7話 死後活動部
「ようこそ、死後活動部へ」
それは、まったくもって予想していない言葉であった。部活というのは通常、高校生活に期待を膨らませた桜咲く1年生の4月に友人と相談しながら部活動見学を行い、自分の心に決めた部活に入部し、3年生の夏前には最後の試合で負ければ引退するものである。
そして、現在は一体何月なのであろうか。紅葉の季節も近くなってきた紛れもない9月なのである。普通、この時期は自分の将来に不安を抱き、どこの大学に進学するのか、はたまたどこの企業に就職するのかを真剣に決めなければいけない時期なのである。
そんな時期に部活に入部だと。といっても、俺は死んでいるので将来も何もないのだが。普通の人間なら絶対に断るであろう。
だが俺には色々と知らなければいけないことがあった。何故死んでしまったのに体があるのか? 目の前にいる3人も俺と同じで死んでいるのか? など、疑問は尽きないのである。
と、まぁシリアスな話もいいのだが、彼女をもう一度見かけたら、ぜひ言っておきたいことがあった。
それは……
「あ、昼間会った縞パンの人だ!」
俺はとっさにそう言った。昼間の出来事はしっかりと脳裏に焼き付いてる。絶対にあの光景を忘れない。恐らく今後二度と人生で体験することはないからだ。すると女の子は、またもや急に顔が赤くなり、
「なっ!?」
と、言葉にならない言葉を発した。
「おぉ、部長は縞パンなのか!」
と、横にいた男がからかうように聞く。なるほど、この女の子はこの部活の部長らしい。
「ちっ、違うわよ! こいつの勝手な妄想でしょ……! この変態二人組!」
と言って俺の方を指さしてきた。変態二人組とな、傍にいた男も巻き込んでしまったみたいだ。
そしてその男の方をチラッと見ると、なぜか親指を立てて「グッジョブ」と言わんばかりのしぐさをしてきた。
そしてその男の更に右に、ヘッドフォンを肩にかけた女の子が視線に入ったが、一切表情が笑っていなかった。感情を表に出さない特殊な訓練でもしているのだろうか、まぁ今は気にしないでおこう。
「ゴホン……」
と女の子は咳払いをして、
「まぁ、とりあえず"ようこそ"といったところね」
と言い腕を組んだ。部長であるから威厳が大事なのであろうか。
「俺はまだ一言も入部するとは言っていないんだが」
と、内心では入部する気だが、あえて言ってみた。すると女の子が、
「あなたは絶対に入部する、そうなる運命なのよ」
と、微笑みながら言った。運命とはびっくり。にしてもこの女の子はいったい何者なのだろう。
「わかった。そこまで言うなら入部しよう。ただし条件がある」
ただ入部して、かなり遅い青春を謳歌するだけでは意味がないので、俺は条件を持ち掛けた。
「ほう、条件ね。いいわよ言ってみて」
女の子はまた微笑みながら答えた。なんでこんなに微笑んでいるのだろうか? この状況は彼女の掌の上で完全に躍らせられているからであろうか?
「条件はたった1つ、俺が疑問に思ってることに必ず答えること。これが条件だ」
俺は現在の状態がいまいちつかめない。死んだらしいということ以外は。何とかして情報を手に入れたいものである。すると女の子は、
「分かったわ。それで取引成立ね」
と、言った。なんだ、意外とあっさり承認してくれたな。逆にこっちにまで条件をかけられたりするのかと思ったが、俺の心配しすぎだったのか。それでは、早速死んでからずっと疑問だったことを聞く。
「この世界は一体何なんだ? なぜ俺は死んだはずなのに、こうやって体がまだあるんだ? それとお前らは何なんだ?」
今はこの3つが聞ければ、とりあえず落ち着きそうだ。すると部長は、
「え、いきなり3つも聞いてくるの? 欲張りな人ね……」
と言い、ため息をついた。それを見かねた俺は1つずつ質問することにする。
「じゃあ1つずつ聞いていくぞ。まずは、この世界について教えてくれ。」
部長は表情を変えずに
「あなたも分かっていると思うけど、ここは死後の世界。ただ少し違うのは、完全には死んでいないということ。だからこうやって肉体を持ち、コミュニケーションをとることができている。」
「感覚的には生と死の間みたいな感じでいいのか?」
「大雑把に言うとそんな感じね。もちろんあなたも体験したと思うけど、生きた人間には絶対に干渉できない。そして向こうも私たちのことは目視できない。つまり、この世界でまともに会話できるのはこの部活のメンバーだけね」
俺が教室にいたときも誰一人として話しかけられることはなかった。他のやつらからは俺の姿が見えていなかったのだ。しかし、俺はそこで矛盾に気づいた。俺と会話ができたのはここにいる3人だけじゃない。
我が愛しの妹、美結もである。
「待て、会話ができるのはここにいる3人だけじゃないぞ。俺の妹、美結も会話ができた」
まさか、あれで実は俺のことが見えてませんでした、なんていうことはないだろう。美結の視線は確実に俺の方に向いていたし、会話も成り立っていた。
何より俺の中にある、妹と会話するだけで敏感に反応する妹脳(仮称)があの時確かに反応したんだ。
今、妹と会話できていると。この俺が間違えるわけがない。すると部長は意外な返事をした。
「ええ、もちろん知ってるわよ」
俺は面食らってしまい、茫然としていた。そして、思考がようやく正常に戻り聞き返す。
「どういうことだ? お前はさっき会話できるのはこの部活の3人だけって言ったじゃないか」
「この部活のメンバーとは言ったけど3人とは言ってないわよ」
「え、何を言ってるんだ……」
そこで俺は気づいた。
「まさか……」
そう言った時、女の子はにやりと笑ってこちらを見ていた。瞬間、後ろから"コンコン"と、ノックの音が聞こえる。扉の奥から
「あの……どなたかいませんか……?」
と声が聞こえる。この声、絶対に忘れることのない声、体の奥深くにまで染みついているこの声。すると部長が
「入っていいわよー」
と、いつもより少し大きめの声で言った。すると扉がゆっくりと開く。
するとそこには、黒髪のストレートがよく似合う完璧美少女JKの、
我が妹、美結が立っていた。