8話:月日
それから何年も経つと、いつからか私はイーサと夫婦と呼ばれるようになった。
さらに年月を重ねた今は町の人にはイーサの娘だと思われている。
ミスティとサニーは長女アメリアと4つ下の長男アルヴァを育て上げた。
よちよちしてフワフワだったアメリアは少しづつ大人になり、鍛錬場で剣を習い始めた。
そして警護団の一員として働き、そこで連れ合いを見つけた。夫となったターチスと一緒に町に通いながら長男と長女を育てている。
アルヴァもお嫁さんと一緒に薬草畑を耕し、双子の男の子を育てている。近々一人増える予定で、賑やかに子供たちは、すくすくと育っている。
畑に雨をあげながら、なんとなく流れる月日を思い返し幸せに浸っていると「リーン」と呼んでる声がする。
茂みからひょこっと顔を出したのは小さな男の子アーク。アメリアの息子だ。
ミスティとサニーの初孫で、私のことも『おばあちゃん』と呼んでくれていたのに、最近は生意気盛りで『リン』と呼び捨てにされている。
「もう、ちゃんと歩きやすいところを通ってきなさい」
頭についていた葉っぱやら蜘蛛の巣やらを取ってあげる。やんちゃ坊主だ。
「やっぱり道を通って来た方が早かったかも」
にかっと笑う。
かわいいなぁ。
髪の色と目の色がアメリアともターチスとも違う。イーサと同じで遺伝って不思議だなと思う。
おしめを替えて面倒をみてあげたので、『おばあちゃん』と呼んでほしいのに、シワシワでもヨボヨボじゃないから呼んであげないと、この間言われてしまった。
「イーサが探してたから一緒に帰ろう」
と言うので二人で手を繋いで帰るとイーサが家の前で作業しながら待っていてくれた。
「お帰り。早かったな、もう見つけたのか」
「リンは匂いでなんとなくわかるから」
「私なんか匂う?」
「うん。なんかスイカみたい」
「えー生臭い?」
「う~ん。ちょっと違くて、草っぽい匂い」
「やだー。それってカブトムシじゃない。イーサ、私臭い?」
「そんなことは無いよ」
イーサは言ってくれたのに
「カブトムシは少し近いかも……でももっと爽やかな水みたいな感じで、俺は好きだけど」
好きと言われても泣きそう……
そんな日々は大好きな人たちの良い気を貰って優しく穏やかに流れていた。
ある日の夕方、早めに夕食を食べてイーサは少し疲れたからと言って薬湯を飲んでから軽く伸びをして早めに眠った。そしてそのまま目を覚ますことはなかった。