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リミナス・フロンティア  作者: タコマル
第一部第一章
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第十四話

夕食前の台所は、いつも通りにぎやかだった。

鍋はコトコトと唄い、ハーブの香りが部屋を満たす。

ヴォルドは白身魚を手早くおろし、レオンはまな板を拭き、ミリアは器を磨く。

アイリは帳面と端末を行ったり来たり、リリィは祈祷具の紐を結び、

エリスは椅子に腰掛けてもぐもぐと何かを食べている。

カインはあくびをかみ殺し、カゲロウは窓辺の影を払っていた。


――その真ん中で、トウマだけが火加減を一度見て、二度見た。


「……おい」


ヴォルドの包丁が止まり、まな板にカンッと乾いた音が響く。

白魚の腹から、黒い珠がころりと転がり落ちた。

小指ほどの大きさ。光を吸い込むような漆黒に、内側だけ青がにじむ。

底には反転した印が沈んでいる。


「……なんだ、コレは」ヴォルドの眉が寄る。


「触っちゃだめ!」

リリィがすぐに声をかけ、皿を持ってきた。

「中心は魔力を吸う。縁なら流れが弱いから、外層だけなら安全っぽいね」


珠は浅皿に移され、リリィがそっと両手をかざす。

彼女の祈祷具の紐がかすかに震え、部屋の空気が一段冷えた。


「……冷たい。けど、中は熱い……“青い悪魔”の残り香に似てる。

でもそれだけじゃない。奥にもう一層……“鍵っぽい”鼓動がある」


「鍵!?」レオンが机を叩き、身を乗り出す。

レオンは胸に手を当てた。

「……たしかに。昨日から、胸がざわついてます。」


「共鳴だな」

トウマが短く呟き、指を一振りした。

鍋の音も包丁のリズムも遠のき、部屋に遮音結界が落ちる。


「――はい、出番っすね」

アイリが端末を起動し、黒珠をかざす。

「魔術構成スキャン開始、っと。……うわ、何これ……」


指が止まる。

画面に流れる魔力パターンは、まるで絡み合った文字列の迷路のようだった。


「術式が多層過ぎっす……構造式が分裂してる。

封印系、吸収系、共鳴系……どれも一級品。けど理論が古すぎて読めないっすね」


「理論が古い?」トウマが目を細める。

「いつ頃の様式だ?」


「少なくとも現行の連盟魔術じゃないっす。

リテラ派でもグリモア式でもない。むしろ、“根源言語”に近いかも」


トウマの手が止まる。

「……根源言語。禁書扱いの術体系だな。

大昔に失われたと思ってたが……」


アイリが端末を閉じ、ため息をつく。

「わかるのは“高度”ってことだけっすね。

もしかしたら、“鍵”と似た設計思想で作られたのかも……」


「てか、そもそも鍵って何なの?」ミリアが問う。


「いい質問っす!」

アイリが地図を投影する。

「鍵は八本。どこで作られたか不明の“創世遺物”。

宗派や学派で解釈はバラバラだけど、共通点は桁外れの魔力量。

『一本で“もう一つの世界”を作れる』なんて例えが平然と出るくらいっす。

だから各国も宗教も血眼。『世界を理想に改変』『自分を別世界に実在』なんて噂まであるっす。」


レオンが青ざめる。

「……そんなものが八本も?」


「確認されてるのは一本だけだ」ジークが補足する。

「法国が世界連合騎士団の上席騎士に守らせてる。

上位悪魔でも突破できねぇ代物だ」



トウマはしばらく黙り、珠を透かす。

漆黒の中で、青が脈打つように光った。


「……恐らく“鍵の模倣”だろうな。

でも断定はできない。手を出せば取り込まれる危険がある」


「じゃ、どうするっすか? 封印?」アイリが問う。


トウマは少し考え、懐から古い通信具を取り出した。

黒い金属の輪に光が宿り、空間に淡い魔術紋が浮かび上がる。

指を滑らせると、対話の波が微かに鳴った。


「……俺だ。――ああ、お疲れさん。

例の“残骸”を見てほしい。座標は送った。明日の夜で構わない。……助かる」


短い通話を終えると、輪は音もなく光を失った。


「明日の夜に来てくれるそうだ」


アイリが首を傾げる。

「誰っすか?」


トウマは火を弱め、ぼそりと答えた。

「古い知人だ。あいつなら、この理屈を読めるかもしれん」


ミリアが目を丸くした。

「その人はどんな人なの」


「まぁ“変人”だよ」トウマが肩をすくめる。


リリィが皿を掲げる。

「取り合えず、この子はどうするの?」


「俺が預かる」

トウマは指を鳴らした。

珠の周囲に黒い靄が広がり、空気が一瞬だけ歪む。

――音もなく、珠が消えた。


「虚空保管庫に入れた。

あそこなら外部から干渉できない」


「相変わらず便利だな」エリスが箸をくわえたまま言う。

「うちの台所もそこに繋げば、片付けいらないじゃん?」


「馬鹿言え。俺の保管庫が臭くなる」トウマがため息をつく。


「……なんか難しい話してる間に、鍋焦げそうっすよ」

アイリがそっと火加減を調整した。


「おっと」トウマが笑い、火を弱める。

「焦げたらヴォルドが泣くな」


「泣かん」ヴォルドが即座に返す。


「ヴォルドの兄貴の飯は地味にうまいんだから焦がすなよ」

カインが寝ぼけた声で言い、エリスが同意のうなずきを返す。

「わかる。地味にうまい」


「地味って言うな」


笑いが広がる。

ただ、いつもの“家族の音”が台所に満ちていた。


******


食卓を囲み、湯気が立つ皿を前にレオンがぽつりと言った。


「……僕、この世界に来てから、何も理解できてない気がします。

もっと教えてほしいです」


アイリが待ってましたとばかりに身を乗り出す。

「任せるっす! 教えるっす!」


「アイリ先生登場か……」ヴォルドが笑う。


アイリがレオンに指を向ける。

「じゃあまず、レオンくん。この世界に来てどう思った? 感想でいいっす」


レオンが箸を止め、少し考えてから言った。

「……なんか、ごちゃごちゃしてるなーって」


「正解っす!」アイリが満面の笑み。

「この世界は“境界”。ありとあらゆる世界につながりを持ってるんす。

だから、いろんな世界から物も人も流れ着く。魔法も科学も信仰も、全部混ざってるっす!」


ヴォルドが頷く。

「そのせいで、昔は各世界の最前線として使われていたらしいがな。戦場だ」


「じゃあ、この世界にはどんな国とか政府とかあるんですか?」レオン。


アイリが腕を組み、にやり。

「うーん、それ聞くと長くなるっすよ? 聞きたい?」


「き、聞きたいです!」


「よーし! じゃあ説明するっす!

境界には“八つの超大国家”、通称“オクト・ドミニオン”があるっす!」


エリスが口いっぱいに食べ物を詰めたまま言う。

「八つもあったのか……多すぎね?」


「多いけど、それだけ世界が入り混じってるってことっす!」

アイリは端末を操作し、空中に立体地図を投影した。


「まず一つ目、“神祇国ヤオヨロズ”。

妖怪や神様や人間が共存する霊的な国っす。もともとは別世界にあった小世界で、

次元の歪みで境界と合体しちゃったんすよ」


「合体って……そんなこと起きるの?」ミリアが目を丸くする。


「起きるっす。

二つ目、“機都ネオ=アルカディア”。

魔力をデータ化してAIが支配してるサイバー都市っす!」


トウマが口を挟む。

「電子魔導式が生まれた国だな。俺も昔は少し関わった。」


「三つ目、“帝政ヴァルゼリア”。

血と鉄の国。常に戦争してる軍事国家っす。」


「次は“聖法連合国サンクトリア”通称ーー法国。

これは秩序と法を司る宗教国家。さっき世界連合騎士団の本部っす!」


「五つ目、“蒸都アイアンホルム”。

蒸気と飛空艇の国。冒険者と職人の国でもあるっす。」


「六つ目、“魔導王国アストラリア”。

空を漂う魔導塔群を持つ学問の国っす!」


「七つ目、“古継国アル=シオン”。

千年以上前の儀式や文字をそのまま使ってる伝統国家。

国民全員が“記録者”みたいなもんっす」


「最後、“商都ヴァレンティア”。

全ての金と情報の流れを支配してる商業国家。

戦争が起きても真っ先に儲けるタイプっすね」


「じゃあ……今ぼくらがいるこの場所は、どこの国なんですか?」

レオンが首をかしげて聞く。


「ここは白霧境っす。大国の外――境界自由圏。名目上はどこにも所属してない、中立のフロンティア帯っすね」


「前の襲撃された場所はどっかに属してるんですか?」

レオンが思い出したかのように聞く。

それに乗っかりミリアも口を開く。

「そうだ!あんた達の荷物とか置きっぱなんじゃないの?」


ヴォルド「キリア自由港だ。あそこは中環海自由都市圏、どこの国の旗も掲げない」

トウマ「ありがたい半面、裏仕事も湧く。……だから“捨てた”。回収は状況を見てだな」


「マジどこの国も癖つえーんだよな。こいつらの管轄外の自由なところで生活しててよかったぜ。」

カインが笑う。


トウマが軽く顎を引いた。

「マジどこも癖が本当に強い。変な奴もたくさんいるしな。」


レオンが箸を止め、真剣にうなずいた。

「……少しずつ、わかってきた気がします」


アイリが微笑む。

「焦らなくていいっす。レオンくんがわかんなくても、うちらがいるっすから!」


エリスが笑って肩を叩く。

「そのうち慣れる。だいたいみんな最初は“ごちゃごちゃ”って言うんだよ」


カゲロウが静かに言葉を継ぐ。

「混ざり、ぶつかり、時に喰い合う――それが境界のことわりだ」


トウマが最後に小さく笑う。

「その理を少しでも整えるのが、俺たち“解決屋”の仕事ってわけだ。ちゃんと理解してんのかお前ら」


エリスがポカーンとして

「全然理解してなかった。」


「お前なぁ.....」


笑い声とともに、食卓の湯気が揺れる。

そして夜は、ゆっくりと更けていった。

申し訳ありませんが、書き直しとさせていただきました。

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