9話 地下施設
「さぁ、死後活動部、活動開始よ!」
部長はにやりと笑いながらそう言った。だが、実際のところまだ、武器を持たされただけで何をするかは聞いていない。
まぁ、そこにある階段を下りてみればわかるということなのだろうが、むしろ不安の方が大きい。ただしここより下にどのような光景が広がっているのか? という好奇心もまた大きいのである。
そして部長を先頭にして、直虎・山科さん・俺の順番で階段を下りていく。後ろから美結が心配そうにこちらを見つめている。しかし、俺は振り返らなかった。ここで振り返ってしまうと美結と別れるのが逆に辛くなってしまうからだ。
そして階段を下りていくが、今回はさっき降りてきた階段と違い、10段や20段ではない。降りている途中でも全く終わりが見えないのである。1歩1歩ゆっくりと降りていく。
階段を降り始めたときにはもちろん、武器が置かれていた部屋の明かりが差し込んできていたのだが、それも10段、20段と降りていくうちに薄くなっていき、50段ほど降りたところでは完全に真っ暗になっていた。
そんな真っ暗の中でも前の3人は歩みを遅らせることはなかった。恐らく何度もここに来ており、場慣れしているのであろう。そして止まることなくどんどん降りていく。高さで言うならばおそらく10メートル以上は下っている。一体どこまで下りていくのだろうか。
それにしても前3人、まったく会話がないのである。仲が悪いのかなとも思ったが、部室でのやり取りを見る感じではそのようなことはないと思う。まぁ、人間が心の中で何を考えているのかなんて当の本人にしかわからないのだ。むしろ本人でさえ認識できていないものもあるのかもしれない。しかし、それは完全に俺が深読みしすぎていただけだった。
直後、直虎が急に後ろを振り返った。そして顔をニヤニヤさせながら
「ねぇ、山科さん。今度俺と一緒にご飯食べいかない?」
と、手をワキワキしながら山科さんの方を向いて話しかけていた。完全に気持ち悪いやつだ。すると山科さんは
「前見て歩いてください」
と淡々と言った。今まで真剣だった俺の気分を返してくれよと言いたかったが、緊張もほぐれたのでまぁ良しとしておこう。
すると眼前からうっすらと光が差し込んでくるのが肌で感じ取れた。恐らく階段の終わりが近づいているのであろう。そこにどんな景色が広がっているのか。
そこに広がっていた景色は、いままで平凡な人生を送ってきた俺には到底見ることはない景色であった。平凡な人生を送っていなくてもこのような景色、見ることはないだろうが。
俺は階段の最後の段を踏みしめ、地面に足を付ける。そして顔を上げた。地上では感じることのできないような空気が、頭のてっぺんから足の先まで伝わる。
地面も道路のようにきれいに塗装されているものではなく、天然そのものの土といった感じの踏み心地である。
しかし、驚くべきところはほかにあった。
目の前にはまるで大都会のような建物がそびえたっていたのであった。
高層マンションに大型ショッピングセンターのようなものまで存在していた。しかし、大都会と違うことが一つ。
それは、ここにあるすべての建物が荒廃しているということである。
それも自然に劣化していったものではなく、意図的に破壊されたりしている建物だらけであった。すると部長がこちらの方を振り向く。その表情はいつものように柔らかいものではなく、凛としたものであった。
「ここが私たちの活動場所、地下施設よ」
「こんなでかい都市みたいな場所、一体誰が作ったんだ?」
「さぁ、私にも分からないわね」
と、部長は本気で言っているのか分からないような言葉返しをした。
「ここで活動してるってのは分ったけど、何の活動をしてるんだ? 怪物退治でもしてるのか?」
ここで何をしているのかは実際に来てみたが分からない。武器を持たされ、たどり着いた先に意図的に破壊された建物がある。これらを考えるとおそらく怪物か何か出てくるのであろうと、誰しもが予測することはできる。するといきなり直虎がこちらの方を振り返ってきて、
「ライバルよ! ここは”解放階”と呼ばれていて、すでにここに敵はいないぞ。今ここが地下2階で、地下5階までは解放階になっているぞ!」
と、自信満々な表情でこちらに説明してきた。というか、俺の呼び方は一生”ライバル”なのだろうか。とんだ迷惑だな。
「そして地下6階以降が未解放階になってるわ。つまりそこから敵が普通にいるっていうわけね」
部長は、念のためなのか、銃を構えて辺りを警戒しつつそう言った。
「解放階でも敵が出てきたりするのか?」
「今までそんなことはなかったけど、念のための警戒ね。奴らはものすごく強いから不意打ちを食らえば確実にやられる」
「ていうか、俺らもう死んでるんだから攻撃食らっても大丈夫じゃないのか」
「俺たちは完全に死んだわけではない、と部長が言ってくれたよな? つまり、次に死ぬようなことがあれば完全に存在は消滅するぞ。気を付けておけよ、ライバル!」
と、また直虎が割り込んできた。
「なんか恐ろしいことをさらっと聞いてしまった気がするんだが……」
つまりは、生きてるときと変わりなく、死んだら存在が消えてしまうが、生きてる時では絶対にないような強敵と武器1つで戦わせられている、といった状況である。
正直、生き残れるのかが不安になってきたんだが。あの時のような奇跡はもう二度と起きない、ということだ。
この世界は生ぬるい死後の世界なんかではない。必死に生きなければいけない、この時俺はそう思った。