No.s
熱気に皮膚が焦げるが防御をNo.074を起点に展開する。
「あぁあ…、相変わらず悲劇の天才シェイクスピアも惚れ惚れする純愛だ」
両手を交差させ自身の頬に付け傾ける仕草全てが気色悪い。
炎を操りその内面とは真反対に緻密なコントロールで空に浮かぶNo.006。
この男は、私達と同じ一期生であり、最初から既にぶっ壊れていた異常者。
演習では相手をじわじわと焼き殺し、互角の相手には命令違反ギリギリの技で仕掛けてくる。
特に強者が無様に転がるのが楽しいのかケタケタと笑うのがこの男の特徴だ。
前々から私を引きずり下ろしたい願望を隠すことなく、No.074を毛嫌いしていた。
なんでも強者の保護を受け能天気に生きる弱者を見て虫唾が走ると。
一度研究者の目の届かないところで直接手に掛けようとしていたのを発見し、これ以上ないくらいには「ワカラセテ」いたはずなのに。
「また躾されたいの? No.006」
「…何か勘違いしてないかぁ、No.000。あん時は誰もお前に手を出す正当性がなかっただけで、その都合のいぃい理由ができた今じゃなぁ、お前を殺したくて殺したくて堪らない奴らが溢れかえってるぜぇ!」
狂ったように両腕を左右に広げ、最大火力の炎をぶっ放してきたNo.006から距離を取ると、身体の自由が利かなくなる。
この特殊スキルはNo.012の「セイレン」だろう。
歌うことによって周波数を出し、一聞聞こえずとも空気によって運ばれた波が脳神経を操る。
仕方なく聴覚を遮断し防御に勤しむ。
だがこれだけでは終わらないのが№だ。
今まで空を闊歩していたのが嘘のように地に叩きつけられる。
スキル発動と同時間に反応はできたがNo.074を守ることに意識を持っていかれ真面に防御できなかった身体は既に全身に激痛が生じ、穴が貫通したような鈍い痛みを感じる。
至る所から血が吹き出、これ以上血を流せば全体の約五分の一が失われ失血死に繋がりかねない。
これ以上むやみやたらな戦闘はできず、しかしただ防戦一方では負けは明らかだ。
さらにこれに続いて「状態異常」のスキルを持つNo.061が加勢し、目からは血が噴き出し、視界はもう役に立たない。
脚の感覚はゼロに近く自分で身体を強制的に操るほか動く術はない。
相手はプロ(同業者)。
ここで油断してくれるわけもなくさらに追い打ちを掛けられる。
意識を手放す前に、人為的なスキル暴発を起こすほか助かる術はない。
そしてそれは奴らが最も警戒しているはず。
なら…、
「No.074。お願い。一度だけ、私を信じて…」
「…うん、No.000」
防御で守っているとはいえ全て防ぎきれていないのか瀕死な身体で呼びかけに応えたNo.074がスキル暴発を起こす。
今までの実験でNo.074は一度もスキルの特異性を見せなかった。
だから、これが切り札だ。
「スキル暴発 『断罪の恩寵』」
私とNo.074以外の全ての№が血反吐を吐き倒れ落ちる。
『断罪の恩寵』は今まで犯した数々の罪を強制的に反射させるスキル。
一度でも人を殺した人間ならば「死」は確実なスキルだ。
ただそんなスキルに何の制約がないわけもなく、使用者は同じ分の罪が跳ね返るわけだ。
これは『断罪の恩寵』の正当性を示す制約であり、全ての人間が平等であることを裏返している。
だからNo.074はこのスキルを封禁していた。
だけれども今ここでそのスキルほど使えるものはない。
私のスキル、『強制干渉』で主導権を握り、No.が死なないように調整したのだ。
しかしこれでNo.074も気を失ってしまった。
折れた骨や爛れた皮膚が自動再生されながら、No.074を抱えて二人、深い闇に潜みながら消えた…。