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失われた青い春

作者: 枯野 影

 冷たい汗に包まれて目を覚ました。目に飛び込んできたのは、白い天井と無機質な蛍光灯の光だった。頭の中がぼんやりとしていて、どこにいるのかすぐには分からなかった。ベッドに横たわり、無意識に目を閉じて深呼吸をする。鼓動が耳元で響き、体中が鉛のように重たい。しばらくの間、ただ天井を見つめていた。


「ここは……どこだ?」


 呟くように出た言葉に、誰も答えない。周囲を見渡すと、白いカーテンが引かれた窓、無機質な壁、そして隣のベッドで規則的に音を刻む心電図モニターが見えた。病院だ――そう認識するまでに数秒かかった。


「目が覚めたみたいね。」


 突然聞こえた声に驚いて、律人は視線を声の方向に向けた。ドアの向こうから若い女性が入ってきた。彼女は看護師のような制服を着ておらず、シンプルな私服姿だった。彼女は律人に微笑みかけ、ベッドの脇に歩み寄る。


「おはよう、律人君。どう? 気分は。」


 彼女の言葉は柔らかく、親しみやすさを感じさせるものであったが、律人には彼女が誰なのかまったく分からなかった。


「ごめん……君は誰?」


 その問いに、彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑みを取り戻した。「私は永井春奈。あなたの友達だよ。」


 春奈と名乗るその女性は、律人に向けて優しい視線を送り続けたが、律人の心は不安と混乱で揺れていた。友達――そう言われても、彼女の顔には見覚えがない。名前すら思い出せない。彼女の言葉を信じたい気持ちがある一方で、なぜこんなにも記憶が曖昧なのかという恐怖が律人を支配していた。


「どうして……俺、ここにいるんだ?」律人はそう尋ねたが、自分の声が震えているのを感じた。


 春奈は一瞬ためらったが、落ち着いた声で答えた。「交通事故に遭ったの。幸い、大きな怪我はなかったんだけど……頭を打ってしまったみたいで、記憶に少し影響が出てるの。」


「記憶に……影響?」


 律人はその言葉を噛みしめるように反芻したが、理解が追いつかない。自分の中にあるべき記憶が、どこか遠くへ消え去ってしまったような感覚が広がっていく。自分の名前さえも他人のように感じるこの状態が、何を意味するのかが分からなかった。


 春奈は律人の手を優しく握り締めた。「大丈夫。少しずつ思い出せるから。焦らないで、今は休んでね。」


 その優しさに、律人はほんの少しだけ心を落ち着かせることができたが、同時に胸の中に広がる空虚感は消えなかった。自分が何者なのか、何をしていたのか、何も思い出せない自分に対する焦燥感が、律人の心に重くのしかかる。


 その後、医師がやってきて、律人の容体について詳しく説明してくれた。頭を強く打ったことで、一時的な記憶喪失を引き起こしたとのことだった。しかし、医師は楽観的で、時間が経てば記憶が戻る可能性が高いと言った。だが、その「いつか」という言葉が、律人には遠い未来のことのように感じられた。


 春奈は律人の横に寄り添い、医師の説明が終わった後も彼の手を離さなかった。律人はその手の温もりに安心感を覚えつつも、自分が彼女に何を感じているのかさえもわからなかった。彼女がどれだけ親しい存在であっても、今の自分には彼女との繋がりが全く感じられないのだ。


 やがて、夕方が訪れ、春奈は一度病室を離れることを告げた。「明日、また来るね。何かあったらすぐに知らせて。」


 律人はただ頷くだけだった。彼女が去った後、病室には静寂が広がった。心電図の音だけがリズミカルに鳴り響き、律人はその音に耳を傾けながら、再び天井を見つめた。


「俺は……誰なんだ?」


 その問いが心の中で何度も反響したが、答えは見つからなかった。自分自身の存在が、まるで他人のものであるかのように感じられた。そして、自分がどこから来て、どこへ向かっていたのかということを思い出すことができないという現実が、ますます自分を不安にさせた。


 律人は目を閉じ、眠りにつこうとしたが、頭の中は混乱したままだった。記憶を取り戻すにはどうすればいいのか、そして、それが戻らなかったらどうするのか。そんな考えが彼を眠らせることを拒んだ。


 夜が更け、病院の静寂が深まる中で、律人は目を閉じたまま、漠然とした恐怖と不安に包まれていた。記憶を失った自分にとって、明日という日はどんな意味を持つのだろうか。その答えはまだ見つからなかったが、律人は眠れないまま、その答えを探し続けるしかなかった。


 数日が過ぎた。高橋律人は、退院後、桜ノ宮学園へと戻ってきた。記憶を失った自分が、これからどのように生活を取り戻せばいいのか、まだ答えは見つからなかったが、とにかく元の場所に戻ることが第一歩だと感じていた。


 桜ノ宮学園は、広いキャンパスに桜の木々が並び、どこか落ち着いた雰囲気が漂う学校だった。校門をくぐった瞬間、律人は懐かしさを感じるべきだったが、何も感じなかった。それどころか、この場所にいた自分がどんな人間だったのかも思い出せないままだ。


「おい、律人!」


 声がかかり、律人が振り向くと、親しげな笑顔を浮かべた少年が駆け寄ってきた。石井翔太だ。律人の親友である彼は、退院後に何度も律人を訪ねてくれたが、律人には彼が本当に親友なのかどうか、いまだに実感が湧かなかった。


「久しぶり! 学校に戻ってきてくれて嬉しいよ。」


 翔太の笑顔に、律人も微笑み返すべきだと思ったが、うまく笑えなかった。自分がかつてどのように彼と接していたのかが分からないため、どう振る舞うべきかも分からないのだ。


「ありがとう、翔太。でも、正直言って、まだ何も思い出せなくて……」


 律人の言葉に、翔太は少し困ったような顔をしたが、すぐに励ますように肩を叩いた。「大丈夫。お前が何も覚えていなくても、俺たちが全部教えてやるよ。それに、お前はお前だ。記憶がなくたって、それは変わらないよ。」


 その言葉に律人は少し救われた気がしたが、同時に何かが引っかかる。記憶がなくても自分は自分だという言葉が、本当にそうなのかと疑問に思った。過去が消えた自分が、どうして同じ人間であり続けられるのか。


 翔太と共に校舎へと向かう途中、彼はふと尋ねた。「翔太、俺ってどんな奴だったんだ?」


 その問いに、翔太は少し考え込むような表情を見せた後、答えた。「律人は真面目で、少し頑固なところがあるけど、みんなに優しい奴だったよ。勉強も運動もそこそこできて、何よりも仲間を大切にするタイプさ。」


 その言葉を聞いても、律人には実感が湧かなかった。自分が真面目で、頑固で、仲間を大切にするタイプだったというのは、ただの言葉に過ぎない。過去の自分がどういう人間であったのかを感じ取ることができない今、それをどう受け止めればいいのかが分からない。


 校舎に入ると、周囲の生徒たちが律人に視線を送った。彼らの目には驚きや好奇心が混ざり合っていた。律人はそれらの視線に耐えるのが辛く、翔太に「早く教室に行こう」と促した。


 教室に入ると、懐かしい匂いが鼻をついたが、それが何の匂いかを思い出せない。教室の風景も、どこか見覚えがあるようでないようで、不思議な感覚に包まれた。自分の席に向かうと、机の上には教科書やノートが整然と置かれていたが、それらを見ても記憶は戻らなかった。


「律人君、大丈夫?」春奈が心配そうに声をかけてきた。彼女の声は柔らかく、律人に安心感を与えたが、それでも自分がどこに立っているのかが分からない不安が心を締め付けた。


「正直言って、まだ何も覚えてないんだ。自分がどういう人間だったのか、それすらも分からない。」律人は正直に打ち明けた。


「焦らなくていいよ。」春奈は優しく微笑んで、「ゆっくりでいいんだから。私たちもサポートするし、先生たちも理解してくれてる。だから、無理しないでね。」


 彼女の言葉は慰めではなく、本当に律人を心配してのものだと感じられた。それが彼の中に少しだけ安心感をもたらした。


 その日、律人は授業を受けながら、何度も自分が何者であるのかを考えた。ノートを取り、黒板に書かれた内容を理解しようと努めたが、頭の中は過去の記憶が戻らない焦りと、現在の自分が何者であるかの疑問でいっぱいだった。


 放課後、翔太に誘われて、二人は学園内の桜の木の下に座った。その場所は生徒たちにとっての憩いの場であり、律人にとっても大切な場所だったのだと翔太が教えてくれたが、律人にはその記憶は一切なかった。


「ここ、何か思い出した?」翔太が尋ねた。


 律人は桜の花びらが風に舞うのを見つめながら、首を横に振った。「いや、何も……ただ、きれいだなって。」


 翔太は少し寂しそうに微笑んだが、律人に向かってこう言った。「律人、過去が全部消えてしまったとしても、今のお前が何を感じるかが大切なんだ。過去がどうであれ、今のお前がどう生きるかで未来が決まるんだよ。」


 その言葉は律人の心に響いたが、同時に過去の自分を知りたいという気持ちは消えなかった。過去がどれだけ重要なのか、今の自分がどう生きるべきなのか、律人はまだ答えを見つけられずにいた。


 帰り道、律人はふと桜ノ宮学園の校門を見上げた。ここが自分の学び舎であるということは分かるが、それ以上の感情は湧いてこない。この場所で何を学び、どんな青春を送っていたのか、今の自分には想像もつかなかった。


 だが、翔太や春奈の言葉が律人に希望を与えていた。記憶を失った自分でも、新しい自分を作り上げることができるかもしれない。そんな可能性を信じてみたいと思い始めていた。


「俺は……これからどうなるんだろう?」


 自問自答を繰り返しながら、律人は桜ノ宮学園を後にした。消えた過去を取り戻すことができるのか、それとも新たな道を切り開いていくのか。律人の心には、不安と希望が入り混じっていた。


 桜ノ宮学園に戻ってから数日が経った。高橋律人は、依然として記憶を取り戻せずにいたが、学園での日常生活を何とかやり過ごしていた。クラスメートたちの優しさと、親友の石井翔太や永井春奈の支えがあってこそだが、自分が過去にどんな人間であったのかを知りたいという思いは、日に日に強くなっていった。


 その日の昼休み、律人は翔太と春奈と一緒に昼食を取っていた。ふと、春奈が話題を変えた。


「律人君、午後の授業、哲学だよね。小林先生の授業、すごく面白いから楽しみにしてて。」


「哲学か……」


 律人はその言葉に少し引っかかりを覚えた。哲学という言葉自体は知っているが、それがどんな学問であり、どう自分に関係してくるのかはわからなかった。しかし、春奈が言うように「面白い」と感じる授業であれば、少し期待してみてもいいかもしれないと思った。


 午後の授業が始まり、律人は教室の後ろの席に座った。黒板には「小林知佳子」と書かれた名札が掛かっており、教壇には女性教師が立っていた。彼女は落ち着いた雰囲気を持ちながらも、どこか知的なオーラを纏っていた。眼鏡の奥から見える鋭い眼差しは、どんな生徒にも真剣に向き合ってくれそうな印象を与えた。


「皆さん、こんにちは。今日のテーマは『自分とは何か』です。」


 小林知佳子の声が教室に響く。その一言が、律人の心に深く刺さった。まるで自分の状況を見透かされているようで、不安と興味が入り混じった感覚に包まれた。


「私たちは日常生活の中で、自分が誰であるかをあまり深く考えないかもしれません。しかし、自己の存在について考えることは、私たちの人生において非常に重要です。特に、何か大きな変化や危機に直面したとき、自分が何者であるのかを問い直すことが求められます。」


 その言葉を聞きながら、律人は自分自身の状況を思い返した。記憶を失った自分にとって、「自分が何者であるか」を問い直すことはまさに避けて通れない問題だ。しかし、記憶を取り戻せないままでは、その問いに答えることはできないのではないかと不安がよぎった。


 小林知佳子は黒板に「アイデンティティ」という言葉を書き、それを中心に講義を進めていった。「アイデンティティは、自己の一貫性や連続性を意味します。つまり、過去と現在が繋がっているという感覚です。私たちは、過去の経験や記憶をもとに自己を認識し、未来に向かって進んでいくのです。」


「では、もしその記憶が失われたら、私たちはどうなるのでしょうか?」と彼女は問いかけた。教室内は静まり返り、誰も答えられないまま、小林は少し微笑んで続けた。「記憶が失われたとしても、私たちは今この瞬間を生きています。つまり、過去にとらわれずに新しい自己を築くことができるのです。」


 その言葉に、律人はハッとした。自分が記憶を失っているからといって、自分自身を見失う必要はないのかもしれない。過去がどうであれ、今の自分が何を考え、どう生きるかが重要だという考え方は、律人にとって新たな視点を与えてくれた。


 授業が終わると、律人は他の生徒たちが教室を出て行くのを見送りながら、もう少し小林知佳子と話してみたいと思った。彼女が教壇で資料を片付けているのを見つけ、律人は意を決して話しかけた。


「先生、少しお話しできますか?」


 小林は驚いた様子もなく、優しく微笑んで彼を迎え入れた。「もちろん。何か相談したいことがあるのかな?」


 律人はどう切り出すべきか迷ったが、結局、正直な気持ちを伝えることにした。「実は、僕……事故で記憶を失ってしまったんです。だから、授業で先生が話された『自分とは何か』という問いが、すごく気になりました。でも、記憶がない僕が、その問いにどう答えればいいのか、わからなくて……」


 小林は律人の話を真剣に聞きながら、少しの間考え込んだ。「記憶を失うことは、とても辛い経験だと思います。でも、律人君、あなたは今ここにいる。記憶が戻らなくても、今のあなたがどう感じ、どう生きるかが大切です。過去に縛られることなく、今の自分を大切にしてあげてください。」


 その言葉は律人にとって、まるで光が差し込んだような感覚をもたらした。記憶がなくても、自分は今ここに生きている。そして、この瞬間をどう生きるかが、これからの自分を形作っていくのだと、少しずつ理解し始めた。


「ありがとうございます、先生。少し、気持ちが軽くなりました。」


 律人は感謝の気持ちを込めてそう言った。小林は穏やかに微笑み、彼を見つめた。「いつでも相談に来ていいからね。あなた自身が何者であるか、これから一緒に考えていきましょう。」


 その言葉に、律人は深く頷いた。小林知佳子との出会いは、彼にとって大きな転機となった。自分を見失わず、未来に向かって歩み出すための第一歩を踏み出すきっかけを得たのだ。


 教室を後にした律人は、少しだけ心が軽くなった気がした。過去の自分がどんな人間であったとしても、今の自分が何を選び、どう生きるかが重要だということを、小林知佳子の言葉を通じて感じることができた。


 それでも、消えた過去への執着はまだ完全に消えていなかったが、少なくとも今の自分を受け入れる準備ができたような気がした。律人は自分の歩幅で、新たな自分を探し続けることを決意した。


 小林知佳子の授業を受けた後、高橋律人は少しずつ自分自身との向き合い方を見つけようとしていた。しかし、消えた記憶に対する焦りは、依然として彼の心に影を落としていた。自分がどんな人間だったのか、過去に何を大切にしていたのか、そうした疑問が頭の中で渦巻いていた。


 ある日の放課後、律人は図書室に足を運んだ。学校の図書室は広く、静寂が保たれている場所で、彼が以前からよく訪れていた場所だということを、翔太から聞いていた。もしかしたら、ここで何かを思い出せるかもしれないという期待を抱きながら、彼は棚に並ぶ本を見つめた。


「何を探しているの?」


 声をかけられ、振り向くとそこには春奈が立っていた。彼女は律人の姿を見て、少し心配そうな表情を浮かべていた。


「ただ、何か……自分に関係があるものを探しているんだと思う。でも、何を探しているのか自分でも分からないんだ。」律人は苦笑いを浮かべながら答えた。


 春奈は優しく微笑み、「無理しないでね。記憶が戻らなくても、律人君は律人君だよ。それに、みんながサポートしてくれるから、何も心配しなくていいんだから。」


 その言葉に、律人は感謝の気持ちを感じつつも、自分自身が見つからないという焦燥感がどうしても消えなかった。記憶を失う前の自分が大切にしていたものが何であったのか、知りたくてたまらなかった。


「ありがとう、春奈。でも、やっぱり自分がどんな人間だったのか、知りたいんだ。もし、それが分かれば、今の自分がどう生きるべきかも見えてくる気がして……」


 春奈はその言葉に頷きながらも、何かを考え込んでいるようだった。彼女はしばらく沈黙した後、口を開いた。「実は、律人君が事故に遭う前、ここでよく哲学の本を読んでいたんだ。特にソクラテスやデカルトの本が好きだったみたい。」


 その言葉に、律人は少し驚いた。哲学に興味を持っていた自分――それが意外に感じられる一方で、なぜか納得もできた。小林知佳子の授業で感じた共鳴が、無意識のうちに自分に響いた理由が、少し理解できた気がした。


「そうなんだ……それで、哲学の授業が心に響いたのかもしれないな。」


 律人はそう言いながら、春奈に感謝の気持ちを込めて微笑んだ。彼女は安心したように頷き、「もし興味があるなら、また一緒に哲学の本を読んでみない?」と提案してくれた。


 律人はその提案を受け入れることにした。過去の自分が何に惹かれていたのか、それを知るための手がかりになるかもしれないと考えたからだ。


 その日の夕方、律人と春奈は図書室の一角に座り、ソクラテスの『弁明』を開いた。律人はページをめくりながら、哲学の言葉が自分の中にどのように響くのかを確かめるように読み進めた。


「ソクラテスは、自分が何も知らないことを知っていると言ったんだよね。」律人が呟くように言った。


「うん、そうだね。そして、その無知を自覚することが、本当の知恵につながるって。」春奈は律人の言葉に頷きながら答えた。


 律人はその言葉を噛み締めた。自分が何も知らない、自分のことさえも分からないという現状が、ソクラテスの言葉と重なり合った。記憶を失った自分は、まさに「無知の知」を体験しているようなものだと感じた。


「もしかしたら、俺が今何も覚えていないのは、何かを学び直すための機会なのかもしれないな。」律人はそう呟きながら、春奈に微笑みかけた。


 春奈もその言葉に笑顔を返し、「そうだね。今の律人君が何を大切にしたいのか、それを見つけることが大事かもしれないね。」と答えた。


 その言葉は、律人の心に響いた。過去の自分を知りたいという思いが強い一方で、今の自分が何を感じ、何を大切にしたいのかを考えることが重要だと気づき始めたのだ。


 春奈と共に読書を終えた後、律人は図書室を後にしながら、自分自身に問いかけた。「過去が消えたとしても、今の自分は何を求めているのだろうか?」その問いは、まだ答えが見つからないものだったが、少なくとも自分がその答えを探し続けることに意義があると感じた。


 外に出ると、夕焼けが校舎を赤く染めていた。律人はその景色を見つめながら、自分の心の中に少しずつ変化が起こっていることを感じ取っていた。過去の自分を知りたいという欲求と同時に、今の自分が何を求めているのかを見つけたいという新たな欲求が芽生えていた。


「失われた自分を取り戻す旅は、今の自分を見つける旅でもあるんだな。」


 律人はそう自分に言い聞かせながら、少しだけ前向きな気持ちで校門へと向かって歩き出した。これからの道のりは決して簡単ではないかもしれないが、自分が何を大切にしたいのかを探し続けることが、自分にとっての新しい目標になるかもしれないと感じ始めていた。


 高橋律人は、桜ノ宮学園での新たな日常に少しずつ馴染んでいったが、記憶が戻らないままの不安と焦燥感は、心の中で静かに渦巻いていた。過去の自分を知るための手がかりを求めて、日々を過ごしていたが、明確な答えはまだ見つかっていなかった。


 そんなある日、放課後の教室で、永井春奈が律人に話しかけてきた。「律人君、放課後、少し時間あるかな?」


 その声に、律人は振り返り、彼女の表情を見つめた。春奈の瞳には、いつも以上に真剣な光が宿っていた。彼女が何か重要な話をしようとしていることが、その目つきから伝わってきた。


「もちろん、いいよ。どこか行きたい場所でもあるの?」


 律人がそう尋ねると、春奈は微笑みながら、「桜の木の下で少し話がしたいの」と答えた。桜の木は、学園のシンボルであり、二人にとっても特別な場所だと彼女が言っていたのを思い出した律人は、その提案に頷いた。


 二人は並んで学園の中庭を歩き、桜の木の下へと向かった。放課後の時間帯、風が穏やかに吹き、桜の花びらがゆっくりと舞い落ちていた。律人はその光景を見つめながら、春奈が何を話そうとしているのか、少し緊張感を抱いていた。


 桜の木の下に着くと、春奈は静かにベンチに腰掛け、律人も隣に座った。しばらくの間、二人は無言で桜の花を眺めていたが、やがて春奈が口を開いた。


「律人君、ずっと言わなければならないことがあるの。」


 彼女の声はどこか震えていて、律人はその言葉を待つ間、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。春奈が何を言おうとしているのか、想像もつかなかったが、その言葉が自分にとって重要なものであることは直感的に理解していた。


「実は……」春奈は少し間を置いてから続けた。「律人君が記憶を失う前、私たち、とても特別な関係にあったの。」


 その言葉に、律人は驚きと戸惑いを感じた。春奈の言う「特別な関係」という言葉が、具体的に何を意味するのか、すぐには理解できなかったが、その一言が彼の心に深く突き刺さった。


「特別な関係……?」律人はその言葉を反芻しながら、春奈に問いかけた。


 春奈は律人の視線をしっかりと受け止めながら、静かに頷いた。「そう。私たちはお互いに惹かれ合っていて、すごく仲が良かったの。私にとって、律人君はとても大切な存在だったし、律人君も同じ気持ちでいてくれたと思う。」


 その告白を聞いた瞬間、律人の心にさまざまな感情が湧き上がった。驚き、困惑、そして何よりも、自分がそんな大切な記憶を失ってしまったことへの深い悲しみだった。


「でも、今は……何も思い出せないんだ。」律人は悔しそうに言葉を絞り出した。「もし、それが本当なら、どうして俺はその記憶を失ってしまったんだろう。どうして春奈のことを思い出せないんだろう……」


 春奈は律人の手をそっと握りしめた。「大丈夫だよ。無理に思い出す必要はないんだから。今の律人君がどう感じているか、それが大事だと思うの。」


 律人はその言葉に救われる一方で、どうしても自分自身を責める気持ちが消えなかった。大切な人との思い出が失われたという事実が、彼の心を重くしていた。


「春奈、俺は君のことを思い出したい。でも、どうしても……」


 言葉に詰まった律人を見て、春奈は優しく微笑んだ。「思い出さなくてもいいの。今の律人君が私とどう向き合うか、それを大切にしたいと思ってるから。私たちはまた、新しい関係を築いていけばいいんだよ。」


 その言葉に、律人は少しだけ心が軽くなった気がした。過去の記憶にとらわれることなく、今の自分がどう春奈と向き合っていくかが重要だという考えが、少しずつ彼の心に染み込んでいった。


「ありがとう、春奈。君の言葉で、少しだけ楽になったよ。これからも、君と一緒に新しい関係を築いていけたら嬉しい。」


 律人がそう言うと、春奈は満足そうに微笑んだ。「もちろんだよ。これからも、ずっと一緒に。」


 その言葉が、律人の心に温かい灯をともした。過去の記憶が戻らないとしても、今の自分がどう生きるかを選ぶことができる。春奈との新たな関係を大切にしながら、彼は少しずつ未来への歩みを進める決意を固めた。


 桜の花びらが舞い落ちる中で、律人は春奈の手を握り返し、二人の未来を共に歩んでいくことを誓った。その手の温もりが、彼にとって新たな希望となった。


 春奈からの告白を受けた高橋律人は、心の中に新たな決意が芽生えていた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分がどう生きるか、どう関わっていくかが大切だという考えが少しずつ根付いてきた。だが、それでも過去の自分がどんな人間であったのか、完全に割り切れるわけではなかった。


 その週末、律人は自宅で一人、ふと思い立って古いアルバムを開いてみた。家のリビングの本棚に並んでいたそれは、律人の家族や友人たちとの思い出が詰まったもので、律人がどんな人間だったのかを知るための手がかりになるかもしれないと感じたからだ。


 アルバムのページをめくると、子供の頃の写真や家族旅行の思い出、学校行事での写真が次々と現れた。笑顔の自分、友人たちとふざけ合う姿、そして両親と一緒に写る写真……それらの光景はどこか懐かしいようで、同時にまったく別の世界のもののようにも感じられた。


「これが……俺か。」


 律人は自分の笑顔を見つめながら、まるで他人の写真を眺めているかのような感覚に囚われた。過去の自分がそこにいるのは分かるが、その記憶が一つも甦らないことが、律人にとっては大きな葛藤だった。


 ページをめくり続けると、ある写真で手が止まった。それは桜ノ宮学園の文化祭での一枚だった。背景には華やかな装飾が施されたステージが映っており、中央には律人と友人たちが並んで立っていた。その中に、春奈もいた。彼女が自分に向けて微笑んでいるその姿は、どこか今とは違う輝きを持っているように見えた。


「この文化祭……」


 律人はその写真を見つめながら、何かが心の奥底で揺らいだのを感じた。薄れた記憶の中で、何かが甦りかけているような感覚だ。しかし、それが何なのかはっきりとは掴めず、彼はもどかしさを感じた。


 その晩、律人は布団に入りながらも、文化祭の写真のことが頭から離れなかった。何か大切なことを忘れている、そんな気がしてならなかった。目を閉じると、頭の中で断片的な映像が浮かび上がってきた。ぼんやりとしたステージの光景、賑やかな音楽、そして誰かの笑い声が耳元に響くような感覚があった。


「俺、何かを思い出しそうなんだ……」


 律人はその感覚に戸惑いながらも、眠りにつくまでその断片を追い続けた。


 次の日、律人は早速翔太と春奈にそのことを話すことにした。放課後、三人は学園内のカフェテリアに集まり、律人はアルバムで見た写真のことを話し始めた。


「昨日、家で古いアルバムを見てたんだ。そこで、文化祭の写真を見つけてさ。何か大切なことを思い出しそうな気がしたんだ。でも、どうしてもはっきりとは掴めなくて……」


 律人の話を聞いた翔太は、少し考え込んでから口を開いた。「文化祭か……確か、あの時は俺たちでステージイベントを企画してたよな。律人、お前はすごく張り切ってたんだぜ。」


「ステージイベント?」律人はその言葉に引っかかりを感じた。「そうか、確かにそんな気がする。でも、どんなイベントだったんだ?」


 春奈が優しく説明を続けた。「律人君が中心になって、音楽イベントをやったんだよ。バンドを組んでね。律人君はギターを弾いてたの。覚えてる?」


 その言葉を聞いて、律人は目を閉じて頭の中を探った。ギターを弾く自分の姿が、ぼんやりとした映像として浮かび上がってきたが、まだはっきりとはしなかった。


「ギター……そうだ、確かに俺、ギターが好きだった気がする。でも、どんな曲を弾いていたのかまでは思い出せない。」


 春奈は少し微笑みながら、律人の肩に手を置いた。「無理に思い出す必要はないよ。思い出したいって気持ちは分かるけど、今の律人君がどう感じるかを大切にして欲しい。過去を思い出すことも大事だけど、それ以上に今の自分が何をしたいのかが大切なんだから。」


 律人はその言葉に深く頷いた。過去の記憶を追い求めることに必死になっていた自分が、今の自分を見失いかけていたことに気づかされたのだ。


「ありがとう、春奈。君の言う通りだよ。今の俺がどう生きるか、それを大事にしなきゃいけないんだな。」


 翔太も律人の肩を叩き、明るい笑顔を見せた。「そうだぜ、律人。過去なんて忘れちまってもいい。今の俺たちがどう生きるか、それが一番大事なんだからさ。」


 その言葉に、律人は再び前向きな気持ちを取り戻した。記憶が戻らなくても、今の自分が何を求め、どう生きるかが重要だということを、少しずつ理解し始めたのだ。


 三人でカフェテリアを後にし、桜の木の下を歩きながら、律人は心の中で新たな決意を固めた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分を大切にし、未来に向かって歩んでいこうと。


「俺は俺だ。過去がどうであれ、今の自分を信じて生きていこう。」


 その夜、律人は久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。消えた過去の記憶にとらわれることなく、今の自分を受け入れ、新たな一歩を踏み出すための準備が整ってきたのだ。


 春奈や翔太との会話を経て、高橋律人は、過去の記憶を取り戻すことよりも、今の自分を見つめ直し、未来に向かって歩んでいくことの大切さに気づき始めた。しかし、その一方で、自分がどんな人間であり、これからどう生きるべきかという問いは、心の中でますます大きくなっていた。


 ある日、放課後の時間に、小林知佳子が開いている「哲学カフェ」というイベントがあると聞いた律人は、ふと興味を持った。それは、少人数で集まり、哲学的なテーマについて自由に話し合う場だという。自分自身を見つめ直すためのヒントが得られるかもしれないと考え、律人はそのカフェに参加してみることにした。


 哲学カフェは、桜ノ宮学園の古い図書室の一角で行われていた。夕方の静かな空気の中、律人は少し緊張しながら部屋に入った。すでに数人の生徒たちが集まっており、小林知佳子もにこやかに彼を迎えた。


「律人君、いらっしゃい。今日はどんなテーマで話し合いたいか、皆で決めていこうと思っているの。何か興味があるテーマはあるかしら?」


 小林の柔らかな声に、律人は少し考えた後、口を開いた。「自分とは何か、そして自分をどう定義するのか……それについて話し合いたいです。」


 その言葉に、小林は穏やかに微笑み、他の生徒たちも興味深そうに頷いた。彼らはすぐにそのテーマに賛同し、カフェの議題として採用された。


「では、まずは自分が何者であるか、どう定義するのかについて、皆で考えてみましょう。」小林が促すと、周りの生徒たちも次々と自分の意見を述べ始めた。


「僕は、自分が何を好きか、何をしたいかで自分を定義しています。趣味や夢が自分の一部だと思うんです。」


「私は、自分と他者との関係性で考えています。他人とどう関わるかが、自分を決める要素だと思うんです。」


 それぞれの意見が飛び交う中、律人は自分自身がどう考えているのかを模索し始めた。過去の記憶を失った今、自分をどう定義すべきか――その答えはまだ見つかっていなかった。


 しばらくして、小林が静かに言葉を紡ぎ始めた。「アイデンティティ、つまり自分とは何かという問いは、哲学においても非常に重要なテーマです。私たちは日々の中で、過去の経験や他者との関わり、そして未来への希望によって自己を形成しています。しかし、記憶や経験が失われたとき、私たちはどのようにして自分を保つべきでしょうか?」


 その問いに、律人は深く考え込んだ。記憶を失っても、自分が存在しているという事実は変わらない。だが、自分を形成していたはずの過去が消えてしまった今、何をもって自分を定義すべきなのか。


「記憶を失ってしまった場合、それでも自分は自分であり続けるのでしょうか?」律人は静かに問いかけた。


 小林はその問いに優しく頷いた。「記憶や経験は、私たちの一部を構成する大切な要素です。しかし、それが失われたとしても、あなたが今ここにいるという事実は変わりません。大切なのは、今の自分が何を感じ、どう生きたいかを見つめることです。」


 記憶が戻らなくても、自分自身を見つけることはできる。今の自分が何を感じ、どう生きるかが、これからの自分を形作るのだ。


 哲学カフェが終わり、律人は帰り道で一人考えを巡らせた。自分とは何かという問いに対する答えは、まだ完全に見つかっていなかったが、それでも少しずつ自分の考えが整理されていくのを感じた。


「過去が消えたとしても、今の自分が何を感じるかが大切なんだな。」


 その思いを抱えながら、律人は桜の木の下を通り過ぎた。舞い落ちる花びらが風に揺れる様子を見つめながら、彼は自分自身と対話を続けた。自分をどう定義するか、そしてこれからどのように生きるべきか――その答えを見つけるための旅は、まだ始まったばかりだった。


「自分との対話を続けていくしかないんだな。」


 律人はそう自分に言い聞かせながら、家へと帰る道を歩んだ。これから先、自分がどんな答えを見つけ出せるのかはわからないが、その問いを追い続けることが、今の自分にとっての新たな目標になった。


 夜が深まり、静かな寝室の中で律人は目を閉じた。自分とは何か、どう生きるべきかという問いに向き合い続けながら、彼は少しずつ自分自身を見つけ出していくことを誓った。


 哲学カフェでの対話を通じて、高橋律人は少しずつ自分自身を見つめ直すことの大切さを感じ始めていた。過去の記憶が戻らないままでも、今の自分が何を感じ、どう生きたいかを考えることが、自分を定義する一歩になるのだと理解した。しかし、まだ答えが見つかったわけではない。自分をどう生きるべきか、その答えを模索する日々は続いていた。


 その週の金曜日、桜ノ宮学園では文化祭の準備が本格的に始まっていた。律人は文化祭のことを聞くと、何かが心の奥底で引っかかる感覚を覚えた。前回の文化祭のことを思い出そうとしたが、やはり記憶は曖昧なままだった。


 放課後、教室に残っていた春奈が律人に声をかけた。「律人君、今年の文化祭も一緒に何かやらない?」


 その提案に、律人は少し驚いた。春奈の言葉には期待が込められていたが、同時に彼女が何を望んでいるのかが直感的に伝わってきた。彼女は律人が前回の文化祭で何をしていたのかを思い出させることなく、新しい経験を一緒に作りたいと思っているのだと感じた。


「うん、やってみようかな。」律人はそう答えた。自分の中で何かが変わり始めているのを感じた。過去にとらわれず、今の自分が何をしたいのかに目を向けることができるようになった気がしたのだ。


 春奈は嬉しそうに微笑んで、「じゃあ、何をやるか考えようか!」と提案した。二人は教室の窓際に座り、文化祭で何をするかを話し合った。律人は春奈が楽しそうにアイデアを出しているのを見て、心が温かくなるのを感じた。彼女と一緒に何かを作り上げることが、今の自分にとって重要な一歩になるのではないかと思ったのだ。


「そうだな、バンドとかどうだろう?」律人がふと提案した瞬間、自分でも驚いた。ギターを弾く自分の姿が、頭の中にぼんやりと浮かんだのだ。それは、文化祭の写真を見たときに感じた感覚と似ていた。


 春奈もその提案に目を輝かせた。「それいいね!律人君、ギター得意だったもんね。今年もみんなでバンドを組んでステージに立とうよ!」


 その言葉に、律人は少し戸惑いを感じた。ギターが得意だったという事実は、記憶には残っていないが、何か心の奥底でそれが正しいと感じる部分があった。しかし、今の自分が本当にそれをできるのか不安もあった。


「うーん、久しぶりだし、上手くできるか分からないけど……でも、やってみる価値はあるかもしれないね。」律人は自分に言い聞かせるように答えた。


 春奈はその言葉に力強く頷き、「絶対大丈夫だよ。律人君ならできるって信じてるから」と励ました。その言葉に、律人は少し勇気が湧いてきた。何かを恐れるよりも、挑戦することが今の自分にとって重要だと感じたのだ。


 数日後、バンドのメンバーが集まり、練習が始まった。翔太も参加しており、彼もまた、律人が再びギターを手にすることに期待を寄せていた。最初の練習で、律人は久しぶりにギターを手にしたが、手が覚えている感覚に驚いた。指が自然に弦を押さえ、リズムを刻む。音が響き始めた瞬間、彼の中に眠っていた何かが目覚めるような感覚があった。


「そうだ、俺はギターが好きだったんだ……」律人は心の中でそう呟いた。記憶が完全に戻ったわけではないが、ギターを弾くことで自分がどんな人間だったのかを少しだけ思い出せた気がした。


 練習が終わった後、律人はバンドのメンバーたちと笑い合い、今の自分がこの瞬間を楽しんでいることに気づいた。過去がどうであれ、今この瞬間に生きることが大切だという小林知佳子の言葉が頭に浮かんだ。


「俺は今、ここにいる。それが全てだ。」


 律人はそう自分に言い聞かせた。文化祭に向けての準備が進む中、彼は少しずつ自信を取り戻しつつあった。記憶が戻らなくても、自分自身を見つけるための旅は、今の自分を大切にすることで進んでいくのだと感じた。


 文化祭当日、ステージに立つ律人は、仲間たちと共に音楽を楽しみ、観客の笑顔に包まれることの喜びを感じていた。過去の記憶にとらわれることなく、今この瞬間を全力で生きることが、彼にとって最も重要なことだと気づいたのだ。


 演奏が終わり、拍手が響く中で、律人は胸の中にある達成感と充実感を感じた。そして、彼は再び未来に向かって歩み出すことを決意した。過去がどうであれ、未来は自分の手で切り開いていくことができるのだ。


「これからも、今の自分を大切にしていこう。」


 その思いを胸に、律人は春奈や翔太と共に文化祭の喧騒の中へと戻っていった。新たな一歩を踏み出した彼は、過去にとらわれることなく、自分自身を見つけるための旅を続けていくことを決めた。


 文化祭のステージを成功させた高橋律人は、今の自分を少しずつ受け入れ、前向きに生きることの大切さを実感していた。過去の記憶が戻らないままでも、今ここで感じる喜びや達成感が、自分にとって大きな意味を持つことを理解し始めていた。


 文化祭が終わったその夜、律人は学園の中庭で一人、桜の木の下に座っていた。周囲は静かで、祭りの喧騒が嘘のように静まり返っていた。彼は今日の出来事を振り返りながら、自分がどれだけ成長したのかを考えていた。


 その時、後ろから誰かが静かに近づいてくる足音が聞こえた。振り向くと、そこには永井春奈が立っていた。彼女もまた、ステージでのパフォーマンスを終えた後、何かを考え込んでいるような表情をしていた。


「律人君、ここにいたんだね。」春奈は微笑みながら、律人の隣に腰掛けた。彼女の顔には、何かを伝えたいという強い意志が感じられた。


「春奈、ありがとう。今日は本当に楽しかったよ。君のおかげで、少しずつ前に進めている気がする。」律人は素直に感謝の言葉を伝えた。春奈の支えがなければ、今の自分はここまで来ることができなかっただろうと感じていた。


 春奈はその言葉に少し照れくさそうに笑ったが、すぐに真剣な表情に戻り、律人に向き合った。「私も、律人君と一緒に過ごす時間が増えるたびに、すごく嬉しいんだ。でもね、律人君、私にはまだ言えてないことがあるの。」


 その言葉に、律人は少し緊張感を覚えた。


「何か、まだ言えていないことがあるの?」


 律人が尋ねると、春奈は小さく頷いた。「そうなの。律人君が記憶を失う前、私たちはとても仲が良かっただけじゃなくて……実は、私はずっと律人君に特別な気持ちを抱いていたの。」


 その告白に、律人は言葉を失った。春奈の真剣な瞳が自分を見つめているのを感じ、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に包まれた。彼女が自分に特別な感情を抱いていたことを知り、その重みを改めて感じた。


「それって……つまり……」


 律人が戸惑いながら尋ねると、春奈は静かに頷いた。「うん。律人君が事故に遭う前から、私はずっと律人君のことが好きだった。でも、事故の後、君が記憶を失ってしまってからは、その気持ちをどう伝えるべきか悩んでいたんだ。」


 春奈の言葉を聞きながら、律人は自分がどれほど彼女にとって大切な存在だったのかを理解し始めた。記憶が戻らない自分に対して、彼女がどれほどの思いを抱えながら接してくれていたのかが、痛いほど伝わってきた。


「春奈……君がそんな風に思ってくれていたなんて、全然気づいてなかった。本当にごめん。でも、君がいてくれたから、俺はここまで来ることができたんだ。だから……」


 律人は言葉を探しながら、春奈の手をそっと握りしめた。「だから、これからも一緒にいてほしい。君と一緒に、これからの自分を見つけていきたい。」


 その言葉に、春奈は目を潤ませながら微笑んだ。「もちろん。私も、律人君と一緒に歩んでいきたい。記憶が戻らなくても、今の律人君が好きだから。」


 律人はその言葉に安堵し、胸の中に温かい感情が広がるのを感じた。過去の記憶に縛られることなく、今の自分が感じる気持ちを大切にしながら、春奈との絆を深めていきたいと思ったのだ。


「ありがとう、春奈。君と一緒にいると、自分が何者であるかを見つけることができる気がするよ。」


 二人はしばらくの間、桜の木の下で手を握り合いながら、静かに夜の空気を感じていた。風が吹き、桜の花びらが舞い落ちる中で、律人は自分がこれからどのように生きていくべきかを考えていた。


 過去の記憶が戻らなくても、今この瞬間に感じる感情が、彼にとっての真実であり、それを大切にすることが自分の未来を形作っていくのだと理解したのだ。


 その夜、律人は春奈と共に未来への一歩を踏み出す決意を固めた。記憶を失ったことにより、彼は新たな自分を見つけるための旅に出た。その旅はまだ始まったばかりだが、春奈と共に歩むことで、彼はきっと自分自身を見つけ出すことができると信じていた。


「これからも、君と一緒に歩んでいきたい。」


 その思いを胸に、律人は春奈と共に桜ノ宮学園を後にした。二人の絆が強まった今、彼らはどんな未来にも立ち向かっていけると信じていた。


 春奈との特別な時間を過ごした後、高橋律人は自分の心が少しずつ変わり始めているのを感じていた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分が何を感じ、どう生きるかを大切にしながら未来に進んでいくことができる。そう信じられるようになったのだ。


 しかし、心の奥底にはまだ一抹の不安が残っていた。それは、過去の自分がどんな人間だったのか、そしてその過去が今の自分にどう影響を与えるのかという疑問だった。春奈との関係が深まるにつれて、彼はますます自分の過去を知りたいという気持ちが強くなっていった。


 そんなある日、律人は偶然にも、その疑問に答えを得るかもしれない出来事に遭遇した。放課後、いつものように図書室で哲学の本を読んでいた彼は、ふと古いノートが棚の隅に押し込まれているのを見つけた。それは、埃をかぶった表紙に「高橋律人」と名前が書かれたノートだった。


「これは……俺の?」


 律人は驚きながらも、手に取ってページをめくった。そのノートには、自分が過去に書いたと思われる日記やメモがびっしりと書き込まれていた。記憶を失う前の自分が何を考え、何に悩んでいたのかを知る手がかりが、そこに詰まっているように思えた。


 彼は静かな図書室の一角でノートを開き、ページをめくり始めた。そこには、文化祭の準備やクラスメートとの交流、そして春奈との出来事が詳細に記されていた。文字を追うごとに、律人の心は過去の自分に引き寄せられていった。


「春奈のこと……本当に大切に思っていたんだな。」


 ノートには、春奈への想いが何度も書かれていた。彼女との関係がどれほど特別なものだったのか、自分がどれだけ彼女を大切にしていたのかが、文章から伝わってきた。その中には、文化祭のステージに向けて一緒に練習していたことや、彼女との未来を夢見ていたことが綴られていた。


 だが、そのノートの中で、律人はあるページに目が留まった。それは、自分が抱えていたある秘密について書かれたもので、彼が春奈や翔太にさえも言えなかったことが記されていた。


「俺は……なぜこんなことを……」


 その内容は、彼が事故に遭う前に感じていた深い不安や、自分自身に対する疑問について書かれていた。自分が本当に春奈の期待に応えられるのか、自分が望んでいる未来が何なのか、その答えが見つからずに苦しんでいたのだ。


「俺は、記憶を失う前も、自分に自信がなかったんだ……」


 律人はその事実に愕然とした。記憶を失ってからの自分と、記憶を持っていた頃の自分は、どこか似ている部分があった。過去の自分もまた、未来に対して不安を感じ、自己を見つめ直そうとしていたのだ。


 ノートを閉じた律人は、心の中で複雑な感情が渦巻いているのを感じた。過去の自分が抱えていた不安や悩みは、今の自分にも通じる部分があった。そして、その過去の悩みを知ることで、今の自分がどう生きるべきかを考えるヒントになるのではないかと感じた。


 その夜、律人は春奈と話をすることに決めた。彼女には、過去の自分が抱えていた悩みや不安を正直に打ち明け、彼女の意見を聞きたいと思ったのだ。


「春奈、少し話をしてもいいかな?」


 律人が電話をかけると、春奈はすぐに応じてくれた。二人は電話越しに、律人が見つけたノートについて話を始めた。


「ノートには、君との思い出や、俺が抱えていた不安がたくさん書かれていたんだ。君のことを本当に大切に思っていたのに、自分が君の期待に応えられるかどうか、ずっと悩んでいたみたいで……」


 春奈は律人の話を静かに聞き、優しく答えた。「律人君、そんなこと気にしなくていいよ。私が大切にしているのは、今の律人君だから。過去のことよりも、今の君がどう感じているかが一番大事だと思う。」


 その言葉に、律人は少し安心感を覚えた。過去の自分がどんなに悩んでいたとしても、今の自分がどう生きるかを選ぶことができる。それが、彼にとっての新しい答えなのかもしれないと感じた。


「ありがとう、春奈。君がいてくれるから、俺は前に進める気がするよ。過去の自分のことはまだ整理しきれていないけど、今の自分を大切にしながら、未来を見つけていきたい。」


 春奈はその言葉に深く頷いた。「うん、私も一緒に歩んでいくからね。律人君が自分を見つける手助けを、これからもずっとしていきたい。」


 その夜、律人は春奈との絆がますます深まっていることを実感した。過去の記憶が戻らなくても、今の自分を大切にすることで、自分自身を見つけることができる。そう確信した彼は、未来に向かって新たな一歩を踏み出す決意を固めた。


「これからも、君と一緒に歩んでいく。」


 その思いを胸に、律人は眠りについた。ノートを閉じて、過去にとらわれることなく、未来に向かって歩み出す準備が整ったのだ。


 高橋律人は、過去の自分が抱えていた不安や悩みを知り、今の自分を大切にしながら未来に向かって歩む決意を固めていた。しかし、心の中にはまだ解決していない疑問が残っていた。それは、自分が本当に誰であり、過去の自分が何を求めていたのかという問いだった。


 ある日、律人はふとしたきっかけで、以前よりも鮮明な記憶の断片を思い出すことになった。放課後、図書室で小林知佳子の授業で使用した本を読み返していた時のことだった。ページをめくるうちに、突然頭の中にフラッシュバックのように過去の映像が浮かび上がった。


 それは、事故の直前に起こった出来事だった。律人はその瞬間、何か重大なことを思い出しかけているのを感じたが、その映像はすぐに消えてしまった。しかし、その短い断片は彼の心に強く残り、自分が何を思い出しかけているのかを知りたくてたまらなくなった。


 その夜、律人は春奈に電話をかけ、図書室で起こったことを話した。「今日、図書室で本を読んでいる時に、事故の直前のことを少し思い出しかけたんだ。でも、それが何だったのか、はっきりとは分からなくて……」


 春奈はその話を聞いて心配そうに答えた。「律人君、大丈夫?無理に思い出そうとしなくてもいいんだよ。」


 律人はその言葉に感謝しつつも、どうしても自分の過去と向き合わなければならないと感じていた。「ありがとう、春奈。でも、これを無視することはできない気がするんだ。俺が事故に遭った日のこと、そしてそれが今の自分にどう影響しているのかを知りたいんだ。」


 春奈はしばらく黙った後、静かに答えた。「分かったよ、律人君。あなたがそのことと向き合いたいなら、私は全力でサポートするよ。でも、無理はしないでね。」


 律人はその言葉に深く感謝し、春奈の優しさに励まされた。自分の過去に向き合うことが怖い反面、それを知ることで前に進むための手がかりを得られるかもしれないと感じていた。


 次の日、律人は翔太にも相談することにした。放課後、二人は学校の屋上に上がり、夕陽を見ながら話を始めた。


「翔太、俺、事故の直前のことを少しだけ思い出したんだ。でも、それが何だったのか分からなくて、すごく気になってる。」


 翔太は律人の話を真剣に聞いていた。「そうか……律人、俺たちもあの日のことはあまり詳しく覚えてないんだ。君が突然意識を失って、気がついたら病院にいた。みんなすごく心配してたんだよ。」


 律人はその言葉に少し驚きながらも、事故の原因が自分自身にあるのではないかという不安が再び頭をもたげた。「もしかして、俺が事故に遭ったのは、自分のせいなのかもしれない。記憶を失う前に何かを悩んでいたことは確かだし……」


 翔太は律人の肩を叩き、力強く答えた。「律人、そんなこと考えるなよ。事故は不運な出来事だったんだ。君のせいじゃないし、君が何を悩んでいたとしても、それは過去のことだ。今の君がどう生きるかが大事なんだよ。」


 その言葉に、律人は少しだけ心が軽くなった。翔太や春奈が自分を支えてくれていることが、彼にとって何よりも大きな力になっていた。


 しかし、その夜、律人は再びフラッシュバックのような記憶を夢の中で見た。それは、事故の直前に春奈と何か重要な話をしていた瞬間だった。律人はその内容を必死に思い出そうとしたが、夢から覚めた時にはまたしても記憶が曖昧になっていた。


「何か大切なことを忘れている気がする……」


 律人はその思いに突き動かされ、再び春奈に話を聞くことを決めた。次の日、二人は学園の桜の木の下で向き合った。


「春奈、俺、事故の直前に君と話していたことがあるような気がするんだ。でも、その内容をどうしても思い出せなくて……君は何か覚えてる?」


 春奈はその問いに少し戸惑いながらも、静かに答えた。「実は……あの日、私は律人君に告白しようとしていたの。自分の気持ちを伝えようと思ってたけど、どうしても言えなくて……そのまま、君は事故に遭ってしまった。」


 律人はその言葉に驚いた。春奈がその日、自分に告白しようとしていたことを知り、心の中で何かが繋がるのを感じた。彼女の気持ちに応えられなかったことが、自分にとってどれほど大きな負担になっていたのかを理解し始めたのだ。


「そうか……君の気持ちを知ることができなかったから、俺はずっと不安だったのかもしれない。」


 春奈は律人の手を握りしめ、優しく微笑んだ。「今、私は君のそばにいるよ。過去がどうであれ、今の私たちが大切なんだから。」


 その言葉に、律人は深い安堵を感じた。過去の真実と向き合うことができたことで、彼は再び前に進む力を得た。春奈のそばで、自分が本当に大切にするべきものが何なのかを見つけることができたのだ。


「ありがとう、春奈。君と一緒にいることで、俺は自分を見つけることができるよ。」


 その夜、律人は自分の過去と向き合ったことで、さらに強い絆を春奈との間に築くことができた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分が大切にすべきものを見つけることができた彼は、未来に向かって新たな一歩を踏み出す準備が整ったのだ。


「これからも、君と共に歩んでいこう。」


 その思いを胸に、律人は未来への決意を新たにした。過去にとらわれることなく、今この瞬間を生きることが、自分自身を見つけるための最良の道であると信じて。


 春奈との対話を通じて、高橋律人は自分の過去と向き合い、少しずつその重荷を下ろすことができた。過去にとらわれず、今の自分を大切にしながら生きていく決意を固めた律人は、春奈との絆を深める中で、未来に向かって進む勇気を得ていた。


 そんなある日、桜ノ宮学園では卒業に向けた準備が本格的に始まっていた。クラスメートたちは進路について話し合い、将来の夢や目標について語り合っていた。律人もまた、自分がこれから何をしたいのか、どのように生きていくべきかを真剣に考え始めた。


 放課後、律人は春奈と一緒に図書室に向かった。彼女は美術大学に進学することを決めており、絵を描くことに情熱を注いでいた。律人はそんな彼女を尊敬しつつ、自分自身の将来についても考える必要があると感じていた。


「春奈、君は自分の夢をしっかりと持っているんだね。」律人は図書室の一角で彼女のスケッチブックを見ながら感心したように言った。


 春奈は微笑んで頷いた。「うん、絵を描くことが私の大好きなことだから、それをずっと続けていきたいと思ってる。律人君も、何かやりたいことが見つかるといいね。」


 その言葉に、律人は自分が何を目指しているのかを改めて考えた。過去の記憶が戻らない中で、何を自分の目標とすべきか、それがはっきりと見えていなかった。しかし、春奈のように情熱を持って何かに打ち込めることが、自分にとっても大切なことだと感じた。


「俺も、何かやりたいことを見つけたい。でも、それが何なのか、まだよく分からなくて……」


 律人は少し自嘲気味に笑いながら言ったが、春奈は優しく彼を励ました。「無理に見つけようとしなくても大丈夫だよ。律人君が今何を感じているか、それを大切にしていけば、きっと自然に見つかると思う。」


 その言葉に、律人は少し安心感を覚えた。春奈がいつも彼を支えてくれていることが、彼にとって大きな励みになっていた。自分の進むべき道がまだ見えていなくても、今この瞬間を大切にしながら一歩ずつ進んでいくことができると感じたのだ。


 その後、律人は小林知佳子の元を訪ねることにした。彼女の哲学の授業を受けて以来、彼は自分の内面を深く見つめ直す機会が増えていた。小林先生なら、自分がこれからどう生きていくべきかについてアドバイスをもらえるかもしれないと考えたのだ。


「先生、少しお話ししてもいいですか?」律人が職員室で小林に声をかけると、彼女はにこやかに迎え入れてくれた。


「もちろん、律人君。どうしたの?」


 律人は自分の心に抱える疑問を率直に話し始めた。「最近、自分がこれから何をしたいのか、どんな道を進むべきかを考えているんです。でも、まだそれが見つからなくて……」


 小林は律人の話を真剣に聞き、少し考え込んだ後、静かに答えた。「律人君、人生の進路や目標は、必ずしも一つに絞る必要はありません。時には、色々な経験を通じて自分の道を見つけることも大切です。今の君が感じていること、興味を持っていることを大切にして、その先に何が見えるのかを探してみるといいと思います。」


 その言葉に、律人は少しずつ自分の中で何かが解放されていくのを感じた。過去の自分が何を目指していたのかにとらわれることなく、今の自分が何を感じ、何をしたいのかを大切にしていくことが、彼にとっての新たな道を開く鍵になるのではないかと思ったのだ。


「ありがとうございます、先生。今の自分を大切にしながら、少しずつ進んでいきたいと思います。」


 小林は満足そうに微笑み、律人を見つめた。「その通りです。自分自身を信じて進んでいけば、必ず道は見つかりますよ。」


 その言葉に背中を押された律人は、これからの人生に対して前向きな気持ちを持つことができた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分を大切にしながら、未来を切り開いていくことができると確信したのだ。


 それから数日後、律人は自分が何に興味を持っているのかを見つけるために、様々なことに挑戦し始めた。クラスメートと共にボランティア活動に参加したり、春奈の美術の手伝いをしたりと、日々を充実させるための一歩を踏み出していた。


 その中で、彼は少しずつ自分がどんなことに喜びを感じ、どんなことに情熱を持てるのかを理解し始めた。過去に縛られることなく、今の自分が何を求めているのかを感じながら、生きる喜びを見つけていくことができると感じたのだ。


 そして、律人は春奈や翔太と共に過ごす時間を大切にしながら、自分自身の未来を見据えて進んでいく決意を新たにした。過去の記憶が戻らなくても、今の自分を大切にすることで、未来は必ず明るいものになると信じていた。


「これからも、君たちと一緒に歩んでいきたい。」


 律人はそう心に誓い、未来に向かって新たな一歩を踏み出した。過去がどうであれ、今の自分がどう生きるかが大切だと確信しながら、彼はこれからの道を進んでいく決意を固めたのだ。


 高橋律人は、過去にとらわれることなく、今の自分を大切にしながら生きる決意を固めていた。春奈や翔太、そして小林知佳子先生の支えを受けて、彼は少しずつ未来に向かって進むことができるようになっていた。


 そんなある日、桜ノ宮学園で新しいプロジェクトが発表された。それは、卒業前にクラス全員で取り組む共同プロジェクトで、社会貢献や地域の課題解決をテーマにしたものだった。クラスメートたちはそれぞれの意見を出し合い、何をテーマにするかを話し合うことになった。


「みんなで何かを作り上げるのって、面白そうだね!」と、春奈が楽しそうに言った。


「確かに。俺たちのクラスで何ができるか、考えてみよう。」律人も賛同し、クラスの他のメンバーと共に意見を出し合った。


 会議が進む中、いくつかのテーマが候補として挙がった。地域の環境保護活動、地元商店街の活性化、そして学校内でのボランティア活動など、どれも魅力的なアイデアだった。しかし、律人はその中で特に心を引かれるものがあった。


「どうかな、地域の子供たちに勉強を教えるプロジェクトって。俺たちが学んできたことを次の世代に伝えることで、彼らの未来に貢献できるんじゃないかと思うんだ。」


 律人が提案すると、クラスメートたちは興味深そうに頷いた。春奈もそのアイデアに賛成し、「それ、すごくいいね!私も絵を教えることで、子供たちに何かを伝えられるかもしれない。」と続けた。


「それじゃあ、このプロジェクトにみんなで取り組もう!」と翔太がまとめ、クラス全員が賛同した。こうして、地域の子供たちに学習支援を行うプロジェクトが正式に決まった。


 プロジェクトがスタートすると、律人は自分ができる限りのことをしようと決意した。過去の記憶が戻らなくても、今の自分がどれだけ社会に貢献できるかを試すための新たな挑戦だった。彼は学んできた知識を活かし、子供たちが楽しみながら学べる方法を考えることに集中した。


 プロジェクトの準備が進む中、律人は子供たちと直接向き合うことができるよう、教え方やコミュニケーションの取り方についても学び始めた。春奈や翔太も彼と共に活動に参加し、クラス全体での協力が強まっていくのを感じた。


「律人君、最近本当に楽しそうだね。」春奈がある日の放課後に言った。


「うん、そうかもしれない。子供たちに何かを教えることで、自分自身も学ぶことがたくさんあるんだって気づいたんだ。」律人はそう答えながら、プロジェクトに取り組むことが自分にとっての新たな目標になっていることを感じていた。


 プロジェクトが本格的に始まると、律人は地域の子供たちと向き合う日々を送るようになった。最初は緊張していたものの、子供たちが笑顔で話しかけてくれることで、その不安は次第に消えていった。彼らと一緒に学ぶことで、律人は自分がどれだけ成長してきたのかを実感した。


「律人お兄ちゃん、ここがわからないんだけど……」


 ある日、子供の一人がノートを持って律人に質問してきた。彼は優しく教えながら、子供たちの成長をサポートする喜びを感じていた。それは、過去の記憶を取り戻すことよりも、今の自分が誰かにとって役立つ存在であることを実感できる瞬間だった。


「君が頑張っている姿を見ると、僕も嬉しいよ。一緒に頑張ろうね。」律人は笑顔で子供に答えた。


 プロジェクトを通じて、律人は自分自身が成長していることを強く感じるようになった。過去の記憶に縛られることなく、今の自分が何をできるかを見つめ直すことで、彼は新たな挑戦に前向きに取り組むことができるようになった。


 そして、プロジェクトが終了する日が近づくと、律人はクラスメートたちと共にその成果を振り返り、達成感を共有した。子供たちの笑顔や、彼らが学んだことを自分たちに報告してくれる姿は、律人にとって大きな励みとなった。


「律人君、本当に頑張ったね。」春奈が笑顔で言った。


「ありがとう、春奈。君の支えがあったから、ここまで来ることができたよ。」律人は感謝の気持ちを込めて答えた。


 プロジェクトが終わった後、律人は自分が成し遂げたことに誇りを感じながらも、新たな挑戦に向けての決意を新たにした。過去の記憶にとらわれることなく、今の自分が何を求め、何を目指していくかを大切にしながら、彼は未来への道を歩んでいくことを心に誓った。


「これからも、どんな挑戦が待っていても、前向きに進んでいこう。」


 律人はその決意を胸に、桜ノ宮学園の門を後にした。新たな挑戦が彼を待っていることを信じて、彼は未来に向かって歩き続ける決意を固めていた。


 高橋律人は、地域の子供たちと共に取り組んだプロジェクトを通じて、自分が成長していることを実感していた。過去の記憶にとらわれず、今の自分を大切にしながら生きることで、新たな挑戦に向き合うことができるようになっていた。プロジェクトが成功し、クラスメートたちとの絆も深まったが、律人は特に春奈との関係が一層強くなっていることを感じていた。


 プロジェクトが終わった後も、律人と春奈は頻繁に一緒に過ごすようになった。彼女との時間は、律人にとって何よりも安心感を与えるものだった。放課後の校庭や図書室、時にはカフェでの語らいの中で、二人はお互いにとって大切な存在であることを再確認し続けていた。


 ある日の放課後、二人は学園の桜の木の下に座り、夕焼けを眺めていた。秋の風が心地よく吹き、木々が赤や黄色に色づいていた。律人はその光景を見ながら、ふと過去の自分がこの景色をどう感じていたのかを考えた。しかし、記憶が戻らない今、それはあまり重要ではないように感じた。


「律人君、最近どう?」春奈が静かに問いかけた。


 律人は微笑んで彼女の方を向き、「うん、今はすごく落ち着いているよ。君と一緒に過ごす時間が、俺にとってすごく大切なんだ。」と答えた。


 春奈も微笑んで、「私も、律人君と一緒にいると安心するよ。あなたが前に進んでいる姿を見ると、私も頑張ろうって思えるの。」と言った。


 二人はしばらくの間、言葉を交わさずに夕焼けを見つめていた。その静寂の中で、律人は春奈との絆がこれまで以上に強くなっているのを感じた。彼女と一緒にいることで、過去の自分に囚われることなく、今の自分を受け入れ、未来に向かって進むことができると確信していた。


「春奈、ありがとう。君がいてくれるから、俺はここまで来ることができたんだ。」


 律人が感謝の言葉を口にすると、春奈は少し照れくさそうに笑いながら、「私も同じだよ。律人君がいるから、私も前に進めてる。」と答えた。


 その言葉を聞いて、律人は自分が彼女にとっても大切な存在であることを改めて感じた。彼は過去の記憶を失っていたが、今の自分が誰かにとって必要な存在であることが、彼にとって何よりも大きな意味を持っていた。


 その後、二人は学校を出て、近くのカフェで温かい飲み物を楽しむことにした。秋の夜は少し肌寒くなってきたが、カフェの中は暖かく、ほっとする空間だった。


「ねえ、律人君。」春奈がコーヒーカップを手にしながら言った。「私、これからもずっと律人君のそばにいたいんだ。どんなに辛いことがあっても、一緒に乗り越えていきたい。」


 その言葉に、律人は胸が温かくなるのを感じた。春奈の気持ちが真っ直ぐに伝わってきて、自分も同じ気持ちであることを実感した。


「俺も、君と一緒にいたい。君と一緒なら、どんなことでも乗り越えられる気がするよ。」


 二人は手を取り合い、その瞬間、互いにとってかけがえのない存在であることを強く感じた。絆が深まった今、二人はどんな困難が待ち受けていても、一緒に乗り越えていけると確信していた。


 カフェを出た後、二人は夜空を見上げながら、静かな道を歩いた。満天の星が輝く夜空の下、彼らはこれからの未来について語り合った。春奈は自分の夢である美術の道を進むことを語り、律人はその夢を応援したいと思った。そして、律人自身もこれからの人生でどんな道を選ぶのかを考え始めた。


「俺も、これから自分が何をしたいのか、もっとしっかり考えたい。君のように、自分の夢に向かって努力できることが何よりも大切だと思うんだ。」


 律人の言葉に、春奈は深く頷いた。「そうだね。自分が本当にやりたいことを見つけるのは簡単じゃないけど、律人君ならきっと見つけられるよ。」


 その言葉に励まされ、律人は自分がどんな未来を描くべきかを真剣に考える決意を固めた。過去の記憶が戻らなくても、今の自分を大切にしながら、未来に向かって歩んでいくことが彼にとっての最大の課題であると感じたのだ。


 二人はその夜、長い時間を共に過ごし、互いの絆がますます強固なものになったことを感じていた。どんな未来が待ち受けていようとも、春奈と共に進むことで、自分が求める答えを見つけることができると信じていた。


「これからも一緒に歩んでいこう。」


 律人はその言葉を胸に、春奈と共に未来へと進む決意を新たにした。彼らの絆は、これまで以上に強く、どんな困難にも立ち向かっていけると信じていた。


 春奈との絆が深まり、共に未来に向かって進む決意を固めた高橋律人は、過去の記憶にとらわれることなく、今の自分を大切に生きることをますます強く感じていた。春奈との時間は彼にとって癒しであり、同時に自分が何者であるかを見つめ直す大切な機会となっていた。


 そんな中、卒業が近づくにつれて、クラスメートたちもそれぞれの進路について真剣に考える時期がやってきた。律人もまた、自分がこれからどのような道を歩んでいくべきかを考え続けていた。過去の自分にとらわれず、今の自分が何を望んでいるのか、それを明確にすることが彼の最大の課題だった。


 ある日、春奈は律人に美術展を見に行こうと誘った。彼女が進学を希望している美術大学の卒業制作展で、彼女の夢がどのような形で実現されるのかを感じ取るための大切な機会だった。


「律人君、これを見て、私がどんなことを目指しているのか、もっと知ってほしいんだ。」春奈は少し照れくさそうに言った。


 律人はその誘いを快く受け入れ、二人で美術展を訪れることにした。会場には、卒業生たちの情熱が込められた作品がずらりと並んでいた。絵画、彫刻、インスタレーションといった様々な表現が、彼らの夢や目標を具現化していた。


春奈は各作品を丁寧に見て回り、時折律人に解説を加えながら、自分の感じたことを語った。彼女の目は輝いており、彼女がどれほどこの道に情熱を持っているのかが伝わってきた。


「この絵、すごく力強いね。色使いが独特で、何かを訴えかけてくるような感じがする。」律人はある作品を見つめながら言った。


 春奈は頷き、「うん、このアーティストは自分の感情をすべてこの絵に込めているんだと思う。私もいつか、こんな風に自分を表現できるようになりたい。」と語った。


 律人は彼女の言葉を聞きながら、自分もまた、何かを表現する手段を見つけたいと強く思った。過去の記憶に頼らず、今の自分が何を感じ、何を伝えたいのかを見つけることが重要だと感じたのだ。


 美術展を見終わった後、二人は近くの公園で一休みすることにした。秋の夕暮れが公園を静かに包み込み、穏やかな風が木々の間を通り抜けていった。律人はその景色を見つめながら、春奈に感謝の言葉を伝えた。


「春奈、今日は本当にありがとう。君の夢がどれほど素晴らしいものなのか、もっと理解できた気がするよ。」


 春奈は微笑んで、「こちらこそ、来てくれてありがとう。律人君と一緒に見て回れて、私もすごく嬉しかった。」と答えた。


 律人は彼女の言葉に応えながら、自分がこれから何を目指すべきかを改めて考えた。過去の記憶にとらわれることなく、今の自分が何を感じ、どんな未来を描きたいのか。それを明確にすることが、彼にとっての自己確立の第一歩だと感じた。


 その夜、律人は春奈との時間を振り返りながら、自分自身と向き合うことにした。彼はこれまでに経験したすべての出来事を一つずつ思い返し、それが今の自分にどう影響を与えているのかを考えた。


「俺は、今ここにいる自分を大切にしたい。そして、その自分が何を求めているのかをしっかりと見つめ直そう。」


 律人はそう決意し、過去の記憶に執着することなく、今の自分が求める未来に向かって歩み出すことを誓った。


 次の日、律人は春奈にその決意を伝えた。「春奈、俺、これから自分が何をしたいのかをもっと深く考えてみるよ。過去の記憶に頼らず、今の自分が求めるものを見つけていきたい。」


 春奈はその言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。「律人君なら、きっと素晴らしい未来を見つけられるよ。私はいつでもそばで応援してるから。」


 その言葉に励まされた律人は、さらに強い決意を胸に抱いた。彼は過去にとらわれることなく、今の自分を大切にしながら、自分自身を確立するための旅を続けることを決めたのだ。


「これからも、君と一緒に歩んでいきたい。」


 律人はその思いを胸に、春奈と共に未来への一歩を踏み出した。過去の記憶が戻らなくても、今の自分が何を望み、どんな未来を描くのかを見つけることが、彼にとって最も大切なことだと確信していた。


 彼は春奈と共に、これからも互いに支え合いながら、人生の新たな道を歩んでいくことを誓った。その道のりには、数々の挑戦や困難が待ち受けているかもしれないが、彼らの絆はそれらを乗り越える力を与えてくれるだろう。


 高橋律人は、自分の過去にとらわれることなく、今の自分を大切にしながら生きる決意を固めた。春奈や翔太、小林知佳子先生といった支えがあったことで、彼は自己を見つめ直し、未来に向かって新たな一歩を踏み出すことができた。そして、いよいよ卒業の日がやってきた。


 桜ノ宮学園の卒業式は、校庭の桜の木々が満開の花を咲かせる中で行われた。生徒たちはそれぞれの思いを胸に、学び舎を旅立つ準備を整えていた。律人もまた、これまでの自分の歩みを振り返りながら、この特別な日を迎えていた。


「今日でこの学園ともお別れか……」


 律人は校門の前で、桜の花びらが舞う風景を見つめながら呟いた。春奈がそっと彼の隣に立ち、同じように桜を見上げた。


「そうだね。でも、これからは新しい旅の始まりだよ。」春奈は微笑みながら答えた。


 卒業式が始まると、校庭に集まった生徒たちの間には緊張と期待が入り混じった空気が漂っていた。校長先生の挨拶や、在校生からの送辞が終わり、卒業生の代表が答辞を述べる場面がやってきた。


 そして、卒業生を代表して答辞を述べることになったのは、律人だった。壇上に立つ彼は、少し緊張しながらも、深呼吸をして言葉を紡ぎ始めた。


「皆さん、今日、私たちは桜ノ宮学園を旅立ち、新たな未来へと向かいます。この学園で過ごした日々は、私にとってかけがえのないものでした。友人たちとの絆、先生方からの教え、そして何よりも、自分自身を見つめ直すことができたこの時間を、心から感謝しています。」


 律人の言葉には、これまでの歩みへの感謝と、これから始まる未来への期待が込められていた。彼は、過去に何を失っても、今の自分が何を感じ、どう生きるかが大切であることを、しっかりと伝えたかった。


「私は、過去の記憶を失ったことで、多くの不安や葛藤を抱えていました。しかし、この学園での時間を通じて、今の自分を受け入れ、未来に向かって進む勇気を得ることができました。友人たち、そして先生方の支えがあったからこそ、ここまで来ることができたのだと思います。」


 彼は壇上から、友人たちの顔を見つめた。翔太や春奈、そしてクラスメートたちが、優しい笑顔で彼を見守っていた。その光景を目にしたとき、律人は強い感動を覚えた。


「これから私たちは、それぞれの道を歩んでいきます。新しい挑戦や困難が待ち受けているかもしれませんが、私はこの学園で学んだことを胸に、未来を切り開いていきたいと思います。皆さんも、自分自身を信じて、素晴らしい未来を築いてください。」


 律人の言葉は、彼自身の決意と共に、友人たちへのエールとしても響いた。彼は最後に一礼し、卒業生たちの拍手の中、壇上を降りた。


 卒業式が終わった後、律人は春奈や翔太と共に、最後の思い出を作るために校庭を歩いた。桜の花びらが風に乗って舞い落ちる中、彼らは笑顔でこれまでの出来事を振り返った。


「律人、お前、本当に立派な答辞だったぞ。」翔太が肩を叩きながら言った。


「ありがとう、翔太。君のおかげで、ここまで来ることができたよ。」律人は感謝の気持ちを込めて答えた。


 春奈も微笑んで、「律人君、これからも一緒に未来を作っていこうね。」と言った。


 律人は彼女の手を握り返し、深く頷いた。「もちろんだよ。これからも君と一緒に、どんな未来が待っていても、共に歩んでいきたい。」


 彼らは桜の木の下で、しばらくの間静かに過ごした。それぞれが新たな旅路に向けて心を整え、未来への期待を胸に抱いていた。


 そして、律人は校門を越え、新たな一歩を踏み出した。過去に何があったとしても、今の自分を信じて、未来を切り開いていく。春奈や翔太との絆を胸に、彼はどんな困難にも立ち向かっていけると信じていた。


「これからも、君たちと一緒に進んでいこう。」


 その言葉を心に刻み、律人は桜ノ宮学園を後にした。未来は未知の世界だが、彼には共に歩む仲間がいる。そして何よりも、自分自身を見つけ、受け入れる力がある。


 新たな旅路の先に、どんな未来が待ち受けているかはまだ分からない。しかし、律人は迷うことなく、その道を進んでいくだろう。彼の未来には、無限の可能性が広がっているのだ。


 物語はここで幕を閉じるが、律人の旅路はまだまだ続いていく。彼の未来には、新たな出会い、挑戦、そして成長が待っている。彼は春奈と共に、その未来を力強く切り開いていくだろう。

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