邂逅編 その2
久々に魔族がやってきた。
その話は尾ひれその他諸々の怪しい話を加えながら西の大陸中に広がり、田舎町サマリナにやってきたときには魔族は悪逆非道のかぎりを尽くす極悪集団となっていた。
そして、それを聞いてひとりの男が立ち上がる。
プロデンオ。
十九歳。
男。
長身黒髪。
そして、十分に美形である。
もちろん剣の腕は確かであり、町の代表として参加した国の大会で準優勝している。
「俺がその魔族とやらを倒し、伝説の勇者になり英雄譚の主人公として語り継がれる」
普通に考えれば、噂通り国中を荒らしまわる悪逆非道な者たちであれば田舎に住む若者ひとりでどうにかできるものではなく、当然その無謀な行為を大人たちは止めにかかるはずである。
だが、なぜかプロデンオの妄言を彼の親を含む町の大人全員が受け入れ、いや、大賛成し、歓迎式を開き送り出すことを決める。
実をいえば、プロデンオは幼女好き。
いわゆるロリコンなのである。
もちろん正真正銘のロリコンではあるが、彼の場合、性欲の対象というより純粋に幼女を恋愛対象に見ており、普通の若者が年頃の女性におこなうようなことを彼は幼女に対しておこなっていたのである。
むろん、幼女の傍には親もおりプロデンオの思いは成就することはなかったのだが、そもそもハッピーな形で幼女と結婚することを夢見ているプロデンオは、自分の思いを遂げるために幼女を人気のないところに連れ込むなどという犯罪行為はおこなう気は毛頭ない。
そういう意味ではプロデンオはある意味物笑いになるだけの無害な存在なのだが、なにしろその行為そのものが気持ち悪い。
いや。
非常に、非常に、気持ち悪い。
まもなく二十歳になる若者が幼女に対してバラの花束を渡し、自身の想いのすべてを真剣に語っているという様子を思い浮かべれば、その表現に反対する者はいないだろう。
そして、激励の言葉とは裏腹に、両親を含めて大人たち全員、こう思っていた。
魔族様。
この愚かな男をしっかりお仕置きしてください。
さて、世間一般の常識に照らし合わせれば間違いなく変態であるプロデンオであるが、その特別な性癖を除けば極めてまとも。
社交的で同年代の友人も非常に多い。
そして、今回の魔族退治の話はその気持ちの悪い性癖以外はプロデンオと同類ともいえる友人たちにとっても大いに興味をそそるイベント。
当然、魔族退治に出かけるプロデンオに対して友人たちは次々と同行を名乗り出る。
「まあ、この馬鹿がひとりで出かけても魔族に勝てるはずがない。手伝ってやるしかあるまい」
「それよりもどこかの町の幼女に声をかけ、変態と間違えられて牢屋にぶち込まれるだけだろう」
「いやいや、変態と間違えられてではなく、こいつは本物の変態だろう」
「そのとおり。しかも、その幼女が王様の孫娘だったりしたらその場で打ち首だ。そうなったとき、こいつのことだ。何故助けに来なかったのかと逆恨みして毎晩のように俺たちの前に化けて出る。そうならぬように渋々だが一緒に行ってやるしかないな。それで、おまえはどうする?シャルロット」
「まあ、私も行かねばならないでしょうね。なにしろあなたたち全員考えることには不向きな頭を持ち主。町から一歩出た瞬間に道に迷うことと間違いなし。そもそも、馬鹿で汚らしいだけの生き物であるあなたたちなど変態以前に野盗と間違えられて十日もせずに全員断頭台送りでしょう。その点、私がいれば『どこかの貴族令嬢の下僕』くらいには思われるでしょうから断頭台には行くことはありません。ということで、感謝しなさい。プロデンオ。そして、その他大勢。この私も特別に一緒に旅してあげます」
「その物言いは気に入らないが、連れて行かないと盛大に土産を要求される。ここは連れていくべきだろう」
「そうだな」
「異議なし」
こうして、無事いつもの仲間が全員参加と決まったところで、ある問題点に気づいたのは仲間のひとりベーコだった。
「ところで、旅費はどうする」
その瞬間、ひとりを除く全員の表情が曇る。
長い、長い沈黙後。
「……自慢になどならないが俺たち全員蓄えなどない。そうなれば、各自親の脛を齧って金を工面するしかあるまい」
プロデンオが胸を張って本当に自慢にならないことを自慢気に言うと、男たち全員が大きく頷く。
「まあ、それしかないな」
「同じく」
「極めて妥当な方策だ」
「いいえ」
馬鹿な男たちがその空っぽの頭で必死に考えひねり出した実に安直な軍資金の調達方法。
それを敢然と否定したのは、短く刈り揃えられた金髪、青い目、そして、男子と見間違えられてもおかしくない女性らしさゼロの胸部を誇る十六歳になるシャルロットという名の少女だった。
「その点は大丈夫。すでにプロデンオの私物をすべて質屋に出してお金に取り替えたから。おっと、間違えた。あなたたち全員の私物をすべて質屋でお金に替えたから。それから高利貸しのアッベ商会からも旅から帰ってきたら三倍にして返すという念書にあなたたち全員の名前を書いてお金を借りてきた。だから、旅費については何ひとつ心配いらない」
「いやいや、心配するだろう。普通」
「そもそも本人に断りもなく借りるな。というか、アッベ商会もなんでそれで金を貸すのだ」
「そのとおり」
「ちなみにおまえの私物も質屋に持って行ったのだろうな。シャルロット」
「持っていくわけがないでしょう。全部思い出が籠った大事なものなのだから」
「では、借金の署名は?」
「するわけがないでしょう。返せるアテもないのに高利貸しに金を借りるなど馬鹿のやること。頭の悪いあなたたちならともかく、私がそんなことするわけがないでしょう」
そういうことで、シャルロットという名の気の強く実を言えば最年少ながらこのグループを仕切って、馬鹿な年長者に指図する少女を含む五人の遊び仲間がプロデンオの旅に同行することになった。




