第一話 王女は思う
私、イザベラ・エン・リトウニアスはこの国の第一王女である。
今日はお母様・・・いえ、陛下に呼ばれ謁見室へ向かっている。
後ろには弟、ルートと、妹のシャリアがいる。
謁見室の前に来た。
私はゆっくりと息を吸った。
「失礼します。お話があるとのことで参りました。」
ゆっくりと扉が開けられ、私は中に入った。
カーテシーをしゆっくりと顔を上げるとそこには見窄らしい格好をした人がいた。
ボロボロの服。
長い髪。
虚な目が、ゆっくりとこちらへ向けられた。
私は驚いて思わず後ろに下がってしまった。
ルートが私と妹を庇うように前に出て、陛下に鋭い視線を送った。
「どういうことでしょうか、陛下。こちらの方はどなたです?」
「彼はルフェル。イザベラ、貴女のことでお願いがあって彼を呼びました。」
その人・・・ルフェルさんは軽く目を見開いた。
まだ話を聞いていなかったらしい。
お願い・・・?なんだろうか。
「イザベラ。影武者という制度を、知っていますか?」
「影武者・・・ですか。はい。存じております。」
国王や王位継承者にごくたまにつけられる影武者。
王族に似た容姿の者が選ばれ、王族の代わりに、身代わりとなって死ぬ。
最近ではあまり行われていないと聞いたが・・・。
なぜ今その話が出るのだろうか。
「このルフェルを、貴女の影武者にしようと考えています。」
「「え!?」」
今のは私ではない。
ルートと、シャリアの声だ。
私も驚いた。
どうやらルフェルさんも驚いているようだ。表情に変わりがなく、分かりにくいが、おそらく。
「彼を、姉上の影武者に?武術の心得のあるかもわからない彼を?見目も似ていないですし、性別だって違うじゃないですか。そもそも、どこの誰かもわからない奴に———」
「やめなさい。ルート。・・・陛下、詳しい話を伺ってもよろしいですか?」
「ユニーク魔法というものを、知っていますね?」
ユニーク魔法。
この世界には魔法がある。
適正のあるものは魔法を使うことができ、同時に魔力を有する。
ユニーク魔法とは、世界でその人一人しか持っていないオリジナルの魔法のことだ。
「はい。存じております。」
「ルフェル。貴方のユニーク魔法を、見せていただけますか?」
ルフェルさんは一拍おいて、小さく頷いた。
彼が目を瞑ると、黒い霧が彼を包んだ。
しばらく経って霧が晴れると、そこには私がいた。
服は確かにルフェルさんの着ていたものだが、容姿は私のものとそっくりだった。
「これ、が、私の、ユニーク魔法、デス。」
彼は私の声で途切れ途切れにそう言った。
話すのに慣れていないのだろうか。
少しカタコトである。
「どうです、ルート。これならば影武者としてなんら問題はないでしょう。」
「・・・・し、しかし、身分はどうするのです?」
魔宰相が口を開いた。
「それについてはご心配なく。彼がこの話を了承したら、私の容姿として引き取ります。しばらくは影武者に必要な知識を教えることとなるでしょう。」
「どうです?ルフェル。受けていただけますか?」
「・・・・・はい。」
陛下はにこりと笑った。
魔宰相が薄気味悪い笑みを浮かべて彼に話しかけた。
「それにしても見事な能力ですね。装いをそろえたら見分けがつかないかもしれません。事前にお父上に渡していたものに追加して何か報酬をお渡しいたしますよ。何がよろしいですか?」
ルフェルさんは真っ直ぐ魔宰相を見て答えた。
「お金になるものを。」
「かしこまりました。何か伝えることはございますか?」
「・・・では、『————————————。』」
彼は私の知らない言語で呟いた。
魔宰相はそれを聞くと一度目を見開き、笑みを浮かべた。
「確かに、伝えておきましょう。」
その後、私とルート、シャリアは部屋に戻った。
彼は、なんと言っていたのだろうか。