぇぇぇぇっ!? ボスが俺にキスしようとしてきたぁぁぁ!!」

カインが飛び出してきて顔を真っ青にしている。


「まだしてねぇよ」

トウマが唇を尖らせる。


「その顔やめろぉぉぉ!!」

カインは絶叫し、ソファの裏に逃げ込んだ。リリィが祈祷具でトウマを小突く。


「ボス、朝から業が深いよ……」

「朝の挨拶って大事だろ」


「どんな挨拶だ!」

全員の声が重なり、笑いと喧騒の中で結局、朝食が出るころには全員が起きていた。リビングはすっかり戦場のようだ。


「……にぎやかすぎて眠気も吹き飛ぶな」

ジークが煙を吐き、エリスが笑って頷く。


「でもこういう朝もいいだろ」

トウマがぼそりと付け加える。

「ま、明日もこんな平和ならいいんだがな」

誰もその言葉の意味を深くは考えなかった。暖かい朝食の匂いが広がる。


やがて喧騒が一段落したころ、ヴォルドがふと呟いた。

「……そういや、ミリアはまだ寝てるな」

「僕、起こしてきます!」

レオンが手を挙げる。


「おう、頼んだ」

トウマが頷き――にやりと笑って、口を尖らせた。

「これで行け。こうやって、“おはよう”ってな」


「い、いやいやいや……!」

レオンが顔を引きつらせる。


「ボス、それマジでセクハラっすよ。未成年に変な教育すんなっす」

「すんません」

トウマは軽く頭を下げたが、反省の色はまるでない。


レオンは深呼吸し、寝室の扉を静かに開ける。カーテンの隙間から差し込む朝光。ベッドの上では――無防備に寝返りをうつミリア。


シーツを蹴飛ばし、寝巻きの裾は半分めくれ、よだれを垂らしながら「ぐかー……ぐかー……」。

(……寝相、すごいな……)


レオンは苦笑して、そっと肩を揺らす。

「ミリア、起きてください。朝ですよ」


次の瞬間――


ミリアの腕がレオンの首に絡みつき、そのまま勢いよくベッドの上に引きずり込んだ。


「うわっ――!?」

気づけば、ミリアが彼の胸に抱きついている。完全なる抱き枕扱い。柔らかな髪が頬に触れ、微かに甘い香り。


(えっ……これ、やばい……近い……!)

唇と唇の距離――わずか数センチ。息がかかるほどの距離で、ミリアの寝息がくすぐったい。

(もしかして……くっつくかも……?)

淡い期待がよぎった、その瞬間。

「ん……んん……あれ、レオン……!?」


ぱちり、と目が開く。

一拍の沈黙――そして、


「ぎゃあああああああっ!!?」


ドカッ!!


――ソファーに座るレオンの頬に見事な手形が残っていた。

「……なるほど。お前もこれ、されたのか」

トウマが自分のビンタ跡を指でさす。口はとがっている。


「ち、違います! 俺は何もしてません!」

「ボスと違って、そんなことする子じゃないっすよ」


アイリが呆れ顔でコーヒーをすすり、ミリアは顔を真っ赤にして俯いた。

「……寝相悪くて、ごめん」

「だ、大丈夫です。びっくりしただけなので」


リビングにまた笑いが広がる。どこか家庭的で、どこか騒がしい――“解決屋”らしい、いつもの朝の光景だ。


昼を少し過ぎたころ。白霧境の森の奥、拠点の裏手には訓練場のような空き地が広がっていた。草を踏む風と、鳥の声。静かな午後。


「――さて」


トウマが腰に手を当てる。


「レオン、ミリア。少し稽古でもするか」

「え、稽古って……」

ミリアが眉を上げる。

「ま、まさか殴り合いとかじゃないですよね?」


「ハードなもんじゃねぇよ。安心しな」

トウマは軽く笑った。


「午前中は魔法と能力の基礎。お前ら、全員手伝え」

「たのしそ~!」

リリィが両手を挙げる。


「若いもんに稽古か! 久しぶりだなぁ、こういうの! がっはっは!」

ヴォルドが豪快に笑い、カインは欠伸。


「はー……めんどくさー」

次の瞬間、エリスの拳がカインの後頭部に落ちた。

「後輩に教えてやる気くらい見せろっつの!」

「いてぇ! 理不尽だろそれ!」


地面の影がふっと膨らみ、黒がゆらりと立ち上がる。

「……面白そうな話をしてるな」

「ぎゃー!! カゲロウさん!? いつからいたんすか!?」

「お前らがうるさいから、影に隠れてた」

「完全に忘れてたぜ……」

ジークがぼそり。トウマが指を鳴らす。


「カゲロウ、お前は見学。二人が怖がる」

「……見学、か」


ほんの少しだけ、カゲロウがしょんぼり。

「カゲロウってそんな顔するんだな」

エリスが珍しそうに言う。


「うるさい」


「俺も見学だ。魔法とかサッパリだしな」

ジークが手を挙げる。


「よし、それじゃ始めっか」

トウマが軽く手を叩き、アイリが端末を操作。空中に魔術式の投影が浮かぶ。

「レオン。魔法はどのくらいわかる?」

「まぁ、少しなら」

「じゃ、お前の世界の魔法の概念を説明してみろ」

「僕の世界では、魔法は下級・中級・上級・最上級の四段階でした。属性は主に火、風、水、土、光。扱える属性で得意分野が変わります」


「ふーん。うちらの強さ的にどの辺なん?」

エリスがニヤリ。


「……エリスさんは確実に最上級レベルです。破壊力でいえば――国家レベル、かと」

「だってよー! すげーだろ!」

エリスが胸を張り、カインの肩を叩く。


「俺は?」

「カインさんは……魔法で評価しづらいですけど、バフ能力と速度で言えば最上級に引けを取りません」

「まぁそんなもんか」

「解決屋の皆さんは、僕の世界なら英雄級――いえ、国家と渡り合える“異端級”です」

「だろうな」

トウマが頷く。

「境界は混沌としてる。単一世界の強者でも、ここじゃ中堅だ」


「数多の化け物がいるからな」

カゲロウが低く言う。


「一応、法国と魔導王国が定めた“魔法階級”はある。FからE、D、C、B、A。Fが一般人、B以上が実力者。で、例外としてSランク。境界内で二百人ほどだ」


「二百……」


「それ以上はもう登録外。各国の直属か、表に出ない連中だ。ちなみに俺ら“解決屋”も、冒険者登録はSだ」


「えええ!? そんな高いの!?」

ミリアが驚きながら机に体を乗り出す。


「実績があるからな」

ヴォルドが笑い、カゲロウが静かに一言。


「お前は、俺らをなめていたのか」

「ひ、ひぃっ! そ、そんなつもりじゃ……!」

「こら、ミリアちゃんをいじめない!」

リリィが軽く小突く。


「怖がらせるつもりは……なかった」

カゲロウが珍しく焦り、ジークが吹き出す。


「こんなもん、ただの見せかけだろ」

「でもジークさん、魔法ランクBですよね~。冒険者個人ランクはAですし~」

「えっ!? ジークさん魔法使えるんですか!?」

レオンが驚く。

「便秘を改善する魔法とかだ」

「それ絶対違うでしょ!」

ミリアがすかさずツッコミ。


「リリィはSランクの魔法使いだ。祈祷術も含めてトップクラス」

「何言ってるんですかボス! ボスこそ全属性全ランク使えるくせに、また謙遜してる~!」

「気のせいだ」

「レオン。お前の世界に“能力”は?」

「スキル的なものならありました。優れた才能を持つ人だけが“固有スキル”を一つ授かる感じです」

「一つだけ?」

ヴォルドが腕を組む。


「はい。一人につき一つだけ、ですけど……」

「ここの連中は最低二つ以上だぞ」

ジークがぼそり。


「えっ!? そんなに!?」

「俺は“追跡”と“過去再現”。他の奴らのは――聞かない方がいい。意味が分からんからな」


「ひでぇ言い方だな」

エリスが笑う。


「でもまぁ、だいたい当たってるけど」

木々の間に魔法陣が淡く光り、風が舞い上がる。レオンとミリアの目が輝く。


「……こういうの、学校みたいで楽しいな」

「学校よりずっと危険だぞ」

トウマが笑い、肩を回した。


「でもまぁ――生き抜くには知識も訓練も必要だからな」

日差しが金に傾いたころ、座学が終わる。


******


「――よし、座学はここまで。次は実技だ。……ジーク、お前が稽古してやってくれ」


「はぁ? なんで俺がやんなきゃいけねぇんだよ。ボスがやれよ」


影からカゲロウが静かに告げる。

「お前が一番、適任だろう。やれ」


「へいへい、わかりやしたよ。ただし文句つけんなよ」

ジークは伸びをして、腰の鞘を外す。


「よし、レオン、ミリア。お前ら前へ。他は外野で見学、口出し無用」

「がんばれ~!」

リリィが手を振り、アイリが端末を構える。


「負けた方は皿洗いだな」

エリスがにやにや。ヴォルドは腕を組み「若いのはいいな」と頷いた。


「じゃ、行くぞ。……俺を本気で倒すつもりで来い」

「そ、そんな無理ですよ!」

「怖気づくな。手加減はしてやるさ」

「ボス、木刀貸してくれ。二人分な」


「了解」

トウマが指を鳴らす。空気が歪み、一本の木剣と双短剣が現れた。

「レオンに木剣、ミリアに双短剣。壊すなよ」

「了解!」

ミリアが握りを確かめ、レオンは構えながら息を整える。


「――お願いします!」


「よし、来い」

最初に動いたのはミリア。風を裂いて駆け込み、低く滑り込む――が、ジークはその動きを読み切り、肩を押し流す。


「悪くねぇ。けど軽いな」


次の瞬間、レオンの木剣が振り抜かれた。静かで、無駄がない。踏み込みと退きの切り替えが異様に滑らか。


ジークが片眉を上げる。受け流しながら、低く呟いた。

「……お前、剣術やってたな?」

「少しだけです」

「少し、ねぇ……」

笑みと同時に、二人の腹に軽い一打。

「ぐっ……!」

地面に倒れる二人へ、ジークは肩をすくめる。


「まぁまぁ上出来。反応も悪くねぇ。冒険者でも通用する」

「ありがとうございます!」

立ち上がるレオン。木剣を支え、汗を拭う――その構えに、トウマの視線が鋭く止まった。


腰の沈め方、剣先の角度、足の運び、呼吸の間――

すべてが、かつて見た“それ”だった。

「……おい、レオン。その剣術、流派に名前はあるか?」


レオンは少し戸惑って答える。

「はい。『セリオン流』っていいます。……僕の家に伝わる古い剣術です」


その一言に、トウマの瞳が一瞬だけ揺れる。

けれど、誰も気づかない。


風が止み、木の葉がざわりと鳴る。


「……そうか。いい流派だな」


淡々と告げて視線を外す。だが胸の奥では遠い記憶が軋んでいた。

――まさか、“あいつ”の剣が、まだ残っていたとは。


喉まで出かけた名を、トウマは押し殺す。懐かしさでも喜びでもない。

胸を焼くのは、遠い昔の“後悔”の痛み。


(セリオン……お前の血、まだレオンの世界で息づいてたのか)


「ボス? どうしたんすか?」

アイリが不思議そうに見つめる。


「いや、なんでもない」

トウマは笑い、肩をすくめた。


******


かなり稽古が続き、気が付けば夕暮れ時になっていた。

「今日の稽古はここまで。……あとは復習しとけ」

ジークが伸びをする。


日差しの中で、いつもの日常が戻っていく。

誰も、トウマの胸の奥で古い記憶が疼いていることなど知らない。


稽古が終わり、草にレオンとミリアが倒れ込む。

「つ、疲れたぁぁ……!」

「もう動けないです……」


横でジークが煙草をくわえたまま笑う。

「お疲れさん。まぁ最初はそんなもんだ」

「ジークさん……やっぱりただの情報屋じゃないですよね……強すぎます……」

「俺なんか解決屋じゃ戦力になってねぇよ」


「お前、いじわるだぞ」

ヴォルドが笑い、エリスは腕を組んでどや顔。

「まぁ、アタシもあいつには取っ組み合いで勝てた試しねぇけどな!」


「お前は雑すぎんだよ。お前が格闘術ちゃんと極めたら、俺も手も足も出ねぇよ」

「はんっ、褒められた気がしねぇ!」


そこへトウマが稽古組の二人に歩み寄る。

「お疲れ。どうだった?」

「おっさんに負けるとは思わなかった……」


「おっさんて言うな」

即ツッコミのジーク。レオンは苦笑しつつも真剣な眼差しで言う。


「……想像以上に強かったです」

「まぁ、あいつは言いたがらねぇけど、昔は色んな国からスカウト来てたほどの実力者だ。冒険者登録はA。けどAであいつに勝てるやつはいねぇよ」


トウマが軽く肩を叩く。

「気を落とすな。ただのおっさんじゃなかったってだけだ」


「――さて、風呂にすっか」


トウマが大きく伸びる。

「裏にでっかい露天風呂がある。先に女子が入ってこい」


「わーい!」

リリィが両手を挙げる。


「じゃ、その間に俺が飯を作っておくか」

ヴォルドが立ち上がり、女性陣はタオルを手に立つ。リリィ、アイリ、エリス、ミリア――


「いこーいこー!」

はしゃぐリリィの横で、トウマが堂々と一緒に歩き出す。


……一瞬で全員の足が止まる。


「……ボス?」

アイリの声が氷点下。

「なんでついてくるんすか」


「なんでって……私も女の子よ!」


――バキィン!


エリスの拳が飛び、トウマは綺麗な放物線を描いてリビングへ。

「よし! 行くぞ!」


満足げなエリスに続き、女性陣は露天風呂へ向かった。


「うわぁ……」

カインが引き気味に呟く。


床に転がるトウマが顔を上げ、ニヤリ。

「なぁ、お前ら……覗きに行こうぜ」


「はぁ!?」


「何アホなこと言ってんだ。死にてぇのか。俺はいかねぇ」

ジークは即拒否。ヴォルドはため息。

「俺は飯の準備がある」


「チッ……ノリ悪いなぁ。――よし、カイン、カゲロウ、レオン! 行くぞ!」

「はぁ!?」「断固拒否だ」「ぼ、僕も行きません!」


次の瞬間、三人はトウマに首根っこを掴まれ、ずるずると外へ――。

湯けむりと星空。木々に囲まれた岩風呂からは、湯気と笑い声。


「いや~、久しぶりにゆっくり風呂に入れて気持ちいーな」

「ねー! エリスちゃん腹筋やばー! スタイルいいー!」

「リリィだって胸でけぇじゃんか! てか……アイリやばくね?」

「な、なに見てるんすか!?」

赤面して胸を隠すアイリに、リリィが「触らせてー!」と飛びかかる。

「やめろー!!」


横ではミリアが自分の胸を見てしゅん……。


「ミリア、小さいの気にしてんのか?」

「う、うるさい……」

「大丈夫っすよ! ミリアちゃんはまだ成長期っす! これからこれから!」


「え、まぁ……ありがと……」


――岩陰。しゃがむトウマが口笛。

「……やっぱりこうでなくっちゃ」


隣でカインが頬を赤らめる。

「やっぱ……アイリ、やばいっすね……」

「リリィもバランスが完璧だ。あれは芸術だな」


「エリスも負けてねぇ。あの肉体美……」

カゲロウが鼻血を垂らしながら呟く。


「お前、結局一番見てんじゃねぇか」

トウマが鼻で笑う。


「観察だ」


トウマはニヤリとレオンを見る。

「で、レオン。お前は誰が一番好みだ?」


「ぼ、僕は……」

顔を真っ赤にして俯き――小声。


「……ミリア、かも……しれないです」

「ははーん。やっぱりな~。気になってたんだな~」


「ち、違っ――」


背後に影。パキパキと指を鳴らす音。振り向けばエリスがバスタオル姿で仁王立ち。その後ろにアイリ・リリィ・ミリア。全員、笑っていない。


――爆音と怒号が止むころには、夜の帳。


リビングには戦場のような光景。トウマはソファーで正座、顔には赤い手形が四つ。横でカインとレオンは土下座、カゲロウは頭に氷袋を乗せ、床に沈む。


「……全部、ボスが悪いことで片付いたな」


ジークがコーヒーを啜りながら淡々。


「当然っす。セクハラは死刑っす」

腕を組むアイリ。

「次やったら祓うからね!」

リリィは怒りのオーラ。


トウマは項垂れ、小声。

「……まぁ、見る価値はあったけどな」


「凝りてねーな!!」

エリスの拳が炸裂し、トウマはソファーごと沈んだ。


笑いとため息が混じる中、ヴォルドが鍋を運ぶ。

「はいはい、バカやってないで晩飯にするぞ」


「やったー!」


テーブルに並ぶ湯気。香ばしいスープと焼きパン。ミリアも微笑みを取り戻し、レオンはまだ頬を赤くしながら「いただきます」。


「風呂より飯の方が癒やされるわ」

カインがぼそり。

ジークは「……ほんと、解決屋は騒がしい」と苦笑。

カゲロウは静かにスープを啜り、「……それが居心地の良さだ」と小さく呟いた。


トウマは頬の腫れを撫で、テーブルの中央でみんなを見渡す。騒がしくも、温かい。戦場では決して得られない“日常”の時間――


コン、コン。


不意に、扉がノックされた。


誰もが手を止める。ヴォルドが眉をひそめ、エリスが箸を止めて振り返る。


「……誰だ?」

外の風が鳴り、窓ガラスが一瞬だけ青く光る。トウマの表情がわずかに変わった。


「……来たな」

立ち上がった彼の声は、低く、確信に満ちる。


――扉の向こうに、奇妙な気配。機械でも人間でもない。魔術と理論の狭間に立つ“何か”。

もう一度、ノック。


コン……コン。

静まり返る室内。トウマが扉に手をかけ、わずかに笑う。


「ようやく来たか――ラグノワ」


その名が夜気に溶け、湯気と笑い声の残る部屋が、静寂に包まれた。


そして――幕が落ちた。

すみません、書き直しです。

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