恋愛トレーニング初級編
こんな恋がしてみたい!
少女漫画やラブコメを読んで、そう叫んだ経験はおありでしょうか?
けど、異性と話したこともないと悩まれている方も多いことでしょう。わがファーストインパクトジムでは、そんなあなたのために、段階的に異性交流経験を積めるよう、トレーナーがお手伝いします。これで、あなたも素敵な恋の第一歩が踏み出せる!
その謳い文句通り、異性とコミュニケーションするハードルを下げられるよう、初級、中級、上級と難易度に応じてトレーナーがいる。
僕は、一番難易度の易しい初級コースのトレーナーだ。見た目はクラスに一人はいる典型的草食系男子。人の良さそうな顔立ちで、威圧感がない。
「じゃあ、手を繋いでみましょうか」
「はっ、はい!」
カチコチと緊張した様子で、隣から手を伸ばすが、そのぷるぷる震えた手は十センチ足りない。
「えーと、腕をぽんとたたくだけでも大丈夫ですよ?」
「はい……!!」
力の入った返事が返るものの、一瞬の接触すらされる気配がない。というか、あと半歩分は近づかないと届きようがない。
普段ならここまで緊張されることはないんだが。
気を取り直して、メニューを変えてみる。正面に向き合って、手を差し出す。
「握手ならどうですか?」
そろりと伸びた手が、ちょんと指先に当たり、一瞬で離れる。それだけで深呼吸をくり返して、満身創痍だ。
「佐藤さん、大丈夫ですか? そんなに男性が苦手なら、女装男子コースやオネエ男子コースに変更もできますが」
入会登録の際、男性恐怖症の申告はなかったが、異性というだけで途端にあがる人もいる。
「いえっ、難易度を下げずに頑張ります!」
向上心のある生徒さんはトレーナーとしても応援したくなる。
「わかりましたっ、これからも僕と一緒に頑張りましょう!」
「はい、鈴木さん!」
コースがあがるまで、どこまでも彼女に付き合おう。
トレーニングを終え、ジムをでた彼女は大きなため息を吐いた。
「佐藤じゃん。デカいため息ついて、どした?」
「山田」
クラスメイトは彼女がでてきた看板をみて、首を傾げる。
「こんなトコ通わなくても、俺らとダベれんじゃん。意味なくね?」
「あるわよ! 本命とロクに話せないんだから!!」
ジムの勧誘で声をかけられた彼女は、鈴木に一目惚れした。そして、肝心の好きな人相手だと緊張してしまうため、ジム入会を決めたのだ。
「うぅ、せっかく手を繋げるチャンスだったのに」
彼女が初級コースをクリアできる日は遠い。